義妹からのお弁当は、最低で最高の味
俺には最近できた義妹がいる。
父が再婚し、継母とともにうちへ引っ越して来たのだ。まさか高校生にもなって一人っ子を卒業するとは思わなかった。
義妹は俺より一歳下。学校が同じになったので、これからは後輩にもなる。
そんな彼女は初めての登校日、朝から早起きして何やらドタバタしていた。
身支度に手間取っているのだろうか。
そう思いながら、寝ぼけ眼をこすりつつ台所に行くと……なんとそこには義妹の姿が。
「お兄ちゃんっ、今ダメ! 来ないで!」
ぷぅ、と頬を膨らませながら怒られてしまった。
ムカつくことに可愛いから困る。
間に合ったからいいものの、待たされたせいでなかなか朝食にありつけず、危うく遅刻するところだった。
だというのに義妹はニヤついていた。なんなんだ。
――昼。
学食に向かう途中、なぜか義妹に呼び止められた。
「いたいた。お兄ちゃん!」
「……なんだよ」
「今日は学食はナシ! いいから一緒に来て?」
グイグイ引っ張られて連れて行かれた先は、校庭のベンチ。
そこで並んで座らされた俺は、義妹からあるものを渡される。
お弁当だった。
「朝からこれを作ってたのか」
ため息がこぼれた。
お弁当なんて目にするのは久々――交通事故で実の母が亡くなって以来だった。
最後に食べた時の美味しさは、ずいぶん前のことなのに鮮明に思い出せる。
母の死後は父親に作ってもらったり、自分で作ったりしたがどれも砂を噛むようで、食べる気にはなれなかった。
「可愛い義妹が作った愛妹弁当、どうぞ!」
「いらない」
「なんで!? 学食ばっかりじゃなくて美味しいものを食べさせてあげたいから、頑張って作ったんだよ」
白米に茶色の具材がゴロゴロ乗せられた、妙な匂いのするお弁当を『愛妹弁当』と言われましても。
仕方ないので口に運んでみたが……。
「不味い」
「ひどっ!!」
不味かった。
不味かったのだ。
どうせ味を感じられないだろうと思っていたのに。
「不味いって言った割に猛烈な勢いで食べるじゃん!! まさかツンデレか? また明日も作ってあげてもいいけど? ……ってか泣いてる!?」
「不味過ぎたんだよ。こんな最低で、最高の味は初めてだ」
なぜ味がしたのかはわからない。
わからないが、きっと、お弁当の中にちゃんと愛が詰まっていたからだと思う。
家族になる俺への、義妹からの親愛を受け取ったような気がした。
それから毎日毎日食べることになる愛妹弁当。
お弁当を通じて仲が深まり、それが愛妻弁当になるのは十年後の話。