二人の出会い ②
今回の出張先は、電車で3時間ほどかかる。
結構離れているが、雅史の友達も多く住んでいて、何度も訪れているところだったので、まったく抵抗はなかった。
見慣れた風景が流れて行くのを眺めながら、ここしばらくの自分の不運を思い返してみた。
きっと、たまたま、そういう時期が重なったのだろう。
いいことも続かないが、悪いこともそう長くは続かない。
ということは、最近の感じから言ったら、もう、底だということになる。
底にいるなら、あとは上がるだけだ。
なら、話は早い。
出張くらいで運勢が変わるとは思えないが、自分のいる場所を変えると、多少は流れが変わるということもあるだろう。
それならば、今日の研修が終わったら、友達に連絡して飲みに行くのも悪くないな。
そう思うと、幾分気持ちが軽くなった。
数回の乗換えをし、目的地に着いた。
乗換えが思いのほか上手く行ったので、少し早めに着いた。
これなら余裕で研修場所までたどり着けるだろう。
少し様子は変わっているものの、だいたいが見覚えのある風景だった。
ちょうど、出勤するサラリーマンが途切れた頃で、歩道は人もまばらだった。
女性のグループが、少し前をにぎやかに歩いている。
その中の一人が、突然、しゃがんだ。
一緒にいた女性達が口々に名前を呼んで、心配そうに顔を覗き込んでいた。
雅史も一瞬気になったが、まぁ、あれだけ連れがいれば、なんとかなるだろう、と通り過ぎようとした時だった。
横目でその一群をちらっと見た瞬間、しゃがみこんだ女性がとても気になった。
知り合いでもなんでもないが、青い顔をして、うつむいている横顔に、なんともいえない思いがよぎったのだ。
この人を助けなくては。
そう思うのとほぼ同時に、声を掛けていた。
「どうなさいましたか?大丈夫ですか?」
瞬時に全員が振り向く。
一瞬たじろいだが、気を取り直して輪の中へ入って具合の悪そうな女性の様子を見た。
「すいません、ちょっと、気分が・・・」
小さくささやくように言った言葉に、喋れるなら大丈夫だな、と思いながら、どこか座れるところは、と、女性たちに聞いた。
少し離れたところにベンチがあると、一人が思い出し、案内すると言って、歩き出した。
雅史は女性を抱え、無理をさせないように移動させた。
貧血だろうと思われたので、少し服を緩めるように彼女の友達に言い、気分がよくなるまでここで休んでいるように、と付け加えた。
早く行かなくては、研修に遅れてしまう。
「それでは急ぎますので」
そう言ってその場を離れようとしたとき、友達の一人が、慌てて声を掛けた。
「あの、すいません、お名前は・・・」
無視して行こうとしたが、さらに言われた。
「お礼がしたいので、名刺か何か、いただけませんか」
振り向くと、気分が悪いと言った女性が言ったのだ。
「いえ、それには及びませんよ」
そういい残して去ろうとしたら、別の女性に、
「いえ、そういうわけにもいきませんから。どうぞ、お願いします」
と食い下がられて、仕方なく、一枚の名刺を渡した。
「では、ほんとうに急ぎますので」
そう言って、足早にその場を立ち去った。