6 ジョルド・ブリヴァム
ブライトネス王立学園の学園長ジョルド・ブリヴァム公爵は、一日の終わりに豪奢なソファで寛いでいた。
蒸留酒の杯を手に、今日のことを思い出す。肩書だけの学園長なので滅多に登園しないが、今日は久しぶりに学園長として特待生の面接に参加した。
入学者の扱いには注意が必要だ。
合格者に有力者の子がいれば、どの組に入れるか、待遇や席次などを考慮する。
仲の悪い派閥の子らを同組にせず、揉め事を回避する。あるいはあえて同組に入れることもある。それらは王家が該当貴族間に「距離を置け、あるいは不和を収めよ」というメッセージでもあるのだ。
他国からの留学生達を交流させたり、離したりも検討する。
先生も身分の差なく平等とされているが、実際は身分差は存在する。平民が不当に扱われぬようにしなくてはならないが、過度に増長されて揉め事を起されても困る。
学園の運営は副学園長が行っているが、難しい判断を要する場合や学園内を統制するために、王族に次ぐ身分を持つ公爵家当主を学園長に置いているのだ。
今日はその副学園長が、特待生の面接に来て欲しいと要請されていた。
彼は「組閣」というスキルを持っている。どのグループにどういう人材を置いて運営すれば良いか判断できるスキルだ。
その彼が、今年の最高得点者が学園に波乱を呼びそうだと判断した。その波乱がどういうもので、良いのか悪いのかも分からないと。そこで最高権力者である私に参加を要請したわけだ。
面接に加わって良かった。
ケイゼル先生はラートック侯爵家の四男だ。
「魔導演算」スキルを持ちだが気質に難がある。彼自身がこの学園の特待生だったし、大きな学内派閥に与している。生徒会に自派閥の生徒を入れて、王族との関係を強めておきたいのだ。
ジョウ・ライト男爵が首席特待生になれば、それらの思惑に歪みがでると判断したか。下級貴族の、しかも二つの外れスキル持つ者が最高得点で首席特待生となるのが、我慢ならなかったのもあるだろうか。
ジョウ・ライト男爵の経歴は苦難に富んでいる。
生まれてすぐ両親の死亡、男爵領の滅亡、係累無し、養子になり十才の頃から領主代行をこなし、「分析」と「加工」スキルを授かり、廃嫡追放。
波乱の人生が彼の人格を形作ったのか。
知力もさることながら、驚いたのは不当には断固抗う姿勢を見せたこと。あの度胸は気に入った。リーゼとケインにとっては、彼が生徒会に入った方が面白いことになったかもしれぬ。
私は「人物評見」スキルを持つ。
その人物を見ればスキルと人物評が浮かぶ。
殆どの人の評価は「平並」と出る。
しかしジョウ・ライトは、「優れた分析」と「優れた加工」スキルを持ち「変革をもたらす者」と出た。
外れと言われるスキルが、優れたと評されたのは今まで初めてだ。
そして、どのような変革をもたらすのか。
面白い。
我がブライトネス王国は停滞している。
ブレイズ王国は既得権益に固執する貴族が多く、技術開発や経済発展で他国に遅れをとっていた。
兄王は我が国の旧弊な体制を少しでも変えたいと思っている。
国際条約を受け入れたのもそれが理由だ。
私は人物評スキルで王宮へ人材を推薦するのは可能だ。
しかし、人物評通りに活躍できる環境があるかは別だ。
能力が有っても貴族間の力関係で出世を阻まれたり、平民だからと機会を奪われたりと邪魔をされる。そんなことが多くて、私は半ば諦めていた。
ジョウ・ライト。
彼が生徒会に入った方が面白いことになったかもしれぬ。
いや、まだ組み分けは決まっていないな。
それならば――
「楽しみだ」
ジョルド・ヴリヴァムは楽し気に杯を干した。