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保護者対レノ様


 現在、ローゼンハイム公爵家の武力を底上げしているのはギルスだけではなかった。

 元々ギルスの好敵手でありギルスが隠居したと同時に一線を引いていた竜騎士リンドは、フラウリーナに絆されて隠居しながら育てていた飛竜たちを連れて公爵家にやってきた。

 

 飛竜を遊ばせておくのも勿体無いと公爵家の兵たち数人を竜騎士に育てあげて、竜騎士団を作った。


 全ての海を制した伝説の海賊レオニードも、フラウリーナに会いたい一心で海賊船と部下たちを連れて公爵家にやってきて、今は海の安全を守りつつ船や航海の技術を公爵領の造船所の者たちや輸送船の者たちに教えている。暇だからだ。


 サバイバルの達人ウォードもまた然り。週に一度は傭兵たちや兵士たちを連れて山に籠り、ナイフ一本で生き抜く方法を教えている。


 戦乱の世の中でもないのに、公爵家の兵力は伝説の老兵たちによって増強され続けていた。


「どうせ、一人目の爺を倒したら二人めの爺も自分も倒せと言って出てくるのだろう。面倒だから一斉にかかってこい。天才魔導師と呼ばれた俺の力、見せてやろう」


「不遜な態度のレノ様も素敵! でもレノ様、おじさまたちはとってもお強いのですわ。お怪我をされてしまいます」


「リーナちゃん、言ってやれ!」

「そうだそうだ、おじさまたちは強いのだ!」

「若造などに負けはしない!」

「何が天才魔導師だ!」


 やいのやいの言う老兵たちを一瞥して、レイノルドはフラウリーナをじっと見ると、自信に満ち溢れた表情で口角をつりあげた。


「誰が一番強いのか思い知らせてやろう。明日には腰痛で動けなくさせてやる」


「レノ様、その台詞は格好いいのかなんなのかちょっと微妙ですわ」


「腰痛などない!」


「腰痛などないそうです!」


「フラウリーナちゃん、レイノルド君は面白くなったね」

「フラウリーナ、おかえり。レイノルドさんは少し見ない間に愉快になったわね」


「レノ様は面白さにおいても王国一ですわ」


 にこやかに成り行きを見守っている両親に、フラウリーナは力説をした。


「なんだそれは。嬉しくない。強いと言われるよりもプレッシャーがあるな……」


「行くぞ、若造!」

「一斉にかかってこいと言ったことを、後悔するがいい!」


 首を振るレイノルドに、ギルスが剣を抜いて切り掛かる。

 体と同じぐらいに長い片刃の剣である。

 斬撃が風の刃となって、地面を抉りながらレイノルドに襲い掛かった。


「レノ様!」


 フラウリーナから短い悲鳴があがる。まさか負けるとは思っていないが、心配である。

 レイノルドは病み上がりなのだ。別に病気をしていたわけではないのだが、気持ち的には病み上がりなのである。


 レイノルドのいた場所が、陽炎のように揺れる。

 斬撃は陽炎を切り裂いた。いつの間にかその場所からはレイノルドは消えていた。

 上空に浮かぶレイノルドの服が風に揺れる。指先に魔力が集まっていく。


「させるか!」


 すかさず空から飛竜に乗ったリンドが襲撃をした。

 目にも止まらぬ速さで、体当たりをするように飛竜がレイノルドにぶつかり、槍が繰り出される。

 まるで、海鳥が上空から海中の魚を一直線に舞い降りて啄むような一撃である。


 しかしその攻撃は、硬い壁のようなものに防がれた。

 レイノルドの体の周りを、六角形を重ねたような、蜂の巣のような障壁が覆っている。

 その障壁は槍による攻撃も竜の体当たりも、全て弾き飛ばした。


「こうなれば、いくぞ野郎ども!」

「おお!」


 レオニードの合図にどこからともなく海賊の部下たちが現れて、カラカラと荷車に乗せた大砲を何台も公爵家の庭に設置する。

 鉄に白く塗装がされており複雑な紋様の入っている美しい大砲に球が込められる。


「撃て!」


 撃った。

 大砲からヒュウと音を立てて砲弾がレイノルドに飛ぶ。

 レイノルドは障壁を消し去ると砲弾に向けて手を伸ばした。

 ピシピシと音を立てて砲弾が凍りつき、勢いを無くして氷玉になった砲弾が落ちていく。

 その砲弾を、地面に張り巡らせた魔力で作った網状のものが受け止めた。


「くそう、レイノルド君、やるじゃないか! 最後は俺だ! この俺と腕相撲で勝負だ!」


 鍛え抜かれた太い腕に力瘤を作って、ウォードが言った。

 ウォードはサバイバルの達人ではあるが、それはあくまで野戦において役に立つというものであって、戦闘に関しては突出すべきものはない。強いて言えば獅子をも締め殺し夜ご飯にする屈強な筋肉が武器というぐらいである。


「……何故俺がお前の要求を飲まねばならん」


 レイノルドは自分の腕に視線を送り、それからウォードの腕を見ると、ため息をついた。

 腕相撲は分が悪い。レイノルドはあくまで魔導師なのだ。

 現役の時代なら肉弾戦の訓練もしていたが、今は流石に衰えている。


「眠れ」


 レイノルドが両手を広げると、空から無数の輝く雪玉のようなものが降り注ぐ。

 雪玉は地面に落ちると跳ね回り、ぽろんぽろんと音色を奏でた。

 ゆったりとした耳障りのいい音色に、老兵たちがばたばたと地面に倒れていく。


 皆、安らかな眠りについていた。


「レノ様、勝ちましたわ……!」

「当然だ」


 かくして、レイノルドは老兵たちに勝利を納め、無事にローゼンハイム公爵家へと迎え入れられたのであった。





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