彼女の街 ②
「あの、中山さん・・・ですか?」
恐る恐る訪ねてきた青年に、
「そうです」
と短く答え、どうしたものか、と思案した。
その心配もなく、人懐っこい笑顔で歓迎の態度を表した青年は、はしゃぐようにこう言った。
「初めまして!順子の息子の、翔太です。遠いところ、ありがとうございます!」
中山、と呼ばれた男は、戸惑いつつも頭を下げた。
自分を受け入れることなどないと思っていた青年に、ここまで歓迎される意味が、よくわかっていないからだ。
「下に車を置いてますから、こちらへどうぞ」
うながされるままに、翔太、と名乗った青年の後ろを着いて歩いた。
彼女の息子だ。
名前は何度か聞いたことがある。確か、綾乃という娘もいたはずだ。
顔は彼女に似ていなかったが、性格が似ている、と常々言っていた通り、明るくはっきり物を言う様は、彼女・・・順子に似ている。
雅史さん、雅史さん、と呼びかける時の順子にそっくりだった。
こんな形で、会う事になるとはな・・・。
偶然のような、必然のような。
出会いはいつもそんな感じだ、とぼんやり考えながら、翔太が開けてくれたドアから車に乗り込んだ。
今から向かうのは、順子の家。
彼女が暮らした場所。
ただ、そこは、自分にとって、足を踏み入れるべきところではないことも重々わかっている。
そんなところへわざわざ乗り込んでいく自分は一体、何がしたくて、何を望んでいるのだろう。
そんなことを考えていた。