8 ゲベッグ家
「ゴラン様。費用がありませぬ。この予算内で収めましょう」
ゲベッグ家執事タルボットは、一切の感情を見せずに告げた。
「何を言うのだ。リンザー侯爵様にご招待頂いたのだぞ。継嗣ギーズのお目見えでもあるのだ!」
「予算は決まっております。それ以上は出費できません」
「まあ! タルボット、わたしのギーズちゃんに恥をかかす気なの?!」
「そうだそうだ。新しい税をかけるとか、とにかく金だ! この役立たずめ!」
ゲベッグ一家は古株として唯一残っている執事のタルボットを責めた。
「急に新しい税を設けたりはできませぬし、当家には余剰はございません」
「タルボット! 嘘をつくな。庫に大金があるではないか。あれを使えばよい!」
「なっ! そ、それは絶対になりませぬ旦那様! あれはリットー商会への返済金ですぞ!」
タルボットの顔色が変わった。
「返済とはどういうことだ! 借金をしていたのか! 誰だそんなことをしたのは!」
「ジョージ様が領内の立て直しのために借り入れをされました。おかげでゲベッグ領は潰れずに済んだのです。旦那様も説明を受けてサインなさいました」
「なっ、あやつ勝手に! し、知らんぞ!」
「契約書には当主として旦那様のサインがありますぞ」
ゴランはもちろん説明も受けており、書類のサインもしていた。
「し、知らん! そ、そうだジョージだ! 勝手に金を借りたのだ。あの忘恩の徒め~!」
「ねえ。ゴランさまぁ。そんな勝手な借金踏み倒しましょうよ」
「おお! そうか。そうだな。勝手にジョージがやったと商会に言うのだ!」
三人は領地の経営が何とか立ち直ったからこそ、自分達の暮らしが成り立っていたのを理解していない。
「旦那様。この契約を破れば、ゲベッグ家は終わりですぞ!」
タルボットは強い口調で諭した。
ゲベック領内には未開発の魔石鉱脈があった。その開発と運営を任せる約束で、融資と出資を得ていたのだ。開発後の鉱山運用益からも返済はする予定だが、どのくらいの利益がでるかは未確定。そこで領地の経営が持ち直した今年、借り入れ金の一部を返済することになっていた。そうすれば利息も減り、リットー商会も回収した資金をさらに鉱山開発に回してくれる約束だ。
ジョウが苦心して結んだ契約だった。
もし、ここで返済をしなければゲベッグ家は信用を失うばかりか、リットー商会の鉱山開発に影響が出る。それは鉱山運営が滞るということ。ゲベッグ領の経営に多大な負の影響を与える。
タルボットは必死に説いた。
ゴランも先代から仕えるタルボットに強く言われ、最後はしぶしぶ同意した。
その夜、ノーラは我が子にこう告げた。
お父さまは本当はタルボットをクビにしたいが、古株なので出来ないでいる。ここはギーズちゃんがその意を組んであげなくちゃいけないと。
ギーズはさっそく剣でタルボットを脅し、無理矢理解雇して追い出した。