9 魔石の授業
「魔石とは魔力を帯びた貴金属や鉱石や水晶などを指します。様々な種類があります。魔素が凝縮して出来るといわれ、魔石鉱山以外に魔物の体内にも魔石があります。魔法の触媒や魔道具に使用したリ、魔力を貯蔵することもできるため、広く普及していています。こちらにあるのが魔石の見本で……」
コロキニール老先生が魔石見本を見せながら説明する。先生は面接の時にもいたけど、まったく喋らなかった老先生だ。
この世界では魔石というものが広く使用されいて、魔道具にも使われている。
照明器具や魔導コンロなどの魔道具の素材が魔石だ。加工スキルを持っている俺としては、鉱石や金属などの知識を深めたい。
受講者は四〇人ほど。真剣に聞いている学生が多い。
最後列にはリーゼリン王女殿下が一人ぽつんと居る。回りの席は空いているが、数名の護衛が後ろに控えている。
「魔石って綺麗だね。ああ、君たちの方が綺麗だけどね」
俺の後ろには第三王子殿下が居て、そんなことを言っている。その周りには煌びやかな装いのご令嬢達が座って「きゃあきゃあ」言ってるから、その一角だけ違う雰囲気だ。
「君たち、お静かにね」
ケイン殿下が言う。もともとあなたが原因だと思うが、そんな騒がしい一行を気にしない老先生は、魔石について説明を続けた。
本当に様々な魔石がある。
吸熱石って風邪を引いた時の熱さましに良いかもしれない。
飛行石は見本は無い。現存する物は無く、遥か昔に天才錬金術師によって作り出された人造魔石だという。製法はだれも知らない幻の魔石。なぜか天空にでっかい島を浮かべたくなるな。
ドラゴンの魔石は大きさも魔力も特級品だ。学内博物館所有のドラゴンの魔石は定期的に展覧するという。これは是非とも観に行かねば!
そんなことを考えていると、チャイムが鳴った。
「次回は実際に五大魔素の魔石を使って魔道具を作成しましょう。素材はこちらが揃えますので、教科書で予習しておいてください」
老先生はそう言って授業を締めくくった。
五大魔素とは地水火風光のこと。それらは光石を使った明りの魔道具や火の魔石を使った着火魔道具、水魔石で水生成に土の魔石でミニチュア像作成、風の魔石で送風道具等々、魔石の属性をそのまま活かした魔道具だ。
日常使っているし、中を見て分析もしたが作成は初めてとなる。
ああ、とても楽しみだ!
「ジョウ。僕はもっと変わった魔石や魔道具が見たいよ。ねえ、みんな」
取巻きの女子生徒たちがきゃいきゃいとはしゃぎながら同意する。
「ケイン殿下。まず基礎からなので、お望みのような魔道具の作成はございません」
最初のホームルームの時から、俺はケイン殿下に何かと話しかけらている。ちなみに、ブレイズ王国では挨拶後は名前に敬称を付けて呼ぶのは非礼に当たらない。皆がケイン殿下と呼んでいる。
「つまらないなあ」
「ケイン兄さま。珍しいものがご所望なら、王宮に帰られて宝物殿へ行かれれば?」
侍女と護衛達を引き連れたリーゼリン殿下が、冷たい声で言いながら通り過ぎて行った。
そうだ、そうだ。その通りだぞ。
「えー。王宮のは見たからね。もっと刺激的な物がいいな。期待しているよ、ジョウ」
そう言ってケイン殿下もご令嬢達を連れて去って行った。
受講生達もぞろぞろと教室を出て行く。俺に奇異の目を向けながら。
ケイン殿下のお陰で、外れダブルスキルホルダーにして筆記試験の最高得点者として有名になってしまった。
静かに穏やかに、魔道具の勉強に集中したいのに。
心の中で愚痴ながら、俺は教室を後にした。