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第2話 入部届×フェアリーナイト

▽部室棟2階プラロボ部▽にて



「コンテスト用に作ってはみたものの……俺は何かプラロボに対して見失っていたのか……」と、白髪頭はひとり呟く。


「なぁどうなんだ、インフィニットフルパッケージホーク金剛夜叉」と、問いかける、ひとつのプラロボに対してまるで友達のように、シラガの彼は独りでするそれが得意だ。


「たしかにお前、背荷物…なんというかァ…その大荷物がちょっと色々雑念を抱えてるみたいでヒトの見ようによってはイカしてないよな……今は蟹だけど」


 相変わらずのシラガの男子生徒がじっと見つめる先にあるのは、あの御大層な透明ケースのなかの土盛り。その地上戦場に見立てた小舞台に、ガニ股でバランスを取り後部のフルパックから甲殻類のように多脚を下ろす、ぶっ刺す、そのおどけた姿を……プラロボ部の部長の彼は黒い瞳でじっと────────。




インフィニットフルパッケージホーク金剛夜叉:

短編アニメ全4話漫画版全12巻、グランドSIDEマーキュリーに登場する主人公のライバル機。

その名はインフィニットホーク。

最初は黒くてひょろいスピード重視の機体だったんだけどな。若いパイロットの男もスピードスター、期待の新星のエリートって言われていたり……。

インフィニットフルパッケージホーク金剛夜叉、主人公の機体マーキュリーに幾度も挑んだインフィニットホークのこれまでの全武装を載せた幻の最終決戦仕様だ。

そう幻……こいつは実はアニメの正史では間に合っていない全くの架空の存在。こいつで主人公機と戦うことすら無かったのだ。アニメ本編ではインフィニットホーク金剛夜叉という、もうちょっとだけはスマートな機体だったな、それでもじゅうぶん一般的なサイズのグランドロボット達よりゴツかったりするものだが。

何度も主人公にしつこく挑むこの機体に搭乗するエリートパイロットが、自機をどうこう積極的に改造したり、自分でも改造案の意見を出しちゃったり、何故か寺で精神修行したりもしていたな。そうそう、その時に偶然でくわしたマーキュリーのパイロットといっしょにお互い敵であることも気付かずに、寺の柿を盗み食っていたり、はは。

ともかくそんなできうることを全て試してやがて、エースパイロット、最恐のライバルまで上り詰めるってエピソードは嫌いじゃない、けど・だ!

ちょっとばかしぃ……主人公のマーキュリーじゃなくて悪役側の設定とか過去の方に焦点をあてられて、いささかその数が多すぎるのはどうなのかなぁ? と一ファンとして俺という者は思うわけで。

そうそう漫画版ではこいつが完全に主人公みたいだったな……。もう開き直って描いてやがるとしか思えない。ま、漫画版を別で出すくらい、そういうファンからの要望が多かった、それもまた事実だろうな。


まぁまぁ主人公の最高の才能と最強の機体に挑んだ者の成れの果ての姿とも言えるし、その死に様──嫌いではないな!

110分の1サイズのこいつのお値段は……想像にお任せしよう。(パーツが今までのプラロボの前例にないくらいめっちゃ多い……最短徹夜の3日コースは覚悟してね)




「そういうツギハギのドラマを知っていると、コンテスト用の見栄えと作製難易度だけどコンテスト度外視で魅力的にも見えたんだよなぁ、そのときは……。今はさ蟹だもん。でもインフィニットホークのエリートのパイロットさんは腕が、じゃなくて便利な脚が増えて喜んで乗り込んでいそうな気がするな。あの金髪リベンジマンなんでも先ずは乗るからなハハハハ、そう思うとまたいっそう笑えて来るぜ」


 彼がひとり妄想を膨らませ思い出し部室で笑っていると────ガチャリ。


「失礼しまーす」


「んぎっ!?」


「んぎっ? なにそれしょっぱなはきもいんだけど……」


「な、なんでも……ってなんできたああああ!」


 そこにいるのは誰か、いや知っている気がする、彼にはそんな気しかしない。もうすでにドアを開けっぱなしで、閉めずのスタイルで、気軽な態度で侵入し、そのエリアの中にいるのは……。


 青い瞳をした、ちょっとだけ周りよりスカート丈の短い気がする女子高生。1年2組佐伯海魅。放課後16時きっかりに現れた部外者の一般生徒であった。


 突如の彼女の登場に驚いた銀河はドアの方、彼女の方を向き、なかなかの声のボリュームで驚きのセリフを発した。


 そんな彼に対して口を真一文字にシメる。左肩に提げていたスクールバッグをごそごそと漁りだし。取り出したブツをそそくさと近付いては──対面早々うるさい顔をした白髪の男へと、佐伯海魅は手渡した。


「ん」


「あぁ?」


「ん、これ」


「これは……」


 浦島銀河が彼女から受け取った灰色の包み、白いリボンに結ばれている。それは両手でかんたんに支えられるほどの軽いおもさの長方形であった。


「入部届」


「にゅ、入部とっどけえええええええええええええええええええええええええええ」


 それが彼女、佐伯海魅の今、一歩下がっては腰に両手をクールに当て、プラロボ部の部長の彼に贈呈した入部届。





「馬鹿かお前このプレゼントラッピングの中身が入部届なわけないだろ」


「じゃあなんだと思うの」


 これがその女子生徒から贈られた単純な入部届なわけがない、彼にはそんな事は分かっていて、一瞬箱の中身を揺らし振りそうになったがそれは愚行。イケナイことだと思い出し冷静になりやめた。


(手に持ってみた既視感のあるサイズ感と重み、これが俺へのプレゼントなわけもなく……。これはこいつの選んだ────)


「なんだって、プラロボ、130分の1サイズだよな」


「サイズまではきもっ」


 そう彼女の顔を見て白髪頭がスマートに答えたところ、ノーマルな顔をした彼女からすぐさま返ってきた一言は痛烈だ。さらに、ひそかにその女子は半歩左足を後ずさってまでいる。


「おいっ! てたしかにちょっと一般人はやめてたかも……いやプラロボ好きならこれぐらい分かって普通だろ(服のサイズを首元のタグを見ずに当てるようなもんだ)」


「ふっ、わかっちゃうなんてまぁさっすがオタ……プラロボ部じゃん」


 女子高生の「きもっ」はかるい挨拶程度の意味合いなのだろうか。くすりと彼の返しの言葉を鼻で笑い両腕を前に組んでは、佐伯海魅は堂々としている。何はともあれ、けなされた後に褒められてしまった銀河はそんな目の前の素人女子の言い放つ些事にはいちいち噛みつかず。


「なんか聞こえたけど聞こえなかったことにしよう……そいつぁどうも。ところでさ」


「なに」


「なにってぇ、謎にラッピングされてる分めっちゃ気になんだけど……」


「なにが」


 さっきの「なに」と彼女は全く同じ声量でまったくおなじノーマルな顔をするので。銀河は挫けず問い直した。


「仮にもここの部長と会話する気あるか……なにってそりゃ中身だよ」


 特に怒ることはない。女子高生のマイペースな態度に少しだけ呆れたが、次に進むために白髪の少年はプラロボ部部長という立場から大人な対応をする。

 彼の気になる中身が両手にずっと抱えるそこにある、ならば怒っている場合でもなく意味もない。今、相手をしている彼女にそういう感情も彼には特段沸き上がってこなかった。二度目の顔合わせにしておかしいがもう彼は彼女の言動や口調、独特のリアクションに慣れたようなものであった。

 そして、ただ、とてつもなく気になるのは────箱の中身。今を生きる彼にとって、今はそれだけだ。


「ふんふーん、開けてみれば」


「いいのか!」


「どぞー」


「うおおおおじゃさっそく!」


(こいつなんで私のでそんなにぴんぴんに盛り上がってんの……ちょっとおもしろいかも、この白いいきもの)


(こいつがナニを選んだのかめっちゃ気になる! 今まさにっ、この同じカモコウに通うちょっと手強い女子高生の選ぶ最高の1機が明らかになる! うおおおおおおおおお!!!)


「うおおおおおおおおお!!!」


 しゅるしゅると……プレゼントラッピングされた白い紐を慣れないながらも解いてゆく。なぜならばそんなご丁寧なものを解いていくのは浦島銀河にとって初めてなのだ。叫んではいるものの動作はゆっくり丁寧に、グレーの包装までも破かず開いていく。

そんな作業台で下を向いては今熱心にやっている……彼のチグハグな様を観察しながら、佐伯海魅は苦笑する──微笑う。


 そしてついに……彼女の知っている中身と彼の知らない中身が────────


「おおおおお……え、これは! ん? ふぇ、【フェアリーナイト】……!」


まっしろに顕れた──それを見た瞬間に青年の視界、思考は、おどろきに満ちた。


(まさかフェアリーナイトを最初の最高の1機に選ぶとは……)


 白髪の彼はうつむいたまま顎に手をやる。


 その白い機体、鮮やかに光るエメラルドの羽。130分の1サイズの表パッケージをじっと彼は見つめる……しばらく見入ってかたまってしまうほどに。元気に叫んでいたのが一転、急に黙りこくり何かを真剣に考えている彼の様子に。


「そうだけど。な、なに?」と海魅は少しだけ慎重に、うかがうように銀河に問うた。



フェアリーナイト:

大昔のゲーム……グランドRPG外伝シリーズに出て来る子だ。つい最近のプラロボブームのファン投票で見事プラロボ化した1機なんだよな。古いキットは元よりあったんだけど刷新で。

なるほどそれで選んだのかな? まぁ新しいし見た目はまさに可憐なフェアリーだし女子が選ぶのは…大いにあり得るか? しかし…見栄え良く新しくなったとはいえまさかこのゲームでしかお目にかかることはなかなかなく、しかも古いがゆえにマニアックなヤツが若者に選ばれるとは……。時代は変わったのか?


(し、しかもフェアリーナイトはリバーシの……バカな……。素人のこいつがソレをわかってて…………)


「バカな……」


 ぼそり……。長いこと待たせて出てきた彼の一声はいったいどんな台詞が出てくるのか。そんな期待をし待っていた海魅の耳にたしかに届いたのは、あまり良くない一言だ。


「はぁあ!? バカぁ!? それっおすす!!!」


「いや、すまないちょっと感動して」


「え、きも……」


「フェアリーナっ──え、きも?」


 この間なんとも高速のコミュニケーション・やり取りで、短い言葉の応酬で、目まぐるしく変わったお互いの表情と声色と感情と。


 バカの意味がすれちがい、感動の理解度は男女互いに共有できず。そんな理解できない者へとささげる適した言葉はひとつかつ簡潔でいい……また女子高生は真顔にもどり、目の前の男子に向けてその得意の「挨拶」をしたのであった。



 とあるお店で彼女が購入した、とある店長おすすめの130分の1の【フェアリーナイト】な入部届が、リバーシを愛機とする浦島銀河に届けられたのは……。機体と同じブルーガーネットの瞳を持つ、美しく可愛らしいプラロボ界に迷い込んだひとりの妖精、彼女の知らないところだったのかもしれない。


 灰と白のツートンラッピングまで施されたこれ以上ないサプライズこれ以上ない入部届に、部長の心はその黒い瞳にまで震えゆさぶられてしまった────。








 どんと、片づけられた中央緑マットの作業台に置かれたのは130分の1フェアリーナイト、そのプラロボパーツの入った箱。


「でも本当に良かったのかプラロボは作るまでも値段分の楽しみがあるぞ?」


「入部届は部長がしっかりと受理するものじゃん、なにサボろうとしてんの?」


「いきなし預けられたプラロボが入部届ってなぁ……んなことよりやるぞ?」


 浦島銀河部長が突っ立ちしゃべる佐伯海魅にしずかに手渡したのは、緑のグリップをした比較的新しい方のニッパーであった。


「ニッパー? わたし?」


『当たり前だろ。買ったからには責任を持ておまえのフェアリーナイトだ! イクゾ、マーキュリーこの金剛夜叉のフル・イカヅチを受けてみろそんで今まで殺してきたパイロットどもの悪顔をォォそのあまいあまい甘ったれた精神の庭に浮かべてしねえええええ!』


 全武装を展開し構えたポーズ──インフィニットフルパッケージホーク金剛夜叉に搭乗する金髪のリベンジマンに成り代わった白髪のパイロットである浦島銀河部長は、110分の1のその機体の後ろで、恥じらいもなく主人公機マーキュリーとの最終決戦における名台詞を叫ぶ。


 しかし海魅と銀河2人の間、そこに降るイカヅチもそよぐカゼも起こらない────────



「さて」

「バカでしょ」



 130分の1フェアリーナイトの箱が今、ためらいなく開けられた。






 ニッパー2人分。


 パチパチと、白いパーツを企業工場の加工技術でひとつのフレームに綺麗にまとまったパーツ群から切り離す、それぞれの音が鳴る。


「あー、ギリギリを攻めすぎたな」


「さいあく……」


 部長は特に何も口を出さず、プラロボ作りを開始した。彼女も彼の所作や動作、手先の使い方を真似するようにそうしていた。しかし、彼女はギリギリを攻めすぎた────それは結果いらないフレーム部分だけではなく、要るパーツにまでニッパーの威力が及んでしまったという事である。プラロボ作り初挑戦の佐伯海魅は深く刃をあてすぎたのだ。


「ははは」


「ナニ笑ってんの」


 突然すこし笑い出した、向かいの椅子に座って作業をしていた部長の彼。それは失敗を笑うというよりはプラロボ作りに集中し四苦八苦する彼女のそんな表情が、見入る彼には新鮮で珍しく初々しくおかしかったのだ。


「いやそんなに落ち込むからさ、もうそれでいくしかないぜ! ははは」


「980円したのに」


 何故か彼女はすこし溜息混じりに唐突にお値段を告げて返答した。


「は? 安いじゃん? これ新しいヤツだぞ2000円超えてもおかしくないぞ?? フェアリーナイトもうそんなに人気が……贔屓目にみて一般受けはしそうではあるんだけどなぁ?」


 980円、昨今、品質向上・需要増加で高騰するプラロボの価格にしたらそれは驚くぐらいに安いものであり、比較的新しくファンの要望により製品化されたフェアリーナイトのキットは130分の1のお手頃サイズでありながら2000円はくだらない定価で売られているのだ。


「ま、そこは私だし大人気おすすめ商品も女子高生割」


「大人気おすすめ、そりゃ俺も初耳だけど。女子高生割って俺に男子高生割はなかったんだがなぁ……?」


「ふっ、おじいちゃんみたいだからどの店も割引きたくなかったんでしょ」


「だぁれがお爺ちゃんみたいなホワイトカラーだよ!」


「言ってないけど」


「ほぼ言ったほぼ!」


「ほぼねー、あっ」


 会話に夢中になっていた女子高生はまた、しらずパーツを攻めすぎた。


「ははは、しょせん女子高生割引だな。ナットク」


「話しかけるからでしょ! あーさいあく」


 海魅は、その不注意で起こった失敗に対して、苦いものを食ったような顔で左目をぎゅっとしぼった。


「ははは。──でも白はさ、傷が目立たないからさ。何度失敗したって大丈夫だぜ」


 慣れた手つきでニッパーを操り、手持つパーツをしっかりと見ながら、部長はさらりとそう言った。今も彼女の青い瞳に映る白髪の少年は、作業をしながら柔らかな微笑を浮かべる……。


「とつぜんポエムなにそれ……きもっ」


「え、はぁ!? おいこれはポエムじゃなくて部長らしさ全開のジジツ! プラロボ部の部長らしっ」


「はいはい」


「はいは一回だろ部長だろ。ったく──おし腰完成」


 ポエムとジジツを混じえながらも、部長はフェアリーナイトの腰部を完成させた。それを右手でつまみすこし誰かに見せつけるように掲げ、さらに自ら切りだした出来栄えの程をまじまじと様々な角度から眺めた。


「なんで腰から作ってんの?」


「ん? あーなんでだろ? 単純に好きなパーツだから」


「え……きもっ」


「またおま!? いや、今のはたしかに……じゃっかん……すまん」


 今はいつものように男ひとりでプラロボを作っている訳ではない。相手はベテランのプラロボ女子でもない。とすると、たしかに迂闊な発言だったかもしれないと、隙を見せてしまった銀河はかるく反省した。


「謝ってもなかったことにならないけど、ふーん腰ね、ふんふーん腰フェチ」


「はぁ。ってお前は体からかよ」


 ふたりでいるとよく彼の耳にながれてくるJKの冗談もかるくながす。佐伯海魅が作っているのは腰部よりパーツ量の多いボディー部。特に部長の指示もなかったので自分で適当に決めて取り組んでいたみたいだ。


「まぁね、私ってフツウだから。アブノーマルじゃないからね」


 ニッパーをヒトに向けてカチカチと2回閉じた。浦島銀河は向かいに座る女子高生に、何かのココロパーツをぐさりと切り取られた。


「おまえなぁ……プラロボ作りでんなこと結びつけて言われると俺は何もつくれないぞ?」


 使いようによってはあぶないニッパーを向けられて、良い先生のように注意というよりはやれやれと呆れた感じで両手を広げ銀河はジェスチャーした。


「さっさと作ってよ、顔」


「顔? いいのか? イチバン重要だぞ?」


〝腰フェチ〟のレッテルが地味に効いていたのか、これ見よがしに手持無沙汰になってアピールしていた銀河にイチバン重要な顔パーツを作らせてくれると海魅はさらっと言うのだ。


「だって傷付けちゃイヤじゃん。このこ女の子っぽいし」


「たしかにフェアリーナイトは女だけど……地味におまえプレッシャーかけてんな(あと生身の俺はうかつに傷付けてもいいのか?)」


「ふんふーん、ま、部長だから余裕でしょ(いちおー生身の男の子でしょ?)」


「(いちおー生身の男の子だがっ!)言ってるくれるな! よーしっ! ────」


またカチカチと二回鳴らす、挑発するようなビギナー女子高生がお茶目にも誘うその仕草に、彼はシラガをざっと掻き上げて、ヤル気に満ちたおデコをみせる。プラロボ部部長のその真剣みと笑みの混じった表情は、黒いニッパーをぐっとその手に握りしめた。





「見ろっ、シールまで完璧だ!」


 青いの二つのアイカメラが輝く、完璧な顔をしたフェアリーナイト。出来上がったソレをフェアリーナイトの表紙絵の描かれた箱の上に乗せ部長は彼女に自慢げに見せた。その小さな作り物の青目と今、目線のレベルを低く合わせた生身の青目は……顎に手を当てじっと観察をする。


「んー、まぁまぁ合格ラインね」


「そうかそうかそりゃありがたいよ! おっ! おまえもボディーできてんじゃん」


 いつの間にやら海魅も完成させていた、白いスベテの中心となるボディー部を。すこし苦戦した跡が見られるがちゃんと組むパーツを間違わずに出来上がっていた。


「傷だらけだけどね。もうお嫁にいけないねこの子」


「おいおい冗談でもんなジジくさいこというなよ、こいつは未来4人の子持ちだぞ」


「はぁ? ロボットがウソでしょ!」


 言った自分の冗談を彼に真面目に返された。すると部長は細々と何かが書かれている……箱に内包されていたぺらい説明書を手に取り、指差した。


「なんでも吹き込めるヤツにウソいうかよ。ロボットもしゃべるし、たたかうし、魔法も使うし、子孫を残すぜ」


その説明書にある細かすぎるずらっとした文字説明は、プラロボ作り初心者の女子の目に入れるも分からず。そのオトコの自信ありげな言葉だけが情報として海魅の耳にしっかりと聞こえ、彼女はまた驚いた。


「なによそれ……バカげてる子選んじゃった私? はーさいあ」


「まぁまぁ、バカげてはいないさ。フェアリーナイトは俺の中でも好きな機体10の指に入るからな」


 「でーん」と今、両手を広げて見せた10の指先。指折り減らしていきまた10に広げた。そんな部長の元気に見せつける男子らしい手先をじっと海魅は見つめ……。


「はぁ、10の指……やっぱバカげてんじゃん」


おなじく10に、なぜか溜息まじりの呆れ気味の表情をそえて、広げて見せた。


「なんでだ!」





 そうこう互いしゃべりながら、ときに黙しながら、作業に没頭していき────。もうニッパーの出番もほぼ無くなり、ふたつ手汗のしみついた緑と黒のグリップは作業台の上に置かれた。


「よし、ついに完成だな」


「なんかはやくない」


「2人だとそりゃはやいぜ! まちがいないっはは」


「なんか負けた感じするんだけど」


「おまえ今までの勝ち負けでやってたのか……でもたしかに、2人でやったらパーツ差出て兄弟とかだとプラロボあるあるなのかもしれないな? それ! はは、俺の勝ちーーなんてなっ」


 左指で女子高生の顔を笑いながら部長は指差した。突然彼の笑顔にぶっさされてしまった彼女は……一瞬だけ仰け反り、それでもすぐまた反撃の口撃を開始しようとした。


「はぁ? なに素人女子高生ボコってよろこんでんの、きも」


「はは関係ないねー、ってのは冗談で。さ、最後だ」


 さしていた指をパーにひらき咲かせて、冗談だと彼は地に流した。そして2人で見つめるのは箱の上に立たせて待たせてあった可憐な白い機体。足りないラスト2パーツをまるでその背に今もずっと物欲しそうに期待しているようだ。プラロボ通でグランド通の銀河の目には、やはり、そう見えて仕方がない。


「わたしがやるの?」


「そりゃぁ、そうだろ? そのために一番いいところノコしといたんだからな。ははは」


「ふーん」


 作業の速かった彼にしれっとノコされていたその一番いいパーツ。海魅は手に持ったそれを1枚ずつ────。期待して待機していたフェアリーナイトへ、今、エメラルドの羽が取り付けられた。


 海魅はそっと触れていた手を放し、2人は箱の上に堂々と華麗に羽を広げて立つ白い機体を見つめた。


「っし、ナイスだこれがフェアリーナイト(全盛期)だな! やっぱいいぜぇこいつは」


「フェアリーナイト……全盛期……」


 ついに完成したフェアリーナイト、その全盛期の姿。エメラルドにかがやく蝶のような羽を広げた美しい白の妖精は、今にも素晴らしいマホウを放てそうな程グランドロボットにして圧倒的に煌びやかだ。


 海魅の目は初めて作ったその美しくも大きくもみえたプラロボの姿ををたしかに映し出し。やがて彼女は掛けていた椅子から立ち上がり、作業台に両手をつき前かがみに、そしてまじまじと見入り……。


「ふーん、リバーシよりいいじゃん」


「ははそうだおいっ! 苦労して完成したしょっぱなの感想がそれかー! んなこと言うなよおまえ…イチイチ地味に核心ついてきやがるぜ! ははは」


「なにひとりで盛り上がってんの」


「ま、玄人には玄人のたのしみ方があるからお気になさらずっ! なんでも好きに言ってくれていいぜ!」


 まさにひとりで盛り上がっていたのは彼が知っていて彼女が知らないフェアリーナイトとリバーシの関係性がそこにあったから。まだ玄人は笑っていて、よほど機嫌が良いみたいだ。

 なんでも言ってくれていい、そう言われた海魅は腕を前にどんと組み、じゃあとばかりに、彼のお言葉に甘えてと一欠片も遠慮せずに言った。


「あっそ。じゃ、昨日のアレはなに?」


「はははは、は? あー、アレは……やっぱシミュレーターだろ」


 不意にぶち込まれたフェアリーナイトと関係ない質問の弾丸一発に、笑っていた彼の笑みは稼働を止める。そして用意されていたかのように機械的な声音でシミュレーターと答えた。当然昨日と同じ答えを聞かされた海魅はすぐさま言葉被せ気味に、追撃をする。


「納得できないけど」


「まぁだ納得してなかったのかよ。と言われてもなぁアレが出るのは」


 どうにも手強い女子に手を焼き、その焼いた手でシラガをかきながら明後日の方向をみる。とぼけ気味の部長はこのまま彼女の口撃がおさまる時間切れ狙いの戦法に移ったが……。


「出てるけど」


「は? っと……出てるな」


 彼の見ていた明後日の方向の景色から視線を今スライドし、彼女の指差す明々後日の方向の壁際には、彼の目にも留まった──【アオい梯子】がある。突如出てきたアオい梯子をふたりは見つめて、つぎにふたりは互いの面を長々と見つめて────


「ふっ」


「はは」


 プラロボ部の部室に微かに作ったような男女の微笑い声が響いた。








 アオい梯子の先には秘密基地がある。その青を見つけたからには、女子高生のアオハルレーダーは止められない。いの一番に梯子を上り、不思議と天をその頭から突き抜けてまたアソコに────


「────オマエな、勝手に上るなよ!」

(またパンツ見ちまった……)


 佐伯海魅を追って秘密基地へとやってきた浦島銀河。梯子を上っていた際に巡り見たほんの一瞬のラッキーよりも、その女子高生がまた勝手をしないかが非常に心配で彼は後をついていったのであった。


 訪れた薄暗い部屋の中央に光る機器がある、秘密基地。そこで……。


「部員だから当然」


「おいいつから部員になった」


「サッキ~~」


「サッキってな……あっ! おまえまたぺたぺた親戚の子みたいにアチコチはしゃぎ触るなよ!」


「その例えナニ……? はいはい見てるだけ、ふんふーん」


 ふんふんと小刻みに頷くリズムを取りながらも。部屋を歩きまわりはじめた白い制服の黒髪女子の動向を、部長として注視する。


「その高飛車ヒロインの活発な〝見てるだけ〟がいちばんイベント発生しそうで怖いんだけどな……」


「は? なんて? ヒロイン?」


 彼が今ぼそりと言った言葉を拾い、海魅は急に体と踵の向きを反転させ彼の方に振り向いた。


「え……ホラッ勝手に機体に乗って出撃するどうしようもないヒロインっているだろ! おまえそれ!」と指差す。少し取り繕ったようすで銀河は海魅に指を差した。あくまでもあなたはトラブルを発生させる系のヒロインであると熱心に補足して。


「はぁ? わたしがそんな馬鹿なわけないじゃん。ま、ヒロインってのはイケてるからそうね。ふんふ~~ん」


「ジ、自分で言っちゃう……?」


「あんたが言ったからねーー、ふーんヒロインふんふーんヒロイン」


「やっぱこんなヒロインいねぇわ……」


「あっそ。じゃ行こ」


 いい加減ヒロインの定義にかまけるのを互いにやめる。そして注意された部屋の物色をやめ、銀河を見つめて立ち止まった海魅はしれっと言った。


 ここからそのヤル気のありそうな女の子の表情が行く先といえば……梯子をいまさら下り帰るわけでもなく、昨日彼女が勝手に行った、非常にスリリングな経験をしたアッチの世界のことである。


「は? 行かない」


「いくよ」


「なんでだよっ! 昨日おまえ俺が来なけりゃ死にかけてたろ」


「ふーんシミュレーターでしょ? それって死なないじゃん」


 至って平然と言葉をすぐさま否定する彼へと返す。彼の黒目に映るかぎりの彼女は別に特段、怖がっている様子もなく。シミュレーターという彼が放った言葉を信頼し信じるというよりは、迂闊に言い放ったそちらの言葉に責任があるかのように佐伯海魅は言うのだ。


「んぎっ!? あ、あーそりゃぁ……シミュレーターでも痛いものは痛いだろとにかくあぶねーの」


 「シミュレーターでも痛いから危ない」それが浦島銀河の導き出したそれらしい言い分であった。たしかにあのロボットの中の戦いではハチャメチャに揺れる色んな方向からの痛みや刺激があったと、顎に手をやりながら一瞬思い出し考えた海魅……であったが。


(でも生きてるじゃん? ふんふーん全然納得しないんだから、なにへたに隠してんだか。へたへたふーん)


「ふーんでもアソコ何回も行ってんでしょ、じゃないといきなり素人がロボットで戦えないじゃん?」


「だーれが素人だ。そりゃちょっと気になって下見ぐらいはするだろ、部長として? 安全確認? そして試運転?」


「それフツウにたのしんでるだけじゃん」


「ん、んんーーー? ──たのしんでない……!」


「顔ワラってるけど」


 たのしんでないという割にはニヤけている、嘘が下手な部長を海魅は真顔で見つめ指摘した。


「──はははは」


 そう、表情をすぐに見抜かれて海魅に指摘されては部長は笑わざるを得なく。ご自慢のシラガを豪快にかきながら、彼女のどことなく圧をかけてくるようなクールな表情へと、しっかり銀河は笑い飛ばし返してみせた。


「とにかくいかせて」


「じゃあとにかく言う事きけよ、ヒロイン」


 とにかくいきたい女子と、とにかくこのヒロインの暴走を止めたい男子。その対立していた意見を妥協し合わせる。男子は今すこし真剣に目を凝らして同時に力強く、動じないその女子の顔面を指差した。


「イヤだけど」


 淡々と答える青目のヒロインはやはり動じない。どこにそんな確固たる意志を内臓しているのか、彼女はまるで大物の振る舞いだ。


「やっぱこんな天邪鬼……ヒロインじゃねぇ……」


 彼女を試すように差していた指は苦笑いしながら力失せ……やがて地に落ちていった。


「そりゃ人間おなじじゃないっからねーー」


 急にちょっと笑いおどけた青目の女子を、間のスペースに挟んだ中央の機器ごしに彼は見て、


(たしかにおなじ人間じゃないな……少なくとも歴代でも見たことはねぇ冗談(オカルト)タイプだ、はは)


 これ以上の制御は不可能と、腰にさげた両手を当てた銀河は、そんなことをこの珍しいヒロイン女子高生に対し思ったのであった。







 その後プラロボ部の部長と部員(仮)は話し合い一度下の部室に戻り──。仕方なしに持ってきたのは2体のプラロボ。灰色のリバーシとつい先ほど完成させたばかりの130分の1フェアリーナイト。


「本当にプラロボがあんな昨日みたいにデカくなんの?」


「さぁなぁー、もしかして俺たちが小人になっているのかもだぜ? そう考えるとおも──」


「いいよそういうの、そんなにおもしろくないし」


 小さく指でジェスチャーまでした男子の気の利いた冗談を、クールに女子は一蹴(いっしゅう)する。


「おいっ! ったく。じゃあしっかりフェアリーナイトを持ってろよ。また生身で野良の機械竜に追われたくないだろ」


「わかったって」


「よし本当にわかったな」


「わかったって」


「抑揚の無いさっきと同じトーンな気がするが(逆にそっちの方がむずいぞ)……じゃあ行くぞ!」


「はいはいおー」


 彼女の気の抜けた返事を最後に、しっかりと彼は準備にとりかかった。

 中央にはエアホッケー台のような大きさの機器がある。その中に投影されているどこまでも広い宇宙のようなマップがある。そして今部長が指先で操作して拡大し指定したヒトツ。その元へと──2人はアオく呑まれていく。秘密基地を煌煌と染め光るアオい光に2人の存在、2機の存在はやがて導かれて────────





▼エリア8765 難易度☆▼にて…





「きゃ────────え、ちょっと!?」


『よ、元気か』


「なんかナカにいるんだけど! あんたどこ?」


『そりゃロボットだからな。俺はリバーシの中で、お前が今いるのはなんとなんとさっき作ったばかりのフェアリーナイトのナカだあーーーー! でこれ通信ビジョン』


 今手を振っているのは不思議にも宙に浮いた、その通信ビジョンに映るシラガの男子生徒であった。なにがたのしいのか笑っている。


「なんなの……情報量おおすぎ……」





『またこのスクラップだらけのところ』


「んー。そうだなちがうところもあったけど基本こんな感じだぜ」


『ふーん? ──なんかここ、暗いね』


 どころどころ剥げた緑の野にスクラップの山、小山が、積まれている。空は見知ったような青さだが、どことなくこのセカイの雰囲気は終わったように暗い。座るパイロットシートから周囲の自分だけがソコに浮いたような感覚にとらわれる全周囲モニター。その高い目線の景色を一望した……佐伯海魅はそう感じた。


「んー……はは、そうともいえるかな。あ、そんなことよりとにかく動かしてみろよ」


『この子を? どうやってやんの?』


「かーーっしゃーない。ここから先はプラロボ部部長浦島銀河さんのグランド主人公級レクチャー(有料)だぜ」


 おデコを天に向け、手で大袈裟に抑え、十分に間を取り溜める────。通信ビジョンに映る元気でオーバーリアクション気味の白髪男子は、今、その指を力強く女子高生に指し向けている。


『さっさとおしえて』


 しかし、彼女はエネルギッシュな部長の下手芝居(ソレ)を目撃しても、対応いたって冷静にお返しした。


「おっとこれ以上の雑言はヒロインの怒り、買っちまうな」


『…………』


 そして沈黙。銀河ぎ搭乗するリバーシのコックピット内、その通信ビジョンに映る彼女は口を真一文字に閉じた無の表情である。硬くチャックは閉められており、今刺さるアオい視線は常に痛く、彼が再びしゃべり始めるまで彼女は積極的にしゃべり出す気はないようだ。


 通信ビジョンごしに……なにかとんでもなく痛いマジックを貰ってしまったシラガ頭の男は……。またいつものように髪を掻き苦笑いで誤魔化す。彼女が無言で極めて簡潔におっしゃるように、ふざけた時間の無駄な足踏みはやめて、さっさと次へと向かい浦島銀河はしゃべり始めた。


「オンナの沈黙ほどおそろしいものはないのか……。さすがにただの女子高生がいきなり手足のように動かせる天才パイロットじゃないから、ここはしっかり無料レクチャーするぜ」


『だからはやくして』


「よおおし分かった本当にはやくするぞ! っし、先ずは────────」


 シラガ部長の黒い瞳に熱が宿る。幾度も投じられた海魅がクールに返す言葉に焚き付けられ、メラメラと燃えている彼の表情に、彼女は内心の反応するアオハルレーダーを既にピンピンと立たせている。

 青い瞳の女子高生は閉じていた口角をわずかにアゲた。そして佐伯海魅はプラロボ操縦の初心者として、自称玄人のその男子から教わる無料になったレクチャーをしっかりと凝らした耳に聞き入った。

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