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41 大武道大会 後編

決勝の日、王都の円形競技場には観衆達の期待と興奮が熱気となって溢れていた。場外の観覧場所も数万の観衆で満ちている。国王陛下の天覧もあって、普段は見られない近衛騎士団が警備に着いていた。

準備が整うと決勝戦の開始が拡声の魔道具で告知された。

観衆の興奮が一気に高まる。


「大武道大会決勝戦。赤門、天槍スキル。レッツ共和国出身ブレイズ学園生徒、ライト工房警備部長ミーミシア・フレア殿!」

球技場が揺れるほどの歓声の中、ミーミシアが現れた。

何時ものように明るく観衆に手を振っているが、その様子に違和感を感じている者達も居た。

「白門、天剣スキル。ブレイズ王国第一王子。ゾロク・ブレイズ殿下!」

さらなる歓声が上がる。


武器度防具の確認が行われ、二人が試合ルールの厳守と敢闘を誓う。

審判団も公正な審判を誓った。

人々は戸惑った。天槍スキルのミーミシアの方が槍の間合いの分有利と予想されていた。それがミーミシアが剣を装備していることにより、変わってしまったのだ。剣同士ならば天剣ゾロク有利だ。


「ほんとうに剣で挑むのか」

観衆がミーミシアの様子に違和感を感じていたのは、槍ではなく剣を携えていたからだ。

「わたちの剣を見せてあげる」

そこには奢りの無い澄んだ瞳があった。

「わかった」

天剣スキルに剣で挑むなどふざけているとあの時は思ったが、今のミーミシアを見て違うのだとわかった。

彼女は本気だ。

ならば全力で応えるまで。


審判団が二人から距離を取る。

ゾロクとミーミシアも位置についた。

互いに剣を構える。


「始め!」

開始の声に二人が動いた。

常人には捉えられないくらいの早さで交差するゾロクとミーミシア。

ミーミシアが槍では無かったことも驚きだったが、闘いの始まりも意外であった。


「なるほど。恐ろしい剣だ」

そう呟いたのはゾロクの方だ。その片頬にうっすらと赤い筋が浮かんだ。避け切れなかったミーミシアの槍の様な突きが掠ったのだ。

「さすが天剣。爪一枚分、わたちの踏み込みがたりなかった」

「驚きだ。槍技を活かした剣か。どうやってそこまで高めた」

槍技を剣の技に応用、それも天剣と互角にまで。

「ふふ。わたち、騎士団長になるんだよ。剣も出来てあたりまえだもん。元から習ってたけど、こっちに来てジョウくんに教わった。天位スキルは天に至るスキルなんだって」

そのようなことが。何か修練方法があるのか。

「多才な男だな」

そう言えば学園に行く理由はリーゼを守った武技談義のためだったのを今更ながらに思い出したが、このような時に考えても詮無きこと。

「先輩殿下、降参する?」

にこりと笑うミーミシア。

「そんなわけなかろう、後輩よ」

ゾロクも笑った。

かつて無い心の底から湧き上がるものがある。

全力を出せる喜び、勝利への渇望。

天位スキルが天に至るならば、わが天剣も。

ゾロクは全てを忘れて剣に、試合に没入していった。



「意外な結果だったなあ」

「そうね」

俺の呟きにリーゼ殿下が応える。

「まさかあんなことになるとは……」

大武道大会決勝戦。最初はミーミシアさんが圧倒していた。ゾロク殿下は辛うじて凌いでいるが、このままミーミシアさんが勝ち切るかと思われた。

ところが徐々にゾロク殿下が盛り返し、最後にはゾロク殿下が勝った。

試合中に強くなるなんて本当にあるんだな。


ここで試合終了となったのだが、ゾロク殿下が「槍を使われていたら負けていた。二本目を」と言い出した。

ミーミシアさんは断った。「天槍スキルで優勝しても実績にならないもん。戦場では剣で戦うこともあるでしょ。負けたら次なんておかちいもん」と。

ゾロク殿下も「それを言うなら、戦場で不利な武器をわざわざ選ぶことも、相手の成長を待つことも無かろう」と返す。


ここで、どうやら二戦目があるかもしれないということが観衆に伝わった。決勝の素晴らしい試合に感動し、その興奮冷めやらぬところへだ。

場外の観衆も含めて怒涛の響きが競技場を揺らして、これで終わりというわけにもいかない雰囲気だ。

大会運営責任者が出て二人と相談の上、二本目を行うことになった。

観衆の興奮は最高潮だ。

しばらくの休憩中も、ざわめきが止むことも無かった。


そして始まった二本目。

あっさりミーミシアさんが勝った。開始直後にゾロク殿下の首にミーミシアさんの槍が突き付けられていた。呆気にとられ沈黙するゾロク殿下と大観衆に、開始位置へ戻ったミーミシアさんが一礼してからにこりと笑うとようやく大歓声が起こった。

二本目があったことも、それが一瞬で勝敗がついたことも驚いたが、その後もどえらい驚きがあった。


最初から槍で来られたら、優勝はミーミシアの勝ちだったわけだ。ゾロク殿下は表彰式で、ミーミシアさんの優勝を宣言した後、「電瞬の如き槍技、天位無双だ。近衛騎士団の騎士団長となってくれないか」と要請したのだ。近衛騎士団の団長を任命するのは王だけだ。実質「王になる」宣言である。

闘技場内はもの凄い騒ぎになった。


だが、ミーミシアさんは断った。

ゾロク殿下が「ならば、在学中に口説くまで」と言ったことが発端で、ゾロク殿下がミーミシアさんを王妃にしたいのだという噂が広まって、今は王都中がその話題で持ち切りだ。



色々ありすぎて疲れたが、その渦中のど真ん中の二人はライト工房に居る。

ミーミシアさんの優勝をお祝いするためだ。

そこに何故かゾロク殿下がついて来た。

祝賀会が終わって今は寛いでいる。


「後輩よ。どうしたらうちの騎士団長になってくれるんだ?」

「だから、わたちはドラゴンブレス騎士団の団長になるの!」

「留学期間はまだ二年あるのだったな。気長に口説くか」

「ムリだもん!」

話は平行線だが、隣合って座っていて仲良さげに見える。

「少なくとも、もう俺は逃げない。それは評価してくれてもいいだろう?」

「うん。先輩殿下、頑張った!」

そういわれて笑うゾロク殿下は良い笑顔だった。


「では。騎士団の待遇……いやまずは、優勝祝いに宮廷料理人の作るスペシャルデザート付きのティータイムなどどうだ」

「えっ。わたち……ジョウくんのおやつの方が美味しいもん!」

そんなことないと思うんだけど。

「ジョウ。そういえば、いろいろと聞きたいことがあったのだが」

こっちに飛び火した。

「えっ。何でしょうか」

「今日は時間がない。これからすることがあるのでな」

殿下は席を立つと改めてミーミシアさんの優勝を祝福してから去って行った。



王宮に着くとゾロクはタルカと共に王の部屋に向かった。

「優勝おめでとうゾロク」

「ありがとうございます、父上」

「凄い戦いでした。ゾロク兄上!」

「ケイン。ミーミシア嬢があれほどとは思わなかった」

「はは、私もです」

そしてゾロクはデロスの前に立った。

「兄上、本気ですか」

固い表情のままデロス第二王子が問う。

「すまぬ」

元々は第一王子が王位を継ぐことを嫌ったことで、デロスは王になるべくこれまでやって来た。ところが、ゾロクが翻意してブレイズ王国を継ぐことを決めた。父王はもとよりそのつもりでいる。国内人気も高い。


今更と思う気持ちもある。

打開するには兄を亡き者にするか、王国に反旗を翻すしかない。

さすがにそれは出来なかった。兄が王になって平和外交を築き、自身のスキルが発揮されなくても、万が一の時のスペアとして暮らさなければならなくても。

デロスはぎゅっと眉根を寄せ、小さく頷くしかなかった。


「父上。すみませんでした」

「途中で逃げることは許されぬ。覚悟の上だな」

「はい」

「ゾロクの立太の儀を新年に行う」

デクスター・ブレイズ王の宣言で、ここにブレイズ王国の王位継承争いは終わった。



自室に戻ったデロス第二王子の目に灯の魔道具が目に入った。

これまでよりも性能が良く美しいそれはライト工房により開発されている。室温を快適にする魔道具も。直接は利用しないが、調理や洗濯を便利にする魔道具も、携行テントや魔道具の小型コンロなどの軍用品も。ありとあらゆる場所にライト工房による新型魔道具が溢れている。

「おのれっ」

デロスは思わず明りの魔道具を壁に向かって叩きつけた。

全てはリーゼリンとケインが、ゾロクもジョウ・ライトと関係することで変わったのだ。


「ジョウ・ライト。このままで済むと思うなよ」

逆恨みではある。

だが、王位を諦めなければなかった怒りは彼に向かっていた。

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