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10 ちょび髭の授業

「この場合の魔道演算式はこうである」

教壇ではケイゼル・ラートック先生が授業をしている。

面接の時のあの嫌なちょび髭だ。

スキルは「魔導演算」。数学系のスキルで高度な魔法陣や魔法式の計算能力が高くなる。

魔道具に組み込む魔法式を作るには計算式も必要だ。性格は嫌な奴だが、授業は受けないと。


「よって、ここの式はこうなる。次の定数がこうなる。この式が……」

魔道具作りには必要かと思って履修したが、授業は教科書の数式を読むだけで退屈だ。ケイン殿下もリーゼリン殿下もいない。


魔道具作りは大きく三つの構成からなる。

魔石等の魔力源。

効果発生や制御の魔法を組み込んだ魔導回路。

筐体や駆動部、部品など。

例えば、次回の魔道具の授業で作成する灯火魔道具では、光を発生させる光石、それらを制御する魔導回路の書かれた銘板、それらを収めておく入物といった感じだ。


「フォーク君。この数式の答はわかるかね」

黒板の数式を指し示す。

「はい、先生」

当てられた生徒が黒板に書かれた数式の解を答えた。

「正解だ。すばらしい!」

教科書に載ってる例題で答えも書いてある。

褒めて伸ばす方針なのか。


「そこの生徒。この数式を解け」

一人を指さしてから、黒板のもう一つの数式を叩いて示した。

「は、はっ。えっ」

立ち上がるが、慌てていて答えられない。

「どうした。早く答えろ」

意地が悪い。あの魔導式は教科書の例題より難しい。途中で魔道変数を入れるが、その変数は別に式が必要だ。


「ふん。もういい。おまえのスキルはなんだ?」

「け、経営管理です」

「経理スキルか! それなのに計算もできないとは、役に立たんな。そんなことでよく我が学園に入れたものだ。ゲーメ伯爵令嬢、おわかりになりますか?」

「はい。ラートック先生」

当てられた女子生徒には事前に答えを教えられてるようだ。別式のことには触れずに解だけを答えた。

「すばらしい! さすがはゲーメ伯爵家のご令嬢だ」


その後も何人か生徒を当てた。

なんとわかりやすい贔屓だ。丁寧に君や令嬢呼びが、ラートック家の派閥に属する子弟や配慮すべき生徒だろう。簡単な問に答えれば褒める。呼捨てなのが下級貴族や平民の子で、答えられて当たり前、間違えば(けな)す。


ケイゼル・ラートックが長々と黒板に数式を書いていった。

一年生の教科書に載っていないものを。

「さて。ジョウ・ライト。この問題を解け。簡単な・・・炎熱石の制御魔導式だ。まあ、お前の「分析」では無理だろうがな」

馬鹿にした顔で俺を指名する。


「答えは出ません」

俺は即答した。

「ハッ! できないだと。やはり筆記の最高得点者というのは間違いではないかね」

嫌らしい笑みで喜んでいるラートックに俺は言った。

「式が間違ってます。八行目から一五行目、別の魔導式の定数を三六エルベルとしています。それでは全体の式が成り立たちません。そこは三二エルベルが入るはず。そうすると答えは八サイオンです」


教室がしーんとなった。

面接の時もこんな風だったな、と俺は思った。


「な、なんだとっ。貴様、式が間違っているなどっ」

怒鳴るラートック先生。

「あなた。答は八サイオンであっているけど。ラートック先生は魔導演算スキルをお持ちなのですから、間違えるはずがないでしょう?」

女生徒の一人が言った。

何言ってんだか。

間違った式で答えが合うなんて、起こり得ない。


「では、経理スキルの君。ちょっと手伝ってくれないか。多重魔導式だけど、それぞれ分けて解いていけばいいから、八行目から一五行目を計算してくれないか」

初めに当てられて堪えられずへこんでいた経理スキル持ちの生徒に頼む。

「えっ、ボクが」

「頼むよ。落ち着いて。ほら、その部分を経理仕事と思ってスキルを使えばいい」

ゲベッグ家にいた頃。経理スキル持ちの商人とも付き合いがあったから、どういうスキルなのかは知っている。落ち着いてやれば計算できる。

「うん、やってみる……答えは。あっ、ほんとだ。そこは三二だ」

「ありがとう」

俺が礼をいうとその生徒は、嬉しそうに頷いた。


「そんな馬鹿な……この式はっ」

数式を目で追っていたラートックが、突然青い顔をして言葉を失った。

魔導演算スキルで数式を解いて間違いに気がついたのだろう。

教室がざわめく。

恐らく贔屓する生徒には前もって問題の数式と答えを渡していたが、数式を黒板に書くときに間違ったのだ。


「ラートック先生。間違った式で、答えが正しいとはどういうことでしょうか?」

「ぐ……ぬぬ……それは……それは……」

俺の問にラートックは脂汗を流し、身悶えせんばかりに困っている。

「それは?」

「ぐ……それは……」

その時、チャイムが鳴った。

「今日はここまでだ!」

ラートックは脱兎の如く教室を出て行った。


「ジョウ・ライト君。(きみ)って凄いんだね」

問題を答えられず悔しい思いをした生徒達に、俺は囲まれていた。その中の会計スキルで検算をしてくれた少年が、嬉しそうに話しかけて来る。

「たまたまさ。計算してくれてありがとう」

「そんな、こちらこそありがとう! よく間違いや答えがわかったね」

「俺のスキルは分析だから」

前世では算盤を習った記憶があるし、簡単なプログラミングの知識もある。入学試験もそうだったが、数式の分析は得意だ。


「え、分析ってそんなスキルじゃないよね?」

そうなの?

見れば周りの生徒も首を傾げている。

「まあ、とにかく、あのちょび髭に吠え面かかせてやったぜ」

俺の言葉に皆が同意して盛り上がる。

「あらためて、俺はジョウ・ライト。よろしく」

まずは会計スキルの子の手を取って握手する。

柔らかくて小さな手だなあ。

「わ、わわわ……あうぅぅっ、ボクはチルノっ。よろしくっおねがいしますっ」

緊張しやすいタイプなのかな。

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