20 ライト工房へ勧誘しよう
「というわけなんだ。チルノ君、うちの経営管理担当をお願いしたいんだ。もちろん給料も出すよ。うちのコーヒーも飲み放題だ!」
「え、ボクが?! そんな、むりだよ」
「すごい。飲み放題だよ、チーちゃん!」
一緒に就いて来たミーミシアさんが喜んでるけど、良く考えたら既に飲み放題だった。
「経理のスキルを持ってるし信用できる。簡単だけど待遇条件を書いて来た。読んでみてくれないか」
「え。これ……こんなに良い条件で?!」
渡した書類に目を通して呟くチルノ君。
「チャンスだよ、チーちゃん!」
「でも……」
チルノ君は迷っているようだ。
「何か雇用に関して希望があれば聞くよ」
俺が問うとぶんぶんと首を振る。
「そんな、充分だよ。充分なんだけど……」
「無理には悪いかな。でも、考えてみてね」
俺はそう言って研究へ戻った。
ああ、でもまた書類仕事が……
「チーちゃん。どうしてお返事しなかったの?」
ミーシャは小首をかしげている。
「ミーシャ。ボク達は留学生だよ。卒業したら国に帰らなくちゃ」
「うん。わたち騎士団長になる!」
「ミーシャ。ライト工房はね、既にブレイズ王国にとってとても重要なんだ。これからもっとその価値は上がると思う。それなのに、工房の経営機密を知ったボクが共和国に戻るとなると揉めると思うんだ」
「え。そーなの?」
キョロキョロと見回すミーミシアにケインとリーゼリンが頷く。
「それにボクは父さんの商会を継げないから、家を出て行く身だよ。ボクがライト工房の
経理として関わったとしたら、政治的に利用しようとする人間が出て来ると思う」
きっと婚約の申し込みも、ライト工房との繋がりを求めてのことになるだろう。
「ジョウはそんなことは気にしないと思うぞ」
ケイン殿下はそう言った。
たぶんジョウ君ならばそうだろうとも思うけど。
「チーちゃん。ジョウくんのお手伝いするの、駄目なの?」
ミーシャは不思議そうだ。ミーシャなら女性であっても騎士団長になるという夢を叶えるだろう。
「ミーミシアさん。ライト工房の発明品や権利で動くお金は莫大だわ。経済への影響は今後、大陸全土に及ぶ存在になるかもしれないの」
リーゼリン殿下が何故か自慢げにミーシャへ説明する。
「ひや~~。すごいね!」
「だからこそ、チルノさんは下手に関われないと思っているのよね」
「はい」
レッツ共和国は憲法を基に法律と合議によって、各自治州が存在する共和国だ。貴族が残っている地区もあるけれど、共和国法を守らなければならない。
ブレイズ王国と比べて平等で開かれた国家だけれど、職人や商人の親方はまだまだ男性が成るものとされている。
「わたち、よくわからないけど。そんな凄いライト君にスカウトされた、ちーちゃんすごいよ!」
「……すごくないよ。たまたま授業が同じで」
「そんなことないよ。チーちゃんは勉強ができて、頑張りやさんで――」
「やめてよっ! 天槍持ちのミーシャにはわからないよ! いくらがんばったって、ボクは国に帰ったらっ」
思わず声を上げていた。
「チーちゃん……あの。あの。わたち……」
ミーシャが今にも泣きそうな目でボクを見ている。
「……ごめん。頭を冷やしてくる」
その目から逃げるように、ボクは外に出た。