第4話 古き良き×転倒
料理研究部の部長へのお礼を渡し終えた浦島銀河は、部活棟のプラロボ部の部室へと戻ってきていた。そして案の定────そこにいた。
そこのアースカラーの小さなソファーにすぽっと収まって仰向けになっている、もはや特等席か。昨日は病人、今日の彼女は寝転びながらの恰好で手持つスマホを横向きにし────
部長はそんなだらけた女子部員の態度に「何してんだ」と言おうとした。だが、彼女は何かをゴロっと寝転びながらも集中し、その姿勢で見ているようで。
「何見てんだお前……」
「この水の星のグランドっての」
「おぉ! そんな古いのを?」
「水の星のグランド」そのグランドとプラロボのファンであれば誰もが知っているタイトル名に、銀河は目を見開き明るく驚いた。
「スマホでCクチャンネルってのでみってるー」
Cクチャンネル:
Cクオリティっていうグランドを生み出した制作会社のチャンネルだから略してCクチャンネル。
グランドやその他アニメ過去作が全部お安く見れちまうグランドファンの必需サービスだ。
俺もまだまだ色々と勉強しなきゃいけないことが多いからなーー(隙ありの伝説と称される)グランドの世界は、今もなお広がりつづける広大だ。ははは。
白髪をくしゃくしゃ掻き、部長はオーバーなリアクションで言った。
「あー! んだよ言えよ俺も入ってるから見せてやったのに」
「2週間無料だからそれ終わったらみっせてー」
「ちゃっかりしてんな! ってお前ここ家じゃねぇぞ」
「ふんふーん、ごろろーんっ」
仰向けから横向きに体勢を変え「ごろろーんっ」。女子高生はそのボディぜんしんで完全に部室にひとつしかない小さなソファーを、猫よりも自由に占拠している。
「ご、ごろろーんっ……にしてもお前どうして一番古いのから見たんだ? 去年やってたグランドネクストミッションとか」
「んーー。なんかもったいないじゃん。『底のカラメルからコンビニのプリンは食べない』じゃん」
「なんか分かる気もするけど……おまえそれポエムだぞ(分かりそうで分からないナシモ節? 何話のポエムだ? ……そんなのなくね!?)」
「わたしのは分かるポエムだからねーー」
「なんだよそれ……ところで今何話なんだ?」
プラロボ部の部長が気になるのはなぞのポエムの詳細より、海魅が今何話を観ているのか。何かを今にも話したそうにニヤついた表情で口が開いたままだ。
「んーー、ごろろんのいち」
「ごろろんのいち? ────ってイチってお前見始めたのついさっきじゃねぇか! よく逆さのプリンがどうたら御大層に言えたな」
「ところでなんでこの人たちロボット乗っていきなし地球でたたかってんの? バカなの?」
裏側スマホの目隠しをしていた青い目が、そのスマホをスライドさせ唐突に銀河の目と今、合った。唐突な質問をそえて、彼女は彼の面を寝転びながらも見つめている。
「きゅ、急だな……。でもバカってのはその通りかもな、んっとそれはな。あー、それは────キセキの星である地球にある天然資源の価格が宇宙に進出した宇宙居住区に住む人達の分も含めて人類全員を支えきれなくなって宇宙輸出向けの物は軒並み高騰しちゃったわけで。宇宙の人と地球人との資源格差が深刻になっちゃって起こってしまった、宇宙外界からの地球と同じ豊かな生活を望む者たちのどうしようもない一揆みたいなもんでさ。きっかけは地球式の豊かな暮らしを映像に収めたなんてことのない、『さぁ、水の星に行こう』とかいう綺麗じみたキャッチコピーをかかげた世界政府公式の煽り動画だったんだよ。いや、それ以前から鬱憤は溜まっていたわけで。で、そのくせ地球に行ってビザを貰えるのは一部の特権階級と金持ち有名人だけで、それでブチギレたのが宇宙ドーム星々に住まう人々! 秘かに作り上げたグランドロボットの宇宙戦闘訓練を秘かに繰り返して練度を高めてきた宇宙連合軍が、電光石火の進軍劇で世界政府軍を破りその勢いは止まらずについに地球まで下りてきた! そんで、ほぼ地球生まれで構成された世界政府が彼らとの停戦交渉席での資源価格の正常化などの内容をほぼ飲み圧力にひよるんだけど……だけどもっ、地球人もそりゃ溜まったもんじゃねぇよな、自分の住まう星の資源が今まで宇宙輸出で融通していた以上に盗られて自分たちの生活が脅かされるわけだ? 『何も地球全土が未だ支配されたわけじゃねぇ、実はそんな資源はここまで遥々降りてきたヤツらにはないのさ』一部の地球人たちは団結し、やがて多くが賛同し、はんぱない気概ってやつを見せる。今後一生地球が宇宙人どもの奴隷になってたまるかーってことで、ご丁寧に地球に招き入れた奴らからその高度なロボット技術を盗んで数年後に一部地域を宇宙連合軍に支配された地球を舞台にまた開戦するわけで。そこでデキたのがほらこの1話のグラ」
「んー」
「どしたビギナー?」
ご丁寧になるたけおもしろくしたつもりのグランドⅠの世界観の説明に、海魅はじーっと元気に講釈をたれ続けていた彼の逆さ顔を寝ながらに見つめている。
「なんか、違うかなって」
間と余裕をおいて、彼女のぼそりと言ったたった一言で、今までの銀河の長台詞がすべてアワへと還ったような……。銀河部長はまだしゃべり足らずにいた大口を開いたまま──驚き、凍てつくように一時思考停止しかたまってしまった。
「ええ!? イヤッ! よく見てもっかい! 1話の最初からっナレーションとそこの映像が重要でさぁ! あのービギナーさん? そのすんとした遠い目になって、巻き戻し……」
「はいはい(笑)」
グランドへの熱意がからまわり、おかしくなったのか、それでも銀河の開いた口は何かをまだ巻き返そうと必死であり、とまらない。
そんなどうしようもない彼のする表情に笑いながら1話の最初に巻き戻す。誰もが知っているあのオープニングソングが流れる、彼女はスマホの音量をしれっと上げた。
▽▽▽
▽▽▽
▽CCラジオ放送局 グランド電波基地▽
『えーではナシモ監督、ほんじつ最後のリスナー様からの質問です。──おっ、なんと小学3年生! うみーみちゃん!から。【わたしはさいきんみはじめたんだけどぉどうしてロボットグランドはたたかっているのですかぁ?】──はい、なんともまぁかわいらしぃぃ…………みたいですけどいかがでしょうナシモ監督! 小学3年生!』
『ふっふ。この質問はぼくねぇ何度か答えたことあってそのつど答えが変わっていった気もするけど。ええ、やっぱ答えはねそのぉアレコレ大人たちの作ったこだわりをこねくり回すより、これがいちばん夢があるのではないかと』
『子供たちが喜ぶから、です』
『ということで……すばらしい! いかがだったでしょうっか? うみーみちゃん!』
『ふっふ』
『ではこの辺でバッチリ! ほんじつのゲストはグランドの生みーみの親ナシモ監督でした!!! 来週のゲストはきっとしょぼくなってるけどッ、グランド電波基地また来週!』
『来週もこようか』
『ええ!!! それは私の心臓の方がご勘弁! マッ、また来週ーーーー!!!』
「わたしはアオハルを浪費するのをゆるさない!」それがココロに隠し秘めたモットーである彼女、佐伯海魅。
たしかに過ぎゆく青春の舞台は次の放課後へと移ろう。いつもの小さな部室にいつもの2人がいる。
昨日は3話まで今日はそのつづきを、「水の星のグランド」の第4話をビギナー女子高生にとってありがたい部長の解説付きで視聴していく。
「スマホでは迫力が薄れる!」ということで、部長のタブレット端末で彼女が観ることになった、伝説のロボットアニメを。
「なんでこの主人公のロボットってグランドって名前なの? グランドロボットのグランドってグラタンのグラタンみたいじゃん」
「それはまぁなんか普通にロボットって言うよりなんか暴れても心ある、大儀がある、感じがするだろ? んで、すごい偉大なそれはそれは雄大な巨大ロボットだからグランドロボットの【グランド】ってわけさ。まぁ敵からは珍しいから二つ目とか地球のグランドとか呼ばれてるのが多いし、っておまえグラタンのグラタンってなんだよそれ……グラしか合ってないぞ」
「ふーん。そんな名前つけて敵は怒っちゃわない? 言ったらグラタンのグラタンを名乗ってるわけでしょ。マカロニが怒るでしょ」
「そりゃマカロニは怒るぞ! だから余計躍起になって強い敵とかしつこい変態に狙われちゃうんだよ。【グランド】を倒すのは地球人を世界政府軍をも倒すのと同義だからな、っておまえグラタンのグラタンからはなれろ」
「ふーん。主人公ずっと戦ってるもんねー、かわいそ」
「はははだな、言ったらぐつぐつと暴れてよく目立つ囮ってわけだ。グラタンだけに」
「あっそ」
「おいっ」
部長と部員(仮)は、同じ茶色のソファーに腰かけ、作業テーブルに立て掛けたタブレット端末の同じロボットアニメを見る。
開けた一人分の距離に両腕を組み堂々と復習するように視聴する部長。そしてコンソメ味のポテチ袋を片手に、自宅のようにリラックスしながら視聴する佐伯海魅はよくしゃべり、よく仕掛ける。
ビギナーの彼女は何故か困りそうな質問ばかりを視聴途中に突然彼に向けて投げかけたりするが、部長はそれにも動じずしっかりとスベテにウソか本当か納得のいく理由を添えて答えていく。
「灰色の同じのに乗ってるこの3人は兄弟って言ってるけど? 恰好だけで顔全然似てなくない?」
「よく分かったなその通りだ! こいつらはヤバイぞ! 兄弟とか言いながら死んだらソクどっからか見つけてきた人員を補充していくんだからな。オリジナルメンバーが全員死んでも何故かそのインスタント義兄弟システムが受け継がれていく【不死身のロンリースリーウルブズ】だ。ほら来たぞ! この回一のヤバポイントだ、目を凝らして集中だビギナー!」
「なにそれヤバイじゃん……わっマブ!? ────────」
少しだまされて画面に煌々と映るマブシイ光を直視してしまった女子部員から、目を閉じてニヤつく玄人の部長へと後で、威力のある〝うみーみキック〟が彼の身体へと繰り出されたのは言うまでもない……。
そして4話5話と連続視聴していき、5話目のお話も終わりを迎えたその頃────
「あ、アオハルの梯子」
「あぁん? 出てんな……(なんかさいきん梯子の出てくる頻度バグってんな)」
「寄ってく?」
「寄らない」
「よってく!」
「おいよってくな! 走るナ! ────────」
例のあぶないレーダーをピンピンに、一度走り出した佐伯海魅は誰にも止められない。元気に飛びついた──そのアオハルの梯子を上っていく。
シラガの部長は勝手に走り出した彼女を追いかけなければならない。
部長として、玄人として、
佐伯海魅にかけられた不思議で勝手なマジックからは、彼は逃れられない。浦島銀河は彼女の後を追い、その輝く梯子を見上げ、上っていった。
▼
▽
「とうちゃーーくっ、ごろろーん」
「はぁ、ごろろーんじゃねぇよ梯子とココにごろろーん要素がないだろ……」
(しまったまたパンツ……)
梯子からは4度目。またも反射的に勝手に動いたヒロインを追いかけ、道中うっかりと見てしまった少々のラッキーも、彼はそれどころではなく。
「おおまえまたヤル気かよゲロるぞビギナー」
「ふーん、もう予習済みだしぃ、ばーんっ」
「ってナニ主人公撃ちしてんだよ!」
「さっすが部長、ばーんっ」
「ついさっき見たからさっすがは余計だ、ったく主人公も劇中でやってない左右で二回もしやがって。──って触るなよ」
「なんで? いこっ」
「いくのはいいけど、おまえの相棒忘れてんじゃないぞ」
シラガの部長が堂々と見せつけた左手に、その腰辺りを掴んだ130分の1サイズのちいさな機体〝リバーシ〟がいる。はしゃぐ部員を追いかける際にもきっちりと既に、有事に備えて彼の愛機も連れてきていたのだ。
生身でアオハルの梯子に何も考えず上っていた彼女は、彼のリバーシを見て、「あっ」と己の忘れ物に気付いたようだ。
「──あっ、取ってきて」
「おまえのフェアリーナイトだ」
「ふーん……しかたないなぁ」
「しかたないじゃない、部長に取りに行かすなフェアリーナイトが泣くぞ!」
今言われたまま佐伯海魅は梯子を下りて、部室の作業台の片隅に飾っていたフェアリーナイトをその手に取りに行った。
▼▼▼
▽▽▽
天井を突き抜けた秘密基地にある広い宇宙盤面が発する、部屋中を照らすアオい光に2人は導かれ────────
また指定したあの場所で、学校でも現実でも習えないはずのグランドロボット操縦レクチャーは始まっていた。
▼エリア8765 難易度☆▼
ミドリの野を走ってみる、跳ねてみる。羽のない純白のフェアリーナイトは完全には彼女の思うように動かせず、激しい運動でバランスを崩し、今、盛大に尻餅をついた。
「いったーー! なんでできないのー!」
『おーいイキナリ走んなーーぁははは【天】じゃないから仕方ない』
「痛っもぅ────────……あんたはできてんじゃん」
『俺は、【天】だから!』
「はぁ? うそくさー」
『心配すんな俺も100回ぐらい似たようなステージで転けてる』
「なにそれ全然天じゃないじゃん、教官ぶってたのにイッキにださっ」
『転倒の【転】だ!』
「……はぁ」
男女、通信ビジョンでのやり合いをほどほどに────伸ばされた灰色の手を掴み、フェアリーナイトは起き上がった。
やがて、離れていったリバーシとフェアリーナイトの組んだ手と手。
リバーシの引っ張り上げる手をかりて、無事に人間と同じような動きでスムーズに野に棒立ち、フェアリーナイトとそのパイロット佐伯海魅は姿勢を正し復帰することができた。
『────よっと、アタマの負担は大丈夫か?』
「ヘイキだけど」
アタマの負担。天脳システムによるシステムダメージの事は、事前に、部長からビギナー部員へと再度注意確認されていたことであり。
ただいまレクチャー開始からだいたい10分が経つ。通信ビジョンを介して前回の事件が起こるより早めのこのタイミングで、彼女の状態・体調を確認するのが適切だと、部長浦島銀河は判断した。
『ほんとだな? まじでおまえウソ申告だけはやめてくれよ……ゲロヒロイン』
「はぁあ???」
とてつもないワードを、一字一句間違いなく彼女の耳は聞いた。通信ビジョンに映る海魅の顔が驚き、眉が左右非対称になるほどに崩壊している。
『しまったぁ!!! ──よし俺はそのヘン偵察してくる、安全確保』
「ちょっと……今のまじで許せないんだけどおおおおバカシラガああああ」
コックピット内のどこを彼がしらじらしくいじっても、それは通信ビジョンの故障ではない。怒るブルーの瞳をした妖精から逃げるように、彼方へとせっせと今駆け出して行った灰色の垂れ耳リバーシ。
女子パイロットが怒声を鳴らし、デリカシーのない男子教官がいなくなっても────────溜まっていた息をはき、彼女は自主練にとりかかる。
プラロボ部の部員として、フェアリーナイトのパイロットとして、佐伯海魅の前途多難な天脳システムによる操縦訓練は続いていくのであった────────。
「っキレたらよけい痛ーーーーーーっ。──あぁもうやってらんない! ごろろーんどっしん尻餅つく妖精はいないよフェアリーナイト! わかってるうぅ!?」
冷えてピタるヤツ:
それは天脳システムでやられたダメージを癒すためのアイテム。
冷蔵庫要らずで不思議にも冷える高度なマジックがその白い一切れの長方形に構築されている。
14枚入400円で販売。
掻き上げた黒髪に潜んでいた可愛らしいおでこにピタッと、そのアイテムを貼り付けて──。すっかりお気に入りのソファーを一人占拠し仰向けにダウンする、佐伯海魅プラロボ部部員(仮)。
「予想通り大丈夫じゃないな、天脳システムはやっぱりお熱がひどい」
「なんで予想してんの。ってなんであんたは無事なの?」
「まっ俺は【転】だし伝説の原点5話のビギナーとは知識量がちがうからな、それでカバーしてる部分もある」
「それをレクチャーしないとかふざけてんの?」
「冗談だよーーハハハハ」
おでこにピタり、おそろいのものを貼り付けて、振り向いてみせた浦島銀河部長はおどけている。全くのテンション違いのその男と目が合った彼女は冷静に一言。
「冗談は冗談」
「おっ、その台詞! 目潰しもらった5話の主人公じゃんッ痛っ! ──いきなり何すんだ?」
「思い出させたあんたに目潰し〝うみーみキック〟」
いつの間にか急接近していた彼女、佐伯海魅のオリジナルキックが、部長の白い左脚部パーツを痛めつけた。予想外のイッパツをもらい顔を顰めた部長はダメージを受けた箇所に破損がないか大袈裟にアピールするようにさすった。
「ローキックが目潰しになるかよ、まだ恨まれていたかロンリースリーウルブズ……」
この日のシミュレーター訓練は見ての通り既に終わっていた。無事部室へと戻ってきていた2人は雑言を交えつつも、操縦訓練の疲れをしっかりと対策をとり、共にクールダウンした。
(にしてもこいつ案外文句は言いまくるけどたいした文句言わずにやってたな……意外と努力根性系? いや、ないない。学校でおかゆ作らせるヤツは、ないない)
(天脳システム……シラガは100回こけたって言ってたから? わたしが目指すのは100回以内? うん。ふっふーん! ──痛たたた、これ)
「これ後遺症とかあるの?」
「あるぞ」
髪を仕切に両手でわしゃわしゃしている。浦島銀河部長はぼーっとこちらを見る彼女に対して、白い髪をわしゃわしゃとしている。
「は?」
冗談は冗談。それも笑えない冗談に、うみーみキックの連打がシラガ部長の脚部パーツや臀部パーツにまで炸裂したのは……言うまでもない……。
そうこう部活の時間はおだやかに過ぎてゆく。
なんとなくだらっと抜けた雰囲気の最中に、部長は作業台のタブレット端末をいじりながらリラックスしていた彼女に、やんわりとした声のトーンで投げかけた。
「おまえさ、もしかしてそのフェアリーナイト〝ひまらや〟で買った?」
「さぁ、おぼえてないけど」
タブレットから目の離れない──素っ気なく言葉を返す彼女に部長はつづけた。
「メガネの店員」
「──いたかもね」
(じゃあゼッタイ、メイさんの仕業だ……。ピースがかっちりハマってきたぜ……俺の愛機リバーシを知っていてリバーシにフェアリーナイト差し向けられるのあの人ぐらいだろ……)
「────よし店まで部活動しようぜ!」
「は?」
「プラロボを調達しないと始まらないだろプラロボ部は!」
シラガ部長は部費の入った茶封筒をどこからか取り出し見せ、笑った。
▼▼
▽▽
海魅と銀河はさっそく学校の敷地内を出て〝ひまらや〟へと向かった。徒歩で20分ほど。この若干田舎の町の、そこまで学校からは遠くはない距離に〝ひまらや〟はある。プラロボや模型、絵の具や筆に消しゴムに駄菓子に花火、その他色々を取り扱っているちいさな店だ。
そして2人、営業中であった〝ひまらや〟来店してしばらく────────。
相変わらず種類シリーズあえてか、バラバラで雑に置かれた箱の積み重なるプラロボコーナーを浦島銀河が眺めていると────。彼の背後から、ひっそりと近づいた何者かがシラガ頭をわしゃわしゃと、掻きむしる────。
「いえーい」
「ちょ!? なに毎回なにやってんの、イタイイタイしらないツボを押すな!!!」
プラロボ部の白い制服姿の男女2人のうしろに現れたのは、メガネオンナ。
ポッケ大きめの深緑のエプロンに白いノースリーブ、トレードマークのメガネパーツは今日はエメラルド色に煌めき、プラロボの関節可動部に使う汎用黒パーツで後ろと邪魔な前髪をカスタマイズし留めた、もじゃついた赤のポニーテール、その愉快な人物といえば、
「な、なに……知り合いなの?」
「知り合いというか仕方がないというか」
「メガネぱりん系ダウナーヒロインとおかしなシラガの青年は天に惹かれ合うのさ。──ないないってね、あはは」
突然忍んで現れた問題の赤髪の人物は「ないない」と明るく笑いながら、左手のひらを横にリズムよく2回扇いだ。
「こんな感じの人だから勝手になついてきて困ってんだ……」
「ヒロインを犬扱い! くぃーー」
くぃー:
それは人差し指と親指で誰かの鼻をニッパーでくぃーとつまむような……グランド関連にはまったくない、彼女発案の謎のオリジナルジェスチャーである。
(なっヤバイだろ……)
(そうみたい……)
「こらこら小声で悪口ワタシ地獄耳」
小声でひそひそ距離を置いて話し合っていた若き学生男女諸君に、キャラの強いメガネオンナは状況に適した台詞を発した。劇中のようにとあるキャラのように、糸目でにっこり微笑みながら。
「耳関連の台詞やめてくださいよ。しかもそれ、ネクストミッションのアズマ女子先輩じゃん」
モトコ・アズマ先輩:
去年放送終了したグランドネクストミッションに登場する。主人公ツグ・コンドウの姉役を自称する人。第11話から途中登場し、呪いじみた地球の運命を背負う学校戦艦メダカで、不意に訪れる超重要任務グランドミッションをこなすうえでの、任務をこなすに連れどこかやさぐれてしまった主人公ツグ彼をささえる相棒兼姉役に名乗り出る。
パイロットとしての能力はこのシリーズの中でも極めて高い成長性をみせてゆく。彼女のそんな生き様の始終を視聴したファンからは敬意を込めて、最強の姉(自称)や漢・アズマ先輩と称される。
劇中での彼女はその自室に飾られたグッズやワンカットシーンから伝説のパイロット、マイ・トメイロのにわかファンであると視聴したファンから推察されている。だからか彼女の活躍するお話には伝説をオマージュする天才的な動きが多く描かれており、古からのファンを沸かせることもしばしばあるという。
そんな彼女の愛機はパーフェクトグランドⅠ(苺)。
「さっすが視聴済みだぁ、いぇーいいてすとてすと」
「その謎の小テストもやめてよ……。当たり前でしょプラロボ部部長なんだからさ、2周したよ」
「んー2周ほどかぁ、勉強熱心だねぇ」
「髪までグランド漬けのメイさんほどじゃないです。ってもういいですか」
「おっとぉー、弟さんとは少々長話しちゃうねー」
「その弟さんって架空の弟作るのまッじで、アレなんで……。天脳システムの大ダメージが残ってるんすか?」
「んーーー、そう!」
テンション高めの赤髪メガネお姉さんとの作中名台詞をまじえた会話に付き合うも、ボクシングの激しい1ラウンド目を終えたかのように銀河はお姉さんに背を見せ小休憩する。目を細めた表情をした男子学生は後ろで待機していた同部の女子生徒とふたたび……。
(な、ここまでやばいよな)
(うん。ここまでかくじつにやばい)
「また小声地獄耳状態やってるううう! ってあー。そこのちょっぴりかわいすぎるキミさん、誰かと思えばこないだのゴリ押し980円フェアリーナイトちゃんじゃん!!! ありがたきプラロボ女子くぃーーーー!」
「なんのこと?」
そのきらり輝くお姉さんのメガネレンズごしに、いつしか店にきた可愛い容姿の女子高生はしかと見つけられてしまった。
「くぃーーーー」とせばめるお姉さんのおどけた指の狭間にロックオンされてしまうも、青目の女子高生は素知らぬ顔でクールにお返しした。
「のいのい! クール系あまのじゃくヒロインくぃーーーー」
「ってこいつのフェアリーナイトってやっぱりメイさんの仕業だったんすね……」
ふざけた女店主と女客の会話内容を逃さずよく聴き、呆れ気味にやっぱりと銀河部長は頷き言った。
「んーー、さっすが弟さん。気付いてましたか、ちょっとクール系ヒロインちゃんそんな苦虫をグランドで踏みつけた顔しないで??? どうせ【天】のこの子にはバレちゃうから絶妙のタイミングのこの辺でネタ晴らしなのさね」
「はぁ、顧客情報をぺらぺらなんて。冗談は冗談」
ぺらぺらとしゃべりすぎる女店主に海魅もまた呆れた。そして数刻前のさっき覚えた名台詞をそえて、両手を広げて見せた。
「おやっ水の星のグランド第5話!? ロンリースリーウルブズ対グランド!? のいのいやるじゃん! ええー、うら若きビギナーだと思ってたのに。またもやこの私を驚かせる……ないない。いやー、これは驚いたないない。弟さんが仕込んだのい?」
銀河と海魅がぜっさん相手にするその女、台詞ひとつひとつが長く、かつ非常にテンション高くやかましいものだ。
「ネクストミッションの爆死ダウナー忍者ののいのいと前作グランドミッション先祖のないないもやめてくださいって……。なんで死んだパイロットの台詞ばっかりやってんの……。それに聞いてくださいよ、水の星のグランドは俺じゃなくて部員のこいつが自主的にさ、な?」
部長の銀河がさっと横を向くと、しずかに両腕を組み頷く佐伯海魅部員がいる。そしていつまでも意味のわからない言語で話す厄介メガネには、彼女佐伯海魅オリジナルのこの名台詞を与えた。
「もったいないじゃん、コンビニのプリンは底のカラメルから食べないじゃん」
依然両腕を組み煌めく女子高生の持つブルーガーネットのアイカメラの眼光が、薄いメガネレンズその先の──女店主の裸眼の奥まで真っ直ぐに突き刺さった。
言い終えると女子高生は口角を片方上げ、にんまり。
赤髪の店主はかけていたメガネをそっとおもむろに外し、曇ってもいないのにレンズをハンカチでこすり……今、掛け直す。
依然、曇りなきメガネ視界に映る、ただものではないその自信満々かつクールに微笑む女子高生、そのオーラに……。
「え、なになに急にその微妙に分かった感じになるグランドっぽいそれ!? 何話? 水の星何話!? ゲーム系外伝系? バリエ系?」
「……な!」
「ふーん、ね!」
メガネ女そっちのけで確認し合い頷き合う。分かっている感じのふたりだけのセカイの学生たちふたりが、年上店主のレンズごしの視界にいる。
「分からないのは自分だけか……」店主は独り、そのカラメルがかったプリン色のクエスチョンマークを消化しようと眉間に皺を寄せ、真剣な様子で思考していく。悩む悩む思い悩む、「やはり見つからない!」されどひまらやの店主である自分が分からないはずがないのだ、自分のこれまで培ったグランド知識をアタマの中の図書館から片っ端から引っ張りだしていき────
白制服を纏う若いふたりは、ひまらや店内に陳列する商品棚をざっと見ながら歩き出した。
「ちょっとまてよぉ……のいのい……。かしこ系ヒロイン店長の私が知らない台詞は過去作最新作にいたるまでないはず! じゃなくてないない! だいこん関連じゃなくてプリン!? くぃーーーーーのいのーーい…って!!! お客様ァぁッッかってに帰るナーーーーー!!!」