表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

彼女の街 ③

10分ほどで目的地に着いた。


閑静な住宅街である。


少し奥まった一角に、順子の家はあった。



翔太が車を止め、どうぞ、と促してくれたので、先に降りる。


家を眺めながら、自分が見ることはないだろうと思われた家に、また、不思議な感覚が襲ってきた。


ここに、順子は住んでいた。


笑い、泣き、怒り・・・。


自分の知らない順子を全部見てきた家だ。


そのうちの、どれくらいの時間を、自分への想いに浸ってくれていたのだろう。



物を作るのが好きだった順子らしく、あちこちに手作りのものを飾っている。


いつも、何かを作っていたい、とうれしそうに話す順子を思い出して、懐かしい気分が湧いてきた。


「どうぞ、入ってください」


玄関の扉を開けると、線香の香りがまだ新しかった。


それは、ここの住人が、つい最近、旅立ったことを物語っている。



翔太に言われるまま、中へ入り、玄関からすぐの和室に入ると、祭壇が組まれている。


女性が一人、いらっしゃいませ、と奥から出てきて、挨拶をした。娘の綾乃だとすぐにわかった。


どこか雰囲気が、順子に似ている。


祭壇には、笑顔の写真が飾られてあった。


順子の笑顔。


相変わらず笑っていたのだな、と懐かしくなる。


あの頃よりも少し老けたようだったが、それでも変わらず笑う順子の写真をじっと見ていた。


「あの、どうぞ、座ってください」


薦められるまま、座布団にすわり、ずっと黙っていたが、ふと思い出して、雅史はやっと口を開いた。


「あの・・・お参りさせてもらっていいですか」


「はい、是非。母も喜びます」


手を合わせ、顔を上げたとき、目に飛び込んできた、二つの白い小さな入れ物。


このうちの1つを、俺に持って帰ってくれということなのだな、と雅史は思った。


まだ、腹が決まったわけではないが、来る前よりは持って帰りたいという気持ちが強くなっている。


それは、自分ではよくわからなかったけれど・・・、きっと、順子を愛していたということなのかもしれない。


いや、今も、ずっと、愛しているということなのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ