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第8話 TOYOSHIMA×URASHIMA

「なんか気晴らしにスカッとしたくない?」


「気晴らしにスカッと? したいな!」


 気晴らしにスカッとしたい。部室で話す青春真っただ中の学生2人にとって意味するそれは──テニス、スカッシュ、ボーリング、ケーキバイキング、クライミング、カラオケ、鬼ごっこ……ではなく。




▼▼

▽▽




「えっ!? やばア!」


 ドッグキーパーにより背後から不意打ちで放たれたリードつきの電撃クビワは、前の敵機に夢中だった純白の機体フェアリーナイトを目掛けて飛びゆく。


「飼い慣らしてるのはこっちだ、部長が部員をヤルかよ! っし──後ろにも耳をつけないとダメだぞビギナー!」


 僚機の危機を予期した剣は斬り裂いた、クビワは爆散し、隙をつくのが得意な敵の思惑も打ち砕く。灰色の機体リバーシはフェアリーナイトの動向にも視野広く目をつけ、浦島銀河は部長らしく玄人らしく部員を叱責&サポートする。


「そんなのッどうすりゃいいの! はああああああああ」


「ははは……知らないっ! うおおおおおおおお」


▼難易度☆☆エリア8822▼にて


 殺風景なスクラップ広場で放し飼いされジャレてくる、見慣れた犬メタルドッグとドッグキーパーの軍勢を、協力し合うリバーシとフェアリーナイト2機のグランドナイツは剣を振るい、マジックを撃ち、敵勢が寄せるより素速く倒していく。


 スカッと敵機を撃破しながら、虹色のピースがパイロットの笑みとともにはじける。自由に思考し巨体が自在に躍動するプラロボバトルは、放課後の青春真っただ中に────。



▼▼

▽▽



 気晴らし流した汗は持参したタオルで拭き取る。おでこに冷えたマジックシールを貼り、いつものようにクールダウン。


 アオい梯子を降りたさき、下の部室に戻り銀河と海魅の2人は作業を開始した。


「なにやってんの?」


「あぁこれはプラスチック粘土、数が必要になるモブの人物を作るのはこれでやるぜ。小さいから顔よりポーズに注力するつもりだ」


「できんの?」


「できる、俺はこれと針金と彫刻カッターでフィギュア化してないヒロインを高クオリティの美麗なディテールで何体か作ったことあるぞ(なんでか細かいのは昔から得意だ)」


「えそれって違法じゃない?」


「……? って! いやいや売ってない! 断じて売ってない! あくまで自分用だあああ」


「ふーん自分用ふんふーん自分用フェチ」


「そのフェチもへちまも疑いもやめてくれ……幾つのフェチへちま持ちだよ俺は……」


 プラスチック粘土を用いての子供大人モブたちの制作作業。粘土をこねてシリコンの人型の上に適量なじませ、もう一方の対になる背面のシリコン型を合わせハメる。

 そして彫刻カッターで不恰好なバリを取り、部長の手により綺麗に(かたど)られて生産されていくミニチュアたち。


「型つかってんじゃん、息巻いてたのにインチキじゃない?」


「できる能力をもっていても、楽するとこは楽すんの! サイコー文明の利器! 生まれろぺったん! ははははは」


「ふーん、かして────ぺったん! ……ふふ」


 ぺったん、ぺったん、怪しい生産工場で、不気味に笑いあう白髪と黒髪の巨人たちは、小さなニンゲンの量産体制に入った。





 そんなこんな……打ち立てたアイデアや見通しが繋がり、上手くすべりはじめたプラロボ作品制作の日々。1日また1ページ気付けば夢中に、プラロボ部の2人は、めくり、走ってゆく。


「人間によるニンゲン作りは一旦おいといてっと」


「もしかして時間ないの?」


「いーや。プラン通りだ。学校の方は元から作っといたヤツがあるから工程をすっ飛ばして、これを一緒にカモコウバージョンに改造しよう」


「またラクしてんじゃん。──うん、なら撮影じゃないぶちょー。写真」


「ん? そだった! そだな! それがいい、じゃあ……れっつら」


「「ごー!」」


 現在プラロボ作りに必要なものは、通い慣れているはずが正確には不足している写真資料だ。部活棟を飛び出して浴びたシチュエーションは奇しくも完璧、夕暮れ時のカモコウの写真をスマホ内蔵の高性能カメラでプラロボ部の2人は撮り合う。


 校舎屋上に上がったシラガのサムズアップ。地上でこたえた青目のピースサイン。夕暮れにたい焼きを食らう女子。余りの尻尾だけをもらえてグラウンドに唖然と立ち尽くす男子。


 結果的に、興が乗り撮った何十枚もの写真資料は集まった。さっそく2人は部室に戻り手作業に移る。


 いらない外観シルエットをはずし削り取り、用途便利な市販のプラスティックブロックパーツを足し、アニメの校舎を自分たちの通うカモコウ風に補強・拡張していく。


 工事は続く、最後にすこし田舎の校舎風のくたびれたグレーに塗装し仕上げる。


「わざわざ汚しちゃうの」


「カモコウだからな」


「たしかにカモコウ」


 ノートパソコンに取り込んだ幾十枚の写真資料から導き出された加模橋高校の校舎3Dモデル。それと同じく、新たな写真資料を取り込み照らし合わせるは、現実に自作したカモコウの改装改造プラモデルの3Dモデル。


 特別なソフトで照合し一致度を測る────「82.2%」。まずまずの出来と言える数値に、苦労を共有した2人はにんまり。愛着のある地元のカモコウの校舎その姿が、どっしりと、プラロボ部の作業台上に聳え立つおおきなプラロボアートとなった。



 もっと一致度を上がるための校舎のディテールは後に取り置き、また着手し着実に完成していく90分の1グランドⅠのプラロボ。忘れてはならないこの作品の主役機、メインディッシュを、プラロボ部の2人はピッチを上げ同時にクオリティも上げ作業に取り掛かっていった。


 放課後の狭い一室に白熱集中の空間が出来上がる。


 ニッパー、カッター、ヤスリハイ、全てを駆使し白い機体のディテールを部長と部員が分担し、なめらかに仕上げていく最中。外側にカールしたショートカット……そんな未確認シルエットが、すこし開いていた部室のドアからこっそりと侵入した。


「おっすマチコでーす」


「おっす……って急にだれだマチコだれまちこ??」


「町子は町子じゃん」


「「ねー」」


「ねー、っておまえの知り合いかよ……おっすよろしく(そういやよく一緒にいた茶髪の人だな)」


「おっすどもっす! ふふ! わーここが噂のプラロボ部、シラガさんはここの部長なんだよね?」


「『見りゃわかる!』 だって町子」


「んなこと言ってねぇ……。あーそうですプラロボ部の部長をやらせてもらってる1年1組浦島銀河だ。今日は見学か? わりぃけど今珍しくも絶賛忙しいぞプラロボ部部長は」


「おー、あちゃー、私ってタイミングわるいねっ。まさにそんな様子だーー。いいよいいよ勝手に見学しとくから、私マチコさんのことはかるい空気とかケサランパサランだとおもってて、ところで何やってんのこれうーみん、てかこれカモコウ!?」


「カモコウだぞ、ハハわかるぐらいに高クオリティで安心した(けさらんぱさらん……うーみん……新しい機体とマジックか?)」


「えーー学校まで作ってんの、うわすっごレベル高っ、えーーこれカモコウかんげ」


「はい町子」


「き──ん? なん? なに?」


「……あー」「うん」


「「生まれろぺったん」」


「うまれろぺったん……?」


 黒髪青目のご友人、うーみんに平然と渡されたのはシリコンの人型。なぞによごれたあとのある制作ツールを受け取った見学者のマチコは、何がなんだかさっぱりわからず、視界で不敵にニヤけるプラロボ部の2人の顔を見返した。





「なぁこいつも混ぜてもらっていいか」


「ええー」


「ええー、って」


「まだ居たんだ黒と金のソレ、【転びキング】」


「ここまでひどいな、ひどいぞっ! って【転びキング】ってなんだよ! 【インフィニットフル」


「そんなの入れたらテーマ変わらない?」


「パッ──そんなの扱いは心外だが……大丈夫だサイズ的にもメインではない。裏庭の切り株に腰掛け供える程度の味付けだ。それにな、せっかく簡易プロジェクターを使えるってことで、すこし製作中に思いついちゃったことがあってな!」


「んーー、邪魔だったらどかすけど、おっけーシラガぶちょー」


「おーー、シラガ、邪魔にならないようがんばる! っしゃー!」


「メインは普通のこの子とわたしのライバルのマイトだからね、思いつきで邪魔しないでね」


「わかってるって! ってガキたちも忘れるなよ?」


「ふんふーん、だいじょぶアレがいる」



「ぺったんぺったん……ウマレロぺったん。──ぺったん……ぺったん……うま」



 部員と部長が談笑している間にも、海魅の友人でお手伝いのマチコは、場の空気と気配を同化したように「ぺったんぺったん」とつぶやく……綿毛のようなケサランパサランというよりは座敷童のように。

 粘土を模りバリをカッターで取っていく。夢中集中作業する量産体制の呪いにかかり、プラロボ部を、そして友であるうーみんを助けるために居合わせた彼女は無心に働きつづけていく。


「町子はぺったんぺったん空気を読めるからねー、勝手にやれる子だから心配しないでいいよ」


「説明要らずの有能クルーがこの船に乗り合わせてくれたのは助かるけど……。なんかヤってる目が……独特だなおまえの友人マチコさん……」


 きハルに向けて──組み立て、積み重ねて、かたどり、彩っていく。プラロボ部の部室で過ぎ去っていく若き学生たちの日々。一瞬一瞬ひとパーツひとパーツ、戻れないアオきハルと堂々と立つカモコウのグランドⅠに懸けて────────。







「そういえばグラウンドの土ってその土使うの? 土って汚いけど大丈夫なの?(ミミズとかいない?)」


「あぁ特殊合成樹脂だからそれ、ようは微細なプラスチックの土だから大丈夫だぞ(ミミズとかはいないネクストミッションの校舎を改造したから設定的には地下にメダカはいるが)」


「ふーんプラスチックなんだ、知ってたけど」


「さっきの感じじゃ絶対しらんだろ……ほらこれその特殊な土袋だ、とりあえずカモコウ校舎周りのディテールを上げてくぞ」


「うん。よし町子たのんだ」


「マチコさんはあの様子じゃダメだ」



「ぺったんうまれろぺったん……おとなぺったん、こどもぺったん、おじいちゃんぺったん……いぬぺったん、からすぺったん……すずめぺったん」



「やばっ神様より忙しそう、てか人口増えすぎてない? めっちゃこなれてるプロかな? なんか知らない型までふえてるし」


「日曜日はその辺の神様も休みだからな……何人いても困らないし刺激せずまかせておこうぜ……。職人(プロ)だな。すずめまではいらないが……なんか買い足してる……」



 銀河と海魅の2人は神様の創作活動に夢中なマチコをそっとしておき……。特殊合成樹脂の土をちりばめ、纏まるよう糊付けとヘラでのグラウンドの整地をしていく。技術進歩したという設定で電柱はなしにし外観をすっきりさせ楽を取る。その他、フェンスや茂みなど必要な部分をしっかりと作り、作品の舞台を細かく肉付けしていった。


「────え、リバーシもあの転びキングといっしょに出すの?」


「ん、あー。うん。──って転びキングじゃないぞ…インフィ」


「わたしのフェアリーナイトは?」


「ニッ──ダメ、テーマから外れる」


「はぁ?」


「ははは、校舎裏(こっち)は玄人のセカイだから!」


「アブノーマル」


「それは否定できん、とくにインフィニットホークのパイロット、キーン・クロウさんは」


「それが名前なの……金太郎みたいでださっ」


「それも否定できん、ははは」


 おまけである校舎裏の緑ときりかぶのセカイも完成へと向けて……。自称玄人の彼はリバーシとインフィニットホークの2機を、そっとそこへ腰掛けさせてゆく────







 そして時は過ぎ……。同じ方向────きハルへとむかう青春の数10のページはいつの間にやら捲られていき。


「予定より大きくなったな」

「ふーん、まぁまぁ……できたじゃん」

「だな! 今思えばどこからこんなグランドパワーが湧いてきたのか」

「そりゃーヒロイン」

「……突っ込む言葉は無限に湧いてくるが……」


「ふーんてかエントリー。締め切り1日前だったんだけど」

「そうだな、間に合ったぜ!」

「そうじゃなくない」

「……はい。マァマァ! 納得のいくところまでできたし」

「そんなことよりはやくくぃーってしてよ」

「おうっ! ってくぃーはやめろ。じゃあいくぞクリック、エントリーーーー!」


 ふたり見つめるノートパソコンのモニターに、マウスのクリック音が鳴る。出来上がったプラロボ作品の写真と用いたプラロボキットや材料の情報資料を送信し……アオきハル第11回プラロボコンテストへのエントリーを加模橋高校プラロボ部は無事済ませた。


 アースカラーのソファーでめいっぱい伸びる部長と、ソファーの左に全身で倒れ込むように座る部員は今、目を合わせて。あふれる笑いをこぼしながら、左と右の手のひらを高く「バッチリ」と、音を立て合わせた。





 もうやり残したことは何一つないない。迎えた当日午前7時。


 架模橋市からいよいよ【きハル】が開かれる場、東京の型翅(かたばね)町まで電車を乗り継いで向かう手筈であった。段ボールに入れたバラした大荷物を2箱、リュックを背負う2人の白い制服姿が、いざ、校門まで向かおうとしたところ。


「このレベルミッションまでよくきたね後輩くん」

「ってなんでメイさん……それネクストミッションの……」


 銀河と海魅2人が重みのある段ボールを持ち運びながら歩いた前、そこにいた例の店で見たことのある緑エプロンに赤髪ポニーテールに眼鏡、店での恰好そのままの目立つキャラクターがいた。


「アタボーじゃない、アタボーのグランドⅢターボシルエットよ! ここで来なきゃなんのためにプラロボ女子何年もやってんのさね!」


「いや知らないっすけど……」


「とにかく乗った乗ったぁ!!!」


「え、いんすか??」


「いいみたいじゃんっふんふんラッキー」


 「私についてこい」と言わんばかりに車の鍵を得意気に見せつけ、突っ立つ若者たちをうながす。そんな赤髪お姉さんメイ店長の誘いをためらうことなくありがたく受け入れ、銀河と海魅は後をついていく。


 そして、カモコウのプラロボ部生徒たちは黄色いワンボックスカーの後ろに大事な荷をしっかりと運び込み預け、それぞれ車内の前と後ろの席に乗り込んだ。


「ところで何を作ったのさ? プラロボお姉さんはずいぶんもうけさせてもらったけど」

「当ててみてくださいよ」

「グランドⅠで裏山ピクニックするマイトくん!」

「正解じゃん」

「いきなり正解出たな」


「のいのおおい違うでしょ! おそらくゼッタイに違うよっ? へたなミステリーのこされてお姉さんの運転が荒くなったらどうすんのね!」


「遠からず近からずだよな」

「うん、カラメルバッチリ」


「それで会話になってんのぉキミたちぃぃ、のいのーいトバしてくよおおじゃぁグランドⅠとカナカ────────」



(さぁいよいよ始まるぜ! はじめてのきハルがっ!)


(いよいよはじまるみたい、ふんふーん。はじめてのきハルっ!)



 雑談をトバしながら加速していく────学生の青春と時間と情熱と……プラロボと。すべてを積み込んだ黄色い車は軽快に走り、東京都型翅町、きハルの開かれるグランドスペースを目指した。







『ぺったん、ぺったん……うま……うぅ……うーみん……シラガぶちょうさん……まちこさんもうにんげんつくれない……ぺたん…………すずめ……うぐい────────』


 創作活動に夢中になり熱入りダウンした同学年女子、道町子(どうまちこ)のミニチュアの思いも載せて────────









 黄色いワンボックスカーに積み込んだ何もかもは、型翅町(かたばねちょう)へと到着した。


「おーい部員さん、ってなんで寝てんだ! おおおおいついたぞー!」


「────────……ふにゃ? ──うん、運転が上手かったからつい」


「くぃー、ほめられたねぇ」


「なんか寝る前に考えてたくさいな……」


「ふんふーん、ごろろーん」


 東京型翅の道をゆく、見たこともない景色は広がる────が、特に見どころのないつまらない景色だ。佐伯海魅の青いアイカメラはむすっと半開き、ここがプラロボ好きの玄人たちがすごいすごいと噂するグランドスペースなんてたいそうな場とは思えない。


「ついてないじゃんグランドスペース」

「そろそろつくから起こしたんだよッ」

「ふーん……ところでグランドスペースってなに?」

「部長さんにかわり説明しようっっグランドスペースとは昨今すっかりさびれちまった型翅の商店街周辺丸々を中心に、生みの親会社Cクオリティや関連企業がのっかって乗っ取った世界で唯一のグランドのための広大なスペース。アニメグランドシリーズを使っての盛大な町おこし&テーマパークみたいなもんくぃーー」

「ようは日本にひそかに爆誕したグランドプラロボ王国だな。グランド関連グッズならここに来れば全部そろう、ここでしか手に入らない限定品限定プラロボも多いからそれも秘かにめっちゃたのしみだ! ア、お前もいろいろほしいものあったら遠慮せず言えよ!(プラロボだったらおそらく部費でもいけるぞ)」


「ふーん」






「「……それだけっ!?」」




▼▼▼

▽▽▽




「えっ、これがうそ? グランドスペース?」

「のいのいプラロボ女子ちゃんうそじゃなぁい」

「うそじゃない冗談だ! 型翅町グランドスペースへッ」


「「ようこそおおおおおおおおおおお」」



「じょ、冗談でしょぉ…………じょーだん……」


 高くそびえる2分の1グランドⅠグランドⅡの向き合う門をくぐり、

 また未知の世界への門をくぐる。プラロボ界に迷い込んで数日の妖精を乗せた黄色いワンボックスカーはゆっくり、最高の景色の中を走りゆく。


 窓から風に流れてゆく海魅のブルーガーネットの輝きが、つぎつぎとご苦労にも歓迎する歴代の機体たちを眺めていく────。




 午前9時52分。一行は無事ついに【グランドスペース】にたどり着き、その広大な敷地の中にある指定の貸し切りホテルへと入場し荷を運び終えていた。


 着々と【きハル】本番に向けての準備がすすみ熱気が静かに高まってきた雰囲気の中。まだ時間に余裕は十分にあるということで少し外の空気を吸いに、浦島銀河部長は理由をつけ、ホテル外へとワクワクの心で繰り出していた。


 外へと飛び出した銀河の視界には、グランド関連施設が立ち並ぶ。さっきのホテルでさえ、彼が水の星のグランドで何度も見た母艦ノアをその内部構造まで模したものであった。とにかくこの町はすごい、おかしくてすごい、おかしいからすごい。まさにグランド王国、グランドスペース。カラフルで角ばっていて近未来的でポップでファンタジー。


 特に目的もなくそんな夢のようなステージに一員として溶け込み、浦島銀河がぶらり散策をしていると、


「むっその顔」


「おっなにか?」


 もとの商店街の名残がある人の往来がぼちぼちの一本通りの道端で、彼は不意に見知らぬ声に呼び止められた。


 月面を模したグレー色、そんな変わった色合いとデザインのツバ付き帽を被る、青髪ロング。シンプルな黒いジャンパーと黒いボトムを着、モデル並みに背丈が高い。そんな女性とおもわれる人物に突然、銀河は目をじーっと合わせられている。そして────


「グランドカードバトルだ白い小僧!!!」


「はぁあ!???? なんで!!!?」


「なんかわからんが無性にイラつく!!! お前の面を見ていると、ふつふつと遠い怒りが沸き上がってきたぞおおお!!! 滅ッ!!!」


「ええええええ!!!?」


 青髪の女の左は力強く指を差す、道端に突っ立つ白い小僧に。彼女の右手はジャンパーのポッケから取り出したグランドカードを彼というお相手に見せつける。


 形相は何故か怒っている、そうとしか言えない。青い女がグランドカードバトルを白く目立つ浦島銀河に、道端で堂々と仕掛けてきた。



 午前10時23分。さっそく共に移動したゲームセンター内でバトル。圧放つ眼が合ったからには逃げることはできない……。近場のゲーセンに連れられて、こんな時間に負けられない……グランドカードバトルを彼を彼女も熱を入れてプレイした。



王道好きグランドナイト〇vs●駿河燕(するがつばめ)バーニングマーキュリー


・きまりて補助カード 【HP7%以下・グランドパワー全開】カウンタートラップ発動

・きまりて技カード 【グランドナイツソード・兜割】跳うしろ・ムテキむしをむし


・がんばった補助カード 【大気もなくぅっ人の住める星でないのならぁぁぁ】ワイルドカード

・がんばった技カード 【マーキュリぃぃぃバーニングっ!!!】突・ムテキむし



337連勝ちゅう


このたたかいのデータをもちかえる? YES/NO





(ひさびさだったがギリ勝ちだったか……。ふぅぅ、勝ち負けじゃないけど勝つってやっぱいいな)


 これ以上はノーサイド、グランドカードバトルには敗者も勝者もない。反抗期のマイトパイロットのようなゲーム内ゲーム外の煽り行為は御法度である。


 対面の筐体でそれぞれモニターとレバー、操作ボタンを見つめていたプレイヤーのお互いは出てきて歩み寄り。青髪のオンナは地表まで吹っ飛んだ月の帽子を拾い上げる。白髪は思いもよらぬ熱戦の汗で銀色にきらめき。


 そしてお互い今回メイン使用したグランドロボットカードを名刺代わりに交換し見せあった。


「まさか67連勝中の私とこの機体が負けるとは……うむ。さっきは取り乱してすまなかった。最後のグランドパワー全開の背面カブトワリは予想できなかった。お決まりのENメルトキル水星の地熱で逃げ回られる前にこのまま劇中のように一気にそちらを焼き尽くそうと思ったが、まさか一瞬でこっちの25%をもってかれるとは、さいごのGPの差があだとなったか……」


「いえいえ、たのしかったんで。なんかお互いの駆け引きが妙にハマっちゃいましたね。ガンガンいかざるをえないマーキュリーはENメルトキルでGPが空になりやすい機体性能ですし。こっちはグランドパワーMAXイチゲキ王道カウンタースイッチ戦法なんで」


「きいたこともない戦法……柔軟性でも負けていたか悔しいがいやはや見事。──もし……これはそうとう古いカードだな? あんなに剣を鍛え上げられたグランドナイトと戦ったことはなかった。いい経験になった。だがこれでまた私のマーキュリーは強くなれる新たな改造プランが見えてきたぞ」


「あーこれは……なんでか持ってた俺の唯一のお宝ナイツなんでははは(敗北を糧にして改造プランを提出するのはインフィニットホークのキーン・クロウさんみたいだな……。なぜ最強天才のマーキュリーあやつるタイキちゃんが……って思い付きの野暮に突っ込むのはよそう)」


 さきほどの手に汗握るバトルの感想戦を終え、お互いのカードをお互いの元へと返し、目を合わせた。向き合い突っ立つ浦島銀河は全高175cm程、彼女はそれよりも背が少し高いようだ。銀河が色褪せたグランドナイトのカードを財布の中に仕舞おうとしたところ、女性にしては低く魅力的な声が問うた。


「ふむ。もし……お前はきハルに参加するのか」


「ん? アはい、そのために型翅に来たんで」


「そうか。それは。ただの寄り道の運命だな……もしっ────」


 高くかきあげた青髪はなびいていく、いいせっけんのニオイがあたりに散布する。さっきまで見せていたジャンパーの前は黒い裏側か、今、彼女の見せる背は一瞬、光り当たる月面の模様を表していた。


 去りゆくその背には青く【TOYOSHIMA】と書かれていた。



「TOYOSHIMA……あのひとが」



 また重力に引かれて青髪は密となおり、その青い名は青く隠されて見えなくなる。女はそれ以上彼へと振り返ることなく、静かにゲームセンター内から出ていった。




マーキュリー:

水星の空中ラボ、通称ベランダで開発中の試作新世代バッテリーを積み生まれた奇跡の機体。

最大の売りはENメルトキルという超高温バッテリーバグを意図的に機体回路、天脳システムを介し外部へとコントロールし引き起こすことにより、機体に安定し纏い得られる膨大な熱量とエネルギーである。

元は世界政府軍のマーズシリーズに代わる次世代量産機として開発されていたが、予期せぬ技術バグ、エネルギーバグが起きてしまった。その失敗したが再現性のあるデータを引き続き取るために、水星で生まれた試作機マーキュリーは何の運命か戦い続けることになる。

メルトキルを発動するとタイキシステムというシステムで全身を保護膜が覆い、機体が青く燃える。青い炎を纏ったマーキュリーには何人もどんなグランドロボットも近寄ることはできない、とてつもないエネルギーを放出しつづける。

欠点としてバッテリーが空になった機体マーキュリーは、力果て干からびたしわしわの老人のようになるが……。

そんな試作機マーキュリーのパイロットは水星中天都市すいせいちゅうてんとしウォタラDOMEに住んでいたタイキ・ララ。

マイトに次いで彼女にしか動かすことのできないこの機体込みで、シリーズ最強との呼び声が高いパイロットである。








▽ホテルノア 待機室203▽にて


「はぁ? 遅いんだけどメイちゃに最終調整手伝ってもらってたんだけど」


 カモコウプラロボ部のために用意された待機室で、待ち受けていた部員の青い視線が痛く彼へと突き刺さる。慌てた様子で遅れてやってきたシラガ部長は、右手を顔の前に垂直に立て申し訳なさそうに登場した。


「ごめんごめん目が合ったらグランドカードバトル仕掛けられてさ、ってメイチャだれメイチャ?」


 メイチャはいない、メイチャなどと名乗るクルーはこのホテルの部屋にはいない。部長の視界に今居るのはいつもの白制服いつもの青い目をした女子部員と、完成しつつある加模橋市から持ってきたプラロボ作品の四角い透明ショーケース、そしてメガネの……だけである。


「メイちゃだよっ!」

「げぇ冗談は冗談……」

「あははははメイちゃだよオ兄ちゃん【ハギングクロスアームズ】」

「ひゅあっ!? ぐがぎげぇえええええええ」



「ってほんと本番前に俺の腰パーツ破壊しないでくださいいてててて……」


 赤髪のお姉さん店長にぎゅっと後ろから抱きつかれ、きしんだ自己の腰パーツを銀河は大袈裟にさすり、受けたダメージを冷ましていく。


「相変わらず腰マニアだねぇ」

「やっぱ腰フェチ」

「ただの俺の中のルーティンなだけだから……腰パーツから作んのは…って今関係ねぇだろ」


(やっぱへんたい?)

(へんたいだぁきをつけようねプラロボ女子、くぃー)

(うん、くぃー)


「こらこら小声で悪口ワタシ地獄耳状態いいいいいいい! よからぬモノを共有するな。あとくぃーをやめろ、ぜってぇ流行らせねぇぞ!」


 女子たちに小声で聞こえるデジャブのような悪口をたたかれるが、気を取り直し浦島銀河部長は作業に取り掛かった。


 そして、ひまらやの店長メイの手助けもあり、加模橋高校プラロボ部のプラロボ作品は現地にて組み立てられ各々に納得のいく最終チェックを経て────────完成した。


「にしても後輩さんがまさかこんなものを作られるとはねぇ、まぁ予想通り? いや、ないないってね……にゃはっ」


 青い布のブラインドで覆われたショーケース内のプラロボ作品は、きハルのイベント係員が後で取りに来てくれるということで。最終調整作業を終えた海魅部員は遅ればせの登場をした銀河部長に倣い……「わたしもハジケて遊んでくる」といいのこし部屋を抜け出した。


 余った大人女子と若者男子の2人は玄人好みの雑談をしながら、割り当てられた待機部屋の外へと共に歩いていった。


「おやおやもし、さっきの白い子じゃないか」


「あっ、さっきはどうも」


「おやおやっ弟さんしりあい」


「あーっと、さっきグランドカードバトルで遊んだ人っすね……」


 廊下に出てメイと銀河が並び歩いていると、そのタイミングですぐ正面からやってきた、思わぬツキに衝突してしまったのだ。あの外のゲームセンターで銀河が見かけたときと同じ格好をした月面帽子を被る背の高い青髪さん。シラガ頭と白いカモコウ制服、白づくめの姿をした彼にすぐ彼女は気付き、今度は穏やかな様子で声をかけてきたのであった。


「ほーほー。これは弟さん保護者として見過ごせませんなぁ。怪しい人は」

「もーし、怪しいものではないですよお母様」

「くぃー、お母様として偵察とは感心しませんが」

「もーし、偵察とは人聞きの悪い。天と天に導かれたただのデスティニーですよ」

「くぃー、それは悪天あくて」

「もういいかなっ! 滅茶苦茶中身のない会話してますよお姉さんら!」


 ありえないぐらいスムーズに勃発した女同士の中身のない会話劇に、シラガの男子はこの延々とつづきそうな中身のないものを終わらすために突っ込まずにはいられなかった。


「もしもし失敬……何を作ったとてこのTOYOSHIMAには敵わない。それを今一度白い髪のお前に知らせたかったのさ」

「のいのい失敬な、またレベチでぶちのめしてヤリマスよTOYOSHIMAさん。その洒落たキャップパーツぶっ飛ばしてないないってね」

「まただと? もし、初対面でそのような妄想癖もちとはもしショックでそのお洒落なメガネパーツがカチ割れてもしりませんよ?」

「ちょとちょとほんともう廊下後ろ来てますからっ」


「メイさんも見え透いた挑発に乗って変なこと言わないでくださいよ、困るのは学生の俺らであって……とにかくさっきまでのはお互いてきとうに耳はかさないってことで! それに俺たちカモコウプラロボ部は俺たちなりに仕上げたんで後でここが甘いとかダサいとかここがエモいとかかっこいいとか母艦ノアの外でマイトみたいにカナカミが迎えに来るまで減らず口叩いててください!」



「「…………」」



 フェイストゥーフェイス、互いの鼻先が触れ合うぐらいの距離でやり合っていた赤髪メガネと青髪キャップは、声を張り上げた白髪の彼のよく響いた生台詞を耳に聞く。そして赤と青は同時に押し黙り、同時に彼の方を見、同時にまた互い向き合った。


「バッチリ失敬した」

「ばちばちの失敬ってね」


 バチバチやりあっていた悪天候から一転、にんまりと笑みをつくり晴れ晴れしいプラロボ女子同士の握手を交わしだした。


(なにがなんだか……おそらくプロレスだろうけど……)


 なにはともあれ赤いのと青いのが交戦状態に入りそうにもみえた事態は一件落着。浦島銀河が胸を撫で下ろしながら器用に苦笑いしていると──


「うむ。ところでもし、何を作ったのかな」

「それもしかして偵察じゃないすか耳かしませんよ……」


 さっと近付いてきて手を伸ばした青髪月帽子の彼女とそこそこの強さの握手を交わす。銀河のその目の前に立つお姉さんが冗談を言ったかと思えば、交わしていた手はするりと抜け出し離れていった。


「ではお互い楽しもう、型翅町(かたばねちょう)の【きハル】を、そしてこの【TOYOSHIMA】の背を熱く撃ち抜くまだ見ぬプラロボ作品を期待する、──ばいばいっ」



 青い長髪を豪快にかきあげて垣間見える【TOYOSHIMA】。ついさっきゲーセンで見たことのあるそのクールな演出がまたも決まる。颯爽と去るその背は、やがて遠く離れていった。


「ばいばいって。なんだったんすかねぇ、……」


「んー、このところ【天】のTOYOSHIMAさんはライバルがいなくて寂しい的な? 目ぇつけられたねぇ、弟さんはネクストミッションのツグくんみたいにお姉さんにはモテモテだねぇ」


「いやまじで冗談は……俺、変化球ばっかりはうれしくないっすけど……」


「のいのおおいドストレートくぃー」

「どこがっ!」

「腰がっ!」

「……あのまじでさっきので相当俺、ヘッドパーツ内蔵の天脳システムが疲れてんで冗談いいすか……」

「おーマジだるそうなのはメイちゃ地味に傷付くやつぅ。あはははないないってね──ナ・ニ・そ・の・か・お」


 【きハル】本番への時間は刻刻と、その針を進めゆく。現在時刻午前11時13分、そろそろ47分後には係員が荷を取りに来る手筈なので一度待機室まで帰還したメイと銀河の2人。


(やれることは全てやったつもりだ、そこまで気負わず、だが当然に緊張もする。月もTOYOSHIMAも関係なく目指すは最高の浦島銀河だ! よーしっ!)


「ってそうだあいつ……おっそいなぁ……」


「ちょっとちょっとこれって例の【あれ状態】じゃない弟さんっ? そうそう、グランド作品のヒロインは主人公が追いかけるもんくぃー! このままほったらかすのはないないっ、のいのいっ!!」


「ないないって……それゼンブ全作品逆じゃねぇかッ、俺がカナカミ通信生かよっ!? えっ、ほんとにあいつナニやってんの? え??」

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