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第20話 クールダウン×帰還×夜食

 決着は────闘争とは別色の、終わりを告げる息を今、どっと、コックピットに吐いて。


「はぁ……なんとか……」


 何度も裏をかかれその白髪の毛先まで冷汗をかかされる手強い相手だった、おもしろくなくて面白い、そんな厄介が満載な機体、銀河の見たことのないガーゼタンクだった。

 後ろを叩かんと、彼がリバーシで夜の砂漠を静かに駆けていたときは予期もしなかったものだ。まさに先走って遭遇した、そんな厄介な敵の相手をしてしまったのだ。


 その結果を手放しに喜べない。白い制服のブレザーを脱ぎ、戦闘後のこもる余熱を外に開放する。ひどく汗ばんでいた、それほどに緊張していたのだろうと灰色の機体に搭乗する白髪のパイロットは分かる。ゆっくりと解いた首元のネクタイが、コックピットシートの足元に、ひらり、落ちた。そのとき──


『俺に援護射撃を撃たせたか』


 通信ビジョンではない、通信音声が入って来た。聞き覚えのある声をリバーシの垂れた耳がキャッチし、右の片耳を上げた。リバーシが振り向いたその方向には白い機体がいた。緑の二つ目の特徴的なアイカメラで見つめている、その機体の名は、【グランド】、【グランドⅠ】。白基調と赤の差し色が、ロボットでありながら神話のような厳かさを放っている。


「!? ──はは……俺から〝ソレ〟頼んでは……? なかったかな(射撃というか、狙撃だよな? もはや)」


 浦島銀河はグランドのパイロット、マイ・トメイロに、「援護射撃を撃たせたか」と問われ、「頼んでない」と生意気に疲れた小さな笑いを添えてお答えした。


「ふんっ、よく言うな。──見逃したのか?」


「かっ……片手間だからね」


 見逃したかに見えたのは、その彼方へと続いた引き返すようなキャタピラの跡。夜の砂漠をグランドのアイカメラが照らし、たった今来たばかりの若くして熟練のグランドのパイロットは疑問を浮かべて、また問うた。


 現場で絶賛キャタピラ付きの敵機と戦っていたであろうリバーシのパイロットは、今、問う者には見えない白髪頭をかきながら、なんとか苦しくももっともらしく……お返しした。


「よく言うな。冗談……ではなさそうだな」


 左腕がない──まだ剣をその右手に力込めて握る片腕のリバーシの様を、自機グランドの目に捉えて、マイはそう言った。


「冗談などでは……あっ!? 言っとくけどこれはそのォっ……ヤラれてない!!」


「はぁ? どっちでもいい」


「どっちでも!? 良くない!!」


「必死だな。ほら帰るぞ」


 リバーシのその片腕は最初からなかった。ここに来る前にヤラれたのは事実だが、さっきのカーゼタンクにヤラれた訳では断じてない。そう必死に念押すウラシマ・ギンガに、耳を貸したマイ・トメイロは冷静にあしらい、グランドの今扇がせた左のマニピュレーターで合図し片腕のリバーシのことを呼ぶ。別にない方の腕でグランドがリバーシを煽っているわけではないようだ。「帰るぞ」とウラシマ・ギンガのことを母艦ノアへと帰投するために誘っただけであった。それに、そのまま未確認の一機変質者の一人で帰られるのもまた、別の問題が未来生じて旗艦ノアに属するマイにとっても困るのである。


「お、おぅ? ハイ!! ってこれHASUじゃ!! うおおおお生ハム、いや生HASUだーー!!」


「……変なヤツ?────おい、グランドロボットではしゃぐな耳付き!」


 砂漠に乗り捨て置かれていたHASUの前に駆けより、巨大な灰兎は子供のようにそれを覗いてははしゃぐ。その様はまるでパイロットのようではない、グランドロボットのようでもない……。マイ・トメイロとグランドⅠは、そんな楽し気なグレーシルエットを見つめて、駆け寄った────。







「そこのグレーシルエット。そのまま送った進路通りに進みなさい、1ミリでもズレるな。ばたばた耳を立てるな!」


「ってなんでこうなってぇ!? 『もしもしトーキック2、こちらグランドナイツの末席、表裏術騎士リバーシ、カーゼ1機にカーゼタンクを退けた味方ですよ!?』 せっかくの生HASUなんです、もうちょっと自由にたのしませてもら」


「空の舞台で『もしもし』スルな! 通信効率の悪いことを! まったく……べらべらうるさい軽薄な男、あなた次やったら後ろから、────撃つ」


「ええええ!!?」


 銀河は伝説のパイロットから彼が鹵獲したというHASUを交渉の末、随分すんなりと借してもらい、今、空の旅。

 帰投するまでの間だが銀河はリバーシと共にゆっくりと、HASUの性能と上からの夜のブシャ砂漠の景色を眺めようとワクワクしていた。

 だが、現実は彼とリバーシにワクワクすることもフラフラすることも許さないようだ。空飛ぶ蓮に座る灰色兎のケツにつけたトーキック2の女性パイロットは、未熟なパイロットへと後ろから鋭い睨みを利かせた。


 「空の旅」は、「空の指導・補導」へと。白髪の若きパイロットが夜風をただようワクワクは夜風に挑むドキドキへと変わる。別種の冷汗をまた流しながら……。ウラシマ・ギンガはリバーシが手足を置き物理接触しコントロールを共有接続したHASUを、レバーを握り慣れぬ物理マニュアル操作でなんとか操り……叱られながらもトーキック2の指示に従った。







 トーキック2のパイロットに後ろからぴったりと、事細かに指導叱責されながらも、はじめてのグランドロボット運搬戦闘機HASUを銀河はGRリバーシで乗りこなしていく。


「これがHASUに乗ったGRの眺めか……はは」


「何がおかしい、空で笑わない! ────それにHASUなんて美しくないものよ、そういうの〝いびつ〟というのよ。円盤が空を我が物顔で飛んで」


「あぁー確かに、グランドロボットに慣れぬ下駄を履かせたようなもんですからね。足場のコイツで無茶な空中戦はできませんよ。──あぁー? やっぱ俺、そういう意味じゃ最新技術の詰まった地球の戦闘機の系譜、【トーキック】の方が断然好きかもしれません! 俺黒とかシンプル、こうなんつぅか一本、統一感があるのも好きなんだよなぁ。晩年のインフィニットホークは……ちょっと違うか? ははは」


「高度が下がっている! 【リバーシ】!」


「え!?? あ、ハイーーー!!! っぶねぇ!! ────アレっ??」


 銀河が無駄な雑談雑学をべらべらと夢中に披露している間にも、知らずそれまで保っていたHASUとリバーシの高度が下がっていた。後ろで見ていたトーキック2のパイロットはすぐさま指摘し、元に戻すように彼に指示した。


 もう聞きなれた刺すような声の叱責指示を耳に、銀河は高度を上げようと操縦桿を握り制御しようとしたが、丁度いま見つめた地上の先に、彼の目に目立つ雰囲気をした何かを見つけた。


 手を振っている────白いヤツ。しかしその姿はさっき別れたマイトの乗るグランドⅠではない、遠目からでも玄人の彼にははっきりと分かるのだ。


 そのまま高度を下げながら彼は目標物へと足場の円盤を操作し向かった。向かいながらも、今、繋がった通信ビジョンで砂漠で手を振り続けるその白い機体へと呼びかける。


「おい、なんでフェアリーナイトがそんな道中で手を振ってぇ!? おぉい、ノアにすぐカーゴで戻るかそのまま戦場を離れてろって言ったろ!! 俺言ったよな!! そこの部員!!」


「は? だって心配じゃん」


「あ? 誰を心配してんだよ! はは、このとおっっり、大丈夫だったぞ! 見ろっ、おまけのHASU付きだ!」


「フェアリーナイトだけど(はすっ?)」


「そっちか……。そりゃそうだが。ってフェアリーナイトも砂浴びして憩ってるから無闇に破壊はされないだろって! 俺それも言っ──」


「そうだそうだ! 愛しのフェアリーナイトちゃんをほったらかして何やってんだ! それはそうとデータだデータ!新機体! 今度はそっちもご合席ねがっ──」


「って誰だよ!? いきなし通信に割って……って偏愛メカニック!? 散ってなかったのかよ、おいッ、その中で何して──」


「勝手に降りない!! ケツを焼かれたいの!」


「うげっ!? け、けつ!?」


 リバーシがHASUでノアへと帰還する空路の途中、地の砂漠で会った、見つけたフェアリーナイトとそのパイロット佐伯海魅部員。銀河部長は確かに彼女に避難第一を伝えたはずだが、今フェアリーナイトと彼女は手を振りながら戦闘区域にいる。


 どういう理由か勝手をした部員に部長は強く伺い問い、部員の彼女は淡々と用意していた理由を答えた。途中黒髪と青い目の銀河の見知った海魅の映る通信ビジョンに割り込んだ偏愛メカニック、メッカ・メイ整備兵とも話し込んでいたところ、またトーキック2からの鋭い通信音声がリバーシの耳へと入った。


 慌てて下げていた高度を元にもどしていく。鋭い鳴き声をあげる黒い烏に後ろをつつかれ、舞い上がる円盤に乗る耳をバタバタと羽のように慌てさせる灰色兎リバーシと部長の様を、フェアリーナイトと部員はまた手を振り続け、笑いながら見送った────。





▼▼

▽▽





▼旗艦ノア 捕虜牢▼にて


 元の場所へとおさまった。時間が経って冷たくなっていた牢内の床を温め直すように、その白髪の置物は放り込まれた。


「ってなんでぇ!?」


「当たり前だ。艦内に不法侵入したあげくこちらが鹵獲したGRを勝手に持ち出すとは何事だ!」


 立ち上がった白髪の若者は直ぐに抗議すべく、厚く閉ざされた鉄ドアの上にある鉄柵の小さな景色からその顔を覗かせ、必死の形相でロベリー艦長へと訴えた。だが、艦長はそれ以上の迫力で牢でまだはしゃぐ若造へと言い返した。


「だからリバーシは俺のっ!」


「アルミラージだろ? アルミラージちゃんじゃなくて、くんっ」


 居合わせた整備兵メッカ・メイが顎に手をやりながら、勝手に他人の機体に見知らぬ名前をつけていた。


「リバーシだ! なんだそれ!? あと正しくはちゃ──」


「黙れという。……貴様、まったくと言っていいほど反省の色が見えないな? よし、看守役は交代制でコイツから片時も目を離すな。グランドロボットを動かしたというのならまだCFの送り込ませたスパイの線もある。いいか皆よく聞け、今後よくしゃべるコイツの一切のでまかせを鵜呑みにはするな。以上、怠るナよ」


 ロベリー艦長はそう冷徹に告げて、赤髪に制帽を被り直し、今この場に居合わせていたクルーたちの気を引き締めた。鉄柵を握りこちらを見る、白い若造を最後にまた一瞥しその場を去って行く。


「了解しました。さぁ、マッシロネボスケ暴れたらまたビンタしてやるよ」


 上官の命令を承ったレフト曹長はどうやらやる気のようだ。息を吹きかけた手のひらで素振りをしながら冗談を言う。


「降りてもうるさい男。檻のモンキーでもやってることね」


 黒いパイロットスーツは、トーキック2の女性パイロットだ。汗をかいた金髪を手直ししながら、蔑むような目付きで檻の中の白い生物を睨む。


「ビンタ!? モ、モンキー?? ちょっとおお!! ロベリー艦長そりゃないでしょって!! って部員おまえまで!! なんでぇ、そっちに? じゆ…う?」


 クルーたちにしれっと混じり、白い制服姿、青目で淡々と牢を見つめる海魅部員がいる。部長の銀河はなぜ彼女はそっち側にいるのか、鉄柵ごしに不思議がり問うた。


「わたしってノーマルだから、ふっ」


 返ってきたのはなんとノーマルな彼女の2番目によく言うその台詞。腰に両手を当てながら偉そうだ。


「おおおい俺はそんなに危ないアブノーマルだってのかーー!!」


「「モンキー」」


 黒と白、トーキックの女性パイロットとプラロボ部の女子部員が、口を揃えて冗談を言う。一体いつ仲良くなれた隙があったというのか。


「モンキーがグランドロボットを、リバーシを、あやつれっっ──」


「リバーシ──ちゃんか?」


「耳付きだろ、偉そうに付けていた」


「モンキーがラビット、笑えるわね」


「そういやマイ、お前お咎めは?」


「牢屋はぜっさん定員オーバーだろ」


「ははははは、たしかに!」


 そんな騒つく物珍しい白い生物を入れた牢の手前、マイ・トメイロがひょっこり姿を見せた。緑髪の彼はまた銀河にとって笑えない冗談を言っている。「精度の良い援護射撃をしてくれた味方ではなかったのか?」銀河らそんなことを思っていたが、どうやら彼の態度はそうではない。それどころかなんと銀河を利用し、自分の罪をうやむやにしたようだ。そんな様子で自由にやり、淡々と耳付きなどと語り、薄暗い牢にいる銀河の目に映る緑髪のソイツが、暖かな照明のある側で開き直っているのだ。


「は、はかったァ!? マイ・トメイロ!! おい伝説、いんちき伝説!! まさかッ、俺を!??」


「じゃ、その冷たいベッド、あたためよろしく──ナ! ウラシマ・ギンガ、自称、伝説と御伽話のテストパイロット」


 ゆっくりと鉄のドアへと近づいてきた伝説の面持ちは、白髪の耳にそう生台詞で告げた。グランドファンの彼へのファンサービスなどではない。


「マイぃ、まったくどこ行ってたの! きいてくれきいてくれ、明日の献立が大変なんだよ! まぁた、カレー粉が切れてて」


「じゃ、シチューは。兎の」


「兎のシチューか? おぉお、よし、考えてみる!」


「考えるなーあああああ!!! じょっ、冗談だろ……おっ、俺だけ……ぇ?」


 コージィ・ヒカリ司厨士(しちゅうし)に背を叩き呼ばれた緑髪の伝説さんは「兎のシチュー」を提案する。グランドのパイロットのお仕事は彼のいつも言うように外の戦場だけで完結していない。旗艦のノアの献立作成に忙しいマイ・トメイロは笑いながら、渡されたメニュー表を見ながら部屋を去って行く。


 もう牢の中の生き物の反応を見飽きたのかクルーたちが続々と去って行く、目を光らせる看守役だけそこに置いて。


 ひとりあっさりと牢内に残された浦島銀河は、脳が追いつかない、嵐のように去っていく事態に、どっと、重い溜息を鉄柵ごしの明るい景色へと吐くしかなかった。








 夜が更け、宇宙連合軍からの予期せぬ夜襲にあったノアの艦内は今はもう落ち着きを取り戻し、警戒と艦搭載のレンズのグラビティレベルを少し薄めた静寂に包まれていた。

 そんな薄暗い通路を、トレイを抱えた一人のクルーがすたすたと歩いてゆく。そのクルーの目的地は艦内の一角に設けられた簡易的な捕虜牢の前だった。


 今、交代で入った看守役によりトレイは鉄扉下方にはめ込まれた小さな受け渡し口から、中でぼーっとしていた白髪の少年に渡された。

 トレイの上には、湯気を立てるミートソーススパゲッティ、その一品一皿だけであったが。


 白髪の間にのぞくその黒い目を輝かせる、──空腹の浦島銀河は伝説のパイロットが作ったらしきその伝説のミートソーススパゲッティをさっそくいただこうとした。だが、────


「うおおおこれが(ノアのッマイトの手料理ッ、料理スキルも高いGR乗りで完結していないマイトの!! のちのマイト食堂の!!)!? さ、さっそくいっただっきまーーあれ? あのぉ、これ……フォークは?」


「そこにスプーンがあるだろ──おこちゃま」


「って冗談!??」


 いつぞやのスプーンのついてなかったプリンの仕返しか、銀河が今手持つスプーンだけではスパゲッティを食べることは難しい。受け渡し口を開き、白髪黒目が下から覗き込む──向こうには不敵に笑う緑髪がいる。


 「ご馳走を前に冗談ではない……」低姿勢になった銀河は手を伸ばし、必死の手合図で〝フォーク〟か〝チョップスティック〟を見下ろす鬼畜な笑みの主人公へと要求した。




「ただの口だけじゃなかったようだな、お前。カーゼ1機とカーゼタンクを相手にしてここで麺をうるさくすすってやがる」


 突然かけられたマイトの言葉に、箸でスパゲッティを必死にすすっていた銀河は顔を上げた。そして鉄ドアに近付き、鉄柵へと赤く口元のよごれた顔を出し、マイトの言葉を耳にし銀河はそれで水を得たように元気にお返しした。


「あ、あぁ!  口だけなんて実戦じゃ意味ないからさ、アタボーのターボシルエット!」


 鉄柵ごしの銀河の視線の先には、椅子に余裕げにかけ、カップに淹れた新鮮なコーヒーの匂いを嗅ぐ看守役のマイトがいる。マイトは耳にうるさいぐらいに聞こえた白髪頭の元気な返事にも、頷いたり褒めたりはしない。クールに緑目の眼差しを送るだけで済まし、足で地を蹴りチェアーをゆっくりと回転させた。丁度一回転し、今また緑の瞳が銀河の真正面────マイトは落ち着いた様子でまた口を開き、次の話題へと移った。


「そういや、耳付きの新型。WGが俺に黙ってあんなもの作って寄こしていたとはな。どうも連中、ここを動物園にしたいらしいな」


「あはは動物園?  ってモンキーじゃないぞ! 俺ぇ!」


 鉄柵を強く握り揺らしながら、今誰も言っていないそんな冗談を白髪頭は言う。


「ハッ、冗談言うなお爺ちゃん。だけどお前、────あれは迂闊だぞ。わざわざ慎重野郎のいた後ろを狙うなんてな。放っておけば良かったものの」


 マイトは先ほどの戦闘状況を思い出すように、わざわざカーゼタンクを叩きに行く状況判断をしたテストパイロットに言う。銀河は少しバツが悪そうに自慢のホワイトヘアーを掻いたが、その行動に至る確固たる考えあったと、すぐにもっともらしい言い訳をお返しした。


「あっ、それはそのまま新型のリバーシで守ったらノアとグランドに気を遣わせて邪魔になるから。あのときはカーゼを1機討ってすぐにそっちを!」


「────確かに邪魔ではあったな。あのまねっこの白いの、アレに乗ってるのもテストパイロットなんて言うなよ?」


 コーヒーを一口ゆっくり口に含み、今聞こえた銀河の言い訳をそれで整理したのか。マイトは椅子にかけたまま、銀河を鋭く睨む。目立つ援護射撃でノアの守りに勝手に加わったグランドを真似たような白い機体のこと、別件の正体の方もついでに問い詰めた。


「アレは……テストパイロット!」


 苦し紛れにも何を思ってか「テストパイロット」だと、そう言い切った銀河の言葉と眼差しに、マイトは呆れたように息を短く吐いた。


「冗談言え。まぁ、迂闊に前に飛び出ないようには、指導はされてるようだがな」


「あはは……そう、だな。そこだけはやってくれている? か……」


 迂闊に前に飛び出ない、あくまでフェアリーナイトは後ろでの援護射撃と部長は部員にいつも口酸っぱく言い聞かせていた。佐伯海魅のその染み付いた成果が少しは先ほどの戦いでも、マイトに助けられながらも、発揮されていたようだ。




 看守によく喋りかける囚人がいる。看守も囚人の溢れるようにたくさん語る妄想や御伽話というものに、興味があるのか耳を貸しているようだ。


「特殊展開した重力場で自由に命令を出し遠隔で糸吊りのようにコントロールする……お前のさっき得意げに語った〝天脳システム〟のもっと拡張した兵器への応用、小型レンズ兵器NENの【ベリーズボット】? 通称【ベリー】か? 食えそうな名前の割に不味そうな性能だな」


「そうそう!! だからさ、今の戦いよりそう遠くない生きている内の未来に、そんな兵器がでてきたら、こっちも確立した有効な対策が必要じゃん!」


「なるほどな、お前が言うそんな兵装があったら。どうグランドやお前のリバーシで撃ち落とすか?」


「そうそう!!!」


 2人の雑談はさらに深まり、マイトは銀河が妄想し今生み出した新型兵器ベリーズボット、通称ベリーについて、その凶悪な兵器を自分ならどういなし対処するかを……その伝説のグランドのパイロットの腕前と今の経験値で語って欲しいとお願いしていた。


 顎に手を当てチェアーをまた自転させてゆく、そしてぴたり────そよいだ緑の髪が真正面で、また止まった。

 やがて、際限なく輝かせるテストパイロットのその黒目へと、思考とシミュレートし終えたのかマイトは一言。


「諦めろ」


「ええ? いやいや!」


 伝説のパイロットが「諦めろ」なんて言うはずない。銀河は鉄柵にしがみつき、驚き顔をしつつもそのやる気のない答えを否定した。しかし、マイトの冷静に導き放った一言にはまだ続きがあったようで。


「諦めて前に突っ切れ。そんな豆粒、撃ち落とすなんて背伸びを考えるな。相手が二流のパイロットならそれで集中は乱れる。糸にした殺気で動く兵器にこちらの殺気もなしに自由にヤラせたらそれこそ操り人形──圧倒的に不利だ、馬鹿でも分かる。それに速くターゲットの懐に到達すればむしろそんなもん足枷だ、その酸っぱいベリーに頼りっきりのヤツはな。近寄られて頭の切り替えができるか?」


 一言の続き、主人公が今唱えた考えに耳をよく凝らした。銀河はいたく感銘を受けたように、また瞳の色を輝かせ頷いた。


「な、なるほど!!! 確かに速くターゲットの懐に入れば……って一流の場合は!?」


「そんときゃ二流と信じて突っ込めよ。二流」


「な、なるほど……って二流!? おいっ!!」


 銀河は思わず声を荒げたが、さらりと冗談を言ったマイトはニヤリ、うるさい若者の顔を見て笑うだけだった。


 小型レンズ兵器NENのベリー、その仮想対処法についてについて一つ、ためになる授業を伝説のパイロットから直接受けたプラロボ部部長浦島銀河は、ひとりまた頷く。そして既に完食したミートスパゲッティの食後によく合う余り物のコーヒーをいただきながら、浦島銀河は牢の中でにやけていた。

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