48 最終話 ダブルニュースキルホルダーズ
「こんにちは。本日の公都リンゼリスの天気は晴れ。市内中心部の大聖堂では天与の儀式が行われるため、周辺道路の規制が行われています。フロレス橋も一時通行止めになりますので、ご注意ください。さて、最初のニュースです。ライト魔導船航空のハイフィールド経由アーシア島への定期就航が開始されます。これにより、リンゼリスから行ける世界がさらに広がりました。次のニュースです。ライト製薬研究所では回復ポーションの実用実験が始まり、大きな期待が寄せられています――」
スクリーンではアナウンサーが今日の出来事を伝えている。
十数年前のあの日、俺はライト伯爵領都をフローレス川沿岸に置き、リンゼリスと名付けると決めた。
魔導蒸気機関を改良発展させて、魔導蒸気船と魔導機関車と魔導飛行船で都市を結び、リンゼリスは発展した。
あれからゲベッグ領は災害で駄目になり、ゲベッグは爵位を失って、土地はライト伯爵領に組み込まれた。
結局、鉄道はブレイズ王都まで敷いた。予定を変えて山のトンネルを抜けてブレイズまで通したが、ブレイズ王国は衰退気味だ。
デロス第二王子は将軍となり紛争中だった二か国を滅ぼしたものの、旧勢力の貴族達に巻き込まれる形で反乱蜂起した。ゾロク王によって鎮圧されたものの国力を落としてしまったからだ。復興支援の代わりにライト伯爵領は独立してライト公国となった。
窓から外を見る。
眼下にはビルの立ち並ぶ大都市リンゼリスの光景が見渡せる。
空には、製法が解き明かされた飛行石を積んだ小型から大型までの飛行機械が飛んでいる。魔法によって強化された素材でできた超高層建築は、夜には様々な照明の魔道具で煌めき、前世の都市を超える栄えようだ。
魔道蒸気計算機はまだ大型だが、演算機器として稼働している。魔道具による通信が発達し、世界中が結ばれている。それ以外にも魔導蒸気機関は工場の生産設備や電気の発電所にも使われている。
かつて、俺は大陸を支配するなんて無理だといったことがあるが、可能だとしたら法律、交通、通信が発達して、農作物の生産量や工場の生産力が発達すればできるということは言わずにいた。
そう、今のライト公国と巨大多国籍企業国家「ライトコーポレーション」によって、大陸が統一されているように。
公国として独立時に設立した「ライト・コーポレーション」は今日、世界を統べている。ライト公国の所有する企業だが、多くの国を経済と平和で結んでいる。
腕時計を見る。
そろそろ時間だ。
「あなた。準備はよろしい?」
俺はテレビを消して振り返る。
「ああ、できているよ、リーゼ。ああ、なんてステキなんだ」
侍女を連れてドレス姿で現れた彼女を俺は褒め称えた。
「あら。私の夫も中々素敵よ」
「お褒めにあずかり、光栄です」
「では素敵夫婦で出かけましょうか」
「だぁだぁ」
侍女に抱っこされた下の子が声を上げる。
「うん、もちろん君も素敵だよ」
リーゼと笑い合っていると、双子の息子と娘もやって来たので受け止めた。
「準備できたよ!」
「わたしも!」
「では、素敵家族で行こうね」
「「はい!」」
今日は二人の天与の儀式だ。
二人ともどんなスキルを授かるのだろう。
「変なスキルだったら嫌だなあ」
「外れスキル双子なんて呼ばれたらどうしよう」
移動中の飛行車の中、心配そうに二人が呟いた。
「大丈夫さ。父さんの加工と分析なんて昔は外れスキル扱いで、ダブル外れスキルホルダーなんて言われたんだよ」
「「そうなの?! 嘘でしょ!」」
二人が驚いている。
「そうよねえ。私もこんなスキルありえないわって驚いたのに、世間の評価は外れスキル扱いだったのよ」
作った魔道具第一号をとられ、いや献上したっけ。そのおかげで助かった。
今でも財務担当チルノさんと銀行と経営総裁のケイン義兄さんは、元気に世界中の経済を発展させている。大陸中に鉄道網と魔導船航路を敷き、それ以外にも魔導蒸気は工場の生産設備や電気の発電所にも使われている。
ライト公国の治安は、元ドラゴン騎士団団長ミーミシアさんが率いる鉄道騎士団が解決にあたっていたが、
改良型人造飛行石による新型推進機関が開発されて、新設されたライト航空騎士団長になった。
職技能訓練所やスキル学校を卒業した人が、職員と成って今日も新しい魔道具や便利なサービスを研究開発している。現在世界中を結んでいる魔道通信放送は、元々は大武道大会の中継技術を発展させたものだ。
魔道具によって農業も工業も医療も進み、人々の生活はより健康で幸せなものへ変化している。
全ては放課後の「魔道具研究所ライト工房」から始まり、その基は加工と分析スキルだった。
「スキルに外れなんてないんだよ。知識と訓練は必要だけどね。それよりもスキルで何をするかが大切だと父さんは思うんだ」
二人は何やら考え込んでいる。
前世知識を利用すれば凶悪な兵器も作れたが、俺はそれをしなかった。
一度だけ、学園でリーゼを誘拐しようとした連中へ、加工スキルを攻撃に使った。
俺は実験のために空気を加工することもしていたが、二酸化炭素で消火ができること。人が吸い込めば昏倒する危険物であることも知っていた。他にも加工で毒や危険物が作り出せることも。
飛行車が大聖堂の前の広場に降りる。
護衛として周囲を飛んでいたライト航空騎士団の航空機は上空を、ライト公国近衛騎士団は地上を警備している。
「さあ。着いたね」
「どんなスキルを授かっても、大丈夫よ」
俺達家族は大聖堂の中に入った。
「お二人のスキルは……ああっ、神はお二人に二つづづ、同じスキルを授けになられました……私のスキルはスキル鑑定ですが、これまでに世に無い新しいスキルが二つです!」
神官が告げると聖堂に居並ぶ人々は、建物が揺れるほどどよめいた。
「ほんとに?! 普通は一つなのに二つ?!」
「ダブルスキル?! しかも、お二人ともこれまで無いスキルだなんて」
「新しいスキルなんて何百年も無いことだぞ……」
「どんなスキルなんだろう」
人々は口々に言い合った。
「ダブルニュースキル。ダブルニュースキルホルダーズだ!」
新しいスキルホルダーの誕生に、皆が興奮していた。
「みなさま、お静かに」
神官の言葉に静寂が戻る。
期待と緊張に満ちた静けさの中、告げられたのは。
「お二人に授けられたはスキルは、天文学と宇宙開発。大いなる神々に感謝を」
人々はその言葉の意味が解らずに、互いに目を見合わせたり、どんなスキルなのだろうと話し合っている。
「「天文学と宇宙開発?」」
息子と娘も自分のスキルに首をかしげている。
そうきたか。
スキルを与えているのが本当に神様だとしたら、さらに先へ進ませようってところか。ある意味、本当に天に至るスキルが来たわけだな。
「ジョウ、どんなスキルか分かるの?」
小さな声でリーゼが問いかけてくる。久しぶりにジョウって呼ばれたな。
「ああ、もちろん。リーゼ、任せて」
「良かったわ。なら大丈夫ね!」
リーゼも心配だったようで、声が明るく弾んだ。
心配そうな顔で戻って来る二人を赤ちゃんを抱いたリーゼと共に迎える。
「すごいスキルだ。二人とも」
「天文学って?」
「宇宙開発って?」
「天文学っていうのはね、宇宙に存在する様々な物質や現象を研究する学問だよ。宇宙っていうのはね、この惑星も含んだ世界全てのことさ。そこには多くの星々があるんだ」
俺は二人とリーゼと、まだ言葉は分からないだろうけれど赤子に話して聞かせる。
「すごいわ!」
「行ってみたい!」
「だぁだぁ」
「うん。父さんも手伝うからね」
「私も錬金スキルで手伝うわよ」
これまで天体観測は行われているが、占星術や節気の分野だった。天文学はかなり幅広い分野だし、宇宙の探査と開発には多くの学問知識とさらなる魔道具開発が必要となるだろう。
忙しくなるな。
「さあ、まずは月からいこうか」
新しい挑戦に俺の心は沸き立っていた。
完結です。
お読みいただきありがとうございました。