11話 契約
静かだ。
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人の声が遠い。
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奴隷市を抜けた後。
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トールは歩いている。
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正確には——
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歩かされている。
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足が重い。
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力が入らない。
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それでも——
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止まらない。
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前を行く背中。
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リシア。
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迷いがない。
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一定の速度。
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(……速い)
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トールは遅れないようについていく。
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■ 到着
建物。
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木造。
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小さい。
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だが——
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整っている。
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無駄がない。
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リシアが扉を開ける。
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中に入る。
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トールも続く。
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中。
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簡素。
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机。
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椅子。
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道具。
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武器。
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(……拠点か)
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リシアが振り返る。
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トールを見る。
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リシア「座れ」
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短い。
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トールは従う。
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座る。
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力が抜ける。
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■ 確認
リシアが近づく。
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トールの腕を見る。
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傷。
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縄の跡。
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軽く触れる。
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トールの体がわずかに反応する。
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リシア「……まだ動けるな」
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トール「……なんとか」
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リシアは頷く。
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リシア「これから契約する」
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トールは見る。
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(……契約)
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分かる。
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あの時の話。
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トール「……断ったら?」
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少しだけ、間。
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リシアが答える。
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リシア「逃げるなら止める」
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トール「……」
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リシア「売りに戻すこともできる」
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トールは目を閉じる。
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考える。
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短く。
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(……無理だ)
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今の状態。
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逃げられない。
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戦えない。
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(……なら)
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トールは目を開ける。
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トール「……やる」
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リシアがわずかに頷く。
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■ 契約
リシアが取り出す。
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黒い石。
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歪な紋様。
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(……これか)
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床に置く。
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その瞬間——
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魔法陣。
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広がる。
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淡く光る。
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トールの足元。
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(……来る)
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リシアが言う。
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リシア「動くな」
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トールは動かない。
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覚悟を決める。
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石が光る。
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リシアが手に取る。
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トールの腕へ。
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押し当てる。
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ジュッ……
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焼ける音。
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「っ……!」
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痛み。
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強い。
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だが——
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それだけじゃない。
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ビリッ!!
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電流。
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体の奥。
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走る。
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動けない。
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固まる。
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意識が揺れる。
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数秒。
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やがて——
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止まる。
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腕を見る。
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刻印。
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黒い紋様。
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脈打っている。
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■ 確認
トールは立とうとする。
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一歩。
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その瞬間——
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ビリッ!!
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激痛。
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崩れる。
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床に手をつく。
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(……これが)
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理解する。
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逃げられない。
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リシアが言う。
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リシア「逆らうと止まる」
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トールは息を整える。
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リシア「命令には従え」
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トールは頷く。
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リシア「無理はさせない」
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一瞬、止まる。
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トールは顔を上げる。
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リシアを見る。
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トール「……なんで」
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リシアは少しだけ考える。
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そして——
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リシア「使えなくなる」
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それだけ。
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トールは少しだけ息を吐く。
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(……そうか)
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納得する。
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■ 条件
リシアが続ける。
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リシア「食事は出す」
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リシア「寝る場所もある」
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リシア「仕事はさせる」
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短く。
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はっきりと。
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トールは聞く。
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全部。
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(……悪くない)
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今よりは。
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確実に。
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トール「……分かった」
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リシアが頷く。
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■ 始まり
静かになる。
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トールは座っている。
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腕を見る。
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刻印。
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消えない。
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(……ここからか)
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逃げられない。
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縛られている。
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だが——
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(……生きる)
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それは変わらない。
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リシアが背を向ける。
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外を見る。
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そして——
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リシア「明日から動く」
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短く言う。
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トールは頷く。
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ここは、森じゃない。
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自由でもない。
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だが——
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終わりでもない。
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トールは目を閉じる。
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そして——
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ゆっくりと息を吐いた。
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“契約”は、
終わりじゃない。
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始まりだ。




