第25話 レカーリー×レカーリー×レカーリー
再びアダマイトトマホークを手に握りしめ、シヴァラバ・ミコッシオのレカーリーが、その勢いのままにリバーシに襲い掛かった。しかし、鍔迫り合ったグランドナイツソードはアダマンタイト合金の超硬度をも──
「砕け!!」
「砕かせたのだよっ!!」
勢いのままに掛かったように見えたシヴァラバは本当に斧の耐久度を考えていたとでもいうのか、怪しく軋む斧が砕けると同時に、レカーリーの股下から不意に尾が伸び、前のめりに誘ったリバーシを襲った。
「極上の手応えっ!! ないだとっ!! なにっ!?」
レカーリーは下から出した尾の攻撃と共に華麗に宙返りした。だが、そこに反発する手応えはない。虚空に尻尾を振らされただけだったのだ。
誘ったつもりが誘われた──おかしな手応えに既に気付いたシヴァラバは、今、天地逆転したコックピットビューから、緑の大筒を前方へと仰々しく構えた灰色の兎の姿を見た。
尻尾で叩かれる前に後ろへ素早く避けたその灰色のグランドロボット、リバーシは、左腕一体のレンズキャノンを放った。
しかし、照準が甘く、大筒から発射されたビームの束は空中で身を捻り半身になったレカーリーの側頭部を焼くにとどまった。
「貴様もデータスコアっ、突き抜けかあああ!!」
装甲を焦がし、肌を痺れさせた敵機との軍用シミュレーターなぞより得難い応酬にシヴァラバは叫んだ。砂に真っ逆さまに墜ちたライトグリーンの機影はそのまま、地を潜り────砂を湧き上げ現れた。シヴァラバ操るレカーリーはまた、手応えを求めて、しつこくリバーシへと襲い掛かった。
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バルカンとバルカンのビーム弾と曳光弾が交差し砂上を熱く彩り、肉薄したリバーシとレカーリー、二機の騎士の剣とエイの尾の鞭が弾き合いプラズマを起こす。
砂に埋もれ散った味方機を弔う暇もなく、白髪の頭に整理する暇もなく、ここは戦場──しつこいライトグリーンと迎え撃つグレーのシルエットが、火を吹き、刃を光らせ、尾をしならせ、戦闘の熱は高まり続ける。
「ハハハハどうした! 闘いとは間合いを取り合いスポーツではないのだよぉお!!」
「チッ!? コイツ、尾があるからって!!」
「ある様に生まれたァァ、だからレカーリーなのだよォ! グランド兎にはなかろうにぃい!!」
しかし、そんな二機がぶつかり合った熱砂で、勢いのある横風がぴくりと反応し立てた兎の耳に唐突に吹いてきた。真横から吹いてきた、新たな弾幕がリバーシを襲ったのだ。
リバーシの振り向いた黒いバイザーアイが見つけたのは、猛スピードで接近するもう一機の新手のレカーリーであった。
「邪魔だどけっシヴァラバ・ミコッシオ! その光るスコアをオレによこせッ!!」
「ナンダっ!? オンナが余計なことをするなっスコアの劣るジリィ・イージー! こいつを倒す! 倒すというのだよ! さらにこのシヴァラバとレカーリーが突き抜けるために!!」
シヴァラバと口論しながら、リバーシに纏わりついていたシヴァラバ機もお構いなしの派手な射撃をし現れたのは、もう一機のレカーリー、ジリィ・イージー操る機体だった。
「レカーリーが二機! こっちも背中にサポートユニット! これで完全なのか!? このグランドのセカイが、そう言いたいのか……!」
宇宙連合軍新型GRレカーリーに、サポートユニットが付いていることをプラロボ部部長の浦島銀河は知らない。だがそれは完全にも思えた、元の自分の知るレカーリーがチープにも思える程に。灰色の自機のコックピットビューには、映るライトグリーンのフォルムは、アニメチックではないリアル精細であり、背に背負う円く大きな威圧を放っている。
そして、そんな白髪のパイロットの彼に考えさせる暇もなく、さらに容赦なく襲い掛かる未知と狂気と狂気。前のめりに戦いの舞台を走り砂塵を散らす、新型の機体を操る二人の敵パイロットの恐るべき執着。
一体でも面倒で手強いその機体、二体のレカーリーを相手に、酷使していくリバーシの天脳システムは熱く熱く、また銀河の頭を汗ばませていった────────。
いがみ合う2機のレカーリーは互いに牽制しつつも、巧みに背部のサポートユニットを分離させ操り、連携、というよりは競う互いの事を利用しながら、それぞれに光るスコアと称したリバーシのことを追い詰めていく。
シヴァラバ・ミコッシオとジリィ・イージーの2人は、どちらも戦果への執着からか、まるで獲物を狩るかのように目の前のリバーシに猛攻を仕掛けたのであった。
「シヴァラバの分際でぇ! どけぇえ!」
「出遅れるからジリィなのだよ!」
「劣っているのはお前ダァ!! ──がはっ!?」
ジリィ機が叫びつつリバーシに肉薄し襲い掛かる。
「ッ、コイツもっ! スコアに取り憑かれて!」
だが、銀河のリバーシは突っ込んできた斧の刃を巧みに右手の剣で付き合わずにいなし、イヤーバルカンを過ぎ去ったお相手、ジリィ機の背に猛烈に浴びせた。
「シヴァラバ・ミコッシオをお忘れか! リバーシとやらぁぁ!!」
迫りながら両手内蔵のフィンガーボムズを発射し射撃するシヴァラバ機。ばら撒かれ着弾したフィンガーボムズの威力は小爆発を起こし砂を巻き上げた。そして、今右腕に装着したサポートユニットの目一杯伸ばした尾で、逃げようとしたリバーシの左腕を絡め取り捕らえた。しかし、銀河はとっさの判断で左のレンズキャノンを捨ててシステムパージし、拘束から逃れることができた。
緑の大筒、取り回しの悪いレンズキャノンが、絡め取った尾からエネルギーを送電されて爆発していく。
「気に入らないとでも言いたいカァ!! 突き抜けっ!!」
「そんなデータ、取ってる場合じゃないっ! うおぉ!!」
突き抜けるように真っ直ぐに伸びたエイの尾を、伸びてきた方に駆けながら灰兎は最小限の動きで避けた。そして一気に振るった剣の刃が、シヴァラバのレカーリーが右に盾のように咄嗟に構えたサポートユニットごと叩きつけもろとも吹き飛ばした。
だが、リバーシが押し込んだシヴァラバ機に追撃に移ろうとしたその瞬間、さらに、三機目のレカーリーが突如として現れた。
それは、またしてもレカーリー、だが紅い。アント・マント少将のデチューンされた専用機だった。そして虎視眈々と狙っていたのか、アント・マント機は凄まじい気迫でリバーシに横からタックルし、その巨体で砂上のステージを勢いのままにぶつかり引きずった。
リバーシが握っていたグランドナイツソードは、その猛突したタックルの衝撃でどこかへ吹き飛び、宙を舞い、砂に埋もれた。
ぶつかられたリバーシは即座に抵抗しようとするも、グランドロボットの大きな右手同士でその太指をがっちり絡め組み付いたアント・マント機が封じそうさせない。そしてさらに、赤いレカーリーの気迫・勢い・打つ手は止まらない。背部の流体形のユニットから伸びた尾の針が、ゆるりと後ろにたわみ、溜め、危うく鋭いベクトルを制御し向け、リバーシのコックピットへと狙いを定めた。
「砂塵に沈め! WGのグランドロボット! 地に腐りッ、おろかっっ、根を張ることもできない、時代遅れの劣種の影どもめ!!!」
「このパワー……!! レカーリーがっっまたッ!!!」
レカーリーを駆るアント・マント少将の冷徹な大声と衝撃音が、白髪のパイロットの耳の奥にまでつんざくように響き渡る。そんな三機目のレカーリー、まさかの宇宙連合軍の司令官機の登場、そしてただの気迫を通り越したただならぬ勇猛な攻勢に、絶体絶命の状況にまで押し込まれ陥ってしまったリバーシの危機する胸先に、────────とても速い光が一筋、差し込んだ。
針に糸を通すように取っ組み合う赤と灰色の胸先と胸先を通り抜けた。それどころでなく、びゅんと伸びた冷たい殺気を纏った赤い針を────熱い光の矢が、食い破るように撃ち抜いた。
灰色のコックピットを狙ったはずのエイの尾の中途が千切れた。さらに、同時に放たれたミサイルの雨が横殴りに吹き着弾し、突然の爆発に機体側面を焼かれた赤いレカーリーが激しく吹き飛ばされてゆく。
「ビームだとっ…ゴワぁああアア!!? ばっ、ミサイルのっっ爆撃だとぉお!??」
「ッ────!? ……いやっ、グランド、グランドロボット」
熱され、空が透明に揺らめく騒がしきこの砂の舞台に、忽然と現れた白き影、グランドの両手で狙い構えたレンズガンがアント・マント機の尾を正確に撃ち抜き、追加装備の両肩のミサイルコートが威力激しく火を吹いた。
戦場の白き幻影、緑の二つ目を睨むように点らせたマイ・トメイロ操るGRグランドが、リバーシを襲った赤いレカーリーの拘束から解放した。