表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/49

決戦、水色スライムの群れ



 大小さまざまな石が転がる河原を、上流に向かってフラウリーナは歩いていく。

 ブーツの底でごろごろした岩を踏み締め、フラウリーナの頭ぐらいにそびえている大きな岩は、軽々と飛び越える。


 数々の師匠たちに弟子入りしたフラウリーナは、病弱だったとは思えないほどの健脚を手に入れていた。


 ルヴィアのいる孤島まで、一人用の船で旅をしたフラウリーナにとって、川歩きなどはちょっとしたお散歩程度のものである。


「はやくすませて、お昼ご飯までには帰らないといけないわね。レノ様のお腹が空いてしまうもの」


 レイノルドに空腹のまま待たせるなど、よき妻とは言えない。

 

 確かに町人たちの言う通り、川の水量は減っている。

 もともと水があっただろう場所は剥き出しになり、その部分だけ石の色が変わり、草は折れていた。


 しばらく行くと、滝にさしかかる。

 滝壺に落ちる滝が、飛沫をあげている。

 森の中に唐突に現れた瀑布だ。轟々と、水音を響かせている。湧き水が作り出す滝は清廉で、飛び散る水飛沫が、空気を湿らせている。


「ここを、のぼらないと……って、あら?」


 滝を見上げていたフラウリーナは、滝壺の異変に気付いた。


 滝には十分な水量があるのに、滝壺から流れる川が浅いのだ。


 よくよく目を凝らすと、滝壺の水面が妙にぽこぽこと隆起している。


 それは、滝壺を埋め尽くす水色スライムの群れだった。

 広大な滝壺にひしめいている水色スライムは、巨大な器に入った大量のしらたまのようだった。


「わぁ」


 水色スライムと精霊の皆さんは少し似ている。

 だが、あまりの量の多さにさすがのフラウリーナもぞわぞわした。

 鳥肌のたった腕をさすって、大きく息を吸い込む。


「水色スライムの皆さま、滝壺の水を吸ってぷるぷるに膨れ上がるのはおやめなさい! 今すぐ滝壺から退去していただければ、攻撃はいたしませんわ!」


 名乗りは大切である。

 どんな時でも正々堂々と、とは、フラウリーナの師匠たちから習った。


 水色スライムの皆さんは、ぷるんとした体にゴマのようについている目で一斉にフラウリーナを見て、ふるふると震えた。


 滝壺いっぱいの水色スライムの皆さんが震えると、地響きが起こる。

 今にも滝壺を破壊して、堰き止められた水を下流に一気に流し洪水起こしそうな様子だ。


「思ったよりも、危険ですわね……」


 下流に人々の町があるなど、魔物には関係がない。

 魔物はそれぞれの習性に沿って生きているだけだ。


 だから、彼らを責めるのは間違っていると、フラウリーナは理解している。

 それでもフラウリーナは人間である。人間として、人間を守らなくてはいけない。


「あなたたちに恨みはありませんが、話し合いができないとあれば、強制退去していただきますわ!」


 フラウリーナが手を掲げると、そこには光り輝く剣が現れる。

 ルヴィアとの契約の証、精霊竜の剣である。

 曰く、全ての魔を祓い、全てを手にする神代の剣。


 その輝きは暗雲を退け、世界を光で満たす。

 かつて王国の権力者たち皆が欲しがり、王国全土を巻き込んだ争いを起こした剣である。

 その争いで、王国民の数は半数まで減ったのだという。


 白く輝く美しい剣の周りに、光、炎、水、獣、愛、緑、風──七大精霊の皆さんが集まってクルクルと回った。


「滅せよ、邪悪よ。照らせよ光よ。荘厳なる精霊の王の剣! さぁ、ご覚悟を!」


 名乗りも大切だ。名乗りとは騎士道において欠かせないものである。

 さぁ今からあなたたちを攻撃しますよ! と宣言しておけば、不意打ちをした卑怯者という汚名を着せられなくて済む。


 危険を察知したのか、水色スライムが滝壺からうにょんと顔を出した。

 全ての水色スライムが一塊になり、滝壺から飛び出す一塊のスライムへと姿を変えている。

 そのスライムから何本もの透明な腕のようなものがフラウリーナに伸びる。


 滝壺から顔を出すスライムに比べて、フラウリーナはあまりにも小さい。

 大岩と蟻ぐらいの差がある。だがフラウリーナはうねうねと掴もうとしてくる腕を、木々を足場にして避けて、空を飛ぶように跳躍しながら腕の一本を剣で切り落とした。


 じゅっと音を立てながらスライムの腕が切れる。切れた腕は再び滝壺に落ちて、元の体に吸収されてぷるんと揺れた。


「燃やして蒸発させて仕舞えば……けれど、滝壺を壊すわけにはいきませんわね。どうしましょう」


 スライム退治など、すぐに終わると思っていた。

 だが、思ったより難儀だ。

 倒すことは簡単だが、下流にある街のことを思うと、あまり乱暴なことはできそうにない。


 それに、矢継ぎ早にフラウリーナに伸ばされるスライムの腕は、溶解液に覆われている。

 スカートのドレスが僅かに溶けて、フラウリーナは眉を寄せた。

 頭の中に『苦戦しておるのか、フラウ』と、ルヴィアの声が響いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] スライム退治に使ってるものが豪華だなあ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ