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第22話 合流×オアシスデルタ

 ウラシマ・ギンガが去った後、尋問室にはロベリー・ストロー少佐とシマナミ通信兵だけが残された。


「新型を動かしてみせた。マイ・トメイロのように……。それは言い過ぎか。それとも本当にWGが差し向けた極秘任務のテストパイロットか、あいつは……」


 椅子に掛けモニターの映像を食い入るように眺める……赤髪の艦長がひとり発した一言を受けて、ちょうど彼に気の利くコーヒーをお出ししたシマナミ通信兵は、あまり開けずにいた口をひらいた。


「はい。あの自信のある目……私が以前所属していたグリーンベルで見たWGが開発したグランドもどき。────一部のテストパイロットたちも、ちょうどそんな目をしていた気がします」


 シマナミは静かに答えた。自らの経験を交えて、新型機リバーシのテストパイロットとして旗艦ノアに迎え入れることに決めた白髪の少年のことを表現してみせる。


 撃墜スコアは嘘じゃないようだ。コックピットビューの迫力のある映像を艦長と居合わせたシマナミはモニターで確認していく。例のスコア報告にあったカーゼ1機とカーゼタンク1機との戦闘映像だ。それは、ごく一部の人間しか知り得ないグレーシルエット、そのテストパイロットの彼の言う正式名称リバーシから抜き取った新鮮な極秘資料だった。


 その映像からもウラシマ・ギンガの発言の一部が、虚偽でないことは明らかであったのだ。


「みっともないと思うか。階級や立場だけの力を傘に、また見つけた若者の才と力に頼り、それをいい様にこき使おうとする艦長を」


 今発した艦長の言葉には、どこか自嘲めいた響きがあった。独り言ならば普段は深入りせず放っておくが、彼女は宇宙(そら)をゆく緑の匣を脱したあの日のことを思い出し────


「いえ、彼を受け入れた艦長の判断を支持します。──ここは方舟なので」


 どこか疼いた……シマナミ通信兵は、本意で答えた。おそらくこの艦、ノアのために下した艦長の判断に、自らの黒の眼帯をゆっくりと片手でなぞっていきながら。


「方舟、か……」


 ロベリー・ストロー艦長はそう呟き、前のめりでいた姿勢をチェアーに深く掛け直した。

 遠い目で今一度見つめる。

 砂塵を散らし、熱くフラッシュする、紫電一閃の煌めき、その視線の先にあるものは────────







▼▼▼

▽▽▽







 世界政府軍WGの支配エリア、中央アフリカ北部の指定された合流ポイント予定の【オアシスデルタ】にて、旗艦ノアは予定通りに先にたどり着いた。


 そしてオアシス地帯に佇むモスク、古びた礼拝堂の中で、もう一度北アフリカ戦線に向けての作戦内容が確認された。


「────────以上が今回の作戦の概要だ。爆撃部隊の第一次ミサイル攻撃で広範囲に先制し、次いでノアはそれに乗じブシャ砂漠の横断を決行し、我々はその先にある宇宙連合軍の根城とする巨大砂丘地帯【竜の背骨】を砕く」


 砂かぶりの絨毯の上に広げた。シート状の大きな電子マップを、今回の作戦に参加する主力クルーたちが囲い覗く。その囲いとは離れた場で別の連動する小型モニターを手持ち指示するロベリー艦長の声を聞きながら、グランドのパイロット、マイ・トメイロは皮肉めいたことを淡々と言った。


「結局以前聞かされたのと何も変わっちゃいないな。俺たちは最前線の尖兵か」


 以前彼が艦内のブリーフィングルームで鬱憤をぶちまけた時と作戦内容にほぼ変わりはない。今はモスク内とあってか、マイトは落ち着いた様子のようだ。腕を前に組み、多少の皮肉を発するだけでとどまった。


「あのっ、【竜の背骨】ってたしか、宇宙DOMEの残骸を使ってるんですよね? DOME技術のコストのかかった巨大レンズの広範囲重力場で制御した……つらなる砂の城? それが竜の背骨みたいだって」


 やはり今回もマイトが不平の意をやんわりと示すなか、突如、光るシートへと白髪頭が身を乗り出した。俯瞰した戦闘エリアになると思われるブシャ砂漠の映る電子マップを、何やら自信あり気に説明しながら、指でざっとなぞっていく。


「おい、またか。そのいきなりの説明口調。テストパイロット」


「あはは。いやだって、それが宇宙資材を上手くつかったCFの変幻自在なゲリラ戦の要なんでしょ! 今回はそれを叩こうって話じゃ?」


「どこで仕入れたんだその冗談は、俺の耳にももっともらしくも聞こえるがな。どうなんだ?」


 ツッコんだマイトへと銀河は振り返りなおも自説を説いた。マイトの耳にも銀河の説明口調はもっともらしく聞こえたらしく、隣にいたいつもグランドのことを整備している技術屋に目配せした。


「なるほど、そいつは面白い話だ。重力場の設定しだいでは可能なはずだぜ! ドームの総レンズ出力はピンポイントである区域に適した重力の配分を設定できるぐらいだ。なら地形を操ることも」


 メッカ・メイ整備兵もその先陣をきった白髪頭にかさばるように身を乗り出し、銀河の自説を補足補強した。どうやらその冗談は技術屋を乗り気にさせるぐらいの説得力があったらしい。


 クルーの皆も気になったようで、耳を傾けて突如始まった講義を聞いていく。その説に納得したのか首を縦に頷いた者もぼちぼち中にはいるようだ。


「あぁ。とにかく連中の隠れ蓑はまさに砂の中だと判明している。それを叩くという話だ(DOME事業関係の連中は隠しておきたいみたいだがな。さっそくやってくれたな)」


 まとめ役のロベリー艦長は冷静に答えながらも、無意味に制帽のツバをなぞった。


「じゃあ本当に宇宙ドームの残骸?」


「竜の背骨を動かしてるらしいよ」


「地底人? 厄介そうだけど、トーキックでやれるかな」


「フンッ。上から誘って出てきたところをもぐらたたきね」


 黒スーツの女性パイロットは邪魔なメカニック男の尻を蹴り上げた。トーキック部隊の男女2人もその囲いに入り、内、男性パイロットは顎に手を当て疑念を抱き、女性パイロットの方は前髪を掻き上げ自信の額を覗かせた。


 また元気に指をさす白髪頭の新顔を中心に、寄せ集まってきたノアのクルーたちのその囲いは、喧々囂々と活気づきながら、敷かれた電子の砂漠の上に、ひとつの大きな熱を高めた────────。







 中央アフリカ北部の合流ポイント【オアシスデルタ】。旗艦ノアが待つその場所に、WGの増援部隊が遅れて到着した。

 砂漠の地平線を切り裂くように列を成し姿を現したのは、WGの誇る陸戦艦、ドザー(1隻)とズザー(2隻)だ。補給物資のコンテナも後ろに牽引し、砂漠のオアシスへと滑り込んできた。



ドザー:WGのO級陸戦艦。エクレアのような色合いと形をしており、ホバー走行が可能であり防塵機能も完備されている。

砂漠地帯の運用にはうってつけである。

グランドロボット開発に後れを取る世界政府軍が宇宙連合軍に勝るのは、地球の重力下環境で局地運用できるこういった兵器の種類の豊富さだろう。

計3機のGRを搭載可能な大きさを持つ。


ズザー:WGのK級陸戦艦。

ドザーに大きさは劣るが、計2機のGRを搭載可能である。



 ノアのクルーたちは一足早く作戦会議中であった古びたモスクから出てきた。彼らの視線の先では、同じく、今、停車した3隻の陸戦艦から、ぞろぞろと赤い軍服の者たちが降りて来ていた。





 各陸戦艦の重厚な装甲が上に持ち上がり、左右に羽のように開いた。内部に搭載されていた試作量産機、その威容を輝かす新たなGR部隊のお披露目の瞬間である。


 陸戦艦の格納庫が陽光を浴びゆっくりと開くにつれ、一人の男の口角が吊り上がる。そして、その場に突如として陽気な声が響き渡った。


「これってWGの主力量産機【マーズ】じゃ、うおお!!」


 銀河はまるで玩具を見つけた子供のように目を輝かせ、湧き上がる興奮を隠せない。彼にとって、WGの量産機として選ばれ実験開発されたその新たなグランドロボットは、今、白髪を風に騒がせ駆け寄り────見上げる……純粋な興味の対象なのだ。まさにグランドファンとしての興味の対象だったものが、130分の1のプラロボとは違う何倍も大きなスケールを纏って、プラロボ部部長の彼の目の前にいきなり現れたのだ。これは驚くほかはない。


「アレ、でもこれ?」


 しかし、そんな部長の銀河は首を傾げた。銀河の知る赤いマーズとは違う、そのマーズは色褪せたような鉄色をしているのだ。どちらかといえば彼が愛機とするリバーシの灰色に近い。


「プロトマーズですよ」


「プロトマーズ?」


 近づいて来た向こうの整備兵が、訝しむ白髪の横顔に答える。【マーズ】ではなくそれは【プロトマーズ】であると。


(これってまさか……「水の星のグランド」小説版のマーズじゃね? たしか……鉄色をしていた。アニメ版とはちがう、ナシモ監督が没にしたそういう設定だったはずだ? それともただの塗装忘れかな)


 ただのマーズではない、プロトマーズ。その性能はいかほどなのか。

 銀河は抱いていた興奮を抑えながら、顎に手をあて立ち止まる。初めて見る見慣れぬ不思議な鉄色に、凝らしたその玄人の目を細めた。






「ん、待て。こいつは今までうちのグランドさんが使っていた武装じゃないか」


 合流ポイント、オアシスデルタにてさっそくお披露目されたプロトマーズ隊。その数機の鉄色の機体の並びを見たメッカ・メイ整備兵は、思わず声を上げた。彼は、これまでマイ・トメイロの操るグランドⅠが試運用してきた武装の改良型を、プロトマーズの各機それぞれがひとつずつ搭載していることに気づいたのだ。


「ここまでグランドさんが汗かいた様々な武装の戦闘データを元にもっと洗練したってわけか。アレだけどこぞのパイロットさんが愚痴吐きながらもCFのカーゼをオとしてきたからな。欠点が見えりゃ、そこを徹底し直しゃいいだけ。人の苦労や叱られ損を露知らず、なんとも簡単だ。ははーん、取り回しは良くなっているはずだぁ!」


 メッカ・メイ整備兵はその進化に感嘆しつつ、WGの作ったという今はオアシスのほとりに立つプロトマーズたちを、熟練の目を利かせて飽きずに眺め続けていた。


『これいいですよねェ! 【レンズキャノン】! アハハハ』


 ノアのメカニックの褒め言葉を聞いていたのか……プロトマーズに乗った新兵が、自分の機体の右腕一体と化した武装を誇らしげに天に掲げる。


「冗談だろ……はぁ」


 マイ・トメイロは、鉄色の巨体が大声で拡散させたその言葉に小さくため息をつく。補給物資と称し、自機のグランドに重量バランスの悪いキャノンを取り付けた時のことを思い出したようだ。反省を踏まえてか今は一体型となっているようだが、目に映るのが機械ではあるはずがその様がほんの少しばかり侮辱的にも思えたマイトは……羨ましいとは思わなかった。







 ノアと合流を果たしたオアシスデルタに集った最終的な戦力は以下の通りになった。


・陸戦艦ドザー:1隻

・陸戦艦ズザー:2隻

・プロトマーズ隊:7機

・戦闘機サイドキック:4機


そして、旗艦ノアからは

・ノア:1隻

・グランド:1機

・戦闘機トーキック:2機

・リバーシ:1機

・フェアリーナイト:1機


 合計でGRが10機、戦闘機6機、陸戦艦3隻、旗艦1隻。この戦力で、宇宙連合軍の牙城である【竜の背骨】をこれから砕くのだ。WGの誰ぞと知らぬ作戦立案者は、砕けとおっしゃるのだ。




「これで竜の背骨を撫でにでもいくのか。練兵している暇はないってのに」


 マイトは、オアシスデルタに駆けつけた新兵たちの練度不足を懸念する言葉を漏らす。そんな緑髪の若造の吐露が誰ぞの耳に届いたのか、その言葉に、プロトマーズから降りてきた活気の良い新兵がやる気を見せ、偉そうに見えた緑髪のクルーに食ってかかった。


「自分はシミュレーターではCFのカーゼ2機を何度も墜としています! データスコアは並じゃないはずです! 自分もいずれ、いや今すぐにでもノア所属のあのマイ・トメイロさんの乗るグランドのようにカツヤ」


「そんなに後ろで活躍したいなら今覚えといた方がいい、シミュレーターと実戦は突き刺さる殺気の頻度と温度がまるで違うんだ。本気を出せるのはこちらだけじゃないからな。あと、〝あの〟ではなく、〝この〟だと思うぞ。(まったく、何故かどいつも落ち着かない連中だな……あてにできるのは────)」


 意気込み良しだった新兵は今、面を食らった顔で、ヘルメットを脇に抱えたまま立ち止まる。

 そんな熱視線もそれ以上は気にせず。初対面ながら言いたいことをマイペースに言い切ったマイトは、今、艦隊ノアとドザー、ズザーに所属する兵士たちが混沌と混じる賑わいの中を……探すように目を向けた。


「竜の背骨と、どっちが冗談か──か」


 緑の瞳の遠目に映る──メカニックと新兵たちと、広げた両手のジェスチャーがやかましい白髪頭と。


 マイ・トメイロは隣にいつの間にやら立ち並んでいた新兵の肩に手を置いた。やがて、コックピットハッチを開いたままオアシスのほとりに憩っていた鉄色巨体の足元へと、背伸びしながら緑の髪の背姿が歩いていった。





 機密事項だからと締め出しを食らい、作戦会議には混ざれなかった佐伯海魅は、他の待機と見張りの指示のかかったクルーたちと共に、ノア艦内のグリーンスペースで大人しく時間を潰していた。


「ってさっそくなんでこうなってんの?」


 海魅は両手を広げ首を傾げた。今座る木のベンチの左隣には銀河部長はいない。「腕が鳴るじゃん」とここでブラロボ部の部長と部員2人で意気込み言ってみせたものの、海魅はさっそく理由も分からずに、部長よりも出遅れているようだ。


 そして、静かにやってきた気配に海魅が右を振り向くと今、誰かが腰掛けた。

 隣には、淡々と小型のコンソールを操作する海魅も見知った顔、不似合いな黒い眼帯がトレードマークのシマナミ通信兵がいた。


「水準に達していませんでした。『なんで』は、それが理由かと」


 別に質問をしたつもりはない。いきなり聞かされたシマナミの簡潔な言葉に、海魅は戸惑い、思わず──


「は?」


「はい?」


 とある一年、女子高生の可愛くも生意気な態度がその一音に漏れ出た、だが、シマナミはさっき見た時と同じノーマルな顔でゆっくりと首を傾げた。


「冗談は冗談……」


 最近どこかで聞いたようなその女子高生が発した台詞も、耳に入れたシマナミは華麗にスルーしてやり答えず。無言で今コンソールでプリントし終えた資料を、隣で手持ち無沙汰そうにしていたその彼女へと配った。


 それは昨夜の夜襲戦闘における、パイロットたちの収めたデータスコアだった。そこに記された数字やアルファベットの意味することは、このグランド世界のことを旗艦ノアのことを銀河部長ほど知らない海魅部員にはよく分からない、すぐには読み解けない。

 だが、なんとなくのことは雰囲気でビギナーの佐伯海魅にも理解できる。「ふんふぅん」となぞの鼻歌を口ずさみながら、【見知った名前】と【見知った名前】のかかれた2つの資料──その「水準」を興味津々に、今、見比べてみる。


 自分のことよりも気になったのは────


 海魅はとある2人のデータスコアを珍しく食い入るように見比べた。やがて、瞬きの少なくなった青い瞳は見開き、口角もじわりと上がっていく。



(────ノアって、おもしろいのかもしれない)


 シマナミ通信兵は、若々しくて瑞々しい、そんな若者の横顔と青く輝く瞳の色をしばらく眺めるように見て────目線を外し、静かな鼻息とともにその席を立った。

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