第24話 シヴァラバ×ミコッシオ
華美なマントを羽織う大柄巨躯の男、その一人の熱源が支配する、ブシャ砂漠にある【竜の背骨】の地下指揮拠点。アント・マント少将は、戦況を示す大型のディスプレイを睨みつけ、呻いた。画面の中では、宇宙連合軍に属するカーゼ隊の機体内蔵のレンズの信号が「ぱたり……ぱたり」とまた点滅し、消えていく。
「カーゼのレンズが砕かれて消える、左翼の勢いだと……! ここまで、愚策の世界政府軍どもに接近を許すとは! 何をやっているというのだ!!」
怒りのままに顔を紅潮させ、少将は座っていた椅子から立ち上がった。コンソール機器を叩きつけ、その野太い声が指揮室に響き渡っていく。
「こうしてはおれん、指令だ【レカーリー部隊】を呼び出せ! 私も打って出る! 宇宙連合軍のグランドロボットはカーゼだけではないと、砂上の地を我が物顔で闊歩する世界政府軍どもに見せつけてくれる!!」
少将は号令をかけ、指揮所にいた周りの部下たちは一層に熱を入れ動き出した。出番の巡って来た秘蔵のレカーリー部隊を招集すべく、部下たちはコンソールを慌ただしく指で打ち鳴らし、通信を試みる。
左方に歪み崩れつつあるブシャ砂漠の戦線を正すべく、アント・マント少将は背のマントをその太い腕で払い、勇ましく風に靡かせた。マントに精細に描かれた金刺繍の竜が、赤赤と燃え滾る炎に揺られ、指揮所の出口を抜けていく────────。
浦島銀河操るリバーシは「竜の背骨攻略作戦」に旗艦ノアの所属機・テストパイロットとして加わりながらも、戦場で浮いたプロトマーズ隊を助けるために、効果的に働いていた。そしてまたリバーシと銀河は突出していた一機を見つけ、後方の艦隊へと下がるように、戦闘の熱に引き寄せられ興奮していたプロトマーズのパイロットをなだめながら指示を送った。
「わ、わかった後方の援護に加わる! 後は任せていいのか! にしても……シミュレーターと全然違うんだな」
「そうみたいですねっ! 後はコイツと俺でデータを取っとくんで、任せてください!(シミュレ―ター……光に寄せられる……新兵ばかりなのは……。IMP……いや、そんなことより今はとにかくっ────)」
銀河はプロトマーズのパイロットの説得に成功した。遠隔での通信をするためにお辞儀してレーザーの指向性を高めていたリバーシの耳に、プロトマーズは手を上げ返事し、やがて背を向けて背部にあるブースターを吹かした。
そのときだった──
銀河が見届けていたプロトマーズのコックピットが、その鉄色のGRの背が、いきなり砂中から伸びた槍に貫かれた。
「ナ!?? なんだ!」
突然の槍に貫かれたプロトマーズは、雷電を機体から放出しながら膝から崩れ落ちた。やがて、丸いアイカメラは輝きを失い……鉄色が砂のベッドへと横たわった。
そして、リバーシが呆然と目元のバイザーをその衝撃の光景に向け見つめる中、砂中から飛び出し姿を現した。「尻尾をもつ何か」平べったい流線形のシルエットに、槍かと思われていた尻尾が生えていた。
そんな銀河の目に知っているようなサポートユニットにも見えた流線形のメカの正体に気を取られていると、右から飛び込んで来た勢いの塊がリバーシをいきなり襲った。
「ッ──いきなりっっ、だれだ!!」
「レカーリー親衛隊がナァ!! 次は貴様を討つのだよっ、WGのグランド兎ぃい!!」
砂漠に崩れ落ち散った衝撃の鉄色と、襲い掛かっては受け止めて散らした火花と砂のシャワー。
上からのしかかるように下ったアダマンタイトトマホークと、砂地に踏ん張り受け止めたグランドナイツソード、両機の握る得物が重なり合い、駆動する膂力で押しのけ合い、激しく火花を散らした。
灰兎のGRリバーシと、重い鉄斧を押し付ける紺色のカーゼとは違う砂まみれのライトグリーンカラー。
宇宙連合軍の新型GR【レカーリー】、アント・マント少将直属の新鋭部隊その一機が勇ましく名乗り上げ、左翼の戦場を乱す浦島銀河とリバーシを討つべく襲い掛かった。
一機のプロトマーズがその鉄の体を貫かれ砂に朽ちる様を灰色のコックピットから呆然と目にしたのも束の間、浦島銀河操るリバーシは、砂煙の中から突如として現れた敵機に襲い掛かられた。それは砂まみれのライトグリーンカラーの機体──宇宙連合軍の新型GR、【レカーリー】であった。
「データスコアの突き抜けたシヴァラバ・ミコッシオが貴様の元に惹かれ来たのだよおお!!」
レカーリーのパイロット、シヴァラバ・ミコッシオは吼えながら、手にした巨大なアダマンタイトトマホークを振り下ろした。その斧の重みと、まるで宙を駆けたレカーリーの勢いがリバーシにのしかかる。
「コイツ!! グランドパワーが!」
銀河は叫び返し、リバーシはそのまま斧を剣で受け止めたまま砂上を後転した。しかし、その動きはまるで巴投げをするように滑らかで、倒れると同時に、のしかかりつづけるレカーリーの胴体に蹴りを叩き込んだ。
「うっ!! 足をッ出すかぁぁグランド兎ぃ!!」
リバーシはなんとか纏わりついていた敵機を溜めて勢いよく繰り出した両足で後ろへと跳ね投げた。だが、次の瞬間、先ほどプロトマーズを襲ったあの流線形の尻尾付が、単独でリバーシに襲い掛かった。
「レカーリー! なんでだ! やっぱサポートユニットが!」
銀河の驚愕の声を嘲笑うかのように、その尻尾付のサポートユニットは正確なバルカンをリバーシの側面に浴びせかけた。
「ハハハハだからレカーリーなのだよっ! だからっ! それがレカーリーなのだと! 頭の角まで知覚するからやってのせるのだよ! こんな風になぁ!!」
狂ったようなシヴァラバの叫びと共に、サポートユニットはまるで海中を遊ぶエイのように跳びはね、リバーシをつづけて狙った。その間にもレカーリーは同時にアダマンタイトトマホークを思い切って迷いなく投げつけた。側面から撃たれたバルカンを避けながら、横倒しで宙を飛んできたトマホークを耳を垂れ下げリバーシはしゃがみ避けた。
避けては避けてレカーリーとそのサポートユニットの猛攻を凌ぎなんとかリバーシは反撃に移ろうとした。だが、いきなり耳を引っ張られた。頭部にあった兎の耳は急速に迫ったサポートユニットそのエイの尾に右の片方を絡められ、引っ張られたのだ。
そのエイは捕まえた兎の耳を引っ張りながらスピードを上げ砂上をお構いなしに引きずってゆく。しかし、このまま砂まみれになるまで遊ばれているわけにはいかない。銀河は激しくコックピットで揺られながらもリバーシの左耳で狙いを付け、隠し兵装のイヤーバルカンを放った。
リバーシは流線形ボディーの裏側へと連射されたビーム系のバルカンで痛めつけた。その行動は予想外だったらしく直撃していく。しかし、ダメージを負いたくないのかエイはすぐに諦め、右耳に巻きつかせていた尻尾を解いて強引に引きずっていたリバーシの元を軽やかに離脱した。
「しかも一体化できるのだ! 機能だけではないっ、スベテだ! シヴァラバ・ミコッシオとレカーリーもナァッ!!」
シヴァラバのレカーリーは、離脱したサポートユニットを巧みに遠隔で制御し本体の背部に張り付け、今、一体化した。まるで満月を背負い迫る、風をどかすそのライトグリーンの勢いが起き上がったばかりの兎に襲い掛かった。再びアダマイトトマホークを手に握りしめ、勢いのままにスイングする。
「この手応えダァッ! やはりぃ!! この手に痺れ反発する!! 冴える頭に漲るのだよっ、グランド兎っ、貴様は──だれだぁああ!!」
「ッ!! リバーシ────だってェ!!」
本能のままに吼える敵の狂った勢いを再び受け止めた。レカーリーが手強くてもリバーシだってやられるわけにはいかない。
グランドナイツソードにグランドパワーを注ぎ込み、圧されていた浦島銀河はしつこいシヴァラバ・ミコッシオに強く応えた。至近で睨み合うリバーシとレカーリー、危うい刃を合わせてより冴える本能、痺れる手応え、硬く熱されたアダマンタイトがひび割れてゆく────