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22 チルノ……さん?

うちの喫茶店に知らない女性とが居る。

いや違うな実質喫茶店みたいだけどここはライト工房、その喫茶スペースだ。そこは間違ってはいけない。そんな喫茶場所だからこそ、ごく僅かないつものメンバーしかいない筈なんだけど。誰かが連れて来たのかな。


「はじめまして。あなたはどなたですか? ここは魔道具研究所ライト工房であり、王族の方々もいらっしゃるので、安全や機密のため申し訳ないのですが、許可された人以外の入室はご遠慮いただいています」

いつもチルノ君が座っている椅子に可愛い女子生徒が座っている。可愛いんだけど、眼に力があって表情が生き生きとしている。


あれ?

この髪と瞳の色、顔立ちもどこかで見たような。

隣にはいつも通りのミーミシアさんがいる。チルノ君の席に座っているのに、ぜんぜん気にしてないな。友達?

ここはケイン殿下とリーゼリン殿下が来るから、警護の方々が敷地の中にも外にも居る。いつものメンバー以外なら入れないのだが?


いったいこの女子は誰だ。

そう思っていると、彼女は立ち上がりカーテシーをして名乗った。

「この姿では、はじめまして。レッツ共和国スターランス商会のチルノ・スターランスです。ライト君。ボクはジョウ君の申し出を受けたいです! ボクをライト工房で雇ってください!」


チルノくんは女子だったのか。

ボクっ子令嬢キター!

俺は心の中でそう叫ぶのが精いっぱいだった。



「まずは、ボクとボクの家とレッツ協和国の話をさせて下さい」

それからチルノさんは話してくれた。


チルノさんの実家は大商会を営んでいるが、レッツ共和国ではまだまだ女性が職人の親方や商会の長に成るのは難しいという。父親は好きなことを見つけて頑張れと言ってくれるが、祖父や母親は会社の利益になる相手に嫁ぐよう、留学先で良い縁があれば探しなさいと。それが嫌で男子生徒のような格好で学園に居たこと。


「だけど。気が付いたんだ。女性だから後継ぎに成れる成れないの前に、そもそもボクに跡を継ぐ実力が、今は(・・・)無いこと」

チルノさんは「今は」と強調した。


「ボクは、三方良しの、携わる人皆が幸せになるような商売の手伝いがしたい。自分の経理スキルで! だから、ここで働かせてください! 女性だからどうとかじゃなくて、ボク自身がやりたいことを叶えたい。留学が終われば国に戻る身ではライト工房の経営機密に携わることもできないから、ボクは学園を退学します。ここで働かせてください! お願いします!」

そういって彼女は深々と頭を下げた。


「チルノく、チルノさん。まずは顔を上げて、座って。もちろん、誘ったのは俺なので働いてもらいたいけど、学園を退学するというのはちょっと待って。考えさせて」

チルノさんにはミルクたっぷりのコーヒーを飲んで落ち着てもらう。


「ケイン殿下。質問があります」

「なんだい。ジョウ」

「レッツ共和国とスターランス商会のことは調べておいででしょうか? それと今後、ライト工房が及ぼす影響はどのくらいでしょうか」

王族である殿下の周囲に居る人間は、怪しいところが無いか調べてあるだろうと思っての質問だ。


「ふふ。レッツ共和国は、憲法の基で議会と法で結び付いた複数の自治州から成っているからね、うちよりも断然風通しが良い。女性がトップになるのはまだまだ難しいが、今後変わっていくだろう。スターランス商会は公式商人なので信用もある。商売も真っ当なものだ。そしてライト工房の影響だが、さらに膨らむだろうね。君は無尽蔵の魔石鉱脈のようなものだ」

「ありがとうございます」

王族の出入りするここに居られるのだから、調査済で問題無いとは思っていた。ケイン殿下の情報なら信用できる。


「ごめん。チルノさん。君が望むようなことは出来ない……」

「う、うん。そうだよね。ボクはまだ自分の経理スキルも使いこなせてないし……ううん。国に帰ってもここでのことを忘れない。お父さんに三方良しの商売のこと話すよ。自分なりに何かできることを探すから大丈夫!」

チルノさんは目に涙をためていたが笑って言った。


「ジョウ・ライト! 見損なったわ。このままチルノを黙って帰すなんて!」

リーゼリン殿下が声を上げた。

「いや、違うんですリーゼリン殿下」

「何が違うの。はっきりおっしゃい」

「俺はチルノさんに、ただ経理だけを見て欲しいんじゃないんです」

「……しっかりと説明して差し上げて」

「俺はチルノさんに経理の仕事以外に。スターランス商会を介して、チルノさんにレッツ共和国内でのライト工房の仕事もしてもらいたいんです」

「どういうことかしら?」

リーゼリン殿下は、眉根を寄せて首をかしげていたが、チルノさんの方を見た。

「ジョウ君?」

「チルノさん。まずは退学は無しだ。そしてスターランス商会に、ライト工房の魔道具の販売の独占特約を頼みたい」

「えっ?! 独占特約?」

「うん」


俺は構想を話した。

ライト工房の経済規模は個人工房としては今でもいびつなほど大きいが、さらに広がっていくだろう。既に俺とギルドで処理するのが限界なのに、これ以上となったら業務が破綻してしまう。

支店を作って、その国でもライセンス制の生産と販売をと思うが、今は人材も時間も無い。そこで他国の商会と特約店契約を結んで魔道具を流通販売して貰おうと思った。


「その特約店をチルノさんの実家の商会に頼みたいんだ。だけど、ゆくゆくはレッツ共和国に幾つかの支店も置きたい。それらの支店でライセンス制の魔道具の生産管理をしてもらって、流通販売は特約店に引き続きお願いする形で」

皆は首をかしげているが、ケイン殿下だけは納得したように頷いている。


「だから経理仕事だけじゃない。その計画もチルノさんにやって欲しいんだ」

「……ほ、本気なの?」

「もちろん。ビジネスとして、君の実家がレッツ共和国の商会であることも利用せて貰うのだし、経理仕事もしっかりとしてもらう。その上で、本気だよ」


さあ、どうする。

ここで怖気づくようなら、悪いけど――


「やります! 独占特約なんて、そんな凄い話を断ったらお父さんが悲しむもの! 何よりよりボクがその事業をやりたい! やらせて下さい! それと大事なことを言っておくけど!」

「なんだい?」

「ボクは全力で経営管理をします。だから、それをもとに三方良しの経営をしてよね! 絶対だよ、ジョウ君!」

「ああ、約束する。人々の暮らしを豊かにする。この世の果てまで、俺の魔道具で。覚悟はいいかい?」

「はいっ」

「では、よろしくチルノさん」

俺は彼女と握手する。前に教室で握手をした時に気が付くべきだった。確かに柔らかな女性の手だ。

「よ、よろしくお願い、します。わあぁぁぁ」

泣き出したチルノさんをミーミシアさんが支えている。

落ち着いたら契約について詳しく話そうと思ったら、予想外の出来事が起きた。


「ジョウくん! わたちもライト工房で働く!」

働きたいではなく断言である。

「え。ミーミシアさん? えっと。うちで働くの?」

「そうだった。ジョウ君、ミーシャも雇って下さい」

「うん。わたち、働く!」

そう言われても、ミーミシアさんに魔道具開発も経理も難しくないか。

「ミーシャには警備部の担当をしてもらうべきだと」

「警備担当?」

どういうことだろう。


「ジョウ、それは良い案だわ」

「リーゼリン殿下?」

「ライト工房は既に大きな影響力を持っていて、今よりももっと事業が進めば、さらに大きくなるのでしょう。あなたはもっと自身の安全を気を付けるべきだわ。そうでしょう、ケイン兄さま?」

「ああ。リーゼの言う通りだよ。学内の寮生活であり、ここには私とリーゼがいるから必然的に警備はされているが、学外に出る時もあるだろう。しっかりと警備体制を敷くべきだ」


「だから、わたち、警備部長になる!」

「え、ミーミシアさん?」

「わたち、部活動したかったら、警備部作ってその部長! 報酬はおやつ!」

ミーミシアさんは良い笑顔で胸を張った。

それは部活動と呼ぶのだろうか。


「ははは。ジョウ、いいではないか。天槍を警備に雇うなんて一国の王並だよ。ミーミシアはチルノと一緒にいるのだから、纏めて雇ってしまえばいいじゃないか」

確かに天槍が警備していると聞けば、かなりの抑止力になるだろうけど。

「俺にとって得すぎるんだけど……いいの?」

天槍が警備なんてお金を出したって雇えるものじゃない。


「うん! わたち、ジョウくんのおかげで、もっと強くなる練習できるようになったから、お礼にここで働く。報酬はおやついっぱいね!」

「もう食べ放題でいいよ。もちろんそれ以外にも報酬払うから。じゃあチルノさんミーミシアさん。よろしくお願いいたします。良し、契約について話そう!」

「はい。よろしくお願いいたします、ジョウ所長?」

「それは今まで通り、ジョウでいいさ」

「はい! あ、ミーシャはおやつ食べ過ぎはダメだよ」

「よろしくね! うん、晩御飯はちゃんと食べられるようする!」

ミーミシアさんの元気いっぱいな返事に、みんな笑ってしまった。

こうして俺は経理担当兼、他国での事業拡大計画主任と警備担当を得ることが出来た。


「ところでケイン殿下、リーゼリン殿下。お二人とも、チルノさんが女性だったこと。ご存じだったのですね」

リーゼリン殿下は俺の鈍さに呆れているのかな。表情が無い。

「あっはっは。ジョウ。君は魔道具作りは素晴らしいが、女性を見る目をもっと養いたまえよ」

ケイン殿下は俺が気が付かなかったことで大爆笑だ。笑い方は下品なほどだが、王族のなせる業なのか、品良く見えるのだった。



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