24 ゲベッグ家
それはゲベッグ家の無駄に豪華な食堂で、ゴレンとノーラとギーズがほとんどを余らせて捨ててしまうのに、やたら豪勢な昼食を取っている時に起った。
使用人が慌ててやって来て、ゴランに来客を告げたのだ。
「昼食を取っておる時に、いったい何事だ! 追い返せ!」
だが、その言葉が終わらないうちに身なりの良い男が、武装した男たちを連れて部屋に乗り込んで来た。
「な、なんだおまえは!」
「ゴレン・ケベッグ子爵殿。私は法務庁のダレン・フォロー執行官です。貴殿はリットー商会との借款契約を履行しなかったため、王国法に基づいて裁判が行われます。私たちと一緒にご同行願います。なお、その間は資産の凍結が執行されます」
ダレンと名乗る男は、自身の身元証と執行文の書かれた紙を提示して見せた。
「裁判?! 資産の凍結?! そんな馬鹿な!」
叫ぶゴラン。
ノーラはぽかんと口を開け、そこからぼとぼとと咀嚼物を落とした。
ギーズは良く分からず、きょろきょろと辺りをみまわしている。
「再三の督促を無視されたリットー商会が、法務庁へ訴え出ました。捜査の結果、王国法に基き届けも出された借款契約を一方的に踏み倒されたことが証明されました」
「リットー商会め! おまえも! 無礼者め、私は子爵だぞ!」
「そうだぞ! 無礼者は僕が剣の錆びにしてやる!」
父子が怒鳴るが、フォロー執行官は顔色一つ変えなかった。
「私の法務執行中の身分は、法務庁長官レイモンド・レグナード侯爵閣下の御身分と同様と見なされます。ご協力頂けますね?」
レイモンド・レグナード侯爵は血筋も貴族の位も権力も、ゲベッグより遥か上の存在だ。
「……きょ、協力させて頂くっ」
ゴランは青い顔でそう答えるのが精一杯だった。
ギーズは理解できていない様子で、二人の顔をキョロキョロと見ていた。
「ご協力ありがとうございます。では皆、資産凍結の手続きにかかれ!」
「資産凍結だとっ?! やめろっ!」
ゴランは思わずレイモンドに掴みかかったが、すぐさま取り押さられた。
フォロー執行官はゴランに掴まれて乱れた襟を正すと、床に這いつくばるゴランへ冷たく見据えて言った。
「法務執行中の私は、法務庁長官レイモンド・レグナード侯爵閣下の御身分と同様と申し上げたはず。子爵の身でレグナード法務長官に掴みかかったということですぞ」
「あっ……いや、そんなつもりはっ」
ゴランが慌てて弁明をする。
「貴族としての最低限の扱いは約束します。連行せよ!」
「おわぁぁぁぁ」
情け無い叫びを上げながら、ゴランは引っ立てられていった。
「ゴランさまぁぁぁ」
「パパぁぁっ」
ノーラとギーズはただ喚くだけだった。