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34 ゾロク・ブレイズ

「デロスは何をしている!」

リーゼリン誘拐未遂事件を聞いたゾロク第一王子は、不快をあらわにしたという。

リーゼリンに無体なことはするなと申し入れていたのもある。もっともこれは同日に起ったことであり、末端の貴族の子弟が起こしたことでもあるが。


もみ消そうにも王弟であるジョルド・ブリヴァム公爵が、学園長として務める学内の事だ。加担した侍女も生徒達の身柄も抑えられ、宮廷に届けられてしまった。ケインとリーゼリンが親しくしているライト工房、その主ジョウ・ライトへ圧力をかけようとしていたことも。

関わった者は一族ごと処分された。弱小貴族達が減っただけとはいえ、デロス陣営には打撃となった。陣営内でも古い貴族達は王族への狼藉に怒る者や、デロス王子の統率力に疑問を持つ者も出てきた。

ゾロク第一王子が直接出向いて、ケインとリーゼリンとライト工房へは無体をするなと申し渡したのも大きかった。


そして、ケインとジョウ・ライトが経済と政治闘争を仕掛けた。武力抗争に発展させずに勢力バランスを変えたのは見事だった。


「ケインもやるようになったな。黒幕はそのジョウ・ライトらしいが」

「デロス王子も下手に動かず、戴冠を待つ方が得策でしょう。しかし、王位を継いでどうなさるか。結局は軍事行動で武名を上げて、となるのでは?」

側近のタルカ・デリモスが問う。

「それはあるやもしれんな」

「そうそう。先日のケイン殿下との話、大陸支配など無理だとわかりました」

「うん、気が付いたか」

「宮廷でケイン殿下にお会いしまして、気になっておりましたので質問したところ、教えて下さいました」

「ほう。ケインがようやく気が付いたか。時間はかかったが、まあ良しとするか」

「いいえ、それを言われたのはジョウ・ライトだそうです。ケイン殿下がそのことを言ったら、即答だったそうです」

「ふうむ。なかなかに知恵が回るな。デロスの件でも、気概も度胸ある。いっそ、大臣にでもしたら面白いものを」

「あなたの臣下にですか?」

タルカの言葉は、それはあなたが王になるのかという問いだった。

「あー。会ってみたいな。そのジョウ・ライト男爵に」

ゾロクはあからさまに話題を変えにかかった。

「また、話をそらす」

「……その、まあ、人物として興味はわかないか?」

「珍しい。もちろん第一王子であるあなたが望めば可能ですがね。よろしいので?」

ケインとリーゼリンが親しくするライト工房の主に会う。それはデロス王子陣営に対してのケイン王子達を庇護するさらなる意思表示にもなりうる。


「王国の予算に大穴を開けた豪者と称えるため、ってのはどうだ?」

「はっ。笑えない冗談ですよ。それともあなたが、王太子(・・・)となって工房を王国内に買い戻せと命じますか?」

それはライト工房の力を自らの王権の捕是とする行動と捉えられかねない。

「馬鹿を言うな、馬鹿を。……よし、無手で王女を護った忠義と武を称え、武道談義がしたいという名目でどうか」

「こんなときに都合良く武人面ぶじんづらを! 可能ですが、会うならばあなたからの褒美も必要でしょう」

「ふむ……それなら会ってから考えるか」

「はあ? そんな軽々しく。何でもかなえられませんから、事前に調整が必要なんですが!」

「すまぬなあ」

ゾロクの中では決定事項らしい。

「……まったく。はいはい、ではそのように!」

側近は文句を言いかけたが諦めたように、付き合いの長い友人でもある。結局はいつものことと頷いた。

「ありがとう。いつも助けて貰っている」

「はい、はい。任されました」

ぞんざいな言葉で応えるが、ゾロク王子が自分から誰かに会いたいと言うのは久しく無かったことだ。


「いつ王宮に呼び寄せられるかな」

「武人として、御妹君の恩人を呼び寄せて武道談義など。当然、こちらから訪問ですね」

男爵との会談に王族が自ら出向くなどありえないが、タルカはあえて言い切った。

「え、しかし場所は」

「もちろん相手が学園の生徒なのですから、学園です」

「それは……」

学園を卒業した王族が行事で訪問することもあるが、ゾロクは避けていた。

「卒業以来ですね。私も久しぶりの学園です。ゆっくり時間を取ります。では、さっそく」

「お、おい。それは」

「では、失礼します」

一礼すると止める間も無くそのまま部屋を出て行った。


「学園か……」

ゾロクは呟くと、胸元にしまっていたロケットを取り出して開けた。

そこには一人の少女の絵が修められていた。

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