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19 ライト工房が忙しすぎる……

「わたち。コーヒーにミルクを半分でも飲めるようになったよ!」

「すごいね、ミーシャ。ボクはもともと砂糖だけだから、大人だよね」

「さすがチーちゃん。大人だ!」

という和気あいあいとした大人談義があったり。


「アラトからモーグへの海路交易が好調か。となるとその先の国々の情勢はどうなるか。交易品と税収はどのくらい上がるのか資料を取り寄せて。ふむ、港の位置は……そうだ。造船技術を知るのも面白いな」

ビジネスマンみたいに、コーヒー片手に王都新聞を読んでいるケイン殿下がいて。

「ジョウ。バナ産の紅茶を取り寄せたの。分析で美味しい入れ方を見つけなさい」

当然のようにリーゼリン王女殿下が(のたま)う。


「いつでもどうぞって言ったけれども」

いつもの如く四人が居る。ケイン殿下とリーゼリン殿下の護衛人も離れて立って居る。勝手に使っていいとは言ったが、ほぼ毎日だ。


「ケイン殿下。リーゼリン殿下。生徒会はよろしいのですか」

元々、俺が生徒会に出て王族と絡まないようにってことだったのに。

「ああ。かまわない。慣例として王族は所属しているだけなんだ」

え。そうなの?!

あの面接で勝ち取ったものとはいったい……

「それに、ここは涼しくて過ごしやすいではないか」

確かに今は七ノ月で、外は暑くなってきているが、室内は涼しい。

俺の作った「空調魔道具(エアコン)」のお陰だ。


最初は前世のエアコンを自作しようと思ったのだが、挫折した。

原理が解らなかったのだ。

あれほど普通に使っていたのに、どういう仕組みで動いていたのか良く分からずに使っていた。知識に分析を試みたが、全く知らない知識には無力だった。

何か原理の欠片でも覚えていればと悔やんだが、分析も万能ではないと良く分かった。

でも、外は暑くなる。


そこで思いついた。

要は部屋が冷えればいい。氷の魔石を使って物を冷やしておく冷蔵庫は存在するし、風の魔石で風を発生させることもできる。高価なので貴族の御屋敷にしかないらしいけど。


調べたらやはり魔法って凄いと実感した。

火の魔力の強いダンジョンなどの攻略する時、周囲を冷やす魔法陣魔法を使っていた。ならばそれを魔道具として再現できないだろうか。

魔術式などを分析して改良した結果、シンプルな魔道具に落ち着いた。周囲を冷却する魔道具だ。水の魔石と冷やす範囲や温度をコントロールする魔術式を組んだ制御銘板で出来ている。


工夫したのは氷の魔石を火の魔石に交換すると、冬の暖房にも成る事。もちろん安全第一で設計した。要は魔道具の授業と同じで、今まであるものを小さく効率よく纏めただけで技術革新は無い。

気が引けるのでこの研究所内に個人で使おうと思っていたら、部屋の温度の快適さに気がついたケイン殿下に「これほどの温度の制御を魔道具で行うのは高度な技術だよ。制作費用もかなり抑えられるのではないか。素晴らしいよ。ぜひギルドに登録した方が良い」と強く言われた。コロキニール先生の言葉もあったので、魔術師ギルド経由で魔道具の登録をした。


あの親切な受付のケイトさんは、俺が学園に入学していたことに驚き喜んでくれた。その上で魔道具登録をすると知って、またまた驚き喜んでくれた。

手続はスムーズだった。

もちろん手数料はギルドが取るが、生産する魔道具工房との契約や元となった原理の権利者への使用料金の支払い、無断使用の罰則、税金なども明瞭だ。こんなに簡単でいいのかと思うくらいで、むしろ開発工房名とロゴを決める方が大変だったくらい。

ファンタジー世界では、剽窃(ひょうせつ)への処罰や特許権って無いもんだと思っていたのでびっくりしていたら、ケイトさん曰く「以前はこうじゃなかったのよねえ」と言われた。


なんでも、他国では新しい魔法や魔道具、技術開発の権利を保護することで奨励し、生活を豊かにして国力を増していくのに対して、ブレイズ王国は既得権益を護ろうとする者達が邪魔をして、閉鎖的停滞を招いていたらしい。技術開発の権利を守る国際条約に加盟することで、ようやく環境が整った。


「でもねえ、まだまだ変わらないのよね。あのいやーな王立魔術師ギルドもあるし」

そんなケイトさんにとって、俺の届け出は嬉しいことだったそうだ。

「第一号の設置がうちのギルドなんて素敵! 本当にありがとう! ああ、快適だわ~」

喜んでもらえてこちらも嬉しい限りだ。収入もどんと増えた。これからも頑張ろうという気分になって、あれこれ作った。


調子に乗って原理の解明できる物、自分が欲しかった物をいろいろ作った。

原理が分からなくても魔法と魔石で作れる物。ジューサーミキサーも作ったし、コーヒーメーカーも、ドライヤーや洗濯機も乾燥機も作った。

小さく精密な部品の試作設計に苦労はしたが、それでもギルド経由で契約した魔道具工房も努力を重ねてくれて、何とかなってしまった。魔石と魔法がある世界ならではだろう。玩具的な物も作った。文房具も。記憶のあるもので再現できそうなものは次々と、商品化した。使うと驚かれて評判になったのは、温水便座だった。


コロキニール先生は魔石から新しい魔道具が生み出されることを本当に喜んでくれた。

ケイン殿下は経済に関して詳しいので、アドバイスをくれる。

意外だったのは、リーゼリン殿下が魔石内部に魔道回路を巡らす技術を申請するようにと強く言ってきたことだ。

あれは献上した魔道具一号にしか使っていない。あの技術は量産向きではなかったから今のところ世界で一個だ。そう説明したところ。

「そ、そうなのね。一個だけ。それはうれし……あっ。で、でも。技術登録はしておくべきだわ!……あくまで技術的な評価が高いからであって。すごくきれいで素敵だったから、じゃないんだから!」

これがツンデレか! と思った。言っても理解もされないだろうけど。

「ありがとうございます。それじゃ魔導回路技術として登録します」

「ええ。そうしなさい」

それで満足してくれたかと思いきや、話は終わらなかった。


「そもそも私は錬金術スキルを持っているのに! あなただけ魔石にあんな綺麗な、ずるいわ!」

さすが美少女は睨む顔も可愛いものだと感心するが、ふと思いついた。王女殿下は錬金術スキルを持っている。俺の加工よりも高度なスキルだ。どんな違いがあるのか興味があった。

「じゃあ、一緒にやってみますか。上位スキルの錬金術を見せてもらえば、俺の加工スキルの参考になるかもしれないし」

「えっ。いいの?!」

「はい。少し先になりますが、幾つか開発中の魔道具が終わりましたら。お教えしますので」

リーゼリン殿下はぱっと顔を輝かせたが、自ら高く評価した技術を無償で教わるのは良くないと思ったのだろう。

「そ、それは……ありがとう。でも、価値のある技術を一方的に教えてもらうのはよくないわ。それに、私にはそれに見合う対価が渡せない」

リーゼリン殿下は残念そうに言って、首を振った。

「……では、恐れ多いですけど。その代わりに魔道具製作の助手になって頂けませんか。試してみたいことが沢山あるのですが、どうにも忙しすぎて。錬金術スキルをお持ちの殿下にしか頼めません。魔道具作りを手伝っていただくと、とても助かるのです」

「え……そ、そうなのね。でも。いいのかしら」

「はい。ぜひとも」

「わかりましたわ! では仕方なく。そうこれは対価としてお手伝いするのですからね」

言いながらも顔がほころんでいる。

「はい。よろしくお願いします」

「ちゃんと技術登録をしなさい。その後に、助手として技術の守秘契約をしてからよ……ふふ。私がこの魔道具喫茶店の助手第一号ね!」

微妙に違ってるんですが。

嬉しそうなので良しとした。



それからも俺の魔道具研究所は続々と魔道具を発表した。

リーゼリン殿下に献上したあの魔道具の技術は「魔石及び魔水晶内における多重積層魔導回路」として登録したが、再現が難しく検証に時間をくれと言われてしまった。リーゼリン殿下はあれほど高度なのだから仕方ないと言ってくれたが。

その他は順調というよりも順調すぎて怖いくらいだ。驚いたことにあっという間に王国以外にも、俺の「魔道具研究所ライト工房」の魔道具が広まった。


ケイン殿下のアドバイスで、魔道具や技術に関してはギルドに登録して、製造はライセンス制にした。ギルド経由で信用できる工房に委託製造。魔道具に組み込んだ元の技術料や諸経費諸々を引いても、利益が恐ろしいほどに大きくなっている。


けれど新しい魔法理論や魔道具を生み出すのは難しいと実感する。

俺のはどれも前世の知識かこの世界の魔道原理に頼りっきりで申し訳無さを感じるが、魔道具のライセンス契約申し込みはどんどん増えて行き、税金の支払いやら経理仕事も発生する。魔道具を作れば作るほど他の仕事が増えて、魔道具制作の時間が減るとは。これではあの魔導回路技術が登録されても、時間が取れない。


どうしたものかと思ったが、すぐそこにとてもよい人材がいるではないか!

チルノ君だ。

研究所が学内に在るため、学園に出入出来る人の方がいい。

そして彼のスキルは「経営管理」。

これを逃す手はないぜ。


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