二人の出会い ①
その時、雅史は何をやっても上手くいかないことに苛立ちをぶつけるところもなく、
その日がただ過ぎていくのをジッと耐えているような毎日だった。
なぜ、自分ばかり、面白くないのだろう。
周りの人間を羨むほど、感情的に生きているわけではないが、
それでも、自分ひとりですべての嫌なことを抱え込んでいるような状況に、
どうしても我慢できなかった。
神経質な性格が、災いしているのかもしれない。
正義感が強く、いつも正しいと思うことを貫いていくことに、反発されることも多い。
だが、それを曲げてまで迎合するほど、お人よしではないのだ。
合わないやつは徹底的に無視をする。
それでも別にかまわないと思っているし、気にする必要もないと思っているのだが、
その性格ゆえに、周りと対立することも多かった。
だからといって、まったくの冷酷非道な人間ではなく、
道を踏み外しかけている人を見ると、
とにかく助けたい一心で、世話を焼くところもある。
それでも自分のこととなると、やはり、上手くいかないことはたくさん出てくるものだ。
誘われるままに、仲間と飲みに出かけたり、遊びに行くこともあるのだが、
それが根本的な解決になっていないことも、すぐに気付いてしまった。
心の隙間を埋めるだけの出来事。
寂しいと思う心を、どうにかして埋めたいと願いながら、
何人かの女性とも知り合う機会を作ってもらい、デートしたりもしたが、
どれもこれも、全く違う。
自分の心が休まる人は、もう、いないのかもしれない。
絶望に近い気持ちと、歯車が噛みあわない苛立ちとが混ざって、
面白くない毎日が続いていたのだ。
このままだと、ずっと、つまんないまま死んで行くんだな。
そんな風に思いながら。
その日は、出張に行くために、支度をしていた。
誰かが行かなくてはいけないが、みんな乗り気ではない。
「研修」などという名目での出張はみんな嫌がる。
だいたい、行ったあとのレポートなどというめんどくさいことが嫌だということくらい、
わかっているのだ。
普通なら、自分より下の者が行くべきだろう。
ただ、いない間に残された仕事を、一日で片付けることができるのは、
自分くらいなものだと思ったし、
何か流れを変えるためにも違う場所へ行くのもいいかもしれないと考え、
上司からの申し出を快く引き受けたのだ。
一度決めたら、行動は早い。
一人暮らしが長いせいもあり、旅の支度もすんなり済ませ、
早朝に出かける明日に備えて、早々に床に就いた。
自分の流れが大きく変わるなどと、本気で思っているわけではない。
だけど、もしかしたら、ほんの少しでも、ズレが戻れば。
そんな気持ちがあるのも確かだ。