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第16話 お使い×人探し

 ニヤつく男は相当暇なようだ。レフト・コマツ曹長はチェアーにかけながらなぜかビンタの素振りをしている。シラガ頭を一発で寝かしつけたあのときの感触が彼のお気に入りだったようだ。

 現在囚われの白髪の生物が柵ごしに覗く、監視の目はねちっこくてしつこい。苦笑いを浮かべながら右頬をさすった銀河は、大人しくまた牢の中へと引き返していく。


「結局どうやって部室まで戻るの?」


「ピースを集めれば戻れるとおもう。足りているかはリバーシにどうにかもう一度乗ってみないとわかんねぇ」


「ピース? なんで? それってグランドロボットが強くなるんでしょ?」


「部活動で挑んだエリアの途中で帰還するにはいつも消費しているぞ。ただで帰れるわけではないみたいだぜ」


「ふぅん、そうだったんだ」


「あと浄化率を100にすればそれもほぼ消費なしに戻れるとはおもう。また別条件のようだ」


「浄化率? それってこのマイトのシミュレーターでってこと?」


「ここが用意された北アフリカ戦線でガイア戦争のただなかならそうだろうな」


「わけわかんないんだけど」


「そりゃそうだ……いきなりの連続だったからな。俺もとりあえず考えちゃいるけどな。あぁー悪ぃな、あんなにキメといて結局勝てなくてこんなことになっちまって。もう少しだけ時間……かかりそうだ」


「ふぅん……」


 神妙そうな顔つきでそう言うと彼は冷たい牢の床にかまわず寝そべり、仰向けに天を見上げた。白髪を冷たい床に寝かせてただ見上げている。

そんな月のように静かな横顔を見たのははじめてかもしれないと……佐伯海魅はそっもまねするように、自分も薄暗い天を仰いだ────────。






「それで水星って住めるの?」


「とても住めねぇよ。暑すぎてな。だが資源やエネルギーはまだまだたくさん埋蔵されていて実際に採取できるわけだからな。必要な資源は作業用のGRで水星の地表から探索掘削採取して、安定宙域に浮かべた宇宙DOMEウォタラのエネルギーをそれで賄っているんだ」


「ベランダは?」


「DOMEに付随する特殊な研究所で工場だ。サイドマーキュリーの主人公タイキ・ララの父母の仕事場だ。さっきいった水星でも活動可能な特殊なGRと新型のバッテリー装置を開発している。平行してマーキュリープロジェクトを立ち上げ、WGの主力量産機マーズに代わる次世代量産機の開発コンペにも出資してもらい大いに取り組んでいた。つまりWGに納品するグランドロボットの圧倒的シェア率を誇る宇宙的大企業ラムーンをもしのぐかもしれないすごい優秀な人たちだったってわけだ」


「ふぅん。でもそうはならないんでしょ」


「相変わらず鋭いな。そりゃロボットを作って終わりで物語は始まらないからな、残念なことにな」


 天を見上げ寝そべりながら牢にいる男女は、レフト曹長の耳にはよく分からない雑談を飽きもせず垂れ流していた。

 そんな唱え続けた念仏が効いたのか、だらけた空気に監視をサボり始めた男が耳をほじりながらあくびをしたそんなとき、看守役の交代の時間がやってきた。


『レフト曹長。見張り役の交代の時間です』


『フッ、あいよー』


 曹長は席を立った。片付けをしなかったのはあえてなのか、グラビア雑誌をたくさんその席や机上に散りばめて、振り返りニヤつきながらその場を去っていった。


「階級、間違ってるんじゃない。アスパラもいいとこ」


 代わりで入った女はそうぼやき、そこに雑に放置されたゴミを片づけていった。





 ひきたてのコーヒーの匂いがただよう。牢の中までその知っているような匂いに満たされた。今度の看守はコーヒー好きのようだ。



 しばらく待っていると、厚い鉄ドアの下から光が差し込んだ。それと同時にふたつ──トレーにマグカップが置かれたものが牢の中へと提供された。さっきの匂いがより濃くあたたかく、牢の中にいる2人の鼻をくすぐった。


「私って有名?」


 その声の持ち主はきっと彼女だろう。銀河はそんなドア越しの突然の問いに答えた。


「そりゃっ! ゆ、有名な方かと? グリーンベ」


「グランドもどき、知ってる?」


「もどき? たぶん……グランド06号と08号……のことですよね」


「そう有名な商品名をかりて番号をふっているだけ、ホンモノとはぜんぜん違うの。アレは緑のハリボテだったのに、積んでいたのもエンジントラブルで壊れるぐらいのシロモノだったのに」


「それこそ〝100回〟やり直しても生きて帰れる心地はしなかったわ────────わたしは乗ってないけどね、グランドもどき」


 それはぼやきなのか語りなのか。ドア越しの受け答えをしたシラガの少年は提供されたコーヒーに口をつけるタイミングもない。彼女、グリーンベルの女性通信兵は〝100回〟と話し相手の彼が殴られ眠る前に言っていた台詞をなぞらえて、冗談気味に言う。


 しかし笑うことはできない。それが冗談だとしても、オチなのだとしても、グリーンベルの最後を連想させられた浦島銀河は笑うことはできなかった。同時に知識をひけらかすような迂闊な発言をしていたと、過去の自分の発言を彼は悔いた。


 冷たい牢屋に危うく変わり香ったぬるいコーヒーの匂いにつつまれて────




グランド06号、08号:

WGの試作したグランドⅠを模したグランドⅠの系譜となる初のGR。

宇宙戦線にかりだされることになった大型宇宙戦艦グリーンベルに同型機の11機が搭載され大いなる活躍を期待されたが、試験投入されたそれらの機体は思ったような戦果を上げることはできなかった。

しかしそんななかでも06号と08号は比較的突出したスコアを上げたものの、最終的には宇宙連合軍の新型GR三機のシェードキャットたちに撃墜されてしまった。

機体性能や出力はグランドⅠに及ばず武装も本番で実験でもするかのようにまちまちであり、エネルギー回路が誘爆するエラーを起こし使い物にならないものもあった。

その姿からグランドもどきと揶揄されることもしばしば、以降この13機いた試作号機たちはたいした活躍の日の目を見ることなく……莫大な資金を費やしたグランド量産プロジェクトは再開の見込みがたたず頓挫したままだ。








「リバーシとフェアリーナイト? あのラジクレーで調べているという2機が? それをアンロックできるというの?」


「はい! リバーシを動かせるのは俺だけなんで! あ、そうだ! だからここから一時的に出れるようロベリーかんちょ」


「それは信じられない」


「えええ!?」


「悪いけど沈みそうな悪い冗談は付き合ってられない」


「じょ、冗談!? なんでさっきまでは! 俺を…けっこうな話相手にしてましたよね!? グリーンベルの!」


「そうかしら? そうね? ────囚人に気の利いたコーヒーをひいてだすとよくしゃべるってことがわかったわ」


「しゅっ、囚人!??」


 そう言うと鉄ドアごし背中ごしの会話は打ち切られた。気配が立ってしずかな足音を鳴らしその場を離れていく。銀河がぐいと掴んだ鉄ドアの上部鉄柵の隙間ごしにみえる……そのさっきまで話し相手をしていた黒髪の女性看守は振り返らない。元の席へとつき、ペンを執り上へと報告するための記録を冷静に立ち返ったかのようにつけはじめた。


 そんな前のめりにしがみつく情けない部長の彼の背中を一喝か、咎めるように後ろから女子部員の足がイッパツ飛んできた。


(ノセられて、ばかじゃない?)

(もっ、申し訳ねぇ…)


 暇を持て余し、出されたコーヒーも飲み干した海魅に、マグカップのコーヒーが冷めるほどノセられ語らされた銀河。

 結局代わり見張り番になったシマナミ通信兵に上手く利用されたのか、浦島銀河はもちうる己の情報を吐くだけ吐かされたのであった。あげくシマナミからの信用は勝ち取れず、「ここから出してリバーシに乗せてほしい」という彼の嘆願は無視されてしまった。





 しかし、そんな風にしばし牢内で2人の囚人がもめていたところ、鉄柵箇所の明かりから不意に何かがひらひらと舞い落ちた。海魅は足元に落ちたその一枚のひらひらを拾い上げ、明かりに照らし浮かぶ文字を、隣で覗く銀河といっしょに不思議そうに眺めてみた。


・グアテマラのミディアムダークロースト 250g

・エチオピアイルガチェフェ(ウォッシュド) あるだけ


 これはなんだとすぐに囚人の2人が呼びかけるも反応はない。その小さな高い隙間から覗く白髪頭の目線の外、チェアーには誰もかけていない。

 「そういうことか」と何かを思い立ち、銀河は鉄ドアを押してみる、だがびくとも開かない。顎に手をやり……もう一度、いっそ横に引いてみる。


 きしむドア音を立てながら、暗がりの捕虜牢に光量が増し満ちる、それはなんのマジックもなくいとも簡単に開いた────────。




カーゴ:

宇宙生まれのタイヤいらずのホバー走行可能な鉄の乗り物。

構造はシンプルでスマートな鉄板のようで大きさは一人乗りから4人乗りまで様々だ。

シンプルながら好きにシートやハンドルやパーツ、速度計やウイングまでも位置を自由に変え設置できるのが便利である。

これ1台に操縦者のオリジナルの個性やクセを出すことが可能でありそのことが世に人気を博している。




「ちょっときくんだけどコレぇ! クロウトはなんか上手い具合の免許とかもってんのぉ!!」


「リバーシやフェアリーナイトに乗ってェ! いまさらソレはないだろぉ!! ビギナーぁ!!」


「「あはははははーーーーー!!!」」


 砂上を爆走する。新感覚の不思議な乗り物【カーゴ】でホバーし蛇行し…道なき道を爆走する。満月の煌煌と照らす夜の砂漠を、砂を蹴散らし、冗談を心地良いカゼにながす。

 ドキドキとどこまでも2人をのせて加速していく、少し高めのハンドルをにぎり前に立つホワイトヘアーが風に舞う、踊る。

 チームブラロボ部、部長浦島銀河と部員佐伯海魅は、狭い暗がりからやっと解放されたその昂る体とココロを笑い飛ばしながら、予期せず頼まれた一枚のおつかいへ、キラキラとかがやき誘う夜の街へ────────








▼中立エリア アハスカの街▼にて



 バッテリー残量が30%のカーゴを自転車置き場のような停留所に止めた。チームプラロボ部の2人は、砂塵をとばし無事到着した夜の街中へとさっそく繰り出した。


 彼らが抜けだした牢の前に無造作に置かれていた駄賃は5000シモン、佐伯海魅部員が手に握りしめているのは部費ではなくこのグランド世界の共通貨幣だ。


「お前は【コーヒー】、俺は【人探し】それでいこう! あとここは中立エリアだけどあまのじゃくはほどほどに! 一度目の待ち合わせはとりあえず45分後あのカーゴの前でな!!」


 5枚あるうちの一枚の札を拝借し、そう部員の彼女に言い告げた浦島銀河部長はさっそく走り出し、往来する人ごみの中へとそそくさと消えていった。


「は?」


 カレは風のように去った。残され佇む彼女は溜息まじりに呆れながらも……。


「夜のまちでおとこの尻追いかける? フツウ? ──ふんっ、でもまぁマイトを先に見つけるのはやっぱヒロイン、わたしのアオハルレーダーでしょっ!」


 対抗するように見慣れたシロが消えた先へと彼女も駆けた。持ち前の特技、彼女のアオハルレーダーの気の向くままに。





 さっき夜市で手に入れた大きさの合わない砂色のバケツ帽子を緑の髪に深くかぶる。

 腰掛けたカウンター席で注文するのはオリジナルカクテルというやつだ。注文をかしこまったバーテンダーが銀のカップをシェイクする音が鳴る、アイスピックでもっともらしい球体に砕いた氷、その氷を置いたグラスに注がれていく……その液体はなんで緑色をしているのか、しかし上部は黄色い泡ムース状のコントラストを描く。それは少し知らないがカクテルらしい、華やかな出来栄えと見栄えというものだ。


 鼻を近づけるとメロンのようなフルーティーな香りがするが、果たして酒なのか、それとも見透かされてるのか。

 帽のツバの陰からこっそり覗いたバーテンダーは白い布巾を片手にもうかたづけを始めている。


 ……それはなんだか気に喰わない。冷たいグラスの冷たさが手を伝い、客であるバケツ帽の彼が思い切ってぐっと注文したそれを飲み干そうとした、そのとき────



 バケツ帽ごしでも分かる彼の耳に、カウンター席の背方、後ろのテーブル席の方からグラスの割れた音がした。


「もっとこっちに寄れ嬢ちゃん、ほら飲め飲めぇ! じゃんじゃん飲めぇ!!」


「も、もうっっ……ホールのしごとが…」


「なんだぁ俺様のだす酒が飲めねえぇってのか?? 宇宙知らずの地球人ってのはどいつもこいつもすぐ酔ってナサケねぇナァっ!!! ハハハハハハ!! ……ナマ言ってんじゃねぇぞ小娘?? ────さぁーーーーのんだのんだ飲め飲め飲め!! 宇宙の一杯、星の数だけ、飲め飲め飲んでぇ酔い潰せぇえええ!!!」


 ラウンドテーブルにたむろして、酒癖悪く馬鹿声で騒ぐ青い軍服のヤツらがいる。後ろを覗いたバケツ帽の彼がその面と名も知らない、宇宙連合軍CFの連中だった。


 バケツ帽の彼は出された緑のカクテルを口元まで運んでいたが、机の上にグラスを戻した。


「バカにんげんのコール、耳にさいあくだ…」


 そうつぶやき、なけなしの2000シモンを迷ったすえ机上に叩き置いて、バケツ帽の彼はしずかに席を立とうとした。またもそのときだった────


「おじさん酔い過ぎじゃない? CFの連中が今から酒なんて飲んでちゃぁWGのグランドには勝てないぜ」


 白尽くめの若者が相席させられていた従業員の女の持っていた震えるグラスを横から取り上げて、半笑いの様子でそうのたまった。


 上機嫌で心地よく宇宙式の酒飲みコールをしていた髭面の男は、いきなり現れたその白い小僧の前へと立ち上がり、ガンをつけた。


「んだとこのガキぃ!! 世界政府軍の噂のグランドなんて接敵した瞬間片手でひねりつぶしてやる。俺は高スコアのカーゼ乗りでぇッ、宇宙連合軍の【不乱の風】リッキン・マシボリー曹長様だぞぉ!!!」


 その出っ張ったビール腹で小僧を突き押しながら、そこから名乗り上げた男が取った行動は単純だ。気分を害された酔いのままに男は白いヤツの顔面に向かい右フックを披露した。


「おわっ!? たしかに風を切ってぇ!?? ふらふらぁ…ふらんの風?(ふらだんす?)」


 だが、白髪のその面、その鼻先をかすめ虚空を切った酔拳のフックはクルクルと踊り……地に情けなく落ちた。今小太りが酔い踊った、そんな木床にずっこけたおどけた様に、周りの客たちが笑い、冷静であった一人のバーテンダーも割れたグラスを拾いながらくすりと嗤った。

そんなことも余計にそのリッキン曹長の怒る心に火をつけたのか。転んだままの小太りはからぶった怒れる拳を開き……右腰のホルダーをまさぐり冷たい鉄へ────


「っっっっっこのガキぃいい痛ギッッ!???」


 無様にこけた兵士は、突然、顎を勢いよく蹴り上げられた。泣きっ面ならぬ、酔った赤らむよからぬ悪面に、急に走り込んだ蹴りが容赦なく浴びせられ、小太りのシルエットが地を2、3、回転し痛々しく転がった。


「こっちだ! しろいぬ! ヤケ酒なんて捨ててはやく出るぞ!!」


「え!? お、オッケー!!? 了解!!?」


 バケツハットがひらひらと舞い、今ノックダウンした鼻垂れ男の情けない面を覆う。その倒れた小太りの手元から握る力失せ、床に雑に落ちた……ハンドガンがそこにみえた。


 そんな床にある物騒なブツを見つめ……すっかり肝を冷やしたシラガの彼は、こぼさず持っていたグラスをもったいなくも思い切り逆さにした。床に撒いたマズイ酒で、その場のもうどうしようもなくなったシチュエーションのお清めをした。


 そして、耳に突き抜ける主人公声で手振りし誘う緑髪の向かう方へと、シラガの彼はじぶんも急ぐ。


 マイ・トメイロと浦島銀河は訪れたバー【サンドロザリオ】を何も飲まずに後にした。








▼ラクダふれあいらんど。▼にて


 2人の男がバーから逃げ込んだ先は、道行く夜店立ち並ぶ人混みではなく……放ち飼いされたラクダの群れの中へ。寝静まるラクダのこぶを飛び越え、ちいさな丘を乗り越え、牧草の生えた裏側の敷地斜面にマイと銀河は腰を下ろした。


「どっちつかずの中立エリアだって今はうじゃうじゃ降りてきてる宇宙連合軍と戦争中だ。ルール通りに耳を貸してルール無視の酔いどれに撃たれちゃ終わりだ、ヤルならヤルでもっと徹底的に気をつけろよ。俺ならあのあとすかさず〝イッパツ〟入れてるぞ…まったく」


「りょっ…了解!?(さすがマイト…生身でもつよい生レクチャー…)」


 悪酔いした小太りの右フックを避けた後に〝イッパツ〟入れなかった銀河は、マイトに真っ先にそのことを注意された。あのシーン、たしかに迂闊であったと頭の中に浮かべ振り返った銀河は、素直に耳を貸し、マイトの言葉を鵜呑みにし、そして肝に了解した。


「それで……俺を追ってきたのか。誰に耳を貸した。おおかたノアの艦長の指図か?」


「いや、俺はそのぉ……そうそうコーヒー豆のお使いをノアのクルーにたのまれて!」


「はぁ? でたらめな冗談はよせっ。今おまえ人と話してるんだぞ! それにコーヒー豆がどうしてバーで騒いでんだよ!」


 銀河の言ったことは嘘ではないが、8割方嘘であり、コーヒー豆のお使いだけならば白髪の彼の取った行動記録が既におかしい。顔を顰めたマイトに、即、銀河のその場しのぎにもならないデタラメは見破られてしまった。



 大人しくここにきた本当の目的を果たすために、銀河はマイトの説得を試みるが、バッチリなあの名シーンを生み出した重要アイテムである【十字架】が自分にはないことに気付く。

 カナカミの十字架の土産もなしに、それも知りもしないラクダの丘の裏のロケーションで、気が強く手強いマイトのことをそれこそ「バッチリ」と浦島銀河が説得することは────


「とにかくグランドには乗らない。何を吹き込まれてもな。グランドに乗らなきゃ戦闘にはならない。ここだってお前がさっき騒ぎを起こさなきゃ緑のあまい一杯ぐらいは安らげたんだ。それに地球のみんなも停戦を破棄してぶり返し戦うだけの一枚岩じゃない、宇宙連合軍CFの味方をするヤツだっているんだぞ。だからここも中立エリアなんて設けてる。ほんとうは…さっさとみんな終わってくれって思っているんだ!」


 怒るように語る。マイトはまた溜まっていた鬱憤を言葉にし、このどうしようもない戦争に自分が参加することを良くは思ってはいないと見知らぬ白髪頭を相手に述べていく。


「わかったろ! グランドは求められちゃいない。CFにも地球人にもッ! 利用するのはWGの顔もしらないお偉い軍人たちだけだッ! 俺を馬鹿だと思ってグランドに磔にしてそこがおまえの相応しい棺桶だとどいつも勘違いして! あぁ…何をしてるんだろうな……いっそこのままグランドなんかなしで──」


 やはり厳しかった。即興の間に合わせのプラロボ部部長の説得術では主人公マイトの心は動かせず。頑なにグランドに搭乗することと母艦ノアに戻ることを彼は拒みつづけた。


 カナカミ通信生ではない自分には、もう、どうにもうじうじと腐る緑髪の彼を前を向かせることはできないだろう……銀河はそう思わざるを得なかった。ただのグランドファンである自分には夜市を探しても見つからなかったおもちゃの十字架をバッチリプレゼントし、彼の鬱屈したものを解消し笑い合うこともできない。


 そう重くも深くも考えた浦島銀河は、このまま何も反論をしないより、一か八か……ついに、禁断のセリフを口にした。


「わかった。じゃぁ、俺が乗る」


「あぁいいぞご勝手に…はぁ!??」



「俺、グランド乗るよ」



 そう宣言する。驚きぽっかり口を開けている、家出したグランドのパイロットに向けて。


 対照的なとても静かで真剣な表情をした白髪の彼は、斜面に雑に寝転んでいた緑髪のネガティブマンへと、威風堂々と、名も知らない雑草の咲くその場を立ち上がり宣言した。

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