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フラウリーナ、偵察に行く



 国王から晩餐会の招待状が届いたのは、フラウリーナたちがローゼンハイム公爵家に戻ってからしばらくしてのことだった。


 レイノルドが命じた草原の開拓はとても順調である。レオニードも新しく開発した魔道砲を嬉々として使用しながら、近海の海賊や魔物の撲滅に勤しんでいる。


 レオニードを恐れた海賊たちを船団に引き入れて、商船をおそう魔物退治でかなりの功績をあげていた。


 特に海底に潜み体内で真珠をつくる、人喰いジェルフィッシュの討伐では多量の真珠を持ち帰り、海の魔王と呼ばれるキングウツボの討伐では、街の人々百人分ぐらいの蒲焼を作った。

 

 フラウリーナやレイノルドが手助けに行かなくても問題のないぐらいに強い兵士たちの活躍で、公爵家の財政も上向きになってきている。


「お城の晩餐会なんて、行きたくないですわね……」


 手紙をもらったフラウリーナは、珍しくしょんぼりしていた。

 今日は街の視察である。レオニードから「魔物が減ったせいか、最近桃色鯛がやたらととれる。大手長海老もな。漁師たちが海鮮祭りをするとかで、港に行けば美味い飯が食えるぞ」と教えてもらったからだ。


 公爵家に来てからずっと働き詰めのレイノルドを休ませてあげたかったというのもある。

 本当はさっさと挙式を済ませたかったのだが、国王からの手紙には『二人の結婚の承諾をする。レイノルドの罪に恩赦を与えると宣言するためにも顔を出せ』と書いてあったので、挙式はひとまず先送りとなってしまった。


 海風が心地のよい港には、幾つもの海鮮を売る露天が並び、人で賑わっている。

 桃色鯛はフリットや塩焼きに。

 大手長海老はスープや蒸し焼きに。そのほか、貝類も焼かれていて、美味しそうな香りがする。


 街の人々はフラウリーナの姿を見て手を振ったりお辞儀をしたりした。

 フラウリーナが公爵領で聖女と呼ばれているのは、多くの人々に見送られながら港から出港して、ルヴィアに乗って帰ってきたからである。

 その際精霊の皆さんと一緒に港を占拠していた困った大海蛇を退治したので、大変感謝された。


 とはいえ、野山で長年修行していたせいかフラウリーナの感覚は割と庶民に近い。

 公爵令嬢に見えるように話し方には気をつけているが、気を抜くとギルスたちの影響で騎士や海賊やサバイバルな一面が出てしまう。

 偉ぶらない態度のせいか、街の人々はフラウリーナを聖女と崇めているものの、気さくに接してくれている。


「お前なら、晩餐会ですって、行きますわよ、レノ様! と、大はしゃぎするかと思っていた」


 レイノルドの声真似が上手い。

 二人で並んで、港のベンチに座って串に刺してある焼き海老を食べながら、フラウリーナはくすくす笑った。


「私、国王陛下からの呼び出しを無視し続けていましたのよ。とっても行きづらいです。社交界なんてほとんど顔を出したことがありませんので、知り合いもあまりいませんし」


「公爵家の令嬢なのにか」


「そもそも眠り病でしたもの。皆からは忌避される存在です。眠り病が治ったとしても、魔力がない人間は出来損ないだと思われます。そんな女と子をなしたら、その子も同じ魔力なしになるのではと、貴族たちは信じているのです」


「あぁ、そうだな。だが、お前は国王から呼び出されていた」


「それは私がルヴィアと契約をしたからです。魔力がなくともルヴィアと契約をした女であれば、王家としては欲しいのでしょう。私はいらないけれど、ルヴィアが欲しいのです」


「意外ときちんと考えている」


「これでも少しは考えますのよ。レノ様と結婚できなくなるのは嫌でしたもの。ルヴィアと契約したのはレノ様のためです」


 海老の白い身を口に入れて、もぐもぐ食べる。

 空は晴れて海風も心地いいのに、フラウリーナは憂鬱だった。

 晩餐会には様々な貴族が集まるのだ。そこにはきっとレイノルドの宿敵もいる。

 そんな場所にレイノルドを連れて行きたくないということもある。


「俺と結婚するためにそこまでする必要はなかった。魔力があろうとなかろうと、そんなことは俺にとってはどうでもいい」


「でも、精霊の皆さんやルヴィアがいなければ、私は無力です」


「そんなことはない。そもそも、魔力がないのにその身一つで精霊たちと契約をしてルヴィアに会いに行ったのだ。お前はすごいよ、フラウ。かつての俺でさえ、そんなことをしようとは思わなかった」


 驚くほどに穏やかな声で、レイノルドは言う。

 それは、幼いときに検査中のフラウリーナのそばにいてくれたレイノルドの声だ。


 やっぱり好きだなと思う。

 あの時のフラウリーナは死を覚悟していた。

 最後に恋をしてみたいなと思っていた。


 レイノルドがその相手に選ばれたのは必然で、幼い少女の心に芽生えた憧れは、燃えるような恋心に変わり、今は心に花がたくさん咲くように、温かく体を巡っていた。


「レノ様。私、やられっぱなしというのはやっぱり納得がいきませんの」


「突然、なんだ?」


「シャルノワールのことですわ。レノ様が戻ってくること、快く思っているはずがありません。きっとまた何か仕掛けてきます。それも、心配なのです」


「まぁ、何もないとは思えないな」


「ですから、レノ様。私、ちょっとお出かけしてきますわね」


「出かける。どこへ?」


「偵察です」


 人差し指を立てて、フラウリーナは言った。

 じっとしていると憂鬱なままだ。不安だったら、不安を吹き飛ばすような行動をとるべきだ。



 


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