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走ったらメロス

作者:

メロスは激怒した。

……いや、俺は怒っちゃいない。わりと平常心だ。むしろこの状況を飲み込めずに混乱しているといったほうが正しいだろう。

さらに言うなら、俺は村の牧人でもなければ笛を吹くこともできない、羊ではなく友人と遊ぶのが好きなただの高校生だ。

邪悪はそこそこ嫌いだが、自分の可能な範囲で頑張る派。

もっと嫌いなのは妹に近づく悪い虫。人から言われること、シスコン。

 そんなこの俺がなぜ最初にメロスの名を出したかというと、ここは―――――走れメロスの世界らしい。




俺の名前は、野沢心。家族構成は双子の妹2人と両親のいたって普通の家庭。

地元の公立高校に通うほんとに普通の十六歳。

勉強も、身体能力も中の中。容姿も人並み。強いて言うなら目が大きいとか、女っぽいとか言われるが、あまりよいとは思っていない。

愛する妹の名前は朱莉沙(ありさ)亜美沙(あみさ)。近所でも評判の美少女姉妹だ。

両親は・・・普通の人だから説明する必要もないだろう。あえていうなら、普通の会社に勤める父と、普通に主婦してる母だ。


同じく、話に巻き込まれた、というより自分から巻き込まれに入った中学の頃から心の親友、赤木涼。

涼は整った顔立ちに、黒縁眼鏡、ワックスで立たせる必要のない微妙な天パ具合の茶色い髪のイケメン君。そして、勉強も身体能力も心は涼にはかなわない。

全てをそつなくこなすリアルなできすぎ君。だけどドS。


遡ることちょっと前、俺は(りょう)とふつーに、いつもどおり帰宅していた。

スーパーに立ち寄って、家を目指すのが俺たちのお決まりのパターンだ。

「なあ、心。今日お前ん家行っていい?で、お前で遊んでいい?」

「それ、向かいながら言うことじゃないよね。しかも俺と、じゃなくて俺で、なのね。それに聞かなくても毎日来てるだろ。」

しかもそういうのって学校とか、もうちょい前で言うことだと思うのだが。

それに、涼は来る気満々だ。

「いいじゃん。差し入れのお菓子も買ったし。」

俺の腕の中にはさっき買い込んだお菓子が山ほど入った袋が二つ。

涼が来ればこれすら一日でなくなる。

「これは全部俺の金で買っただろ。それにこれは朱莉沙と亜美沙のだ。」

「けち、シスコン。」

「シスコンじゃありません。」

朱莉沙と亜美沙は部活をしてないからたいてい家にいる。

二人の友人は大体部活に入っているから遊ぶ相手がいないのだ。

とにかく、俺たちは家に向かい、最後のカーブを曲がりかけた。

「すいませーん。」

不意に、高めの声が俺たちを呼び止めた。

にっこりと微笑む、可憐なお嬢さんが手を振っている。

金色の肩までの髪、青いきれいな目は大きく、白くて細い体の上できらきらと輝いている。その華奢な体には黒のゴスロリワンピを身につけている。

「普段とは違う英雄体験してみませんか?今ならちょっと悪いけど根はいい王様コースも付けますよ。」

何かの勧誘、営業スマイルのお嬢さん。さっきよりもにっこりと微笑んで勧めてくる。

人にもの頼むときはたいてい人は笑顔だ。

「いいんじゃね?楽しそうだし。」

「そんなんだからお前の家には意味不明の通販グッズが溢れてることをいい加減学べよっ。」

「楽しければそれでいいじゃん。」がモットーの涼さんがあっさりおk。

涼の家にはどこに売ってあるのか分からない筋トレマシーンだとか、気味の悪い人形があふれている。

さながらパラレルワールドのような家だ。ちなみに一人暮らしだから全体的にパラレルワールドな家だ。

「それではこちらへどうぞ。」

お嬢さんの微笑みに着いていくと、小さな小屋と黒いカーテンが現われた。

その先はどう見ても薄っぺらい。このカーテンの向こうに何があるというのだろうか。

「この先に、お二人の知らない新たな世界が広がってますよ。」

ニコニコと微笑みながら、お嬢さんはカーテンに手をかけた。

なんだか微笑みに怪しさのエッセンスがプラスされた気が…。

いやな予感がする。全身がここはだめだと叫、いや、怯えている。

「涼、さすがに怪しすぎる。ヤバイから帰ろうぜ。」

「えー、いいじゃん。付き合えよ。」

小声で涼に耳打ちするも聞く気はないようだ。まったくもって危機感を持たない男だ。

「いやだ、俺は先に二人のとこに帰る。」

少しずつ足を後ろに引き、カーテンから離れる。俺のモットーは平穏だ。

「行けよ、ほら。」

「いやっだ、ね。」

ぐいっと腕を引かれる。せっかく下がったのにさっきよりも前に進んでしまった。

「ならお前から行けよ…。」

「それは嫌なんだなぁ。さ、行って来い。」

「この自己中がっ。ちょっ…のわっ。」

全身で入ることを拒む俺の身体を、涼が思い切り突き飛ばした。

なんだってこんなに力があるんだこいつは。

「そういえば、俺こいつが努力してるの見たことねえなあ。」

何もかもが凡人の俺とは違うということを改めて認識する。

そんなことを考えながらも俺の体はゆっくりと落ちていく。

ようやく足が地に着いた。真っ暗な中、一筋の光がまっすぐに伸びている。

俺は今までの人生で最もすばやかったであろう動きで、その光に向かって走った。




「よし、出た……?」

勢いよく飛び出した俺の前には石造りの静かな町が広がっていた。

ほとんど人通りはない町は洋風でおしゃれだ。

俺の住む町はこんなおしゃれじゃなく、普通の住宅立ち並ぶ平凡な小さな町だったはず……。

「あっ。」

辺りを見渡せば、フードを目深にかぶった人が若干のスキップで歩いている。

「すんません…道に迷ったっぽいんですけど、ここは…。」

「あ、どーもー。」

振り返ったのはつい先刻初対面を果たしたお嬢さんだった。

おそらく、いや、ぜったいにこの状況を作り出したであろう彼女にはなにやらネコの耳と尻尾が生えている。

「無事到着したみたいですね。ようこそ、メロスの世界へ」

「いや、意味がわかんないんすけど…。」

「メロスの話知らない?正義の味方のメロス君が、王様との戦いに勝利し新しい世界を築きあげていくファンタジックなお話だよ?」

いや、全くといっていいほど違うんですけど…。


走れメロスとは。

邪悪を嫌う村の青年メロスがたった一人の家族である妹の結婚式のために買い物に来た街で、王の悪行を知り、城に向かう。

しかし王に捕まって、処刑を命ぜられてしまう。メロスはせめて妹の結婚式だけを見せてほしいと三日の猶予をもらう変わりに友人を身代わりにして村へと戻り、結婚式を終えて、街に戻るまでの三日を描いた短編である。

走れメロス、頑張れメロス。


「よくわかってるじゃないか。」

お嬢さんはニコニコしながら二冊の本を手渡した。

表紙には『走れメロス』、『初心者にも分かる物語世界の歩き方』と、羅列されている。

「メロスの本と、この世界での手引きです。」

「だから、意味がわかんないって。とりあえず、あなただれなんですか。」

「えーと、ナビゲーター…ナレーターかな。名前はリュ―イ。ちなみに四十二歳のおとめ座、妻と子がいます。後この耳と尻尾は出したり、引っ込めたり、が可能です。」

お嬢さんはぴょこぴょこと耳と尻尾を出したり引っ込めたりしながら自己紹介した。

うわ―…知りたくなかった情報盛りだくさんじゃんか…。それと実演は、いりませんから。

「はぁっ?そんな可憐な容姿と声しといておっさんっ?しかも妻子持ちかよっ。」

「やっだなあ。名前はリューイだよ。次おっさんて言ったら…殺す。」

微笑みつつも指をばきばきと鳴らしている。

今、「殺す」のとこ完璧おっさんだった…。やばいよこの人。

「分かったかな?」

「はーい」

チープな教育番組的やり取りを交わして、改めて。

「未だにおっさ…いや、リューイさんの事しか分かんないんですけど。」

「だから、ここはメロスの世界で、君はメロスになってこのお話を進めていくんだよ。」

さらっと新事実含むのお断りです。話を進めるなんて初耳だ。

「細かいことは気にしない。」

全然細かくない。ケータイをいじりながら話している。やる気のないナレーターだ。

「あっ。涼、涼は。」

急いでケータイを取り出してかけるけど繋がりやしない。

呼び出し音にすら行き着かない。

「…涼。」

少しだけ心配になってくる。それよりここに来てるんだろうか。

どんなに自由なやつでもやっぱり心配にはなる。

「ケータイはつながんないし、ここじゃ使いもんになんないよ。心配しなくてもいつか会えるしぃ。」

リューイのケータイはなんなんだよ。

やっぱり涼もここに来てるのかな。

「これは、会社から支給されたやつ。そこら辺のと一緒にしないでよ。それに涼さんはちゃんといますよ。」

「人の考え読むのはやめてくれませんかね。」

「じゃあ、さっさと話し進めてくれる?お爺さんならそこいるから、じゃあね。」

「おいっ…」

リューイはさっさと走り去った。世界記録も狙えるほどの素早さだな。

仕方なく辺りを見渡せば、ほんとに爺さんがよろよろと歩いていた。

「…すいませーん。」

俺は仕方なくため息をついて、爺さんに話しかける。

「王は人を殺します。」

「えーっと、俺、まだ何にも聞いてないんですけど……」

爺さんは俯いたままぼそぼそと喋り始める。

時々辺りを窺うように見回している。

「悪心を…。」

「シャラップ。」

思わず爺さんの口と鼻を塞いで夢の世界へのパスポートを渡してしまった。

だって、話通じないし。…なんか、イラッとしたし。

「んー、これからどうやって話をすすめようかねえ……。」

先程もらった『初心者にも分かる物語世界の歩き方』を開いてみる。

「その一、あなたの役柄を整理してみる」

俺はメロス。一応主役。

「その二、今、物語のどこら辺かを把握する」

今は…爺さんに話を、聞き終わったかな?

「その三、話がどのように進んでいるのかを確認する」

次は、城に向かえばいいらしいな。とりあえず、武器はどうしようか。

「いっか、そんな物騒なの嫌いだし。」

爺さんを抱えたまま、城に向かおうとした俺の目に完全武装の兵士の集団が映った。

彼らが目指すのは…、俺だ。

まっすぐこっちに…来てるんですけどぉ。

「爺さんかっ?まだ生きてるって。まだ罪は犯してませんっ。」

俺は爺さんを地面に横たえて、(きびす)を返そうとした。

「お前、メロスだな。」

ぐいと肩を掴まれ止められた。ぎしぎしと音を立て振り向くと、いかついお兄さんの顔が間近に…。

「人違いで…。」

「よし連れて行け。」

「人の話し聞いてたのかなぁ…。」

「せーの。」

おいぃ…。いきなり二人がかりで抱えるって無くない?しかも、俺否定しませんでしたか?

俺は大男に抱えられ、呆れる。

「離せよっ、この人さらいっ。」

「………。」

一応暴れてるのにびくともしない。俺、そんなに体力ないのかな。

こういうときの対処法は……諦めも肝心という結果に行き着く。

「…ねぇ、お兄さんやーい。王様どんな人?」

「………。」

さっきからなんでこんなにも無口なんだろうか。しかもずうっと無表情。疲れないのかね。

「なんか言おうよ。一人で喋ってるってさ、おれすっごい寂しい人じゃん。うんともすんとも言えないのかい。」

「すん。」

「いや、俺そんな典型的ボケを望んだわけじゃないし…。」

お茶目なのかなんなのか分からない男二人に担がれたまま、近づいてくる王城を見つめた。

でかいし・・・なんか怖くね?そのまま男二人に担がれたまま城を眺める。だいぶ開けたところに来たようだが…。

「着いたぞ。」

「のわっ。」

いきなり落とすこと無いじゃんかぁっ。俺受身なんか取れないよ。

しかも結構高さあったじゃん。

わいわいをわめく俺を無視して、大男は城に入っていく。

「メロスやーぃ。」

聞きなれた楽しそうな声が上から降ってくる。この声は…。

「涼っ。何でお前がそんなところに…。」

「んー?俺が王様コースらしいから。」

いやいやピースされても。…コース?

「あれ、覚えてないん?ほら、あのお姉さんが…。」

『普段とは違う英雄体験してみませんか?今ならちょっと悪いけど根はいい王様コースも付けますよ。』

あー。そんなことも言ってたね。てか、涼には驚愕の事実は伝えなかったのね。

「何で俺がメロスなんだよ。」

「お前が走って、俺が歩いてここまで来たから。」

つまりあれかっ?走ったらメロスなのか?

「てことで、走れメロス。」

そんな簡単に言っちゃだめだよ涼君。四十キロもあるんだよ。村まで。

「妹さんの結婚式させてやるからさ。」

「二人はまだ小6です。お嫁になんか行かせませんっ。」

「さっすがシスコン。妹は亜美ちゃんと朱莉ちゃんじゃないだろうに。あ、お菓子置いてってよ。」

いや、笑うとこじゃないし。しゃーねー。せめて菓子だけはこいつに渡しとこう。

って、自由すぎるだろ?それにさー……。

「行けよー。お前メロスだろー。」

だから、そう簡単に言っちゃだめだって。

「メロスっ。」

「うおっ。」

思いっきり、知らん人がタックルしてきた。ガタイがいい人のタックルは禁止だ。それに俺に外人の知り合いはいません。

ぶつぶつと抱きつかれたまま、俺は呻く。

「メロス、俺のことは心配するな。俺はお前を信じて待ってる。」

いきなり出てきて信じられても……。あなたは誰ですか?

「セリヌンティウスを捕らえておけ。」

あ、セリンティウスさんでしたか。

俺のお友達じゃないよ、俺の友達は王座で楽しそうに笑いながらお菓子むさぼってる人。その人はメロスさんのお友達。

俺を連れてきた男たちがセリヌンティウスに縄をかける。なんかごめんなさい。

「心、れっつごー。」

「だから…。」

「行かなきゃ妹ちゃんたちにチューする。」

「行ってくるね☆」

ウインク一発。俺はとりあえず走り出した。




「で、現在に至るんですがぁ…。」

俺は走りながらちらりと後ろを向いた。

「なんでしょうかぁ。」

リューイさん?何ゆえこちらに。そして何でおんぶなんですかね。

「だって、王様コースはこれからリッチに過ごせばいいからね。でも、メロスはそーも行かないでしょ。だからサポート。」

そりゃ分かるんですがぁ…。

「あ、そこ右。」

「走ってる人の背中に乗らないでくれませんっ?」

とりあえず指示通りに走っているのに、リューイは俺の背中で未だにケータイをいじっている。

「あ、そーだ。これ、さすがに四十キロも走るのは無理だろうからって会社から自転車支給されてたんだった。」

リューイはどこからか自転車を取り出し放り投げた。

それ、危ないから。尋常じゃなく危ないから。

しかもどこにそんなもん隠し持ってたんだよ。

「ケータイから送られてきたんですよ。」

なに、その未来の世界の猫型ロボット的便利さは。あ、リューイは猫か。

「それを早く言えよっ。」

「もう、リューイのお馬鹿さん☆」

かわいこぶられても今は気持ち悪いだけです。だって、おっさんじゃん、自分。

「じゃあ、はい。メロス君号だよ。」

名前つきですか。・・・ってただのママチャリじゃん。

まあ、楽に越したことはないけど。とりあえず俺は自転車にまたがった。

「よっと。」

「いや、何で乗るんですかね。あんたまで。」

リューイは当然のごとくママチャリメロス君号の後ろに腰掛けた。

「だって道知らないじゃないですか。それともなんですか、時間に間に合わなくてセリヌンティウスさん見殺しにするんですか。生涯人殺しの咎を背負って生きていくんですか。」

「さ、どうぞどうぞ。何のお構いもできませんが…。」

「よろしい。」

こいつ殺したい。すっごいイライラする。何、このおっさん。

ところで、今は真夜中のはずなのに、空では煌々と太陽が輝いている。

「時間ずらしただけですよ。暗いと危ないし。」

俺に対する気遣いだったのか。意外といいやつじゃんか。

「…残業やだし。」

結局自分かよ。てか、こいつの会社はいったいなんなんだろう。

「企業秘密です。」

企業自体が秘密の会社なんてめったにどころかないだろうが。

「ねえ、メロス君。」

「俺の名前は心ですよ。野沢心。」

「ねえ、メロス君。」

「あぁ、もういいですよ。誰も俺の話なんて誰も聞かないのが分かりましたよ。」

シャカシャカと自転車をこぎながらちょっとだけリューイのほうに耳を傾けた。

「……どうして、どうしてメロスは走ったんでしょうね。わざわざ死ぬために。」

お、真面目な雰囲気じゃないか。

「……、王に見せたかったんじゃねえの。人のこと信じることとか。」

「逃げたいとか、思わなかったんですかね。」

「さあな。でも、それがメロスだったんだろ。うそとか、人を疑うのが嫌いなの。」

しみじみと、考えたことも無かったな。と思った。

「ま、ここで話してもしょーが無いし、実際問題時間の無駄。さ、さくさく前に進みましょ。」

うん、お前なんなんだよ。お前が振った話題だろ。

それよりも、時間の無駄になった話をしてるうちにだいぶ進んだはずだ。

俺の脚が若干の痛みを訴え始めている。

てか、数分前に村を通り越した気がする。

そしてその前には川、その前には峠だ。やっぱ速いなメロス君号。

「なあ…、後どんくらいで着くんだよ。」

「えっ…。」

んー?何でちょっと迷ってんのかな。しかも後ろとか見てるし。

「えっと、そこを百八十度曲がって、数分ですね。」

「つまりは…通り過ぎてんじゃねえかてめえ。」

「だって、ケータイゲームが面白かったんだもん。」

「理由になっとらんわ!あほかっ。」

「もう、リューイの…。」

「それもいいわっ。」

俺はため息をつきつつ、むすっとした顔のまま方向転換してまたこぎだす。

「…………。」

「あの~…。」

沈黙に耐え切れなくなったのかリューイが声をかける。

「…………。」

でも俺は返事をしない。

「ごめっ…なさっ。」

泣いたって許さねー。俺は頑張って四十キロ以上こいだの。

「ねえ、あの人。メロスさんじゃない?女の子おぶって、しかも女の子泣いてるじゃない。」

「まさか、あのメロスさんが誘拐?」

「いやだー。」

どうやら村に入っていたらしい。周囲の奥様方の視線が突き刺さる。

「…リューイ、もういい泣くな。頼むから。」

「まじ?」

にっこり笑うな。やっぱ演技か。俺がリューイをおぶってるように見えるのか。便利だな、メロス君号。

「じゃあ、着いたみたいなんで、とりあえずここからは頑張ってください。」

そう言うといまだ走っている自転車からきれいなフォームで飛び降りる。

身体能力はさすが猫だ。ここからはこないの?それはとても嬉しい。

俺は適当に自転車を止めるとリューイが歩み寄って来た。

「違う、隠れてサポートなの。妹の名前はアシュレー。旦那はロイね。」

アシュレー?どんな子なんだろうか。

まあ、俺の妹より可愛い子はいないだろうがな。

ふふふと笑う俺の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「兄様?町に行かれてたんじゃ…。」

俺に兄様と呼びかけるこの子はアシュレー?

「おい、リュー…。」

もういねえし…。やっぱ速ぇ。

「兄様、どうなさったの?」

振り返ってみて驚いた。似てる。妹たちがこんな外人顔なのかといわれたら違うが、なんとなく似ている。

「アシュレー…。」

「どうしたの、兄様。なんか変よ。」

微笑むアシュレー。やばっ、可愛すぎる。

「アシュレー、………兄様は大切な用事があって、えっと…しばらく村に帰れない。だから明日、結婚式をしよう。村の皆に伝えておいで。」

後ろの茂み、リューイがすばやくカンペを上げる。

若干達筆すぎて高校生の俺には読みにくいんですけど。

「兄様…。」

「どうした?照れてるのか?」

アシュレーは首を横に振り、俺をじっと見つめる。

「兄様、ロイには…。」

「あー、俺から…。」

言いたくはないな。だって、アシュレー、妹っぽいし。

「兄様が?ずっと反対してたじゃない。」

まじかよ……。メロス、俺とお前は同士だ。今度語り合おうぜ。…って、俺がメロスか。

などと一人で考えているとアシュレーが切り出した。

「私が行くわ。兄様が行くと、またロイに殴りかかるかもしれないもの。」

メロス、熱いな。だが、そういう時は妹にばれないように抹殺するのがポイントだ。

「…兄様、何も私に隠してない?」

不意に、立ち去りかけたアシュレーがこちらを振り向いた。

「何で……?」

なんだかドキッとするぐらい悲しい顔。なぜなんだろう。

「……ううん。やっぱりいい。兄様は、村の皆に伝えてきて。」

にっこりと微笑んで走り去るアシュレー。なんだか少し、切なくなる。

「……なんで?」

「なんだって?」

「なんでもないです。」

気づくとリューイがすぐ横にいた。何かを考えていたようだった。が、

「そういえば、涼さんがお着きになられましたよ。」

その言葉で俺の思考は吹っ飛んだ。

「はっ?なんで……。」

「暇だからに決まってるじゃないかぁ。」

「のわいっ。」

ふっと、俺の耳に息を吹きかけ、抱きついてきた。

「涼っ。どうして、何でここにいんだよ。」

「聞こえなかった?暇だから。それと、メロスの妹ちゃんにも興味あるし。あ、移動はヘリね。」

にこにこと笑みを浮かべているがその頭には、俺で遊ぶことしか考えていないだろう。

それより、ヘリって…。

「涼さん、そのままじゃまずいんでちょっと……。」

「あっそうか。俺今王様だったね。」

リューイは涼に変装のためにローブを手渡した。それだけでいいの?

「王様の顔なんてほとんど知りませんしね。」

リューイはあっさり言ってのける。

「兄様…。その人は?」

ちょうどその時、一人の男を連れてアシュレーが戻ってきた。

「この子が妹ちゃん?俺はねー…。」

「私、リューイです。この人は、私の父上。メロスさんとは、家族みんなが仲良しだから、妹さんに挨拶がてら、結婚式に出席しようと思って。」

リューイはすばやく前に出ると、涼をさえぎり完璧な設定を述べた。

どこからそんなにさらさらとうそが出てくんのか、すっごく気になる。

「兄様の…。はじめまして、アシュレーです。それと、私の婚約者。ロイです。」

アシュレーの後ろに立っていた優しげな風貌の好青年がアシュレーの紹介の後、礼儀正しく頭を下げた。

「アシュレーちゃんかわいいねえ。今からでもいいから俺と結婚しない?」

涼はけらけら笑いながら、アシュレーに近づいた。

「ちょ、涼。」

「原作では、老人ですよ、涼さん。」

俺とリューイがぐいと、涼の服を引き耳打ちした。

「まじ?俺、変態爺さんじゃん。」

さっきよりもより楽しそうに笑いながら、涼はリューイに話しかける。

「とりあえず、今日はここ泊まるから。リューイさん、なんかある?」

「キャンプカーなら。」

「ありがと。」

涼とリューイはこの後のことを話し合っている。

さっきから思ってたんだが、文明の利器を持ち込みすぎだ。

チャリにヘリにキャンプカーって。

頭を抱えて俺は悩む。

「兄様、私たちも帰りましょ。ロイ、また明日ね。」

アシュレーは俺の手を引き、旦那に軽く挨拶をすると道を進み始めた。あ、そー言えば旦那さん一言も喋ってない。

俺とおんなじ感じの人だな。ドンマイ。

でもアシュレーの事とったから許さないけど。

俺は心の中で騒いだ。あくまでも心の中で。

「なあ、アシュレー……。」

「兄様、何があっても私は、兄様の妹だからね。」

「お、おう。」

俺の言葉をさえぎり、アシュレーは言い切る。

「兄様、アシュレーがお嫁に行っても兄様は寂しくない?」

なんだ、寂しいのか。

俺はアシュレーの頭をくしゃりと撫でた。

「当たり前だ。兄様はお前が幸せなら幸せだし、兄様はいつもお前を見てるし、寂しくなんかないだろう?」

俺はできるだけ優しく微笑んで、うつむいた頭をまたくしゃりと撫でた。

「そうよね。兄様は男だしね。ずっと私を守ってくれたもの。」

そうか。メロスは妹をずっと守り育ててきたんだ。

大切な妹。誰よりも理解して、誰よりも愛して、誰よりも心を砕いて気遣ってきた妹。

メロスのたった一人の家族。

「アシュレー……。幸せになれよ。」

「当たり前よ。」

アシュレーはやわらかく微笑むと心と手を繋いだまま大きく腕を振り、歩き出した。


辺りは夜の気配が漂い、薄暗く、空には月が昇りかけている。

柔らかな月明かりの中、仲睦まじく兄妹が家路へと向かっていった。




「おっはよーございまーす。」

次の朝、昨日一日でだいぶ耳に染み付いた高めの声が俺の耳に入り込んだ。

「………。」

俺はその声をシカトすることに決め、もう一度惰眠をむさぼり始めた。

「ふっ。」

「のわっ。」

そんな俺の耳にはまたもや涼の息。

「おはよーさん。」

「お前は普通に起こせんのかっ。」

「俺の嫌いなものは、普通なことだから。」

何を言っても通じやしねえ。仕方なく身を起こすと、アシュレーがひょこりと顔だけを覗かせた。

「おはよう、兄様。ねえ、綺麗?」

くるりと回りながら出てきたアシュレーは純白のドレスに身を包んでいた。白い肌がきれいに映えるドレスだ。

「……………。」

「きれーやねえ、妹ちゃん。」

「アシュレーさん、美しいです。」

口々に賛辞を述べる涼とリューイとは対照的に俺は何も言わず、いや、言えずにアシュレーを見つめた。

「兄様?」

「んー、心?」

「絶句、ですね。」

綺麗、てか、なんかその…。

「重ねただろぉ、妹ちゃんと。」

「っ……。」

にやりと

「心配すんな。妹ちゃんは俺がもらってやるから。」

「やめろ、二人は俺の認めた男にしか嫁にはやらんわっ。」

「認める気あんの?」

「…………。」

ない。それは今のところ。だが、亜美沙はともかく朱莉沙は俺よりも絶対涼のことが好きだと思う。


毎日毎日涼を連れ帰るようになってからしばらくして、

『朱莉沙、亜美沙ただいま。』

『あ、お帰りなさい、お兄ちゃん。』

『……お帰り。』

笑顔で心を迎えてくれる朱莉沙と無表情の亜美沙。この瞬間が俺は大好きだ。

『お邪魔しまーす。』

『あ、涼さん。いらっしゃい。待ってたんだよ、早く早く。』

『来たんだ。どうぞ。』

…何、この俺よりも二、三倍ほどの笑顔の差。お花が見えそうなほどだ。朱莉沙ちゃーん。お兄ちゃんこっちだよ。

『朱莉沙ちゃんも亜美沙ちゃんもどんどん可愛くなっていくね。』

『ほんと?ありがとー。』

『…ありがと。』

朱莉沙は涼のひざの上。それは俺の役目なのに。

亜美沙は俺の隣で静かに本を読んでいる。

『朱莉沙ちゃん、俺のとこにお嫁に来る?』

『うんっ。』

朱莉沙の最高の笑顔が涼に向けられる。

固まる俺の服の裾を亜美沙が掴んで頬を染める。

正直かわいすぎる。亜美沙も大好きなのだ。

が。


「絶対、朱莉沙はお前にはやらんっ。」

「にゃはは。やっぱ思考はそこに行き着くわけね。」

何で人が怒ってるのにあんたはそんなに笑顔なんですか。

「ねえ、お腹空いた。」

そして、何でリューイもそこまで自由かな。

俺の周りには自由人しかいないのか。

「どうぞ、宴も始まりますし、皆さんも席について、お食べください。」

優しいなあ、アシュレーは。

俺はとりあえずベッドから身を起こし、適当に身支度を済ませ、外に出た。

「あれ、雨降ってないの?」

原作メロスは、雨の降る中、狭い部屋で芋洗い状態のはず。

「だって、むさいもん。おっさんと一緒なんていや。」

おっさんのあんたが言うなよ。

「しーんー。早く早く、とって。」

「自分でとらんかっ。」

さっさと席について、涼は皿を振っている。お前らもう自由禁止。

「どうぞ、これでいいでしょうか。」

お。旦那さんがよそってくれたみたいだ。初めて聞いたな、あの人の声。

「ありがとー。さっすがやね、この幸せもんが。」

酔っ払い的ノリで絡んでるよ。かわいそう…。

「お義兄さんっ。」

涼から開放された旦那はこっちへ近づいてきた。

きっと俺の顔引きつってる。

「兄様っ。」

アシュレーが心の脚をたたく。

分かった、それなりに頑張るから。

「ありがとう、ございます。アシュレーさんのこと、絶対に幸せにします。」

「ロイ…。」

アシュレーはうつむいて頬を染める。ロイはそっとその肩を抱き寄せた。

「…ロイ。俺には、羊と、家と、アシュレーしかいない。だが、全てをお前に譲ろう。しっかりと守って、幸せにすると誓え。」

ロイは静かに頷いた。

「アシュレー。兄様の嫌いなものは?」

「嘘と…人を疑うこと。」

アシュレーはもう瞳に涙をためている。輝く瞳も美しい。

「そうだ。絶対にその二つだけはお前にしてほしくない。お前はいつまでも兄様の自慢の妹だ。」

「兄様…。」

「兄様のことを、誇っておくれ。ロイ、君もだ。」

自分よりも、年上であろうロイに偉そうにいえる資格はないのだけど、伝えておきたかった。

メロスの言葉を。

「さぁ、泣いていてはいけない。今日の主役はお前たちなのだから。行っておいで。兄様は少し眠らせてもらおう。」

二人は笑顔で頷くと、いまだに宴を続ける客の下へ向かった。

「よくあのせりふ覚えましたね。」

リューイはひょこっと俺の隣に現われた。

「うっさいなぁ。俺は、メロスじゃないけど、あの二人には伝えなきゃいけない気がしたんだ。」

俺が伝えなきゃ、誰が伝えるって言うんだ。

今は俺がメロスなのに。

「心、それでいいと思うよ。お前らしくてな。」

涼はにっと笑って俺の肩をたたく。

「あ、ありがと。」

そんなにまじめに返されると思っても見なかったので気恥ずかしい。

「んじゃあ、俺はちょっと城に戻ろうかな。そろそろ疲れたし。」

そういうと涼は走ってヘリに乗り込み、飛び立った。

結局お前はここかき回しただけかよ。

「じゃあ、そろそろ、出発しますか?私たちも。」

「んー…そうだな。いつまでもここにいてもしょうがないし。」

離れたところで祝杯をあげる人たちを眺める。

本当に、ずっとこの人たちと一緒にいたいと思った。

昨日来たばかりの心がそうなのだから、メロスはもっとそう思っただろう。

「じゃあ、行くか。涼のとこに。」

「呼ーんーだー?」

ヘリの音とともに、涼が近づいてきた。風圧がやばすぎます。

「呼んでない、降りてくんな、帰れ。せっかくいいところだったのにっ。」

「ちぇ。おもしっくない。」

涼はまたヘリで空の彼方へ消えていく。何でもありだなこの世界。

「じゃあ、メロス君号で行きましょうか。」

準備万端だなおい。てか、にっこり笑いながら当然のように後ろに座ってんじゃねえよ。

「しゃーねー。行くか」

昨日と同じ道に向かって、思い切りペダルを踏み込んだ。




「まあ、こうなるわなぁ……。」

俺の目の前には荒れ狂う濁流がこれでもかってくらいに流れていた。

てゆうか、雨降ってなくないか?

「そんなに話の展開変えられないですよ。」

今までバリバリ変えてきたのはお前だろうが。

「まあ、メロスはこれを泳いでわたりましたしねぇ。」

「俺にもこれを泳げと?」

「できるなら。」

いや、いやいやいや……。無理だから。絶対、無理だから。

「じゃあ、どうすんですか。セリヌンティウスさ……。」

「分かった、もういい。渡るから。」

一応準備運動を始めると、

「しーんー。」

うわー、聞きたくなかったかも。この声。

今回は……モーターボートかよ。

「だからなんで涼がここにいるんだよ。」

「だってさあ、城帰っても皆びびってて面白くないんだもん。しかも街暗いし。なーんでかねぇ。」

あんたのせいだよ。今までの王様と、あんたさらになんかやっただろ。

「んー?いつもお前にやってるようなこと。絶対まずい食い合わせ食べさせたり、ちょーっとからかっただけなのに……。」

あーあれか……。城の方々の心中お察しします。あれはきついね。

しかも涼のちょっとはやたらヤバイ。ちょっとじゃねえし、あれ。

「俺が自身を持ってまずいって思う料理なのに……。」

よりだめなんだよ。それは。

「じゃあ、セリヌンティウスでもいじめてこようかなぁ…。」

すばらしい笑顔だね、涼。俺が行くまで生きてるかな、セリンティウス。

「じゃあ、私たちはメロス君号2で行きましょうかね。」

俺のは……うん、アヒルさんボート。漕ぐ系多くね?

「頑張って、心。お城に早く来てね、王子様のこと、待ってるから。」

お前はどっかの姫か。

俺は一応メロスであんたは悪の王だけど。

「メロスさん早く早く。」

リューイはすでに乗り込んで手招きしている。お前はまた後ろか。

しかも漕ぐの俺だけじゃんかよ。

「早く早くってうっせえなあ。今するよ。」

心はため息混じりに濁流へと漕ぎ出した。…が。

「なんで、進まない…。」

むしろ流されてるよ。これ。

「濁流に勝てないんですよ。きっと。」

これまでも漕いできたからね。かなり。

「代わりにお前が漕げよ。」

「いやですよ、変な筋肉つくし……。」

お前は乙女かっ。

「じゃあ、どうすんだよ。」

「えーと、あっ……。」

まーたなんか、思い出しやがったな、こいつ。

「今度は、何を忘れてたんだてめえ…。」

「えーっとぉ…このボタンを押せばモーターが回り始めて、あなたもあっという間に向こう岸へ。」

「わーそれはすごいですね……って、おーいっ。何考えてんだてめえ。」

何で、毎回毎回忘れるんだよっ。もう老化現象始まってんじゃないの?

「それはぁ…リューイがどじっ仔さんだから。」

「うわー、すっげえイラッとした。今ので頑張れそうな気がしてきました。」

「じゃあ……ポチッとな。」

身体が後ろに持ってかれるほどのスピード。これ、何キロ出てんだよっ。

「おいっ、リューイっ。気絶してんじゃねえよ。気絶するなら説明してからしろよっ。」

制御不能じゃねえかよこのアヒルさんボートっ。

―――――がんっ

「は?」

あまりの速さに首もげてんですけどぉ。てかこれ、アヒルさんボートじゃなくなったじゃん。

「やっばい、岸に乗り上げるっ。ブレーキ、ブレーキ。……あった。」

足元にブレーキであろうものがある。

「これしかないな………。」

ぐっと、全体重をかけて踏み込む。止まるのか、これは。

いや、むしろ早くなったような気がする。

がんっと派手な音を立て、岩にぶつかる。

とりあえず、渡れたし、止まった。壊れたけど。

「…ふう。」

「と、止まったみたいですね……。」

「このボートにブレーキはついてねえのかよ。」

「えっと……あ。」

「今度はなんだよ…。」

リューイが手にしている説明書をひったくる。

『本商品にはブレーキがついていないため、絶対にモーターボタンを押さないでください』

ならモーターボタンなんか作ってんじゃねえよ。

「お前らの会社は何してんだよ。」

「皆さんのサポー……うえっ。」

「何してんだよ、てめえは……。」

リューイはふらふらしながらアヒルさんボートを降りる。

これじゃ歩けねえし喋れないだろ。てか、ネコって酔うのか。

「しょうがないな…。」

俺はリューイをおぶって、道を進みだした。




「メロスさ…すいませ…。」

「あーもう、喋んなよ。」

まだ酔いがさめてないリューイをおぶったまま、えっちらおっちら峠を越えていた。

「なあ、ここ盗賊出るんだろ?なんかあるなら今のうちに出しといてくんない。」

大分上ってきたから足がヤバイ。

でもここでリューイを下ろしても歩けないだろう。

「えっと、ポケットに……スタンガン。」

おいぃ…。

「いや、それはさすがにやばすぎるだろ。そんな、スタンガンなんて……。」

「盗賊は…涼さんのまわ……回し者かも…。」

なんだそれ。かなりやばいじゃないかよ。

「しゃあねえなあ。……っ。」

覚悟を決めた瞬間、目の前に盗賊たちが現われた。

「来たな、盗賊共っ………」

「助けてくださいっ」

盗賊たちは地面にひれ伏し助けを求めてきた。

「どういうことだ?」

俺が尋ねるとやや涙目の盗賊たちが隋と顔を近づけた。近い近いっ。おっさんたちの顔なんかよく見たくねぇっての。

「王がっひどすぎてついていけねぇんです」

ですよね。あれついていかなくていいですって。

「じゃあ、王様倒してきますんで、道あけてくれます?」

「ぜひ、お願いします」

盗賊たちの声援を背に、俺は再び歩き出すことになった。

「盗賊に恐れられるなんて、一体何したんですかね」

「知りたくもねぇ。考えたくもねぇ」

俺はリューイをおぶったまま城へと道を進み続けた。



「つ、着いた………」

「お疲れ様です」

ようやくついた王城は以外にも静まり返っていた。

「これは涼が何かトラップを仕掛けているか、何かがあるってことなんだよなぁ」

大きくため息をついて、あたりを警戒するが何かが起こる気配もない。

というよりも人の気配がしない。

「あのー……ちょと耳を貸していただけます?」

おずおずとリューイが背中から声をかける。

「いやだ、なんか聞きたくない」

「そんなこと言わないで聞いていただかないと……私もお仕事ですから」

リューイは手に握っていたケータイの画面を俺に見せる。


『俺は次の世界に行ってみたかったので、次の世界に連れてってもらいました。

  てことだから迎えに来てね                   涼 』


「ですって」

なんで次とかあんの、なんで携帯にメール届いてんの。

「それは次のお話で☆」

「勝手に進めてんじゃねぇーーっ」

俺の叫びは静まり返った王城にむなしく響くばかりで、応えてくれる人は誰もいなかった。



つづく……






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