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第9話 地獄×天国

 その後、浦島銀河部長はそういえば入手していたことを思い出したメールアドレスに、手短に文章を送信する。例のあまのじゃくヒロインのスマホへと「イマどこだおまえ!!!」と送信し、「ハジケてたいやき」とふざけ返ってきたので。


 銀河部長はグランドスペース内にあるたいやき屋を探し迎えに行き……海魅部員をホテルの待機部屋へと呼び戻す事に成功した。


(一緒に最終調整を手伝ってくれていたメイさんは東京のグランド仲間にすこし会ってくるとのことで待機部屋から居なくなったけど……一応学生たちが主役のきハルってことで気を遣ってくれたのかな? いやあの人はないないっ。な人か)


 そして無事むかえた正午12:00予定通りに、エントリーしたプラロボ作品をイベント係員が協力して運んでくれる手筈となっていた。


「おー、君らさっきのお客の学生か」

「あれったいやきのお兄さんとお姉さん? ですよね?」

「はふはふ……ふーん?」

「ってたいやき食ってんじゃねぇ!」

「え、食ってていいよぉ? うちのっ」

「食ってていい買ってくれたうちの【グランドたいやき】だ」

「ふんふん、かぃーくぃー……ん。かすたーぁどばっちり」


「え、えとご、ごめんなさい……あははじゃおれもひとつっ。あ、そういや昼食ってねぇ!」


「これわたしのお昼だから、たいやきの尻尾はかさないよ」


「おい、偽マイトおまえは鬼か! ってたいやきがお昼って」


宇宙人(ソラビト)よ、うちのたいやきを食ったことはあるか? うちのたいやきはお昼もいけるぞ、まっ白い学生くん」


「そうだよー、うちのたいやきはすごいんだからねぇー。はいこれ、タピオカ粉あんこのグランドⅠ味、ようかん味のカーゼ味、チョコレートボンボン味のラ・カーゼ味、マイト味のイカ耳味、カナカミ通信生味の十字架たいやき縦カスタード♰横ワサビスイート、ライト・アライの兄貴分ツインたいや────────」


 たじろぐシラガ部長のその両手両腕に積まれていく。どこから取り出したのか、イベント係で来てくれたたい焼き屋の2人から次々と色んな種類のたいやきが。


「まだ若いんだから昼抜きなんてダメダメ、たーんとおたべぇ」

「安心しろうちのたいやきは……」


「「『大根入ってないよねこれ?』、だから」」


「そ、それぇグランドⅢの通称土星の輪ッ円環都市アースナッツ育ちの苦い大根(宇宙DOME産)嫌いの主人公が、艦内食のシチューをよそってもらったシチュエーションで放っ──」


「おぅ、今年はしっかりしていて期待できそうだな騎楽楽(きーら)

「ん、かなりできあがってるねこのこ騎流流(きーる)


 独特なたいやきお兄さんとたいやきお姉さんのコンビに苦笑いしつつも、初対面ながら銀河部長は持ち前の鍛えたグランド知識で反応し対応していく。普段から〝ひまらや〟の店主と談笑し、クセのある彼女と会話意思疎通ができる彼には伝わる、突っ込める、普通のことであった。

 和やかにかつスピーディーにたい焼き屋の大人たちと男子学生が笑い打ち解け合っていると、


「ん、ん!??? んんんんんんんんーーーーーーーーー」



「おい急にどしたぁ!?」


「いけないこのこカナカミ味を縦のカスタードだけ先に食べてたみたい。配分をまちがえて横のワサビスイートにやられたのね」

「ははは、うちのたいやきはやっぱりおもしろい」


「ってなにネクストミッションのアズマ先輩ばりに腕組んで頷いてんすか! って十字きってないでえっとえっと」

「んんんn茶ああああああああ」


 カナカミ通信生の十字架たいやきの横棒には十分(バッチリ)気をつけよう……。銀河はたいやき屋から受け取った気の利いた緑茶を、ツンとくる辛さに天に召されそうなほどに悶える女子部員に、キャップを開けて手渡した。



 一度、茶を飲み、場は落ち着きをとりもどし……。


 銀河と海魅の聞く話によるとなんと【きハル】のイベント係員とはグランドスペース内で店を構える人たちのことだったようで。

 元商店街通りのたいやき屋〝うおたら〟はそれぞれ好きな機体のカラーである黒金のエプロンと青灰のエプロンをトレードマークに身に着けた、30代のまだ若い男女で切り盛りしているようだ。

 そしてきハルにエントリーした学生たちは、このグランドスペース内で与えられた区画や様々な店前で、それぞれの作品を披露するんだという。


「おお一目でわかった、これはたいやきが売れそうだ騎楽楽(きーら)


「これは立派なグランドⅠ、夕焼けの学校に……なんかすごい哀愁で立っててエモいよ騎流流(きーる)。うわーすごーい今年さいこーだわこれ」


「おっ、校舎の裏に俺のインフィニットホークが休憩している……! ──ナニ!? しかもこっち側は夜の様相に変わっているだと!」


「あっ、みてみてこれ騎流流のホークちゃんの対面にいるのリバーシ! きーらちゃんこの前やっと手に入れたゲームカセットでやり始めたとこよーうふふ」


「あはは木寺(きてら)さんらってほんと……グランドシリーズくわしいっすね!」


「「ダテに水星(ここ)で生きてきてないからあああああ」」


「あはははそれマーキュリーの台詞っすね。タイキ・ララの住む水星は大気がなくて過酷っすからねあははは、ア! そっか、この店のうおたらって────────」



(ふんふーんって。そのへんのたいやき屋もやけにレベル高いのなんなの……)


(あはははこんなにグランド関連でノリのいいたいやき屋はここだけだろうな、すごいなこの人ら活力がっ)


 12時47分、グランドスペース内の辺りは道行く人が増え、いつもより高い活気とうずうずとした期待感を帯び始めている。

 銀河部長一行は無事に所定の場までプラロボ作品を運び込み……。タッグを組む気のいいお兄さんとお姉さんに一足早く自分たちの自慢の作品を披露していた。


 たい焼き屋うおたら店内の待機場で繰り広げられる好意的な反応としっかりとしたコメントに、しっかりと部長もお答えしながら笑いと様々な熱気が高まっていく。


 旧商店街通りのこの明るい木寺さん兄妹が切り盛りするたいやき屋うおたら。こここそがカモコウプラロボ部、浦島銀河と佐伯海魅の主戦場となる。


 もう本番はすぐそこだ……。


「一目でわかった、これはたいやきが売れそうだ騎楽楽(きーら)うちのたいやきの準備だ!!!」

「それさっき聞いたよね騎流流(きーる)?」

「そうでもないっ!」

「そうだっけ?そうよねっ、じゃぁ」


「「うちのたいやきメルトキル!!!」」



「たいやきでマーキュリーのメルトキル水星の地熱を使うのはどうなのか……あはは」

「この人らうちのたいやきより、うちのプラロボ部、入ったほうがいいんじゃない……?」

「あはは……それは俺が困る」

「素でガチのやつじゃん、ふっ」


 灯された青い炎は天然ものの特注たいやきの型装甲を熱していく。

 そんな作業場に移った仲睦まじい2人のエプロン姿を見ていよいよと、学生たちプラロボ部の男女2人の心にも、そのとくべつな炎は燃え移っていった。









『3、2、1、きハルぅぅぅスターーーーーート』


『さぁついに始まりましたアオきハルの第11回プラロボコンテスト』

『ただいま時刻は麗らかな陽光射す日曜日のお昼間1時バッチリ!プラロボ日和! ついに開門一般入場客の編隊が続々とグランドスペースへと押し寄せてきました』

『きハル参加高校の学生諸君の作品はこの広大なグランドスペースの様々な店頭、店内、道端に飾られ、その熱意溢れる作品の数々を見て楽しむことができます』

『飾られた作品の位置詳細は公式ページのエリアマップおよび入場際に配られるパンフレットに記載されておりますっ』

『そして動画配信サイトどろどろチューブでの生配信および現地実況は、グランド歴20年ご存じ私グランド月面電波基地ラジオパーソナリティーを務める宝学(たからまなぶ)、タカーァラがお送りしておりますっ!』

『ちなみに一般客にまぎれた審査員がぁ、きハルにエントリーした学生諸君きみたちの元へもうすでにっ……向かっているかもしれませんねぇ?』

『ちなみのちなみに私タカーァラも時間が空き次第……スペシャルなゲストとともに向かい、いえ心して出撃するかもしれません! あーー緊張してきたぁあああ』

『あとちなみついでに、寄贈された歴代の優秀作品やきハルOBが新たに作ったプラロボ作品もシークレットとして、グランドスペース内にたくさん展示しております。パンフレットには載っていないのでさがしてみてねっ! 作品周辺のQRコードからお得な情報(クーポン等)を得られるかも!?』



 プラロボコンテストは既に始まり。その模様は1台のカメラで広いグランドスペースを移動しLIVE中継されている。優勝候補、有名高校を中心に順々に丁寧に機体作品を紹介かつ軽妙な雑学を交えながらめぐっていくようだ。食べ歩きや施設紹介、新発売予定のプラロボキットの情報、ネット配信のエンタメ番組にまで昇華したきハル。その垂れ流す生放送のお祭りには、年々増えて定着したそこそこの視聴者数がいるらしい。


 既に一般客は〝うおたら〟の前に展示しているカモコウプラロボ部の作品を見ては、素通りしたり、立ち止まったり、話しかけてくれたり、褒めてくれたり、美味しいたい焼きを買っていくついでだったり。

 色々な反応はあったが、地元客やグランドファンも多いのかほぼすごいと褒めてくれるような……プラロボ部の彼らにとってむずがゆくも照れくさくもありがたいものだった。

 うおたらの店主店員の木寺お兄さんお姉さんいわく、うちのたいやきも通常の2.5倍程トブように売れており、店は見るからに大忙しでプラロボ部の2人のお客呼び込み活動もいいよいいよと止めるぐらいであった。


 そしてついにきハル開始から1時間半後、銀河と海魅カモコウプラロボ部の元にもやってきたようだ……カメラが。その圧倒的なオーラ、後光を連れて──


「これは良くないねぇ」


 一目見て否定をする。慧眼の持ち主か、黒いキャップを深く被ったその人物は夕暮れに立つグランドⅠを先ずは否定した。


「学校にロボットなんてロボットは卒業しなさいとぼくはね強く言いたい! なのでねぼくの作ってきたグランドというアニメーション作品ではこういう演出を一切しません。タブーです」


 タブーとまで、口を開く度に発言は過激さを増す。どこで買ったか分からない派手柄のピンクシャツを着ながらも、その人物の語気はいたって冷静だ。


「グランドはあの世界の子供たちのある種、憎悪の対象ですので作中でこういうわざとらしいシーンをくっつけてはいけない。とね」


「なのでねぼくも学校ではありませんがこの子供と大人たちがグランドに群がる大団円のシーンは幾度もひとつのプランとして浮かんでて、コンテに描いてみてはあえて全部じぶんでボツにしてました、ええ。というのも無責任におもうでしょ? そんなシーンは起こりえないのですから、その世人たちが群がった瞬間に物語を彩る人間性というものが同時に失われてしまうわけです」


 否定するにもグランドファンの玄人さえ思い浮かばないような全く違う視点と観点をその人物は持ち合わせている。


「なのでこれはねぇ…両立できない! 世に向けて提供するレベルに達しなかった…まぁ苦悩したイヤな思い出です。これ夕暮れで外は大人だけ? こっちは夜…死界?──あぁーなるほど、まったくそのまま蘇りますね(笑)。で、これはなんのグランドロボット? きみのオリジナル? ──りばーし? いんふぃにっとほーく? ゲームの外伝と、サイドマーキュリーにでて…? ぼくはまったくしらない(笑)」


 ふと、否定したプラロボ作品の隣に突っ立っていた白髪の少年と視線を合わせて、その人物は問う。そして、操り人形のように少年は口を開き、グランドロボットの名前をいつも以上に畏まった丁寧な口調でただ、無駄なく答えていった。


(なにこの人)

(監督だよ監督! 水の星のグランドのナシモ監督! グランドの生みの親の!)

(え? このひと? 前とちがってめっちゃ悪口じゃん?)

(前ってなんだよ? 死にたくないならなんも言うなよ、俺に合わせて頷いて突っ立っとけ。いつものあまのじゃくはこの人にはゼッッタイっっ効かないからやめろよーっ……)

(……ふーん)


 小声でこそこそ、銀河部長は彼の隣の海魅部員に忠告した。その人に彼女の天邪鬼は効かない、その人はきっと地獄耳、それ以上こそこそとも冗談や文句を話しかけないようにと、部長はぴりついた表情といつもとは違う語気で部員の態度を正した。


「ははははとまぁ……学生さん何か? 反論! 監督に!」


 宝学とかいうラジオパーソナリティが、隙を見計らい、カモコウプラロボ部の2人に問うた。気の利くパスを出したつもりなのだろうが、銀河の表情は固く、海魅も隣の彼に合わせたように──


「いえ、ないっす」

「ない、うん」


 そう一言、学生の2人はその場に直立し発しただけであった。求められた反論にエネルギーを1ミリも使うことはなかった。


「ないの? ほんとに? ぼくが悪者みたいになっちゃわない? これはねぇちょっと困った……学生のズバっとした仕返しを甘んじて待っていた部分もありましたので、入れるべきフォローがねすべておしゃかになりました。今の時代はねぇ…。これも含めてすべてある種冗談ですから、たのしんでねふふふ」


 別動隊のスぺシャルシークレットゲストを連れたカメラは去っていく。

 最後にナシモ監督はおどけるようにシメて、もう一度白髪の彼と目が合ったかと思えば、カモコウのプラロボ作品が展示されていた〝うおたら〟の前からいなくなっていた。


 そんなスペシャルな模様を余さずLIVE中継していた動画配信サイトのコメント欄は、燃料薪を焚べられたように加速していった。


▼どろどろチューブ▼なまほうそうちゅう!

バチバチのボロクソで♰

なんでや!

なっしーに見つかったとは運が悪いな…

ナシはこういうの大嫌いですから

いやこいつ子供たちが喜ぶからとかついこないだ言ってましたよ…

俺が言うのはいいんだよ

逆に子供たちをよろこんで狩ってますがな…

せっせとエモ路線で点数稼ぎにいったらナシの化物にぶち壊された件(いや、そうはならない)

誰だこの悪魔

もう無茶でクチャだ!

これ実質ネクストミッションも死んでないか?

そりゃそうなる戦争やってんだからな、グランドⅠ全話見直せ学生

学生白髪になってて♰

なわけ、ほんまや!

燃え尽きてやがる…まっしろに…!

オーバーキル

メルトキル

ナシモシステムにやられたか

黙ってうなずいてるだけ偉い

俺ならぶん殴ってる

下手なことは言わんほうがいい、それがヤツへの最大のダメージになる。こいつ分かってんな

監督に反論しろとかいうのこりの人生をかけた無茶ぶり

よく聞けめっちゃ褒めてんぞ

どこがよ!

俺もとっくに浮かんでたアピールいる?

高校生まで敵視すなーーーー

いえ、ないっす

言えないっす

↑♰

ない、うん。

可愛い。

ない、うん。(ブチギレ)

JKの目が笑ってない。

冗談は冗談!

悪夢去る

こいつはひでぇ

放送事故

かくじつにお前が悪者

たのしんでねふふふ

ねふふふ

この後どうたのしめと…?

白髪のメンタルはゼロよ

とんでもねぇ…



 グランドの生みの親に対して何も言い返すことはなく、畏れ多く……。うおたらの前にいるシラガ頭の学生の背は、遠のいていく憧れの背を見つめ、すこし寂し気だ。

 そんな立ち尽くす若者の男の背に、騎楽楽(きーら)は用意していた焼き立ての十字架たいやきを手渡そうとしたが、兄の騎流流(きーる)に肩をもたれ首を横にゆっくりとふり止められた。


 旧商店街通りに並び立つ部長と部員のふたり。押し黙っていた部長はやっと口を開き。半分いま思ったままのことを口にしていた。


「はぁ、現実は甘くなかったかぁ。割と厳しいのもらっちゃったな」


「ふーん……まぁ他の人からは悪口は言われなかったんだからよくない?」


「うーん、それもそうだな」


「じゃ出店回ろっもう負けだし」


「はぁしゃーないな、おう! ってまだ負けてないぞっ! ははは──」


 その後、カモコウプラロボ部はうおたらの店主店員に許可をもらい、余った時間で出店や他校のプラロボ作品を一緒に見て回った。

 部長のウンチクと他の学校生徒との交流立ち話に、買い食い、銀河と海魅は目一杯時間の許す限りきハル、グランドスペースをたのしみ────────


 審査期限の午後5時バッチリの時を今刻み、彼らカモコウプラロボ部の挑戦したきハルは終わった。





【アオきハルの第11回プラロボコンテスト】



最優秀プラロボ作品賞 月の裏側のホシ TOYOSHIMA工業高校月面支部




優秀プラロボ作品賞 地獄耳の地獄アズマスペシャル ニッパーパレード西福岡

優秀プラロボ作品賞 メタリックグランドⅡ ソライロソプラ光芒学園

優秀プラロボ作品賞 アタボーのターボシルエットMAX GⅢじぇねれーしょん

優秀プラロボ作品賞 ここはクッキンエリア utyuu


おもしろかったで賞 屈筋エリア NOBUNAGA岐阜県立金華高校

クールグランドロボット賞 氷剣のグランドナイト むささびラボ

Cクオリティ賞 幻のグランドⅣ 雷高校プラロボ愛好会

グランドスペース一般客賞 ようこそグランドスペースへ! 型翅高校プラロボ部 








 グランドスペース内にある各校集結した地下シアターでの晴れ晴れしい表彰式を終え……うおたらへと戻ってきた銀河たちは、キールさんとキーラさんたちに拍手と温かい十字架のたいやきを贈呈され迎えられた。

 やはりアレが響いたのか……惜しくも入賞は逃しはしたものの〝うちのたいやき〟はバチバチに売れたので合格だと、屈託のない笑顔で木寺兄妹はがんばってくれた若者たちを励ますように言うのだ。


 そんな大人の彼らのあふれる笑みに釣られて、学生たち2人が笑みを作りみせていたところ────


「月刊ロボット王国ジャパンの編集長、赤枝(アカエダ)です!」


 そういえばうおたらの店先で部の2人が木寺兄妹に拍手で迎えられたときから、その赤帽を被ったひょろっとした体形のお兄さんは銀河の視界端にいた。

なんだろうと思い目を合わせた銀河は対応し、そのアカエダと名乗る人物からよくよく聞く話によると、


 この作品を表紙にしたいとアカエダは言う。つまり、アカエダ編集長はこのカモコウプラロボ部のプラロボ作品を、いつの日かの自分の担当している月刊誌の表紙に採用したいとのことだ。


「────────というわけで納得してくれたかな浦島部長くん佐伯部員さん? 単純にドラマがある、グランドを観てきた子供の数だけの。それだけ単純に万人にこのプラロボ作品は伝わり分かりやすい、それがまさに〝ジャパン〟! の表紙に相応しい、そうバッチリふさわしい!」


 万人に伝わりやすいプラロボ作品、確かにそれはカモコウプラロボ部の2人が目指していたテーマとも重なり合うものだ。アカエダは熱を込めてご感想と採用した理由のほどを語りつづける。


「そして裏面はこの子たちを載せたい。──インフィニットホークとリバーシ。ところで聞きたかったんだけどここは……この素晴らしい対比を演出した…夜の校舎裏は、天国・地獄いったいどっちかな、浦島部長くん?」


「あははは、そりゃ、天国で!」


 地獄というほどでもなかったけど入賞をのがし消化不良で銀河部長だけにならず海魅部員も、2人、どこか燻っていた。

 そこに現れたこの雑誌編集者アカエダさんの話を部の2人はよく聞き。立ち話もなんだからということで、うおたらのキールさんとキーラさんが何度もありがたいことに自分のことのように喜び、気を利かせて中のカウンター席で緑茶とグランドたいやき盛りをアカエダと銀河、海魅、3人の話し合いの場に出してくれることに。


 それからも3人の話し合いはつづき、


「────────あのそれって監督のインタビューとか載ってます?」


「あぁー。載ってる! 載る予定! てかこれ言っちゃうけど本人からやんわりと指名ね! もちろんぼくも!(ちょっと野暮用で遅れて来たけどまぁ) 監督と同じ【天】の感性もちだからね! そうそう僕前までCクオリティのプラロボ工場の────────」


□銀河ダイアリー

結果的には天国、俺たちはのちに【月刊ロボット王国ジャパン編集長賞】をもらえた。雑誌の中だけの急遽設けた賞らしいけど、うれしいものだ。

それにはナシモ監督のインタビューが載るという。というか載っていた、隅々まで確認したが俺たちカモコウプラロボ部のことには触れてはいない……。

ボロクソに言ったとある高校のプラロボ部のプラロボ作品が表紙と裏表紙の月刊誌で、それでも平常運転でグランドについて語るナシモ監督。その対比がまた……少しだけ一部の濃いグランドファンの間で反響を呼んだのだとか。



 余ったたいやきをテイクアウトした雑誌編集者アカエダさんは、颯爽と、笑顔をのこして「また東京で」と言い、たい焼き屋うおたらの元を去り──。


「おやー……」

「ふーん」


「やったじゃん」

「あぁやった……あの人ただのツンデレじゃないか……。うおおおおおおおおおおさすがナシモ監督!」


 叫んだ雄のテンションがそのまま行き場を探した。銀河も海魅も喜びあい探していた。そして部長の彼の目には、目の前には、青い目をキラキラと輝かせこちらを見て「バッチ来い」と言いたげに、もうその手を構えている。そんな彼女が待っていた。


 【ハイタッチ】! 掲げた手と手、片手では喜び足りない両手のハイタッチを今。


 バッチリと、


 うおたらの店内に響いた……男女学生のそのよろこびとよろこびを合わせたその瞬間を──


「バッチリ一枚いただきました! あははギンガとウミ!」


 騎楽楽のエプロンに隠し用意していた一眼レフカメラが収めた。高く手を合わせ、互いを見つめる、銀河と海魅のいい笑顔がそこにあった────。









(ふーん、ま、最後にゃヒロインパワーで福が来たって感じ。生みの親にも認められたしやっぱりあのときのラジオの通りの人じゃん? これでカモコウに凱旋? できるじゃんうみーみ! とシラガぶちょーも、うん。あとダウンした町子も、うん)


(目標にしていた入賞は逃したけど……どうやらここグランド王国型翅の町で戦果なしに終わらなくてすんだようだ。生みの親のナシモ監督の登場にはうれしくも驚かされたが……結果的には、グランドファン的にもッ、最高の結末だった。カモコウに凱旋とまではいかないが校長にいい報告ができそう……なのか? ま、ド王道の……グランドⅠで挑んで本当に良かったよな。アイツがいなきゃこの結果は……生まれなかったろうな! とにかくもう、うおたらのキールキーラさんたちにも大感謝だ。あとメイさんもか……。ほんと、プラロボマニアが近所にいるって心強すぎるな。居て当たり前とおもっていたが、感謝感謝のひまらやだ)



 銀河と海魅、それぞれの思いを胸にしみじみと、カモコウプラロボ部のきハルは終わった。が、


 今夜は戦果を上げたカモコウプラロボ部の打ち上げをするということで、特別にメイ店長が2人のことを祝ってくれるらしい。さっそく学生たちと大人女子の合わせて3人は、グランドスペース内のおでん屋〝おとしご〟に集合した。


 このお店は水中戦の得意なグランドロボットたちにまつわるメニューが多い。そして、ここはアニメグランドⅡで前作の主人公マイ・トメイロとⅡの主人公ゼキ・フライアーズ一行が訪れた地球のおでん屋、劇中のソレそのものを模している。その細部にまで気合の入り過ぎたお店のようだ。


 一行は、活気にぎわう店内の案内されたテーブル席に座り、語りたい積もる話をお疲れムードの一息とともにはじめた。


「いやーぁにしてもさ、にしてもさ、弟さんにウミさんに、やってくれましたね〝月刊ロボット王国ジャパン〟の紙面を飾るとは。それにそれにナシモ監督にボロクソに嫉妬させるとは、カモコウプラロボ部始まって以来の大大大戦果ですよ!!! そんなの見たことぉおおお、ないないってね! いやぁーーいまだに心が……烈機の如く天が震えるぅぅぅぅう」


 メイさんは皆が着席するや否や、さっそく向かい席に座る学生たちに熱い身振り手振りをまじえて褒めちぎっている。


「あははは褒めすぎじゃないっすかね?」

「褒められていいんじゃない? 実際そうだし」

「ま、実際そうなのか? はははは」


「甘んじろ甘んじろ褒められろ甘えろお姉さんににゃははは、てことで今日はねカモコウプラロボ部先輩からの奢りだよぉじゃんじゃん飲んでね!」


「いんすか? って飲んじゃダメでしょ俺たち!」

「いんじゃない? 飲めっていってるし」

「いやいや待て待て」

「わたしブラッディオレンジマリンジュース」

「俺もソレで、ブラマリ2号」

「はいはーいワタシもソレー、ブラマリ3号」

「ってメイさん飲まないんすか?」

「アタボーのターボシルエットよ、メイちゃは飲むならプラロボ作る―」


(飲んだくれのイメージだった、てかさっきのブラマリってなに)

(俺もソレだ……バックパック眺めながら飲んでるイメージ、ブラマリはロンリースリーウルブズのお姉さん版だ)

(うん、酔うと抱きつき魔になるイメージ、あのマイトがたおした光るしつこい変態たちの? お姉さん版なにそれ?)

(うんうん、ってソレ俺に対してのあの人のデフォルトだぞ……。待て待て俺の大好きなブラマリについて説明すると長くなるぞ、10分ぐらい)


「こらこら小声で悪口ワタシ地獄耳ぃ!!! ってついでに何ブラマリ語ってんの! まったくまったく今日だけだからねアズマ先輩女子の生台詞は、ア、店員さーーーんこっちこっちのいのーーい」


 店員を明るいおおごえで呼んで、決めていたブラマリ3杯とおでんⅠマイトセットとおでんⅡゼキセットをご注文した。待っている間、ブラマリについての雑学仔細をグランドファンの玄人たちがビギナーの海魅に説明するように語る。やがて、オーダー通りに柑橘系の甘い匂いのする美味しそうなドリンクが先に到着し、楽しい乾杯の合図ではじまった。





 盛り上がりも少しは落ち着いてきた3人が、雑談に花を咲かせるよりも腹を満たすフェイズに入った頃に。

 月面帽子と青いロングヘアー、すらっと背の高いジャンパー姿、数度会っただけだがもう覚えたそんな特徴のある人物……彼女が、またも奇遇にもでくわしたシラガ頭の学生の元にやってきた。


「もし、白い青年残念だったな」

「あ、TOYOSHIMAさん──って」

「どれ、よしよしよしよし」

「ちょ、なんです?」

「いやか? おちこんでるとおもってな」


 彼女の存在に気付き、席から立ち上がった青年をそのままよしよしと彼女は唐突になでる。シラガの学生の彼が入賞を逃しおちこんでいると思った、それが今現在、白髪を優しく撫でている、彼女の理由らしい。


「いや、全然いやじゃないっすけど……そのくすぐったいというか」

「なにネクストミッションのアズマ先輩女子も生前は主人公にこうしていた気にするな、よしよしよしよし」

「にゃははやってる本人がイチバン赤面してどうすんのさね」

「こほん、いやももし。こういうのは慣れていない……グランドの世界の住人はたっ、たくましいものだな…」


 顔が赤らむほどに他人の頭をなでるのは慣れていないのに、そんなことを無茶してグランドネクストミッション劇中のモトコ・アズマに倣い彼女はしたらしい。

 少し顔をそむけ、帽のツバを直しながら隠れようとする様が可愛らしく。赤らみ、再現できない名シーンを再生され、絶賛撫でられていた銀河はメイとともに青髪の彼女のことを笑った。


「でしょうね、くぃーー。弟さんを元気付けるのはこうやるんですよTOYOSHIMAさん。これでプラロボ男子はイッパーーツ、ハギングクロスアームズ」

「いやっ、いやいやソレいらないやつ! ちょちょ来るな!」



 いらないノリをなんとか体の運動性を上げいなしながら……さっき撫でられ慰められている内には決まりが悪く、話し明かせなかった重大ごとを、息を落ち着かせた銀河は青髪の彼女に、真面目に報告するように伝えた。


「ハァハァまじ予想以上にあのメガネしつこいっ……────────ってことで、なんとかこの型翅の町で戦果らしい戦果は上げられました」

「なんと……いやはやそれは良かった。私もアレは入賞に値すると思っていたから報われてよかったぞ。それにしてもあの伝説のナシモ監督直々の指名とはな、すごいことだ。同時に羨ましいことだ」

「え、あははあざっすほんと運がよかったです! てかあのぉ。羨ましいといえば、TOYOSHIMAさんは今年もすごいっすね。バチバチに光るフルムーンとメラメラに燃えるマーキュリーのお化け機体対決? それが月の裏の陽の射さない場の戦いなんて、シネマみたいなクオリティーで圧巻でしたよホント!」

「うむ、うちの生徒たちは代々TOYOSHIMAの負けん気が受け継がれているからな。今年はソレを堂々とプラロボ作品に表せたかと思う」

「あはは悔しいっすけど負けました、めちゃめちゃ学びが多かったっす今回のきハル」

「うむ。勝ち負けでいうと……そうなるなふふ。学びか……それはこちらも……あー実を言うとな、いやこんなことを唐突に言うのもアレなんだが……捻くれていないというか邪がないというか、キミらカモコウプラロボ部のプラロボ作品は」

「あーたしかにそうですね。んー、もうちょっと仕掛けがあった方が良かったか……?」

「いや待ていい、そのままがきっといい! とくに校舎裏のおまけと対比にはすなおに驚かされた、それでいい! 私が言いたいのはそういうことだ。すまない、それだけは何故かキミにこうして伝えたかったんだ」


 それだけは伝えたかった……その意味がよく分からず、少し首を傾げた銀河であったが、本当に彼女がそのことを自分に伝えたかったということは伝わる。彼女の戸惑いながらも強く色づく、そのソラ色の目を見れば、彼には分かる。


「はぁ。それはどうもです、いやいやマジ光栄です! といってもアレにたどり着けたのは俺だけのアイディアじゃなくて」


 立ち話をしていた銀河部長は後ろを振り向くが、その視界の先にいた海魅部員はちくわを口にくわえながら知らんぷりしている。視線には気付いているだろうに、銀河と青髪の彼女に目を合わせようとしない。


「っておいお前部員、偉大なTOYOSHIMAさんが直々にきてんのに」

「どうぞご勝手にー、わたしおでんは熱いうちに食べるタイプなので」


 やっと目を合わせたと思えば、なんだそれといったこれまたオリジナルの台詞をはく。さらに、ひらひらと部長に左手を振っている、そしてまた新しいちくわを海魅部員は箸でつまみ頬張った。


 そんなカモコウプラロボ部部員の一挙手一投足を遠く、銀河と青髪の彼女は観察しながら……。


「はは、いや邪魔した。もしっ……またあのような気概とグランドパワーに満ちたプラロボ作品を期待している。あと、もし……この先どんな困難や辛いことがあっても、プラロボをグランドを嫌いにならないでほしいそれだけを、約束してほしい」


「ははなんですかそれ、俺辛いことなんて……ま、1回ぐらい……あったっけ? しかないっすよははは。そんなのまかせてください! また来年っすかね?」


 そう邪もなく言ってみせる彼の笑顔を見て、彼女は口角を上げ頷いた。


「ふふ、あぁ。ありがとう。あと来年ではない夏の【Cクオリティ主催シーパラダイスグランド祭】にも中規模のプラロボコンテストが組み込まれてある、そこでまた会おう。ではっ、──ばいばいっ」


 ひとつ今、青年と固い握手を。


 そうして満足気な顔を浮かべた青髪の彼女は、少し控えめに手を振り、今度はその青い髪を乱すことなく、そそくさと用のなくなったおでん屋を去っていった。


「またアナザープラロボお姉さんからのご指名だぁ、このこのくぃーくぃー」


「アナザーなんすかそれ……いやでも王者なのにさっぱりとした人っすね。なんかときどきやる台詞が、真を帯びてて、なんかこうぐっと、かっこいいっす」


「どこが? ねっちょりしてたじゃん」


「お前失礼してやっと出てきたと思ったら、開口一番またナニ言ってんだよ……」


「ふんふーん。あれ絶対モテるじゃん、モデルみたいなスタイルうらやま」


「はぁ? いきなりナニ関係ないこと言ってんだ……。そりゃ脚は長いと思ったけど」


(やっぱ見てるとこ見てるじゃん。腰下フェチ?)

(くぃー、そだぁもーずっと腰下が好きなのよ弟さん。英才教育だぁ気をつけよ)

(ふーんくぃー、へんたい。ふーん気を付ける)

(へんたいくぃー、ないないってね)


「こらこら小声で悪口ワタシ地獄耳状態は、いい加減飽きたろやめてくれェ……ってだれが腰下フェチだよっ、ア店員さーーーーん俺この【烈機(れっき)ガングロEGG】を、2つ追加でッ──────」


 「ふーふー」、追加オーダーした銀河とちょっとちょうだいな海魅は出てきた煮卵を一つずつ分け合い、いただく。

 型翅町夜のグランドスペースは夜の静寂を知らない、まだまだ活気に溢れている。グランド好きプラロボ好きのライバルたちと激闘を繰り広げた……きハルの余熱を、まだたまだ冷まし切れてはいない────────────。








 まだまだ夜は終わらない。

 おでん屋〝おとしご〟を後にしたカモコウプラロボ部の面子2人は、夜の闇にライトアップされたグランドスペースを共に探索中であった。


 というのも、銀河も海魅も忘れてはいなかった。今回のきハルで良い結末を迎えられたのも、あの人の尽力があったからだと。ミニチュア作りに「ぺったんぺったん生まれろぺったん」と勤しんでいた……道町子への土産の品を、探しに店をめぐっていく。


「おいところでマチコさんって何が好きなんだ? お礼の土産にしてもこのままじゃ選択肢が多すぎて悩むぞ難しいぞ」


「は? なんでそんな真剣に選んでるわけ?」


「いやいやいやいやあのマチコさんだろ、間違った土産を選んでみろ笑いつつもあとで微妙な顔して小声で念仏唱えてる姿が浮かぶからさ。お前みたいに勝手に自分で選んだフェアリーナイト作らせる女子じゃないだろう?」


「ふーん。ま、町子はそうだね。空気は読みまくるけど、裏じゃ考えまくってそうだし。でなんでそんな理解してんのきもっ」


「っておい!」



 午後8時頃。スマホでエリア内のマップを見ながら、まだまだ食いつくせないでいたグランドスペース道中を雑談しながら散策していた2人は────────


「弟が1人妹が1人で親は喫茶店やってる。ふーん、だからコーヒーゼリーとか好きって言ってたね、ふんふーんふむっはむっひゃむっ」


「それをここまでもったいぶって言うために、喫茶店でプリン奢らせてるお前はなんだよ……せめて今の流れじゃコーヒーゼリーを」


 海魅部員はプリン、それにアズマスペシャルコーヒーを2つ。道町子の個人情報を話すことと引き換えに、銀河部長に海魅部員が指差し訪れた喫茶店で、それらの夜食と一杯を奢らせたのであった。

 ぱくぱくと海魅が銀のスプーンで食していくのはカラメルが上になった喫茶店のプリン。レトロ感のある銀のアイスカップにのせられた剥き出しのプリンだ。


 カウンター席にともに腰掛け香り高いコーヒーを一杯ともに飲む。夜の喫茶店〝だーじりん〟は大正ロマンあふれる内装で、どこか落ち着いた雰囲気を訪れた客に感じさせる仕上がりになっている。


「ふーん、当然。情報料(わたしプリン勢力)」

「ってお前の友達の土産って話だろこれ(そんな勢力あるかっ──あるか?)」

「ぶちょーの部員じゃん」

「そ、そうだな? って部員じゃねぇー!」

「え、ひど? あんなに町子とぺったんしてたのに」

「マチコさんとぺったんってなんだよ……いやそれはそれは誠にマジ感謝しかなくて、現在感謝を込めて何故かお前に振り回され喫茶店でこうしているわけだが」

「で、決まった?」

「だからお前の友達だろ。決まったもなにも、喫茶店の娘でコーヒーゼリー好き……。マチコさんがまさかの喫茶店の娘か……それはもうアレしかない」

「あ、これなに」

「おい! 話を振ったくせにっておー! それはアズマ女子先輩のパーフェクトグランド(苺)だな? あっ、驚けこれもとはグランドⅠらしいぞ。まさに俺たちがきハルで作った。縁があるな!」

「え?? ふざけすぎて原型とどめてなくない?(なんで苺パフェみたいに?)」

「その通り。まぁネクストミッションはまじで今までのグランドと良くも悪くも毛色が違う作品だからな。機体は少しばかりはっちゃけたヤツも多いんだ(パーフェクトでアズマ女子だからパフェ)」

「ふーん。てかなんでプラロボが喫茶店のメニューにあんの」


 銀河の話を流し聞き、海魅が何の気なしにメニューを開くと、そこの最後のページに載っていた。赤と白と黄色いスポンジの配色が目立つ見たことのないグランドロボットのプラロボ製品。

 そのページを再度指差し、海魅は訝しむ表情で固まり、部長にいつもの気の利いた説明を求めた。


「ふふふそれはそれはなんででしょうね……マスター!」


 銀河はここで、暇そうにしていた着物姿の喫茶店のマスターに話を振ってみた。


(このグランドスペースで商売している人は〝うおたら〟のキールさんキーラさんみたいにすごくグランドに詳しいはず! それはそれはきっと何度もこの手のことは客に聞かれたことがあるだろう! それこそ耳にタコと、マニュアルができるほどに)


「…………」


「「…………」」


「……………………かう?」


「「……!」」


 垂れ目気味で目元にほくろがひとつ、枯草色の髪をおさげ気味にまとめ、深緑色の着物姿をしている。そんな、青年がその特徴を隅から隅まで覚えれるほど観察できた喫茶店の女性マスターがいる。

 まじまじとながながと銀河が期待するよう見つめながらも、その人物から発されたのは、「かう?」のひとこと。

 ほんのぼそりとつぶやく声が落ち着いた……落ち着きすぎた店内にながれた。すぐにその魅惑のか細き女性マスターの声を、ジャジーなBGMが覆うようにかき消していく。

 「そういう人もいるものだなぁ……」と心の中で納得しつつ、銀河と海魅は会計を済ませて店を出た。

 その際「かっちゃった?」などとマスターはまたぼそり言っていたが、ここで〝かう〟人がよほどいないのか。色々と余って困っていたアズマ先輩女子に関する特典を、2人の客に、惜しげなくおまけしてくれたようで……。


「ネクストミッションアズマ先輩……おれはかうよ……」


「なんなのその目……その台詞……」


 グランドネクストミッションの頼れるアズマ先輩女子専用パーフェクトグランド(苺)130分の1スケールのプラロボを大事に袋に持ち。意外な寄り道の末、カモコウプラロボ部2人の目的は達成されたのであった。


 その後一度お世話になったホテルノアに帰り、各々の荷物を受け取った。夜はもう遅く、遊び尽くした型翅町グランドスペースにやりのこしたことも思いのこすこともたぶんもうない。


 そしてありがたい先輩とはアニメの中のアズマ女子だけではなく、帰りもスマホで連絡を取り合い合流したメイさんの車で銀河と海魅はお願いすることになった。


 きハルにエントリー出展したプラロボ作品は持ち帰ることもできるが〝うおたら〟にそのまましばらく展示を希望ということで申請。カモコウプラロボ部の2人と共に戦ったキールさんとキーラさんもそれを快く望んでいたようだ。



 スベテをまとめた黄色いワンボックスカーはやがてゆく。

 入場するときに堂々と突っ立ち迎え入れてくれたほぼ等身大、グランドロボットたちのアイカメラの光が、カラフルに、流れていく。


 車窓から覗く夜空星々とグランドロボットと、そしていつまでも変わらない夕焼けと夜の90分の1グランドⅠをのこし……。

 激闘を経験したはじめてのきハル、その舞台グランドスペース型翅町から加模橋市まで黄色い車は走り抜け。カモコウプラロボ部一行は無事、帰還を果たした──────。






▼▼▼▼▼

▽▽▽▽▽






 翌日。


「失礼します!」

「失礼しまーぁす」


 校長には彼らから直接きハルの結果を報告する、ということで、こうなった。浦島部長と佐伯部員はそれぞれちがう緊張の面持ちで、校長室の中までやって来た。

 はじめてのきハルを終えて、はじめてうかがう校長室へと。


 入室したやはり緊張の中、2人の足取りはもう偉大なる机の前、もう見慣れたサンドカラーのスーツ姿の前へと。

 そして、入賞を逃したこと、だがしかしその後に予期せぬ福があったことを包み隠さずに、その経緯仔細までをプラロボ部の部長は校長先生へと真面目に報告をし────。


「ふむ。よくやったな」


「あざっす! あ、ありがとうございます!」

「ありがとうございますぅ」


「それはそうとして浦島銀河、お前が取ってくると言い私が取ってこいといった最優秀プラロボ作品賞はどうした」


 高そうなチェアーに座る校長は、右拳を左手でつつみ両肘を机上に置いたその渋い格好で……浦島銀河の目を鋭く瞬きもせずに、睨みつけている。「よくやった」そうおっしゃった後の、その並々ならぬ圧を放つ校長の様相を見た、銀河は──。


「え、ええええ!?? いやいや校長それはッッッ、今回のTOYOSHぃ」


「冗談だ」


「ここで校長の冗談……まじ心臓に悪いっすよソレ……はぁあ。ってお前もなんかしゃべれ、新入部員っ」


 校長の冗談発言に胸をなでおろし銀河はほっとしたものの。ここまであまり喋らず置物同然になっていた女子部員に、部長は額の汗をぬぐいながらも、話を振った。

 いつものようにシラガ部長に任せればいいと、特に喋る気のなかった隣の海魅部員は求められ、少し悩んだ末──こう、お決まりでお気に入りの一言を添えた。


「冗談は冗談」

「おいなんでだあああ」

「痛たっ、ぶちょーにはじめてツッコまれた(女子のアタマなのに)」

「おい、俺のお前に対し費やした労力は今がはじめてどころじゃねぇぞ(ツッコミにも失礼にも女子でもは関係ねぇ! ヘッドパーツはお初だが)」

「フッ。冗談とは佐伯海魅部員、ちがった佐伯海魅。キミはまず正式な入部届をこちらに出すべきだな」


 アタマを何度も大袈裟になで、損傷がないか確認する佐伯海魅部員。

 ふざけた迷台詞を発したあまのじゃくヒロインをキッチリと叱る浦島銀河部長。

 そしてサンドカラースーツを着こなす、くまの深い校長のその眼が〝佐伯海魅〟のことを微笑から真顔に直り、見つめている。


「……は?」


「んぎっ!? そーいや……」




 この後、キッチリとした加模橋高校プラロボ部への入部届は校長に受理され、生徒1年2組佐伯海魅はプラロボ部の正式な部員となった。


 だが、彼女は怒りの矛先を報告を怠っただらしのない彼に向ける。きちんと、プラロボ部部長にも彼女がプラロボ部に入部したことが受理されるまで〝うみーみ入部届キック〟を繰り出しつづけたのであった。


 何はともあれ紆余曲折、様々な人との出会いを経て──

 後にカモコウプラロボ部のあの夕暮れの校舎とそこに佇むグランドⅠのプラロボ作品は、雑誌である月刊ロボット王国ジャパンの表紙裏表紙を予定通りに大きく飾った。



(これで、わたしたち加模橋高校プラロボ部の第11回アオきハル編は終わった。優勝!! とまではいかなかったけどよさげな喫茶店のプリンもただで食べれたし。まだまだMAXピンピンとまではいかないけど────あの日ころんで、あの日見つけた……わたしのアオハルレーダーは間違っていなかった、──みたい?)

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