1 ダブル外れスキルホルダー
「ジョージ・ゲベッグ殿のスキルは……ああっ、神は二つのスキルをお授けになられました……」
神官が告げると聖堂に居並ぶ人々は、建物が揺れるほどどよめいた。
「ほんとに?! 普通は一つなのに二つ?!」
「スキルの二つ持ち……ダブルスキルホルダーだわ。ここ数十年出ていないわよ」
「ゲベッグ子爵家の未来は安泰だ!」
人々は口々に言い合った。
新しいダブルスキルホルダーの誕生に皆が興奮していた。
今日、ゲベッグ子爵の町ゲベッグの聖堂では「天与の儀」が行われていた。
その年に一三歳になった子供が集められ、神々より授けられた「スキル」を明らかにする日だ。授かったスキルが貴重であれば、レアスキルホルダーとして祝福される。コモンと呼ばれる汎用スキルでも、役に立つものなら良い。
だが、もしも「外れ」とよばれる役に立たないスキルを授かれば……
「ねえっ、ゴレンさま。ダブルスキルって。これってどうなるの!」
「お、落ち着くのだ。ノーラ」
そう言いながらも義母ノーラと同じく、義父ゴレン・ケベッグ子爵も動揺しているのが見えた。
俺ジョージ・ゲベッグは養子で、二人は実子のギーズを子爵家の後継ぎにしたいからだ。
それには俺がギーズより劣るスキルを得たことを理由に廃嫡するのが一番で、俺が良いスキルを得たり、稀なダブルスキルホルダーでは拙いのだ。
「神官様。私は本当にダブルスキルホルダーなのですか?」
俺の言葉に神官様は頷く。
困ったな。俺はコモンスキルを一つ貰えれば良かったのに。
「すみません。返品はできないでしょうか。いくらかお包みいたしますが……」
小さな声で聞いてみる。
「それはできぬ。すでに授けられておるのだから」
やっぱり、だめですか。そうですよね。既に「天与の儀」を引いちゃってるわけだし。今さら無理ですよね。
「ん。そうか……我がゲベッグ家からダブルスキルホルダーが出たということは!」
騒ぐ周りの人々の声から、ゴレンが気がついたようだ。
「ゴレンさま?」
「ぐふふ。大丈夫だ。つまりあやつに価値が出たということ」
ゴランがにやにやと笑みを浮かべている。
ダブルスキルホルダーともなればケベック子爵家の名は広まり、格上の貴族家からの縁談も有りえる。廃嫡するより強引に婿にでも出して金とコネを得るとか、そんな皮算用をしているのだろう。
「静まりなされい! スキルの名を告げる!」
神官の言葉に静寂が戻る。
俺は心の中で祈った。どうか低位のスキルが二つでありますように、と。
そうなればゴレンが「そんなスキルでは次期当主に相応しくない!」と予定通り廃嫡になるだろうから。
期待と緊張に満ちた静けさの中、告げられたのは。
「ジョージ・ゲベッグ殿に授けられたスキルは分析と加工。大いなる神々に感謝を」
沈黙が続いたが、誰かが呟いた。
「分析と加工……二つとも外れじゃん」
「分析」は対象を調べ分析するスキルだが、分析方法や結果を読み解くには深い知識と経験が要ると言われている。ほとんどの者が使いこなせずに終わるという。これもまた鑑定系スキルの中で最下位の外れスキルだ。
「加工」も錬金系スキルの最下位だ。物質を加工できるのだが正確なイメージとコントロールが必要で、使いこなすのが難しい。例えばスプーン一つ作るのにも鍛冶師が作った方が上手に早く作れるという。雛形のある部品作りや簡単な表面仕上げなど、下働き程度にしかなれない外れスキルだ。
「ダブル外れスキルホルダーだ!」
誰かが言ったこの言葉で人々は聖堂が揺れるほど、どっと笑った。
ゲベッグ家の名は広まるだろう。ダブル外れスキルホルダーを出した家として。
そして俺は安堵していた。外れスキル引いて喜ぶなんておかしいから、顔には出さないけど。
「は、恥をかかせおって! ダブル外れスキルホルダーだと?! き、貴様など廃嫡だ! ゲベッグ家から出て行け! 二度と顔を見せるな!」
大金と上位貴族とのコネがご破算になったゴレンが、怒りで顔を真っ赤にして怒鳴る。
いいじゃないか、あんたの当初の目論見通りになったんだ。その横のノーラは満面の笑みなのはいらっとするけど。
こうして俺、ジョージ・ゲベッグは廃嫡されてゲベッグ家から追放されることとなった。
悲壮な顔を作りながらも、内心では喜びでいっぱいだった。