紫苑編 第二話 邂逅
本当に彼女は生きているのだろうか…
僕が血の通っていないかのように澄んだ肌を晒す彼女を見て、思い出したかの様に疑問を抱いたのはしばらくしてからだった。
ひょっとしてこの瞳はもう開かないんじゃないか、そんなことを思わせるほどに世界から孤立していた。
なにもかも不完全な世界で一つだけ完成してしまった神様の間違いなのだろう…
そして、ゆっくりと瞳が開いた…
「…あれ?…水無月…くん?…」
「あ、あぁ…プリント、届けに来たんだ…」
「ありがと…でも、もう面会時間過ぎてるよ…?」
あれ?…
外はいつの間にか夕方。
窓からは全てを染める夕日が射し込んでいた。
「あぁ…ちょっとぼ~っとしてたんだ。色々新しい曲とか出来そうだったから」
見惚れてたなんて言えるわけないじゃん!
「そういえば…水無月くん達って、今度デビューするんだ…」
「まぁ、そうだな…長くなっちまったけどやっと決まったよ。一つ目の夢は叶ったかな?まだまだこれからだけどね…委員長は夢とかある?」
「夢?夢なんか無いよ…」
「そんな…夢くらい持った方がいいぞ?希望があればどんな病気でも治んだから!」
病は気からっていうしな…
「…ないでよ…」
「えっ?どうかした?」
いつの間にか彼女は俯いていた…
あれ?なんで泣いてんの?
なんか悪いこと言ったかな?
「ふざけないでって言ってんの!!」
「な、泣くなよ…」
「わたしは半年後には死ぬのよっ!そんな人間に夢!?希望!?あるわけないじゃない!」
「どう…ゆう…ことなの?」
まぁ一気に痩せた体だったり、この病棟がそれなりの病気の人用ってゆうのはわかってたけど…
そんなひどいとは思わなかった…
「心臓が悪いのよっ!私だって昨日知らされたのっ!移植するにもドナーはいない!いても私の病気では成功する可能性が低いから見込みは絶望的だって!…ぐすっ…そんなの言われたらどうすればいいのよっ!!」
「………………………」
僕にはどうすることも出来ない問題だ…
「水無月くんみたいに夢とか目標とか持って私はもう生きられないっ!!ただでさえ普通の生活もままならない私に夢とか語らないでよ!私は…どうせ……ゆっくり死んで行くだけなんだから……」
なにか出来ることはあるだろうか…
僕が音楽と出会って、乗り越えたように彼女にも幸せを感じて欲しい…
僕は部屋のカーテンを閉める。
「な、なによ…?」
制服のブレザーを脱ぎ捨てる。
そして、シャツに手をかける。
「ちょっ!いきなりなにしてんのよ!変態!?」
シャツを脱ぎ捨てる。
「……………えっ?………」
彼女の瞳に写った僕の上半身には…
「…さらし…?………」
さらしがリノリウムの床に微かな音を立てて落ちる…
そこにあるのは少しだか膨らんだ乳房。
「そう…僕、水無月紫苑は…女性の体だ」
「…えっ?…ちょっと待って…まだ頭が追いついてない…………」
「正確には心は男性だがな…病名は有名な性同一性障害というものだ」
「待ってって言ってるでしょっ!…他に知ってる人っているの?」
「親とメンバーと委員長だけだ…」
「事務所とか…もしかして知らないの?」
「知らないよ。だから普通の生活は僕もおくれない。」
「どうして私にそんなこと教えたのよっ!」
「僕は実家でこれがわかった時、軟禁された。ある日、ついに自殺しようと思った僕は音楽に救われた…それからみんなに会って希望を見つけた…委員長にも、僕にとっての音楽みたいな存在を見つけて欲しい。そう思って僕も秘密を話そうと思ったんだ。」
「そう…さっきはごめんなさい…後、ありがと…」
「よかった…笑った方が可愛いと思うよ」
「…へっ!?」
あれ?折角仲直り出来そうだったのに顔伏せられちゃった…
なんか言ったかな…
「…うっ!?…」
ヤバイ、今度は心当たりがあった…
「と、とりあえずプリント置いておくねっ!じゃ、じゃぁまたっ!」
「うん…また…」
ガラッ!
は、はははは…恥ずぅ〜〜!!!
思わず逃げ出してしまった………
でも久しぶりにいろいろ忙しかった日だったな…
時間は…6じ!?
ヤバイヤバイ!
早く帰んないと、
「僕の夕飯がぁ!!」