11 ゲベッグ家
「賑わっとるのう。うちとは大違いだ」
ゴラン・ゲベッグはノーラとギーズを連れて、リンザー侯爵家の領都リンザーに来ていた。
馬車の窓から見る町は、人出が多く賑わっている。
「ゴランさまぁ。たくさんお買物したい!」
「パパ! 僕も新しい剣が欲しいよ」
「わはは。そうだな。いいぞ。金はたくさんある」
執事のタルボットが急に職を辞して居なくなって慌てたが、あの金が使えるようになったので返って楽に支度が出来た。
自分は領主なのだ。贅沢をして経済を回さなければならない。まずは高級旅館に宿泊しディナーだな。そして数日後にはリンザー侯爵との面会だ。
「ぐっふっふ」
継嗣として「剣術」スキル持ちの実子ギーズを紹介する。養子だったジョージの廃嫡理由は、外れスキルを二つも引いたことで充分だ。色々とうるさかった執事も居なくなり、商人からの借金など上手くあしらえばいい。
ゴランは自分に都合の良いゲベッグ家の未来を思い描いてご満悦だった。
「それでゲベッグ家の継嗣は、ギーズ君になったというわけだね」
「はい、リンザー侯爵様。ぐふふ。今後ともよろしくお願いいたします」
上機嫌のゴランと対称的に、リンザー侯爵は淡々としている。
「あんな外れスキルを二つ持っている者よりも、剣術持ちのギーズちゃんの方が領主に向いておりますわ」
着飾ったギーズとノーラが媚を売るように、リンザー侯爵に笑みを向ける。
「しかしだな。スキルには稀に相乗効果というのがあるというのを聞いてね。分析と加工は確かに外れスキルではあるが、そのあたりを確かめたかったのだが」
「相乗効果、とは。なんでございますか」
「相乗効果とは互いに影響を及ぼして高い効果をもたらすことだ。ダブルスキルホルダーが珍しいので知られておらんし、滅多にないとされているがね。一度話を聞いてみたかったのだ」
「ほう。そんなことが。しかしリンザー侯爵様。あの外れ二つでは、何事も成せますまいて。後継ぎは剣士スキルを持つギーズでございます。ぐっはっは」
「そうです、リンザー侯爵様。父上と僕のダブル剣術持ちの方が役に立ちます!」
ギーズもここぞとばかりに自らを売り込んだ。
「ダブル剣術ホルダー親子か。ふむ。確かに有事の時を考えれば、領主が戦闘スキル持ちの方が良いか」
「ぐふふ。そういうことでございます」
リンザー侯爵が納得したようなので、ゴランは安堵した。
「ところで、領地経営と財政の方はどうなのだね」
「はあ。経営と財政でございますか」
リンザー侯爵がゲベッグ家の継承に異を唱えなかったことでゴラン達は喜んでいたが、その問いに首を傾げた。
「ジョージ領主代行が経済の立て直しを主導していたのではないのか? スキルは置くとしても、幼い頃から先代と共に働き、かなり優秀だと聞いている。成人祝いという名目で招待したが、会って話を聞きたかったのだ」
ジョウは魔石鉱山の開発をリットー商会と進めていたが、リンザー侯爵領に近い山地のため、後で揉めないように書面で確認をしている。
王都からゲベッグ領の魔石鉱山への交通はリンザー侯爵領を経由する予定なので、鉱山の開発状況によってはリンザー侯爵領内の道や宿場の整備なども提言していた。
人と物と金が動けば利益が出る。
リンザー侯爵領にとっても、良い話である。
「ふぇっ、いや、あやつはあくまでわしの手伝いでありまして。わしが実行しておりました!」
「そうなのか。あの年齢で、ずいぶんと優秀だと思っていたのだが」
「いえいえいえ。あやつはあくまで代行。むしろこのギーズの方が優れております!」
「彼はどうしているのだ。スキルが外れでも官僚としてならば良いのではないかね」
「いえ、やつは、そう、やつは性根が悪く浪費癖も有り使い物になりませぬ! それにとっくにゲベッグから出て行きました! 行く先もわかりませぬ!」
ジョージ領主代行については、どうも話が違う。
しかし、リンザー侯爵は近隣の纏め役ではあるとはいえ、理由も無く他家の継承に過度の干渉も出来ない。しかも当人がもう居ないというのだ。
「わかった。今後とも王国西部貴族の一員として、しっかり励んでくれたまえ」
「おお。ありがとうございます!」
「僕もがんばります!」
ゴラン一家は上機嫌で散々散財してから、ゲベッグ領へ戻って行った。