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彼女の街 ①
男は、ある駅に降り立っていた。
何度か通り過ぎたことはあったが、ここで降りたのは初めてだった。
しばらく左右を見て、どうしたものかと考えていたが、すぐに改札口の方向を見つけて、階段を上がり始める。
まさか、ここまで来るとは思いもよらなかった。
自分がここに来ることは一生ないと自分で思っていたから。
複雑な思いで一歩一歩階段を上がる。
なぜ、ここへ来る気になったのか、今でもよくわからない。
ほんとうなら、来るつもりなどなかったはずなのに。
階段を昇りきると、正面にすぐ、改札が見えた。
一人の青年が立っている。
きっと、彼だろう。
そう思って、ゆっくりと改札へ歩いていった。