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働き者のレイノルド様



 数字のたくさん書かれた書類を睨みつけていたレイノルドは、すくっと椅子から立ち上がると「爺どもを起こしに行くぞ」と言った。


 敷地内の兵舎に向かうと、すでに老兵たちは起きていて、リンドは竜騎士たちと共に飛竜の世話を、ギルスは調練を。レオニードは大砲を磨いていて、ウォードはテントの前で焚き火をしながら謎の肉を焼いている。


「おい、爺ども」


「朝から口が悪いの、童!」


「フラウリーナちゃん、おはよう!」


「おはよう、フラウリーナちゃん」


「今日も可愛いなぁ」


 老兵たちはレイノルドを睨み、その隣を優雅に歩いているフラウリーナにはでれでれした。


「起こそうかと思っていたが、きちんと起きているな」


「爺は朝が早いんだ」


「爽やかな朝から小僧の顔を見ると胃もたれしそうになる」


「それはこちらのセリフだ」


「まぁまぁ、みなさん。仲良くしてくださいまし」


「フラウリーナちゃんが言うのなら仕方ねぇなぁ」


「ワーウルフの肉が焼けたぞ。皆で食おうか」


 元騎士のギルスとリンドは無礼な態度のレイノルドに厳しいが、レオニードとウォードは穏やかだ。

 こちらは様々な種類の人間と関わってきたからだろう。


「ワーウルフの肉は毒があるだろう。魔物を食うな」


「よくぞ聞いてくれたね、レイノルド君! よく洗って塩漬けにして一ヶ月保存するんだ。すると、毒が抜ける」


「……そこまでして食べる必要が?」


「サバイバルとは探究心だよ、レイノルド君。食べられそうなものは基本的に食べる」


「そうですわ、レノ様。魔物ばかりの場所では、魔物を食べるのが一番効率がよいのです。魔物の肉は滋養強壮にとてもよいのです、脂肪分も少ないですし、案外美味しいです」


 フラウリーナもウォードと行動をともにしていたときは、なんでも食べたものである。

 ウォードは焼けた肉をスライスして皿に乗せてくれる。


 香ばしい香りが食欲をそそる。元々人と狼を混ぜたような姿の魔物だったとは思えないぐらいに、見た目だけは美味しそうに見える。


 呼び寄せられたギルスたちも焚き火を囲んで座った。

 仕方なさそうに肉を口にしたレイノルドは「悪くないな」とぽつりと言った。


「そうだろう、レイノルド君。元々、荒地に住むドムドム族の方々にとって家畜は貴重な移動手段だ。だから魔物を食べる。魔物は放っておいても増えるし、人が住めない荒地やら洞窟やらに多く棲息しているからね」


「なるほど。知識は確かなのだな、ウォード」


「爺と侮っているが、年長者の知恵と経験を侮るものではない」


 ギルスが嫌味を言ったが、レイノルドはあまり気にした様子もなく、薪の前に置かれた椅子の上で足を組み直した。

 それから丸めて手に持っていた書類を皆の前に差し出す。


「お前たちが来てから、ローゼンハイム公爵家の財政が傾いている。軍事力ばかりを増強したせいだ。戦争がはじまるわけでもないのに兵士ばかり増やして、公爵家の金庫から給金やら武器開発や船の購入、馬の購入、飛竜の餌代。金ばかり使っていればこうなる上に、金の管理も杜撰だったせいだ。このままでは公爵家は大赤字となる」


「まぁ……」


 それは知らなかったと、フラウリーナは口元に手をあてる。

 ローゼンハイム公爵家は豊かとばかり思っていた。

 

「どうしましょう」


 といっても、せっかくギルスたちが楽しそうにしているのだから、好きなようにさせてあげたいとも思う。

 彼らをローゼンハイム家に呼び寄せたのはフラウリーナである。  


「軍事力の増強自体はそう悪いことではない。問題は、兵を遊ばせていることだ。お前たち……あなたたちには、それぞれ役割を与えたいのですが、いいですか」


「急になんだ、若造」


「そう殊勝な態度を取られるとな。確かに公爵が好きにしていいというので、好き放題していた自覚はあるが」


 ギルスとリンドが顔を見合わせた。

 レオニードは肩をすくめて「で、何をしたらいいんだ、小僧」と言う。


「公爵領の南に、肥沃な土地がある。グラウネエルド草原と呼ばれている場所だ」


「あぁ、あの何もない草原ですわね。海からも街からも遠いですし、道もありませんから利便性に乏しいのです」


 グラウエネルド草原は、公爵領の西の端。ピオーラ山脈を背にして大きく広がっている本当に何もない平坦な土地である。背の高い雑草の中には危険な動物や魔物も潜んでいて、ピクニックには適さない悪所だ。


「あの場所を、開墾してください。リンドとギルスは兵士を連れて、ウォードは野営の専門家として。危険生物が出るようなら同行するが」


「畑を耕せというのか、我らは騎士だぞ」


「兵は農家ではない」


「兵士が増えれば食料がいる。皆、食うからな。戦での敗北の八割が、兵糧不足だとは知っていますか? だから、普通は有事の際以外には兵士の数を減らすものだが、あなたたちは増やした。それ自体は悪いことではない。俺のフラウリーナを守るためと思えば、軍事力は高いに越したことはないですから」


「さらっと俺のとか言うな、若造め」


「そうだそうだ」


 憎々しげにギルスとリンドが言う。

 フラウリーナが顔を赤くして嬉しそうに笑っているのを、レオニードとウォードは優しい祖父のような顔で見守った。

 

「でも確かに、レイノルド君の提案は理にかなっていますよ、お二方。狭い場所にこもって剣の練習をするよりは、大草原で魔物や危険動物と戦って土地を耕し道を作った方が、足腰も鍛えられるというもの。兵士の鍛錬にもってこいです」


 快活に笑いながらウォードが言う。彼の太い腕はサバイバルで培われたものなので、説得力があった。


「まぁ、確かにな」


「飛竜がいれば、すぐにフラウリーナちゃんの元へ戻れるしな」


「では、俺は何をしたらいいのだ、レイノルド。俺だけ暇じゃねぇか」


「あなたは商船の護衛を。ざっと見たところ、この数年で商船が近海の海賊や魔物の被害にあい、その被害額は小国の財産と同程度になっている。他国と貿易をする商船は税収の要だ。人が富めば、領地も富む。ですので」


「了解した。魔物や海賊どもを蹴散らせばいいんだな。大砲をぶっ放したいと思ってたんだ、許可が降りて嬉しいぜ」


「大砲ですが、俺に見させてください。ざっと見たところ火薬を使用しているようですが、魔力を使用する魔道砲に変えることで、維持費が安くなります。威力は使用者の魔力に依存しますので、軍艦に魔道士を置いてください」


「おぉ、すげぇな、格好いいじゃねぇか!」


 手を叩いてレオニードが喜んでいる。

 今日のレイノルドは朝からいきいきしている。

 それが嬉しくて、フラウリーナはうっとりとその横顔を見つめながら瞳を輝かせていた。



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