30 遮二無二
ジョウは窓辺に立っていた。去って行ったリーゼリンの事を想いながら、体を拭くのも忘れて。
その音が響いた時、彼は扉を蹴破るように開けて雨の中を走り出した。外に出れば大きな早鐘のような音が断続的に響いている。音で分かる。あれは自分の作った一番最初の魔道具だ。
ジョウは同じものを作り友人達にも渡していたが、リーゼリンに献上したその防犯機能付き魔道具は初期型で音が違う。ライト工房へ来るようになって、定期点検と動作テストをしてあるので間違えようが無かった。
その音の鳴る方へ彼はいっさんに駆けた。
リーゼリンが居る。
赤い光が薄暗い雨の中明滅し、周囲にいる数名の男子生徒達を赤く照らしている。中にはまともに閃光を見たり、音でやられたのだろう、うずくまっている者もいる。
「リーゼ!」
ジョウは叫んだ。
早鐘の音が響いている中、彼女は振り返りジョウを見ると涙を溢れさせた。
「リーゼ!」
彼はもう一度名を呼ぶと彼女を抱きとめた。
「ああ、ジョウ!」
包み込んだ体が震えている。
「何があったのですか」
警報が鳴っているので顔を寄せあって伝える。
「デロス兄の一派が、私を派閥のパーティへ参加しろと……」
周囲の生徒達は目と耳をやられたまま、呻いたり口ぎたない言葉でののしっているようだ。
ジョウの心の中に助けに間に合った安堵と怒りが満ちた。
この異常を知らせる鐘の音で、学園の警備や工房の警備部長もやってくるだろう。
だが、あてずっぽうに魔法を放とうとしている者がいた。
ジョウはリーゼリンに危害を加える者に容赦などしなかった。怒りに燃えた目で襲撃者に向かって手を伸ばす。手の平を向けられていた者は、突然に気を失って地に伏した。別の者も同じく糸の切れた操り人形のように倒れる。
全てが終わると、ジョウは魔道具に部品をはめ込んで音と光を止めた。
「ジョウくん! リーゼリン殿下! 大丈夫?!」
ミーミシアが槍を手に駆けて来た。
王族警護の騎士と学園の警備員も後ろの方から走って来る。
「ああ。問題ないよ。リーゼリン殿下の、誘拐未遂だ」
「えっ。リーゼリン殿下を?!」
ミーミシアが、むううっと地に倒れている男子生徒達を睨んだ。
「ジョウ、あの……警備の者が来てしまうわ」
抱き合っているのはもう見えているだろう。
「離すつもりはありません。安全が確認できるまでこうしています」
既に賊の意識は無く、天槍のミーミシアが居るにも関わらず、ジョウは言い放った。