紫苑編 第三話 再会
PM6:30
ガラガラッ!
「飯あるっ!?」
「無いよ~」
食堂の机には空になった皿の山。
そして満足そうにお腹をさする奏の姿…
「しくじった…」
バタッ…
膝から崩れ落ちる僕…
「はぁ~美味かったぁ~!」
飯は弱肉強食の世界…
しょうがないか…
「煉~?なんかカップラーメンある~?」
「台所の下に入ってるぞ。」
まだあるだけ良かった…
「煉~?俺ってもう行く時間?」
「あぁ、7:15からお前の取材だ。いつものスタジオだが、早めに行っておけ。」
「りょうかーい、いってきまぁーす」
ガラガラ…
「あれ?なんで奏だけの取材なの?」
「今日の取材はベースマガジンからだ。」
「それでか…」
ブゥン、ブゥン!ヴゥゥゥン!!
隣りの駐車場からバイクの音…
「記者は女?」
「そんなわけないだろ。ちゃんと男の記者でお願いしといた。」
「冗談だよ…」
「ところで、お前遅くまでどこ行ってたんだ?」
「委員長の見舞い行って、喫茶店で休んでたらいつの間にか遅くなってた。」
「遅くなる時は連絡入れろよ?」
「わかってるって、今日はたまたまだよ。」
「…紫苑…顔に頓着無いから…」
「凛の言うとおりだぞ。あまり目立つなよ」
「らじゃぁ~。」
ちょっと過保護な気もするけど心配してくれてるからだからいいか…
それに確かに凛の言うとおり俺は特に変装とかしないし頓着ないのかもしれない。
自分で言うのもなんだけど、普通の人よか顔の造形は整ってるはずだし…
「ごちそぉーさん」
ガラガラガラ。
外はもう完全に夜の帳をおろしていた。
「うー、まだ寒っ…」
脇の螺旋階段に足をかけた時。
視界に自転車が入った…
「寒っ!!想像以上に寒っ!!」
一応着替えてダウンを着たが、やっぱし甘かった…
俺はなぜか病院にむかった。
自分でも不思議なくらい、天ヶ瀬にまた会いたくなった。
ガシャ…
表から入る訳にはいかないので裏口に停める。
裏口はロックがあるが人が出た隙をつけば入れる…
自販でコーヒーでも買って飲みながら待とうと思ったがちょうどよく看護士がタバコを吸いに出てきた。
チャンスだなこりゃあ…
裏手に回ってドアが見えなくなった隙に物陰に隠れて近付き…
素早く入るっ!
ドキドキしたぁ~…
でも、ちょっと楽しかったり(笑)
非常階段を登り五階へ…
廊下には足音が響く…
まだ九時過ぎなのに夜中のように静かだ…
あったあった…
昼も見たプレート、『514号室 天ヶ瀬渚』。
ガラッ
「すいませんっ…もう、寝ますっ」
看護婦さんと勘違いされた様だ…
「いや…寝られたらせっかく来た意味無くなるんだけど…」
「ひゃあっ!!」
「しーっ!!」
「あ…ごめんごめん…ってなんで水無月君がいるの?」
「いや、もう水無月君じゃなくて、紫苑でいいよ。僕も渚って呼ぶし…」
「あ、うん。わかった…でもどうしてここに?」
「う~ん…なんかちょっと会いたくなっちゃって…」
いかん…夜中の病室で真っ赤になる二人という奇妙な絵が出来てしまった…
ガラッ!
「「!!」」
「天ヶ瀬さぁん?もう寝なさいよ~?」
「は、はぁ~い…」
ガラガラ…
「ふぅ~よかった…」
「これはヤバイな…」
「ホントだよ…来てくれたのは嬉しいけど普通の面会時間でいいよ…」
「じゃぁ、今度こそまた明日…」
「うん、楽しみに待ってる…」
今日はすごい充実した一日だった…
僕がこの後、煉にこってり絞られたのは後の話し…