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5 面接

「ジョウ・ライト男爵殿。一三才。スキルは分析と加工のダブルスキルホルダー。心身ともに健康。出身は……旧ライト男爵領。現在は廃領のため領地無し。職位無し」

居並ぶ面接官達達。年配の女性が俺の経歴を読み上げる。出身地が滅んでいるってところで少し言い淀んだが、その後は先日の学力試験結果がほぼ満点で、今期の最高得点者あることを告げた。


王都に来てから三週間後、俺はブライトネス王立学園の入学面接を受けていた。

ブライトネスには学校が幾つかある。王国の学校は王国府が管理している各種の試験を受けて、試験得点が高ければ入学先を選べるシステムだ。

スキルが優れていればスキル試験のみで入学もできるが、俺の分析と加工では評価が低すぎるので学力試験が頼みの綱だった。


三日前、不正が無いように厳重に魔法で管理された試験場で、俺はテストを解いていった。領主となるべく学んだこと実務で覚えたこと、そして前世の知識があって筆記は高得点で合格した。


試験まで安宿に泊まり、観光もせず王立図書館に通ってずっと勉強をして頑張った。

ゲベッグ家に居た頃には過去の試験問題資料も取り寄せて、出題傾向を研究していたのと、前世で試験を定期的に受けていたことや受験テクニックの知識も役に立った。何より、問題に分析を使うコツが解ったのが大きい。公式や定理やよくある答えのパターンを使って、問題を解く方法がかなり有効だった。


数学は特にその恩恵が大きかった。公式や定理を分析する際の基として使う。問題という錠を公式や定理という鍵で開けるようなものだ。俺は暗算もできる。分析スキルが一度開けた鍵と方法を経験として蓄えるから、解けば解くほど速く正確に問題を解ける。そのスピード感は堪らない快感だった。お陰で勉強が捗ること。分析スキル様々だ。


ブライトネス王立学園は前世の学校とは違って、毎日授業があるわけではない。どちらかというと大学のシステムに近い。単位を取って卒業資格を満たしたら卒業だ。何年も在籍する者もいるし、卒業資格を得てさっさと卒業する者や研究員として残る者もいる。


校是は自由で身分差が無く平等である。もちろん建前であって実際は違うらしい。

ブライトネス王国は歴史ある国で、先生方を含めて貴族から優秀な平民まで、他国からも様々な人が集まる。

優秀な者は特待生として学費が免除される。学内に寮があって居住費も生活費も支給される。金無し家無しの俺にはこれが重要だ。


今日は特待生として入学できるかどうかの面接。普通は親や後見人が一緒に来るが、俺はたった一人。そして結果は面接の最後に言い渡される。



「では、いくつか質問をしますね」

これまでの学習環境などについてや、志望動機などの質問に無難に答える。

学術に関する問は、知っている知識で問題無かった。雑談を装って王国内の地理や風土のことを問い掛けられた。面接官のわざと間違った知識を、さりげなく訂正しつつ話を進める。学園の教授が発表した論文についてはこちらから質問した。

面接官達の反応は良い感じだ。

ここまでは順調だった。


「入学したらどんな勉強をしたいか、将来の職業は」と聞かれたので、「この学校で魔道具の勉強をしたい。分析と加工のスキルを向上させて、将来はスキルを活かして魔道具作成を仕事にしたい」と答える。

すると「分析と加工などという外れスキルの向上など、無意味ではないか。しかも廃領の男爵。はたして我が学園が、特待生として金を出してまで学ばせる意味があるのかね」と口髭を生やした男性が言った。


「えっ? ですがケイゼル先生。彼の試験はほぼ満点で実に優秀だ。首席合格者が特待生で無いのはおかしくないかね」

面接官の一人が弁護してくれた。

「スキルを考慮して総合でみれば特待生に相応しくない。分析と加工だぞ。特待生は生徒会に入会するのが慣例だが、今年は第三王子殿下と王女殿下がご入学される。王族は生徒会に所属なされるのだ。そこに外れスキル男爵など相応しくないだろう」


王族を差し置いて俺を首席特待生にしたくないのと、王族の傍に置きたくも無いらしい。

自分の派閥貴族の生徒を入れたいとかだろうか。先生方にも色々と思惑や派閥やら権力争いがあるのだろう。

それなら話は簡単だ。俺は手を上げて発言の許可を取る。

「どうぞ。ジョウ・ライト男爵殿」

「第三王子殿下と王女殿下のご成績が、総合的な(・・・・)点数でみれば私より優れていらっしゃるのでしたら、首席と副首席となっていただいてはいかがかと。私は特待生と同じ待遇を頂ければけっこうです。学費と寮費免除、衣食住費の補助、研究施設と図書館の制限無しの利用をさせて頂ければ、生徒会活動は遠慮しますので、代わりに個人で行う学習活動に多少の補助を頂ければありがたく存じます」

俺には特待生という名よりも、金という(じつ)が必要だ。


「うーん。それでいいのかしら」

「そうなれば主席はリーゼリン・ブレイズ王女殿下に」

「ケイン殿下はどう思われるか」

いい加減に腹が立って来た。王族のことなど俺に関係ないだろうに。

「貧乏男爵は入学前から、金の無心か!」

このちょび髭ケイゼルめ、首席と生徒会辞退の代わりの要求だぞ。

俺は悟った。

ゲベッグ家でもそうだったじゃないか。こちらが穏便に解決しようとしても無駄な相手というのはいるのだ。

要らぬ諍いは避けるべきだが、時にははっきりと態度を表明しなければいけない。

一瞬だけ迷った。俺の発言が反感を買うことを。それでも俺は椅子から立ち上がって、全員をゆっくり見回してから言った。


「私はごく普通にここで学ばせて頂きたいのです。学園の入学要件にはこうありました。身分に関わらずスキルまたは学問試験の結果によると。試験は不正がないか厳密に管理されており、疑義を申し出れば王国府が審査します。私が試験でほぼ満点の最高得点者でありながら、しかるべき待遇を得られないのなら……私は王都新聞経由で王国府へ審査を請求します」


面接室がしんとなった。

王族の試験結果に疑義を申し出ることなど不敬罪で出来ない。だが、俺が「ほぼ満点の高得点を取っているのに首席特待生で無いこと」には審査を要求できる。すると学園にも調べが入る。その結果、審議対象に王族が含まれてしまっても俺には関係ない。

この世界には虚偽や真贋を明確にする魔道具もある。

王都新聞は建前として、公平公正独立を法で守られていて、もし真実が紙面に載れば王家に慮った不公平な扱いがあったのだと明かされて、王立学園と王家に打撃となるはずだ。


俺は続けた。

「今一度お願いします。私はごく普通にここで学びたいだけです。首席の座も生徒会への入会も辞退申し上げますが、こちらが当然得られた権利と、譲歩する分も頂かねば私が損をするだけです。私は成人したての領地も持たない無官の木っ端男爵ではありますが、不当な扱いには覚悟があります」

「なっ。何をっ、生意気な小僧が!」

ケイゼル先生が顔を真っ赤にして立ち上がったが、それまで黙っていた学園長がそれを制した。

「ジョウ・ライト男爵。君は当然得られる権利を望んだだけだな。貴族としての政治的配慮も理解しているようだし、何より強い意志もある。良いだろう。学園長ブリヴァム公爵の名において、君を恵遇生としてこの学園へ迎え、特待生と同様の待遇を保証する。課外活動には適切な補助を約束しよう」

淡々と渋い声で宣言する。

ケイゼル先生は顔を顰めたが、学園長に逆らうことは無かった。


「ありがとうございます。ブリヴァム公爵閣下」

俺は深々と礼をした。

ブリヴァム公爵はふっと笑った。

「君の入学を歓迎する。ようこそ我が学園へ」

そうして俺の入学が決まった。

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