第11話 天脳×天脳
難敵【鉄Q】を撃破後。敵機を倒したことで降り注ぐいつもより多めのピースを、お疲れの愛機リバーシへと立ち佇み回収しながら……。浦島パイロットはやはりその特異な鉄数珠構造をした未確認機体との戦いの模様を振り返り、考え込んでいた。
「それにしても────なんだこのシンプルかつ厄介な? 鉄犬とドッグキーパーなんかとは毛色が違うな。グランドシリーズにもこれといった類似のは…いねぇか……まさに未知との遭遇ってか。まぁでも、ラッキーにも、いや実力にも心臓部を貫いてすんなりは勝てたが。これと同じのがもう2体量産されてたらちょっとヤバかったぜ? まっ、まさかな? あのクビナガ機竜みたいにないとは信じたいが(まぁ、あの時みたいにリバーシの力を表裏全面引き出せれば問題は────)」
☆☆☆エリアの浄化度は100%を記録した。辺りの残存敵部隊はなし、けっきょく部長の心配も晴れ、鉄Qを討ち取ったプラロボ部三機三人は、無事に、もとの部室まで帰還を果たした。
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6月末、春と夏のちょうど変わり目をただよう季節。
偉い校長のおっしゃる通りに、ただ集まって漠然と何かをするよりは、プラロボ部が部活動としてのきっちりとした活動成果を上げることは大事だ。
だが、夏のプラロボ大会までにまだまだ時間はある。アニメ「水の星のグランド」については町子仮部員と一緒に銀河も海魅も再度1から見直し、彼女らのグランド知識もある程度増えて定着したことだろう。ここらのタイミングでそろそろ次に進むべきだろう、とプラロボ部部長は思い至った。そう次のシリーズを、少しばかり時代や時空をすっ飛ばして、最新の【ネクスト】へと────。
鑑賞会は部屋の明かりを暗くして、タブレット端末での視聴ではなくプロジェクターから白幕に投影する臨場感溢れる巨大なホームシアターで。
「水の星のグランド」の次は、「グランドネクストミッション」そのシリーズ最新作のアニメを、部員一同で見ることに決まった。というのも、水の星のグランドのつづきであるグランドⅡ地球の意思、時系列順の流れからするとそれを視聴することになるが、そうはならなかった。理由はというと、佐伯海魅部員からハーク少将との激しい最終決戦を終えたライバルのマイトを休ませてあげたいとの申し出があったので、了承した部長の浦島銀河がそのようにはからったのであった。
『誰だよ……お前!!! おい誰なんだよ!!! そこの、そこの席にいるのはあのこじゃないのか!!! あのこ…あのこってぇ!!?』
『これは一体なんなんだよおおおおおオオオオオオオ!!!』
教室でひとり狂ったように叫ぶ物語の主人公であるツグ・コンドウ。いつも一緒にいたいつも一緒にミッションをこなしながら戦っていた……気がする……〝あのこ〟がいないことに、いつも通りと思われた日常を過ごしながらも、彼は気付いてしまった。
2人が視聴していたグランドネクストミッションの第10話はそんな暗いシーンで終わりを迎えた。
「これって最後はどうなるの。いろいろともう悲惨なわけだけど」
「あぁそれはな。…って言えるかよ。ネタバレって概念もう知ってんだろうが、──すまねぇな」
部一同で観る予定の「グランドネクストミッション」であったが、町子は外せない私用があるということで今日は来れず。
そして、悲惨な空気のただよう劇中の余韻に2人がひたり……いつもより重々しい意味合いをもったエンディングテーマがながれ、部屋の明かりもまだ点けれずにいると。
いつものソファー席の隣から、いきなり結末を教えてと問われた部長の銀河は、その質問では答えられないと、第11話視聴後の早々にぶっ込んできた海魅部員に、やんわりとした口調で答えた。
「じゃあなんで、主人公は1話みたいなシチュエーションにまた戻ったの? ミッションもこれから自信満々で2人をひっとうに出撃ってかんじだったわけだし、ヒロインレース…〝カラメルぶっちぎり〟のあのこ、なんでいないの? 戻ってんのに、いないの意味わかんないんだけど? は?」
「世の中、過程を描かない方がより悲惨になることもあるんだってな。そう、クライマックスを迎える、そして泡のように消えて、後味がもやもやってなるぐらいが」
「ふぅん……悪趣味。つくった人」
彼の説明を聞いた海魅はそれも納得いかず。痛烈な一言を添えて悪態をついてみせたが、それはいつものあまのじゃくというより、作品に対するすごく真っ当な向き合い方だったように、現在グランドネクストミッションの3周目を視聴する銀河には改めてみえた。
「そうとも言えちまうな、まったく…………って〝カラメルぶっちぎり〟ってなんだよ! またよそのヒロインに変なのぶっかけてんじゃねぇぞ…」
「それはべつにいいんだけど」
「いいのかよっ」
「うん。なぁんかここまで視聴して……────ちょっと似てなぁい? このネクストとあんたがシミュレーターって言ってんの。ほらプラロボがでっかくなるし、わたしはフェアリーナイトに乗り込めるし、変なミッション受けるのは滑り台をすべった学校の地下だし、こっちは梯子をのぼった屋根裏だけど?」
質問をズラす──脈絡を無視して突然ズラしていく。それはこの青目のヒロインがなんでも答えてしまいがちの彼に対してよく使うワザである。
「あぁ、そのことか? その質問はここまで熱心に視聴てくれたヤツなら当然してくれると思ったが。……俺たちみたいに組みたてた100うん分の1のプラロボの現物を直接持っていくんじゃなくて、ツグたちは小さなチップになった機体モデリングデータをロードして巨大プラロボを動かしてたろ? そこがまず随分技術的に我々と違うわけですよ。あと出てくる敵機もさっぱりな。このアニメでは俺が一機一機紹介したようにグランドロボットとなにかしら関連性があった機体が出てきただろ、羨ましいことにな」
すらすらと用意していたように彼は迷わずに彼女へと返してゆく。銀河はグランドファンの玄人として、プラロボ部の部長として質問責めも突然の路線変更にもしっかりと対応する。ツグ・コンドウたちが挑むグランドネクストミッションの世界観と、自分達のアオい梯子のさきの部活動との違いをまず説明した。
「だからそれってシミュレーターの話でしょ? あっちも、主人公のツグくんは巻き戻ってるし、ついさっきのまじありえない悲惨なヤツ。それなら『なんなんだよーー!』──も、納得なんだけど?」
「ほぉ…まぁそうだな? あまり細かく突っ込むと本編のネタバレになるからぐっとこらえて詳しくは言えねぇが……。あながちそのたどりついた所は鋭いとおもうぜ? 佐伯部員。ははははは」
「ふぅん、わかった。じゃあ次この猫は」
「し、シミュレーター…ねこっ」
「いるけど」
「し、っし……しゅ……にぇこ……ぉ……」
アースカラーのソファーには猫。2人の座るあいだには猫。ぬくもりをはなっている。海魅が両手に今抱きかかえたその黒猫は、ひだりの肉球で彼の頬をタッチする。
〝いる〟とは彼女と共にあり現実のそこに体温を放ち存在しているということだ。「シミュレーターねこ」などとおかしな造語を作った部長のしどろもどろになった面白い顔に、猫の手をかりて佐伯海魅部員は突っ込んだ。
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例の議題にあがった屋根裏部屋のシミュレーター。そのシミュレーターを操作し挑んだエリア市街地で……つい先日拾ってきた猫だ。ただの見た目、黒猫である。市街地をプラロボ部の3人で探索した時は人っこ一人そこにはいなかったものの、鉄Qとの戦闘終了後、その猫がフェアリーナイトのコックピット内、シートの下足元にいつの間にやら寝ていたのだと彼女、佐伯海魅部員は言うのだ。
「そういえばマイトたちの母艦のノアにも猫っていたかもじゃん。もしかして?」
「相変わらず鋭いなビギナー。あぁグランドという作品で艦内やコックピット内に猫がなぜか紛れ込んでるのは定番というかもはや伝統だ。俺が思うに厳しい戦いの中のちょっとした癒しのワンカットとしてアニメーターたちが表現したかったんじゃないか、ははは」
「じゃあこの猫は」
「──そいつはシミュレーター猫だ」
「なんで気に入ってんのそれ?」
「あぁそいつはシミュレーター猫。名前はシミィだ」
「変なのつけろなんて言ってないけ」
『みぃゃ〜ぉ』
「ど……あんたも?」
懲りずに「シミュレーター猫」のことを諦めずに頑張る男の呼びかけに、彼女の膝上から彼の膝上にゆっくりと移った……黒猫が上品によく鳴いた。
頭をすりつけるほどに、ゴロゴロと喉を鳴らすほどに。シミュレーターの世界から保護したその黒猫も、その白髪部長の膝上の寝心地に落ち着き、すこしその呼ぶ男の声が気に入ってしまったようだ。
白髪のにんげんがキャットフードの袋からエサを餌皿に流し込み、黒猫はエサを入れている間にも待たずにそれを「カリカリ」と小気味のいい咀嚼音を鳴らし食べだした。よほど腹が減っていたのだろう。
プラロボ部の部長は、いらなくなった100分の1のプラロボの箱のひとつに猫用の砂を流し込む。そこを仕方なしに仮設したその生物のおトイレにすることにした。すると案外賢いようで、用意されたそのエリアで猫は砂を前脚でかきだした。
最後に【ネコのきもち翻訳機】といういかがわしい手のひらサイズの機器のマイクセンサー部、をそっとちいさな口元に近づけてみる。
目線を地すれすれから見上げる白髪の彼の事情聴取に、己の前脚を丹念に猫舌で舐めつづけながら猫は言う──『カリカリうみゃい!』だそうだ。
猫のエサの買い出しの命令をくだした女子部員はというと、その黒猫としばし戯れてそのまま学校を帰っていった。「まことに勝手なやつである」「猫より勝手だ」と、白髪頭も黒猫の遊び相手をしながら、そのような他愛のないことをつぶやいた。
それでその日は、部員の世話に、プラロボの世話に、愛機の世話に、猫の世話など。イベント尽くしで疲れ果てて終わった浦島銀河プラロボ部部長であったが────────
翌日、早朝の学校で。部活棟の階段を急ぎ駆け上がる音が鳴り響く。
「ってマテマテ……やべぇぞ! 部屋に猫なんていたら! いたずらし人々の生活を破壊するのが猫だ! グランド作品の癒しの象徴なんかじゃねぇ!!」
何かを叫びながらも、白髪を風と駆ける勢い乱し、ついに上り果て。
「ってあああああああ俺が飼いたくても飼えないんだーーこうなるからアァ!! 一体何なんだよおおおおおお──猫だあああああああまぎれもなくこれがああああ!!! って俺のインフィニットフルパッケージホーク金剛夜叉あああああ!!!!」
ドアを開けると、暗がりの中には目立つ。人間の彼をみつめて静止した光る眼が、その口に咥えていたのは黒と金の……彼のよく知るプラロボだ。どうやらインフィニットホークは、巨大な黒猫とバックパックや左腕が外れるほどに遊んでいたようだ。いや、遊ばれていた。
明かりをつけると、部室に各々いかしたポーズで飾られていたはずのプラロボコレクションの数々も、撃破されて倒されたあとがある。そんな悲惨な光景に浦島銀河は叫び果て、やがて、燃え尽きたように白く、がっくりとうなだれた。
「なにこれ、親戚────きた?」
「なわけあるかぁ!! はぁっ……」
数多の強機体をたおし、いちばん高い棚の上に陣取った黒猫はじっとそこに寝ながら出てこない。
親戚の子たちが遊びに来たわけではない、遅れてやってきた海魅部員の冗談に叫びながらレスポンスした浦島銀河部長はもう一度、おおきな溜息を吐きうなだれた。
甚大な被害を受けてしまったプラロボ部の部室とこれまで制作したプラロボたち。だが、そんな荒れた小戦場の中でも、切り株の椅子に休むリバーシやフェアリーナイトそれにバレットナースも無事であったのは不幸中の幸いであった。
猫の手も借りたい部室内の後始末をひとつひとつ散らばった腕やヘッドパーツを拾いつつ、居合わせた女子部員たちにその拾い上げたプラロボにまつわるエピソードを得意げに、傷心の部長は楽し気に語りながら……。
やがて、悲惨に散っていったプラスチックたちをスッキリ回収し終えた。それ以上は過去、味わった憂鬱の深みにハマっていても仕方がない。海魅と町子と談笑しながらも、立ち直った浦島銀河部長は今日も、灰色の愛機を手にし、出撃する。
▼エリア8610市街地B▼にて
いつものように女子部員たちの操るフェアリーナイトとバレットナースの派手な援護射撃を受けながら、リバーシは一機躍動し辺り一帯の敵を殲滅した。
未確認機体【電キリン】の厄介な放電攻撃と電磁防御膜を仕掛ける頭頂の角のギミックを、飛び上がったリバーシのその勇ましい剣はついに折った。そして、頭部パーツから漏電し自爆する首長の的へと、プラロボ部三機一同の一斉射撃が突き刺さった。
見事に鉄Qとならぶ厄介さを誇った電キリンを討ち取り、この市街地Bで起こった激しい戦闘の熱も落ち着きを取り戻してきていた。
プラロボ部の各々は搭乗する機体をビル影に休め、機体を降りた先にあった誰もいないカフェテラスへとやって来た。貸し切りのそこで、持参した町子の父親のやっている喫茶店のミックストーストを、三人でわけ食べながら休憩していた、そんなとき────
「わりぃ先に帰っててくれ」
「は? なんで」
「討ちもらしがいないかリバーシでちょっと見てくるだけだ────すぐ終わるからああ俺のトースト残しといてえええ!!」
そう言い、部長の彼は部員たちへと手を振りながら、灰色の大きな足元へと向かい急いだように駆けていった。
突然のことに、彼の駆ける様を目でぼーっと追って見ていた彼女らはお互いの顔をやがて見合わせる。海魅と町子は特製トーストを口にくわえながら、ゆっくりと首を傾げた。
「天脳システムが…ズキっと……まさかぁ? でも一瞬そんな気が」
しばし、鋭い痛みを一瞬感じた気のする眉間のあたりをおさえながら……浦島銀河は再びコックピットシートに座り、大きなその膝を着き街路で休んでいたリバーシを操縦し起こした。
「たしか……アッチの方だったか? ──行ってみるか……。もしかしたらシミュレーター猫の一匹でも腹を空かせて呼んでいるのかもしれねぇ? ──よし!!」
さっと白いその前髪をかきあげ、今一度自分の頭によぎった気のする感覚のヤジルシのままに、銀河はリバーシを操り市街地Bの中を滑走しながらスピードを上げていった────────。
「ここの空は、なんでこんなにかなしい青さなんだ……────────なんてな。とりあえず、コイツらをどうにか片付けてから考えるか……? さぁて追加のトーストが来たぞ、ヤれるかリバーシ」
灰色のその機体は電キリンの背に乗りながら、首の付け根下の動力部を貫いた剣をしずかに引き抜く。
不思議と見上げていた青いがどこか悲し気な天の色よりも、今、耳に察知しやがて襲来した……鉄色の軍勢に、リバーシは黒いバイザー内の目を凝らした。
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他のハイエナたちを犠牲に鋭く噛みついてきた──噛みつかれたリバーシは牙が危うくめり込んだその左腕を犠牲に、耳の先端の隠し武装であるビームバルカンの砲口を向け、その犬顔に至近連射した。
「これで7つうううううッッロンリースリーウルブズ!!!」
鉄の犬首を既に6つ刎ねて、最後は原形がなくなるほどに弾丸を浴びせた。灰色の左腕に噛みつくパワーの失せた穴あきの残骸が、地にへたり落ちてゆく……。
「かわいい耳はかわいくねぇぜ!! ハァ……ってかっこつけて言ってんなよ……かっこのわるい」
遭遇した7体の【メタルハイエナ】とその他の敵機をなんとか全て平らげて倒したパイロットは、汗を拭い、上空を見上げた。
そのリバーシのモニター視界に映った1体の円盤飛行物体クレーは、地に散らばったピースのおこぼれを集めて、ふらふらと揺れながらどこかへとまた飛んで帰ってゆく。
遠くちいさくなってゆく……そんな様を見届け続けたパイロットはいつもよりこの状況を真剣に考えた。
「とすると、あるとする蜂の巣はあっちか……? これ以上はどうする? つつくか? …………バレットナースからBAN装甲も拝借してある。もう少し、たのまれてくれるかリバーシ。あぁッ! 犬に噛まれたのはすまねぇよ! 【天】はテンでも【転】のこのド下手パイロット! はははははは──…っし!! 何があるのかいるのか、もうすこし、つついてみるか」
市街地の街並みを抜けた先にあった殺風景な荒野にて、リバーシが接敵した敵意ある鉄の軍勢をすべて益あるパワーピースに変えた。
やはり、おでこの辺りが先程から熱帯びた波に打たれる、奇妙な感覚が寄せては返すを繰り返す……それも着実に近づいている、彼はそんな気がしてならない。天脳システムの使い過ぎか、これ以上は引き返すかどうか…………己の意思の天秤にかけた末に──彼は「ピタッ」と、白い冷却シートを己のおでこに勢いよく、気合を込めるかのように貼り付けた。
さらに、ぐらつく動作不安になっていた左腕をバレットナースからこっそり拝借した貴重なグランドロボット修理アイテムである【BAN装甲】でしっかりと巻きつけ覆い、破損箇所を補修したのをコックピット内の機体情報ビジョンから確認。既に自身に籠る熱量も、念のために持ち込んでいた市販品の魔法のシートでクールダウンに成功していた。
できるだけの準備を急ごしらえで整えた浦島銀河は、労わるリバーシの多少のダメージを押しながらも。上空を行く一機のクレーの後を追い、己の頭に渦巻き近くなる未知の感覚を追い……愛機の背部のブーストを熱く吹かし、まだ見ぬ荒野の先へと誘われるように挑むように向かっていった────────。
「装甲が突っ込んできやがるッ!? それでも、上手いこと節か横腹を狙えばッ────なんだ、リバーシ? ……ナラ、試してみるか!!!」
円盤を追いながら荒野をリバーシと共にパイロットが順調に進んでいると、地中から立ちはだかるようにいきなり現れた────転がる丸い鉄の巨大ダンゴムシ。
スピードを上げ迫った危なく煙たいピンボールを避けながら、色々と攻略法を苦悩しかんがえていたパイロットであったが、「ヤレるか」……そう予感する。まるで根拠のある自信や力でも、ふと、湧いてきたかのように。
浦島銀河が腹をくくり今挑むは、砂を巻き上げ転がり走りくる真正面──リバーシは剣をただ静かに上段に構え、勢いよくグランドパワーを込めて振り下ろした。
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「このグランドパワー? お熱な今日は逆に調子が良いってのか、やっぱり」
仮称敵機【ダダンゴ】を倒した。突っ込んできたところを一刀両断にし、計3体の眠る地中から襲い来たそれらをリバーシ単騎で撃破に成功。
そして、戦闘後の荒れ果てた轍を描く地よりも、立ちはだかる巨大ダンゴムシを制したその先にある──謎の古びた外観の施設を、リバーシと浦島銀河は訝しむように見つめた。
敵機以外は何もなかった市街地外の荒野にぽつんと存在した……追っていた一体のクレーが降り立った先、古びた施設の中をリバーシは注意深くも闊歩する。
中規模の施設の中は、さながら整備ドッグのようか……銀河の見たこともない怪しい機器が立ち並ぶが、それが動いている様子がない。ちいさな円盤機体のクレーにより集められたパーツやピースだけが資材置き場に山積みになっていた。銀河の追っていたクレーはなんらかの指令だけを忠実にこなしていたのかもしれない。
中を探索していくうちに、辺りに稼働し攻撃を仕掛けてくるような敵機がいないことを確認した銀河は大胆にも、リバーシから降りた。慣れたように彼のシルエットは白い光になり、それが乗機から地に照射され到達すると、さっきまで座っていたコックピットシートからパイロットは抜け出す。
そして銀河は気になった錆びついた鉄ドアを力尽くでこじ開けた。人が丁度入れるようなサイズのドアだ、怪しさは深まるばかりであり、その部屋の中に彼は入らずにはいられなかった。
■DGプロジェクト レポート12
EDG後のロストワールドで採取したプロトドラゴゲノムを既存のGR合金に投入。
あらたな合金を用いた試作機は今までにない生物的な独自の進化を遂げることに成功した。
しかし参照する本物には程遠い。
ランドッグ、ブリード、マール、などの様々な子たちが生まれた。
ときには縄張り争いのような光景もみれた。危険なエリアほど近付こうとはしない劣種の存在を見受けられた。改良し投入したマールはスクラップを集める共生者として正しく働いた。
試作や研究、干渉を繰り返しそしてQが生まれた。幾何学的構造がロボットに新たな息吹を吹き込んだ、Qはわたしの創造の及ばなかった最高傑作のひとつと言っていいだろう。やはり素晴らしい、────の助言のとおりだ。
こうしてはいられない。いつかのEDGまでに次の開発に取り掛かろう。カレと共に、破壊と創造のその先に────
⬛︎
「つまり────────こいつらは生物のように獲物を狩り独自進化する機体。ということか?」
「ありえるのか……。んなこと。いやそれはこっちも……?(あのピース……)」
「Q……鉄Qのことか? たしかにありゃ俺の創造も超えて来たな? 良くも悪くもってかんじで……しかしこの口ぶりだと────はぁ、つついたつもりが俺のアタマの方が痛くつつかれてるみたいだ。……よし! 急に新手に遭遇する前にずらかるか、こいつらのことは後で考えよう」
降り立った先、がたつくドアを開いた先にあったのは放棄された様子のラボ、その一室。机上に置かれた花瓶に挿された花はみずぼらしく朽ちている。
銀河は机や棚を物色した末に、そこで手に入れた黄ばんだ資料を回収できるだけ回収した。銀河は資料の一部だけに目を通し、気味の悪いのか詳らかなのかそんな情報を摂取しながらも、この知らない場を貰える物はもらって去ることに決めた。手に取る気のしなかった欠けた白いコーヒーカップだけを、そこに残して……。
もう用がない。用があるなら次回また万全の状態で訪れればいい。電子マップに古びた中規模施設のポイントを記憶し、丸めた資料を括りひとまとめにし、銀河は自機のコックピット内に詰め込んだ。
「鹵獲機に乗り換えもありか? はは、冗談はジョ──」
動かない整備途中で眠る敵機たちを眺めながら、膝着くリバーシを動かそうとしたそのときだった──
天に風穴があいた。溶けるように赤熱する施設内の天から、紫の雨が貫き降り注いだ。
「ぅダッ!?? 熱源!?」
パイロットの額がズキっと痛んだ天脳システムのエラーに、異変を鋭くくみとった浦島銀河は、素早く天から仕掛けられた敵の射撃に反応した。
真っ直ぐ垂直に降り注ぐ熱い熱い危ういビームの雨を、リバーシは即興で踊るように慌ててステップし合わせた。左の盾も効果的に用いつつなんとか奇襲を耐え忍び、また殺気が────降りてくる。
「下手な踊りがっっミエてんのか!!!」
腰部のバーニアを逆噴射し、後ろへと飛びのく。リバーシがさっきまで踊り場にしていた鉄色の地に、鋭い槍が突き刺さる────。
煙を撒き散らし、やがて風穴から吹く強い風にユラユラと揺れる……ソレに、覆い、着飾る、ボロついたマントのシルエットは機械的ではない。
イッカクのように鋭い、突き刺さる左腕一体の兵装をゆっくりと引き抜きながら、やがて、持ち上げたその槍が、灰色の兎モドキのコックピットを遠くから刺し示す。
俄かに降り注いだ紫の雨とともに舞い降りたのは、キメラかニンゲンか、それとも浦島銀河の未だ知らないロボットか。
「こいつは……なんだ!!」
禍々しく棘ついた被るヘルムパーツ、その内にひそめた暗がりに……謎の機体の一つ目が、ギラリ、妖しく点った。