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36 ゾロク先輩殿下

「ゾロク・ブレイズ殿下。ジョウ・ライト男爵でございます。この度の御来駕、恐悦至極にございます」

俺は学園長室内で片膝を付いて、ゾロク第一王子を迎えた。

「ジョウ・ライト男爵。この度は妹リーゼリンを救って貰った礼に来んだ。そう畏まらずに。さあ、立って」

「畏れ多いことでございます。王女殿下をお救い出来たこと、臣として誉でございます」

顔は床に向けたまま答える。


「リーゼ、ケイン」

「はい。兄上」

「ほら、ジョウ」

ケイン殿下とリーゼ殿下が応え、俺の体を起して立たせる。

ゾロク殿下は顔立ちも体形も整っていて王族としての威厳を感じさせる佇まいだが、人を惹きつける親しさも感じさせる雰囲気を纏っている。

「この度は本当にありがとう。深く感謝する」

王族なので頭は下げないが俺の手を取って感謝の意を現してくれた。褒美として願い出た慈善事業の拡大も許可も頂いた。


「さて。ここからは堅苦しいのは無しだ。私はここの卒業生なんだ。先輩後輩同士で気楽にゆこう」

「えっ。そのような畏れ多い……」

先輩後輩って言われても立場が違いすぎる。

するとケイン殿下が言った。

「頼むよジョウ。ゾロク兄上は本当にそういうの嫌いな人なんだ」

「わかりました……えー、ゾロク先輩殿下」

すると殿下は一瞬驚いた顔をしたが頷いた。

「ああ。では、ライト工房の案内を頼む、後輩」

その時の顔が少し寂しそうで、俺は気になった。


「この辺りはまったく変わっていないな」

「ええ。あのあたりでしたっけ、殿下が魔法陣で悪戯をして……」

「なっ。よくそんなことを覚えているな」

ゾロク先輩殿下は側近のタルカ・デリモス侯爵令息と話をしながら歩いている。彼は殿下の幼馴染で一緒にこの学園に通っていたそうだ。


やがてライト工房の一軒家が見えて来た。

「おお。とても良い風情だな」

「でしょう、ゾロクお兄さま! あの木材の自然な風合いを活かした佇まい。素敵な庭との調和。素敵でしょう。ジョウは素晴らしい建築家でもあるのよ!」

「ああ、とてもいい腕だ」

「そうなの!」

リーゼ殿下の弾んだ声に、ゾロク先輩殿下がうんうんと頷いていた。他の方達は俺の方を暖かい目で見てくるのが気恥ずかしいところだ。

「ケインから、ここは素晴らしい喫茶店でもあると聞いたよ」

面白がるような顔で俺に言う。

「えっ」

ケイン殿下を見るとそっと目をそらした。

「そうなの。お兄様、王都一番といっても過言ではないわ!」

ほ、褒めてくれてありがとうリーゼ殿下。でも、ますます周りの視線が……


「ふむ。ならば是非ともここで一服頂きたいな」

「えっ。あのゾロク先輩殿下。中には従業員もおりますし、安全上問題がございませんか」

中にはチルノさんとミーミシアさんがいる。ミーミシアさんの留学目的でもある大武道大会が開かれるので、最近はその計画を練っているのだ。

「そうですよ、殿下。ご迷惑ですよ」

タルカ様も窘めるがゾロク先輩殿下はきかなかった。

「タルカ。この学園に新しい思い出の場所があってもいいだろう」

「それは……わかりました。ジョウ・ライト男爵、すまない。先に護衛騎士に中を改めさせてくれないか。機密上の立ち入り禁止場所には入らずに封印をする。良いだろうか」

「そこまでご配慮頂けるなら、どうぞ」

結局ゾロク殿下の要望通りになってしまった。


「さあ、案内してくれ後輩! まだまだ堅いぞ、もっと気楽に」

わかりました。

ここまできたらご要望に応えよう。

「はい。ほとんどの機能を移転して、もはや本当に喫茶店と化しております喫茶店の主のジョウです。ようこそ、ゾロク先輩殿下。中には関係者といいますか常連が居りますので紹介させて頂きますね。ちなみに、ケイン殿下もリーゼ殿下も贔屓にしていただいておりまして、確かに王都一番の喫茶と自負しております!」

「ははは。よい口上だ。なるほど、ここの常連になれば大陸にその名を轟かせるライト工房の人員となれるのか。ふうむ、私も通わせてもらったら従業員になれるかな?」

「えっ。えー。はい。どうぞ。御弟君と御妹君もそうでしたので」

冗談だろうけどね。

「ふふ。なんとも面白い場所だ」

愉快そうに笑うゾロク殿下。

この時の俺は、まさかその後とんでもない出来事が待っているとは思ってもいなかった。

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