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33 兄と弟

「偉大なるデクスター・ブレイズ王陛下。お召しにより、ジョルド・ブリヴァム公爵、参内いたしました」

「ご苦労。そこにかけてくれ」

片膝を付き慇懃に挨拶を述べたジョルドに、デクスター・ブレイズ王は言った。

「畏れ多くも臣が陛下と同列の席に着くなど」

一応は遠慮して見せるのがここでの礼儀だ。

「そういうのはいいんだ、ジョルド。ここは私室だ。家族として、ほらさっさと席についてくれ」

「はい、では。兄さん、いったい何事で?」

王弟ジョルド・ブリヴァム侯爵は「人物評見」スキルを持ち、王宮の人材登用や活用の相談を乗ることもあったが、結局は旧弊体質な宮廷政治が障害となって上手くいかないことも多かった。


「おまえの学園にいるジョウ・ライト男爵についてだ」

「はい。確かに我が学園の生徒ですが」

「ジョルド。とぼけるのはやめてくれ。お前が特に目をかけているのだろう? 学内での活動の範囲ではないぞ、あれは。秘密裏に環境を整えていたのはわかっているのだぞ」

「あはは。まあ、いくら王宮に人を入れても良い結果が得られませんからね。いっそ、自分のところでは自由にやろうかと」

「……それを言われると頭が痛い」

「頭痛の種はそれだけではないのでは?」

「ふう。まあそうだ。うちの王子達だが、ゾロクが王位を継承してくれればよいものを。デロスは軍事だけで政治に向いておらん。かといってケインでも無理であろう」

「でしょうね」

ジョルドは短く答える。彼らについては人物評見スキルで見て来たし、親族でもあるので多少の交流もある。それらを含めた判断を伝えてある。

「そしてだ。デロスがやらかしおった。末端とはいえコントロールできておらん。あれで王になったら、後盾だとかいう貴族共にいいようにされてしまうだろ」

「そうですね。あの子は軍備糧食などお膳立てした上で、将軍を率いるのは向いていますが、野望で足元が良く見えておりませんな」

「はっきりいってくれる。お前の学園内の出来事でもあったんだぞ」

「もちろん。度が過ぎれば始末する予定でした」

ジョルド・ブリヴァム公爵にとって学園は自分の領土でもある。学生同士の揉め事には関わらないが、度を超えた暴虐には対処してきた。だからこそ、今回も内密に処理などせず、王族のの誘拐未遂事件として扱った。


「なあ。学内の監視はしておるだろう? ジョウ・ライト男爵のことが知りたい」

「していますよ。ですが、学生の安全と自由な活動を守るためです。工房内部のことは知りません」

「……そうか。うーむ」

「何かありましたか?」

「やってくれおったわ。デロスどころか王国に大打撃だ」

「ほう。うちの生徒が、そのように大それたことを」

「嬉しそうに言うでない。本当に困ったことになったのだからな」

「私は学園長ですが、生徒の自主性を重んじてますのでね。直接干渉しません」

「わかっておる。だが、情報をくれるくらいはしてくれるだろう? スキルで見たことはあるだろうな」

「ええ、もちろん」

ジョルドは面接の時のことを含めて話した。優れた分析と優れた加工スキルを持ち「変革をもたらす者」と出たこと。学内での活動の様子などだ。


「変革をもたらす者か。まさしくその通りになったのか」

デクスター・ブレイズ王は、はぁと息を吐いた。

「何が起きました?」

「ライト工房の全権利権限と資産をレッツ協和国の支店に移しよった。しかも関連する業者間の取引支払い業務も全て行うと」

「……それはまた。ほう、なるほど。そうなると、一大事ですな。あはっはっは」

「笑い事ではないぞ! これまで上がって来た税収がふっとぶのだ。これから増えたであろう分までだ。しかもレッツ共和国はその金で強大になる」

「それはそれは大変でしょうな」

「大臣どもが泡拭いておるわ。ライト男爵は所領が無いからな、直接に王国府に収めてくれておったのだ」

「いきなり傾くような王国でもないでしょうが、今後は経済でも差が開く。ああ、軍もですな。ライト工房は武器は作ってないが、兵用の魔道具の納入も無くなる」

「まったく。やってくれおったわ」

「ですから、もっと体制を変えた方が良いといったではありませんか」

「わかっておる。おるのだが……」

一番悔やんでいるのは王自身なのがわかっているから、ジョルドはそれ以上は言わなかった。王自身が改革を進めるために奮闘しているのを知っているからだ。その効果がなかなか出ないことも。


「どうしますか。レッツ協和国の店を王国に売れと命じますか」

「そんなことをしたら、ブレイズ王国ではどこの商会も商業規模を縮小するだろう。商売を大きくしても買いたたかれて終わりとなれば、な」

「では、それもできませんね」

「なんとか良い方法はないか。お前のところの生徒なんだぞ」

「兄さん。レッツ共和国で良かったと言うべきでしょう。下手に手を出して敵対国に支店を作られて同じようにされたら?」

「う。考えたくもない」

結局二人の話し合いは続いたが、結論は出なかった。


「できることは次代のこと。ゾロクを王太子にするべきです」

「そうなのだが……」

「やはり、あのことが」

「うむ」

そして二人とも黙り込んでしまう。

しばらくして、王がはぽつりと言った。

「……兄弟仲良くしてくれればなあ」

「そうですね。私と兄さんのように」

「ふふ。そうだな」

二人が王子だった時代は王位継承問題も無く、穏やかだった。

兄と弟はしばし懐かしい子供時代の思い出を語り合うのだった。

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