第26話 裏連×裏技
「隙だらけだぞテストパイロット」
グランドに乗るマイ・トメイロはそう言い放ちながら、あえてレンズガンの銃口を御法度ながら味方機のリバーシに向けた。そしてリバーシのコックピット全面の球体状クリアモニターに警戒の矢印信号が表示された。
「ご、ごめん!」
マイトの皮肉めいた言葉と行動に、倒れていたリバーシを起こした銀河は反射的にそう短く返答した。同時に警戒の矢印信号が解けた。信号が表示されたのはパイロットの銀河と繋がったリバーシの天脳システムがグランドの向けていた銃口・殺気に対して、敏感に反応できていたからだ。
やがてリバーシのテストパイロットの集中が高まったのを機体ごしに確認したマイトは、グランドの向けていたレンズガンの銃口をそっと下ろした。そしてその兎の耳に、今グランドのコックピットビューに映る赤とライトグリーンの見知らぬ三機について、マイトは静かに吹き込んだ。
「アレはなんだ。カーゼじゃないな」
「レカーリー! 背負う尾のあるサポートユニットが……ッ分離攻撃してくる! おそらく赤いのはレカーリーのデチューン版で、その分重量と機体出力・パワーが増してる!」
「いちいちそんなこと考えながら戦ってんじゃないぞ。──3機、ヤレるか? そのヤラれた機体で」
「俺も……ヤル! まだッ、ヤラれてない!」
「アッチもな」
冷静なグランドと気概を見せたリバーシの警戒し見つめる先には、その敵機レカーリーが三機それぞれのアイカメラでWGの二機のことを睨み返し、集っていた。
飛んできたミサイルの威力に飛ばされ、態勢をなんとか持ち直した赤いレカーリー、距離を取ったそのアント・マント少将機は通信で僚機であるジリィ機とシヴァラバ機に呼びかける。その二名の兵たち、親衛隊として少将の麾下に収まるレカーリー部隊は、頭まで響く少将の怒声に聞く耳を一応持ちはしたが──
「グッッ──ええい、勝手な行動を取りおって……!! ジリィ、シヴァラバ、レカーリー2機をもって何故WGのグランドロボットを仕留められんというのだ!!」
「うるさいうるさいっ!! 少将もでしょうに!! いちいち邪魔だというのよ! シヴァラバも!!」
「なんだとっっ!! また気を狂わせたか小娘!!」
当然のように口ごたえをするジリィ機。相手が上官であってもお構いなしにエモーショナルにそのオンナは言いのけた。そんな小娘の生意気な口ごたえに、アント・マント少将は不快感を怒声を震わせ露わにした。
「(アレはまさか噂の二つ目というヤツか)……落ち着けジリィ。落ち着けというのだよジリィ・イージー。だから少将がわざわざ我々を見つけて来てくださったのだ。だがとて、この形勢とて、依然、好機! 反発するリバーシと新手の二つ目とてぶち抜ける数は揃っているというのだよ!! レカーリーだからナァ!!」
そんな中、やけに冷静に立ち返っていたシヴァラバは、珍しくジリィをなだめるように言った。そして、敵の戦力を分析し、レカーリー三機ならば足り得ると独自の見解で判断してみせたのだ。
「指揮官で少将たる私の親衛部隊、レカーリー部隊としての役目を果たせと初めから言っておるのだ!! 私が来たからには勝手な行動は以後慎めェェ!! 宇宙連合軍の新たな魂、気高きレカーリーに乗るということは、捧げるのだ!! ヤツらの首を!! その竜の尾で絞め、一機でも多く砕くのだ!!」
シヴァラバの勝手な言動を受けてもなお、アント・マントは怒声にノセ語る。その理念と誇り、宇宙連合軍のレカーリーに乗ることがなんたる意味かを、熱く語り、部下の2人へと命じたのだ。
「はっはっはあは、ナァんだ……そんなこと──ネェェ!!!」
「ハハハハ、上手く仰る! ──ならばとてッ、このシヴァラバ・ミコッシオが、地に光の射し届く刹那とも、落ち着いてられないと……いうのだよッッ!!!」
低く重く威厳ある男の声でコックピットに響いた命を受け、果たして呼応したのか、従ったのか。笑い飛ばすジリィ機と、笑わずにはいられないシヴァラバ機が、砂を蹴散らし迷いなく前方へと駆けだした。
リバーシとグランド、今そのWGのグランドロボットの首を取るため、とてつもなく光る灰色と純白の二機のスコアの塊へと、ライトグリーンの勢いが戦場を流れるぬるい風を蹴飛ばしていき、熱い気迫と狂気をもってして噛みついた────────。
グランドとリバーシ、世界政府軍の旗艦ノア所属の二機のGRが、既に襲い来た宇宙連合軍北アフリカ支配エリア指揮官アント・マント少将率いるレカーリー部隊に協力し立ち向かった。
グランドは、その機体側面両肩に二枚のシールドのように付けたミサイルコート、その左右合わせて8連装の発射口から盛大にミサイルを撃ち放った。
惜しみなく放たれた盛大なミサイルの雨の中、標的にされたジリィ機は背にしていたエイ型のサポートユニットにまるでサーフボードのように本体で立ち乗りし、吹いてきたミサイルの雨の隙間を砂の海を走りくぐり抜け、得意げにスピードを止めずに飛び込んだ。
「はははアハハハそんな射撃スコアで! 怖がりさんがびびらせちゃってサァ!!」
これでもかと撃ち放ったミサイルの軌道に、今猛烈に迫りつつあるライトグリーンカラーの敵機を絡め取ることができなかったグランドは後ろへとブーストを吹かし下がる、しかし、それはあまりにも迂闊な行動であった────。
「ハッ!? 離れろジリィ・イージー! 蠢く音が聞こえないか!! ソレは、突き抜けすぎだという!!」
僚機のシヴァラバ機が二つ目を追い詰めたジリィ機の今突き抜ける先に、なんともいえない不穏な音色を感じ取った。だが、そんな忠告は既に遅かった。聞く耳をもたないジリィ・イージーは、好機を逃さない。たとえそれが、誘われた白い幻影だとしても。
グランドの肩に装われた二枚のミサイルコートは、尾をはしたなくも伸ばし斧を両手に飛び込んできた蛮族に対して、温めていた光の音色を奏でた。
グランドは自機に搭載されたレンズの出力を上げ、ビーム熱弦を解き虚空の風にうねらせた。二十六もの細くしなやかな熱弦が、レカーリーを覆い抱くように囲い、聞いたこともない光の音が四方八方からライトグリーンの装甲を焼き付け、焦がし、幾度も幾度も震え伝う。
まるで眩き光の中に迷い込んだ──。グランドの懐へと迂闊に飛び込んでしまったジリィ機を、何度も鞭打つように光の束は乱れ揺れ、コックピットごとひしゃげさせては振動させる。
「なんなの!?コレ!? この音だとでも言いたいのかシヴァラバァァ!! 鬱陶しい鬱陶しいこの音が!! どうしてッッ光のカーテンがワタシにうねって!!? ばっ────」
ジリィ・イージーは最後まで叫び終えることもできず、その機体は激しく震えて燃えて全身を損傷し、ついに装甲ごしに刻まれ奏でられる音もなく──失速し撃墜された。
そのボロついたレカーリーの両手は、後ろへと軽やかにステップし誘い踊った白き幻影へと届くことはなく……なにもない砂を掻いた……。
「【裏連】──耳を立ててりゃ、やられなかったのに。────次だ!!」
マイ・トメイロは冷徹に言い捨てた。二枚の板から凄まじい熱量を放熱する……グランドは首に巻きついた焦げた尾のマフラーをそっと千切り、次の標的へとその冷たい緑のアイカメラを凝らした。
⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎極秘!!機体情報⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
【CF軍】
・レカーリー(アント・マント少将専用機):アント・マント少将搭乗。背のサポートユニットは本体と一体化で扱うが、分離での性能をフルに扱えないためデチューンされている。
・レカーリー(シヴァラバ機):シヴァラバ・ミコッシオ(IMP兵)搭乗。サポートユニットを巧みに扱う。
兵装:フィンガーボムズ(両手)、アダマンタイトトマホーク×2、バルカンレイ、クラスパー(尾)、噴砂孔、電磁トーピード
・レカーリー(ジリィ機):ジリィ・イージー(IMP兵)搭乗。サポートユニットを巧みに扱う。
兵装:(シヴァラバ機と同上)
【WG軍】
・グランド(ミサイルコート装備):マイ・トメイロ搭乗。
兵装:レンズガン、レンズレイピア×4、バルカンニー、8連装ミサイルパック、トレモロ×26
・リバーシ:浦島銀河搭乗。
兵装:グランドナイツソード、イヤーバルカン、オニキスバックラー
⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎極秘!!機体情報⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
グランドがジリィ機を撃墜する間、浦島銀河のリバーシはシヴァラバ機と一対一で相対していた。
「ビームっっ!盾だと! ハハハびっくり箱はびっくりさせたいカァ!!」
シヴァラバはリバーシの構えた盾から突然伸びたビームに対し、紙一重の回避を見せる。そして潜航して砂を泳ぐ特製魚雷、【電磁トーピード】を発射しながら、リバーシへの攻撃を緩めずに肉薄していく。
シヴァラバ機は猛攻を仕掛け、リバーシの構えたその円いガードをこじ開けようと試みる。
「はははは! これだよこれ! ナァッ! そうだろ!! 突き抜ける度に貴様も反発をすると──いうのだろぅ!!」
「ッ──!!」
シヴァラバは高笑いし、尾の武器【クラスパー】をしならせ、打ち付け、鞭のように打ち、防するリバーシを徹底的に追い詰めていく。
やがて、右手に構えていた盾が、右方に大きく弾かれ、リバーシの堅牢であった防御姿勢は鞭打つレカーリーの猛攻に堪えきれず崩されてしまった。
どこまでも果てなく高揚するシヴァラバのレカーリーがついに手応え反発しつづけるリバーシを崩し、追い詰めた。
勝負の分水嶺がライトグリーンの気迫の方に流れ出した、その時だった────行方不明だったグランドナイツソードが突如、宙を横回転しながら舞い、まるで意思を持つかのようにシヴァラバ機の懐へと飛んできた。
「馬鹿なッ剣がッ!!サポートユニットをするだと!!!」
シヴァラバは驚愕する。その剣の動きは、シヴァラバの攻略したリバーシの項目にはない。まるでレカーリーの背負うサポートユニットのように、横からの攻撃を仕掛けて飛んできたのだ。
息を潜めて飛んできた危うい高速回転する剣の軌道に、シヴァラバはなんとか前のめりだった自機を制御し後ろに踏みとどまり、胸部装甲をコックピット内がひやりと揺れるほど引っ掻かれながらも、やり過ごした。だが──その剣の行方は、盾の中心にギラリと妖しく輝いた魔法石オニキスの方へと不思議と引き寄せられた。
「わりぃけど! 出し惜しみはするなって言われたみたいだ! シヴァラバ・ミコッシオ!!」
銀河の言葉に、シヴァラバは焦燥と戸惑いを隠せない。突き抜けていた勢いも不意を突かれ、削がれ、今崩されていたのは紛れもないレカーリー、さらにその尾の猛攻で崩したはずのリバーシの右が、今にも、振り抜かん勢いと転じている。
「ヌヌゥ!?? だからとてッッ!! レカーリー!! レカーリーなのだよ!!」
「だからこれがッッ、グランドナイツ、リバーシだ! あぁっ!!」
シヴァラバに後退の文字はなく、ただ欲するがままに突き抜けた。勢いよく薙ぎ払った右の尾は、兎の耳を掠め──
銀河はシヴァラバの熱に釣られたように叫び返し、飛んでいったグランドナイツソードを呼び戻すと、自身が装備していたオニキスバックラーと合体・一体化させた。
強化された剣は、まるでビームブレイドのように妖しく光り、目の前のレカーリーへと振り下ろされる。
自機グランドナイツにおけるレンズ代わり、オニキスの瞳が妖しく灯り、出力を溢れんばかりに増す。
一閃──。リバーシはシヴァラバ・ミコッシオのレカーリーを一刀両断した。
刀身以上に伸びたビームブレイドは荒く波打ち、輝き唸る。やがて静かに闘志を鎮めるように、光の炎は失せていき……。
折れ曲がった焦げついた灰色の耳、黒いバイザーアイが今、討ち取った強敵の様をかなしげに見届けた────。