25 平穏な日々
慌ただしい一年目が過ぎて、俺は二年生になった。
チルノさんを経理に迎えてから、俺は随分と楽になった。
正式に契約を結んだので、わが工房の財務状況やらをチルノさんに明かしたら、絶句された後に説教された。もはや個人事業の範囲ではない。王国への税だけでも小国の年間税収並みらしい。よくこんな状態でやってきたものだと。
スターランス商会と契約すれば、ライト工房の経済規模はさらに大きくなる。給料をもっと上げるから何とかお願いしますと言ったら、これほどの事業に加わえるなんて商人冥利に尽きると闘志を燃やしていた。ありがたいことだ。
スターランス商会との契約は、チルノさんのお父さんが冬の休みに、学園まで来てくれて結んだ。
チルノさんの言っていた通り、三方良しの商売を商会の基本理念に置いている。商売人として厳しい部分もあるが、こちらも領主代行業務での経験がある。話し合いはスムーズだった。
契約が終わった後、王都を娘とデートするんだと言った時の父親の顔がとても良かった。
警備は天槍のミーミシアさんだ。天槍がうちのボディガードだという話が広がったので、よほどのスキル持ち以外はちょっかいをかけてこないだろう。
俺はようやくリーゼリン殿下と一緒に魔道具作りが出来た。
男子にありがちな勘違いでなければ、リーゼリン殿下は俺に気があると思う。そう思いたい。そうであって欲しい。
我ながら単純だが、二人で、もちろん侍女さんもいるから二人きりじゃないけど、魔道具製作をしている時の殿下は王女様ではなく、ごく普通の女の子で、それがすごくかわいい。時に「加工なのにずるい」と怒られるけど、それもまた良しだ。
先日はついに「リーゼ殿下」と呼ぶようにと言われて、後で俺はガッツポーズをした。
ぜひとも俺の勘違いで無いことを祈りたいが、元々の身分差が……
考えても仕方ないが、リーゼ殿下との時間は大切にしたい。
学園の授業はほとんどが免除になった。三年分の試験に合格したし、ライト工房で魔道具を作る方が王国民の暮らしの向上に役立つと言われて、いつ卒業しても良いと証書も貰った。既に学校からの支援金も要らなくなったが、学園に居た方が安全性も高いし、魔法関連の授業は受けている。
コロキニール先生の授業は、「今さら魔道具の授業など、出なくても良いのでは?」と他の人からは言われるのだけど、やっぱり魔道具の授業は楽しい。学友が間違えたり失敗をするのだけど、それが参考になる。自分ならこう改良しようとか、安全対策を考えるきっかけになる。
たまに先生の冒険譚が聞けるのも楽しいし、何よりリーゼリン殿下と一緒だから。
そんなわけで、あのちょび髭の授業以外は楽しく過ごせている。
何故かチルノさんを含めてクラスメイト達は仲が良い。ちょび髭は毎回、難解な式を解けと俺を当てる。
あんな性格だが魔道演算スキル持ちが全力で作り出す問題だ。どんどん長く複雑になる。
俺の分析で解ききることもあれば、解らないこともある。
解ければちょび髭はぐぬぬと悔し気に次回覚えていろと言う。俺が解けないとひっひっひと笑う。腹が立つので俺からも質問と称して問題を出しているが、さすがに魔道演算教師相手では分が悪い。分析スキルを全力で使って何とか勝敗を僅差に持ち込んでいる。
そんなわけで授業は俺とちょび髭の戦いだ。
他の生徒への授業は課題を出したら俺以外は実質自習だが、生徒間で身分も関係なく教え合っていて皆の仲も良いし、この授業は人気らしい。
それ以外は平穏な日々だ。
こういうスロースクールライフもいいなあ。
俺はそんなことをのんきに考えていた。
その事件が起こるまでは。