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おじさまズ4



 辺境の皆に惜しまれながら、フラウリーナたちはルヴィアに乗って公爵家に戻った。

 精霊の皆様がプアプア言いながら、辺境の町を祝福するように虹をかけた。

 虹から流れた雫が恵みとなり、辺境の土地を潤した。


 以後、この最果ての土地は精霊の祝福の地として栄えることになるのだが、今はまだそんなことは誰も知らずに、祝福を両手を伸ばして体に受けて喜びの声をあげた。


「ルヴィア、公爵家に戻るのは久々ですね」


『久々といっても、お主と盟友になったのはつい昨日じゃ。どこが久々なのか』


 大きなルヴィアの背に乗って、フラウリーナはその艶やかな背中を撫でた。

 魔法の力で空を飛ぶことのできるレイノルドは、ルヴィアに乗ることについては怖がらなかった。

 相変わらず悠然と構えて、アロマ煙草に火をつけようとしたところでルヴィアに『禁煙じゃ』と注意されていた。


「ルヴィアは長生きですから、数週間がつい昨日のように感じられるのですわね」


『お主たちなど瞬きをする間に死んでしまう。妾の記憶に残った人間など、指で数える程度しかおらん。妾には、人の区別などつかんしな』


「人間たちの中で一番格好よくて一番光り輝いているのがレノ様ですわ! 覚えておいてくださいまし!」


『ふん。貧相な男じゃ』


「精霊竜に嫌われているのか、俺は」


「ルヴィアは偏屈なのですわ」


『妾は人間などは好きではない。フラウと契約したのは、フラウを気に入ったからじゃ』


「私もルヴィアが好きですわ。だからルヴィア、私の大好きなレノ様のことも末長く守ってくださいましね」


『さぁな』


 ルヴィアはそれきり黙り込んだ。

 フラウリーナはルヴィアの背中をバシバシ叩いた後「ごめんなさいレノ様。ご機嫌斜めなのですわ」と謝った。


「無理もない。俺はお前にずっと冷たかった。ルヴィアはそれを見ていたのだろう」


「私は気にしていませんわ。レノ様は私にずっと優しかったです。だって、無理やり追い出しませんでしたし、ひどいこともなさいませんでしたもの」


「面倒だっただけだ」


「またまた! 照れながら謙遜する姿も魅力的ですわね、レノ様。公爵家に帰ったら結婚式をあげましょうね。お父様もお母様も、レノ様のことを待っておりますわ!」


 フラウリーナの両親は、レイノルドのためだけに生きることを決めたフラウリーナに何も言わなかった。

 もちろん、心配はしていたのだろう。だが、日に日に元気になり活発に動き回るフラウリーナを微笑ましく見ていた。


 レイノルドは両親にとっても恩人だった。レイノルドの嫁になると言って努力するフラウリーナを応援しない理由はなかったのだ。

 そして公爵家の立場が悪くなろうとも構わないと、辺境に嫁ぎに行くフラウリーナを送り出してくれた。


「それに、レノ様のご家族も……」


「俺はグルグニル家から除籍されているだろう。妹が夫を娶り、家を継いでいるはずだが……その立場はいいとは言えないだろうな」


「これからですわ、レノ様。だってレノ様は冤罪なのでしょう?」


「なぜそう思う?」


「私のレノ様が悪いことをするはずがありませんもの!」


「調べたわけではないのか」


「調べませんわ。私、とても忙しかったのです。何せ、ルヴィアと契約するまでに何年も大冒険をしましたので。ルヴィアのいる島までたどり着くのも大変でしたの。嵐はくるし、ヒュドラはいるし、叡智のフィンラスは訳のわからない質問をしてくるし」


 海には海の、恐ろしい魔物がいる。

 ヒュドラはいくつもの頭を持つ海蛇の魔物だ。口から、人を殺す毒を吐く。


 叡智のフィンラスは島に入る門番である。

 謎かけに答えて正解しないと、島に上陸させてもらえないのだ。


「ある男が手紙を受け取りました。手紙には愛しているという妻からのメッセージが書いてありました。男はその場で泣き崩れました。なぜ? なんて、聞かれても、わかりませんわ」


「お前はなんと答えたのだ?」


「ええと、妻はとっくに病気で亡くなっていたから、ですわね。手紙は思い出の木の下に埋めてあったのです。男は妻が亡くなった後に、手紙を掘り起こしたのですわ」


「……なるほど。正解だったのか?」


「はい。色々問題はありましたけれど、私にはそれしかわかりませんでしたの」


 ルヴィアが下降を始める。

 眼下には、フラウリーナの見知った景色が広がっていた。


 大きな庭と森と川、湖もある公爵邸。公爵邸からほど近い場所にある、ローゼンハイム公爵領で一番大きなアッセンドラの街。

 街には港があり、砂浜の海辺がある。この海から、フラウリーナは外洋に漕ぎ出したのだ。


 公爵邸に近づいていくと、公爵邸から黒い竜がルヴィアの元へとやってくる。

 黒い竜には、壮年の竜騎士が乗っていた。

 眼光鋭く体格のいい男である。竜騎士の後ろには、眼帯をした髭面の男も乗っている。


 公爵家の屋根にも、二人の男の姿がある。

 一人は異国の着流しを着たいかにも剣士という見た目の男。

 もう一人はそれはもうたくましい腕にたくさんの傷のある、黒いタンクトップを着た褐色の肌の男だ。


「フラウリーナちゃん!」

「おかえり、フラウリーナちゃん!」

「無事に帰ってきてよかった!」

「その男が結婚相手なのか!?」


 強面の壮年たちが、一斉にフラウリーナに向かって手を振り始める。


「ただいま戻りましたわ、師匠たち!」


「師匠……」


「はい、師匠たちです。またの名を、おじさまズふぉーの皆様です。ふぉーは、四という意味ですわね」


「……ジジイばかりだな」


 レイノルドは深いため息をついた。

 耳ざとくつぶやきを聞きつけたおじさまたちが、「誰がジジイだ!」「ジジイのよさがわからんひよっこめ!」と騒ぎ始めた。




 

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