第27話 発進×援護×援護
グランドとリバーシの猛攻にさらされ、前のめりにどちらも光るモノに誘われたようであった、二機のレカーリーは見事撃墜された。
アント・マント少将の赤いレカーリーは、ついに戦場からの離脱を決意した。赤いエイのように砂上を滑るサポートユニットを足場に乗りながら、少将機は急速に遠ざかっていく。マイ・トメイロのグランドは、追撃するよりも冷静に、アント・マントが置き土産のように放っていった砂中を潜航した電磁トーピードを正確にレンズガンで撃ち抜き、誘爆させ無力化した。砂が大きく噴き上がり、大きな爆発の余波が広がる。
やがて、派手な砂のカーテンが降りて視界が明けたときにはもう、グランドのコックピットビューには赤いシルエットは遠くなっていた。
「勇猛さは、喰らいつづける毒だ。上から押し付けるだけの連中は虚勢だけでいい簡単なものだな、結局──」
マイトはそう呟き、焼けたライトグリーンの残骸と、砂上に眩く散らばる不思議なピースと、僚機である焦げた耳をした、今、おもむろに地の砂を掬い上げ佇む……灰色のシルエットへと視線を向けた。
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竜の背骨攻略のために左翼の戦線を維持し押し上げる中、一方その時、ノア艦内では新たな動揺が走っていた。
「誰が乗っている! 出撃許可は出していないぞ!」
「それがコックピットに土産の【ちょっと硬めのプリン】を置いたままだって言うもので、一体どんな具合かと──」
「ナニぃ! 戦闘中にふざけるな! とにかくGRを出すんじゃないよ!」
「もう出ちゃったみたいで」
「まったく! 引き返させる手間は惜しい……シマナミ通信兵、ホワイトシルエットの彼女に自艦の射線に入らないように詳らかに作戦指示を送れ!」
プリンの空き瓶を持ったコージィ司厨士の報告を受けて、ロベリー艦長の怒号が艦橋に響く中、艦内ドックで整備待機させていた予備戦力の白い機体、GRフェアリーナイトが勝手に発進ゲートを飛び出し、戦場へと向かっていた。
「よし、うまく出れた! ふんふーん、ここで指咥えて見てたら、アレに笑われたままなんだから! マチコ! うーみん! フェアリーナイト! そうだよね! うん!」
『後方発進ゲートから出たホワイトシルエットはそのまま、今送る電子マップに指示したポイントには入らず後方のエリアの敵の接近GRの警戒をしてください。──これ以上の指示を無視しないことね。艦長はおかんむりよ。上手くやれればコーヒーの一杯ぐらいは出るかもね──逆も』
「ふんふぅ──……りょっ、了解なんだから! 後方……後方! いたっ!!」
佐伯海魅は、コージィ司厨士をたぶらかし、無許可でフェアリーナイトに乗り込み、戦場へと割って入る。母艦とその搭載GRのレンズの光波長を合わせた通信回線で、シマナミ通信兵からの作戦指示を受けた彼女は迷うことなく──ノア、ドザー、ズザー二隻の連動した艦隊の援護射撃を受けながら、その艦隊の後方の警戒および護衛へと正しく位置取り加わった。
世界政府軍の艦隊、竜の背骨攻略作戦の最前線での任務にあたる陸戦艦ドザー内では、作戦が予想以上に順調に進んでいることに安堵と高揚感が漂っていた。
「ここまで順調にいくとはな。ドザーとズザーに搭載していたプロトマーズを1機失うも6機が損傷の差はあれど健在。──方舟ノア、共に展開するグランドそしてGR部隊がこれほどの力を有している。さらに子守までやってのけてくれている、気が利くものだ。いささか危ういものかと思ったが、フフ。よーし、右舷敵を寄せ付けるな! 土竜叩きの要領だ、惜しみなく放て! 物量ではこちらが圧倒的に上、あげくGR戦でも敵に勝るならばこの戦い……負けはせん!! 今こそ地球人の存在価値をその凄みと重み胆力をもって証明せよ!! その為の知恵はワタシが授けよう。来たる敵を歓迎し焼き尽くせハハハハハ!!!」
陸戦艦ドザーの艦長、兼、IMP研究所副所長、メディカ・ズー大尉は上機嫌に暗色の深緑の長髪を払いながら、そうブリッジにいるクルーたちに低く響くそのシャープな声で、号令をかけた。
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順調に艦隊の後方の警戒とお得意の援護射撃を行っていたフェアリーナイトだったが、思わぬ事態が発生する。突如現れたGRレカーリーが、白く輝くフェアリーナイトを「二つ目」だと勘違いし、熱烈な勢いをもって襲いかかったのだ。
本体から分離したエイのようにしなやかなサポートユニットの尾が伸び、絡め取ったフェアリーナイトを毒のように痺れさせ、その場に跪かせようとする。
「きゃあああ! なんなのッ……クビワみたいな……これっっ!!」
佐伯海魅は痺れる攻撃を受けてしまい、悲鳴を上げた。フェアリーナイトの首が締まる、送電されてゆくクラスパーの威力は止まらず。それでもなんとか佐伯海魅はエメラルドスナイプを手から放ち、浮かぶサポートユニットを狙うが、天脳システムの弊害か痺れ震える手では当たらず。まさに絶体絶命にも思えたそのとき──
「なんで出撃してんだ、よっと!!」
間一髪、補給のため一度後方に戻っていた銀河のリバーシがその危うい場に疾風のごとく駆けつけた。フェアリーナイトを襲うレカーリーのサポートユニットの尾を、リバーシは着地するとともにグランドナイツソードで一閃、千切り飛ばした。
「遅いんらけど!! らぅっっ……舌までしびれ…」
痺れた舌で海魅は不満げに叫ぶ。彼の乗るリバーシの背を見ての大きな第一声だった。
「わりぃ……! ってそっちがわりぃ! うぉお!!」
浦島銀河もつい謝るが負けじと反論した。
そして獲物を弱らせ損ねて呼び戻したサポートユニットを背にし背部ブーストを目一杯吹かし突っ込んできたレカーリーと、その勢いの敵機のアダマンタイトトマホークを剣で受け止めたリバーシ、二機のGRがぶつかり合い火花を散らした。
『──! 黄色、いやミドリ、色違いのモグラがッ……!』
一合、二合、斧と剣が激しく打ち合う。その片耳と片腕の折れた灰色兎がライトグリーンの新手と打ち合い、白い機体を背にたたかっていた様子を上空から発見したトーキック2が、すかさず援護射撃を加えた。
フェアリーナイトに乗った海魅を襲ったレカーリーは、なかなか押せぬ折れぬその剣と気迫で立ち塞がったリバーシと、突然の天からのトーキック2のバルカンのシャワーを装甲に受けて、たまらず逃げ出した。投げ捨てられた危ないトマホークを、銀河のリバーシは剣で弾き、追撃を仕掛けようとした。
そのとき、逃げ出したライトグリーンの機影の背後から、マイ・トメイロのグランドのレンズガンが狙撃の光を放つ。あっけなく胸部装甲を射られ、撃墜されたレカーリーの残骸が砂に散る。
「白いと狙われるんだな」
マイトはぼそりと呟き、軽口を叩いた。今、優雅に舞い降りたグランドのその緑の瞳を、リバーシとフェアリーナイトが静かに振り返り見つめた。そのぼそりと呟いたマイトの他人事に、プラロボ部の2人は何か言いたそうな雰囲気であった。