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第10話 リバーシ×フェアリーナイト×バレットナース

 多大なる熱意をもってふたり挑んだ……初参戦の〝アオきハルの第11回プラロボコンテスト〟を上々の結果で終えても、その熱はまだ燃え尽きない。

 大がかりなプラロボ作品の共同制作は、噂に聞いた夏のCクオリティ主催の大会までいったんお預けにし。

 放課後の架模橋高校プラロボ部の部活動は、アオい梯子を登った先、迷い込んで乗り込んだ名も知らぬ市街地で────────。



 空に鮮やかな閃光が走る。

 乱れとぶエメラルドと赤のビームが、空を飛ぶ謎の円盤型飛行物質の編隊へと垂れ流される。


「って当たらなーい! あんなちっさい的に当てられるのウーミん!? (なんかクビも痛くなってきたんだけど!? うぅむずかしい…)」


「町子はビギナーの素人でしょ、だったら! マイトのライバル、このうーみん部員をお手本にすればいいよっ! 撃て撃てじゃんじゃん撃ちまくれば当たってるからあああ!! はああああアタレアタレぇ!!」


「おっ、おおお!! アタレっアタレえええ!!!」


 すばしっこい動きを見せる円盤にもめげずに命中するまで盛大に基本射撃を繰り返す。佐伯海魅部員操る【フェアリーナイト】は手のひらの前に構築した魔法陣から、エメラルドスナイプをすこぶる元気に放つ。そして、その友人で現在プラロボ部に仮入部の道町子操る白い機体【バレットナース】は、腰部に格納していた検温器を模したライフルを取り出し、その銀に光る先端から、熱を上げた赤い閃光を放ち友人であり部の先輩でもある海魅のフェアリーナイトにつづいた。


 「アタレアタレ」と女子パイロットの2人が、念じ、叫んでゆく──しかし、命中したのは……。


 ピンク色のビームが精度高く撃ち抜いた。無駄の少ない基本射撃で、フェアリーナイトとバレットナースの展開する弾幕に追いやられた円盤を貫き。つづき、フリスビーのように投げつけた灰色の小盾が、もろい空の敵機を切り裂く。さらに、飛翔する小盾の中心から開き覗いた宝石オニキスの瞳は、敵を睨みつけロックオンする──遠隔操作でビームを撃ち放ち、不意をついた円盤をまた撃ち落とした。


 灰色の機体の左腕へと、空に投げた小盾が賢くもブーメランのように舞い戻った。空飛ぶ小円盤、仮称【クレー】を、浦島銀河パイロット操るリバーシは、部員2人の援護射撃に乗じて、利用して……一気に4機撃ち落とした。


「お、艦隊級の援護射撃か? 狙い撃つにはじゅうぶんすぎたぜ、サンキュー」


「さんきゅ!? ってなんで横からとるのよバカシラガぁ!? 援護なんてしないしッ、あとちょっとだったのにぃ!はぁはぁ…」


「横からとったのはすまねぇが…。援護はしろよおいそこの部員そこのフェアリーナイト、お仲間の部長だぞリバーシだぞおい。って、それに息上がってんぞ。外伝系機体のグランドパワーは無限じゃねぇ、無理して無駄にすんなよ」


「何言ってるかわからないのはあとにしてっ耳は貸さないよ! だから今度はちゃんと援護してよねっ」


「だからも耳も無茶苦茶でわからねぇが、わかったわかった。迫って来てる残りの地上のヤツらはちゃんとリバーシと俺で片付けてくるから、安心して落ち着いてチャント狙い澄ましてろ」


「言われなくてもっっ」


「ちょっとちょっと言われてないマチコさんはどうする!?」


「そいつおそらくお空しかみえてないから見といてマチコさん! それとフェアリーナイトが被弾したらBAN装甲を貼って修理してやってくれ。最新鋭機のそのバレットナースでな! ネクストミッション劇中のイイダ先生のように──じゃ、たのんダッ!! はははは」


「わ、わかったァ?? ばんそうこう?? イイダせんせぇ???」


 海魅部員に今度はちゃんと地上の憂いを払い「援護する」と銀河部長は約束をし、バレットナース操る町子仮入部員にプライベート回線を繋ぎ、海魅を見張るように指示を出しお願いした。


 やがて、ヘッドパーツの灰色耳をぴょこぴょこ立て反応させたリバーシは、元気に走るメタルドッグと散歩するドッグキーパーの足音を注意深く探知しながら、アスファルトを走り、市街地の奥へと単騎で溶け込んでいった。







 ビギナーとは違うと海魅は言うが、そのクレーたちを捉えるのは難しい。

 だが、ビギナーに毛の生えた海魅部員はエメラルドスナイプを放ちつづける。友人のマチコにも熱く指示を出しながら、まだ優雅に空を舞っていたクレーの編隊に、しつこいちょっかいの射撃を垂れ流しつづけた。


「ヤッタヤッタ!!! 1機やったよ見てみて町子!! これがうわさのマイト撃ち!!」


「ほんとうに当たった!?? うーみんがヤったの!?? そ、そのまいとうち?? で!?」


「ヤったのオちたの見りゃわかるでしょ! ほら町子、うーみん部員をじゃんじゃん援護! さっきの感じでじゃんじゃん撃っちゃえ!! 町子も1機ぐらい落とせなきゃ後でシラガに笑われるんだからね!」


「う、うんっ!! もう笑われたような気もするけどッ!?」


「「じゃんじゃんんんんーーーーー!!!」」


 下手な鉄砲も数での理論と精神でか、クレーを1機撃ち落とすことに成功し上機嫌の佐伯海魅は、その後も町子と共に、空をあたふた飛ぶ円盤をこの調子で狙いつづけた。


 しかし、まるでソレらを的にしながらゲーム感覚の射撃練習でもしていたつもりだったのか、彼女らは無害で空を飛んでいたそれが牙を剥くとは知らず。

 突如怒ったように、クレーの編隊が真っ直ぐに地上へと向かってきた。ビームを垂れ流すフェアリーナイトとバレットナースへと。


「はぁ!? なんでいきなりっ!?」


「うへぇ!? ウーミん来てる来てるよおおお!??」


 慌てて撃ち続ける無茶苦茶のエメラルドと赤の弾幕にその編隊は撃墜されるなか、それでもしかし一機のクレーは上手くかいくぐり、今、喉元まで迫る勢いでその白き機体、フェアリーナイトへと────


「さ、さいごの一機じゃないいい!!!」


「おい馬鹿スコアより避けろ!?」


そんな今入ってきた彼の通信と忠告にも海魅とフェアリーナイトは耳を貸さず。最後の手段、白き妖精がその可憐さの欠片もなく、無茶苦茶に振り回したグランドナイツソードが、──当たった。


 たしかにヒットした。一直線に降下してきた円盤を弾き返し地に叩きつけるように。


 フェアリーナイトが近接戦で顕現させたその素晴らしき剣で応じ、カミカゼを仕掛けてきたクレーを一機、返り打ちにしたのであった。


 やがて、ちいさく爆散する音が聞こえた。不恰好に叩きつけたポーズで静止していたフェアリーナイトは、地に深く突き刺さった剣を手からゆっくりとはなす。


「は!?? や…やった、ヤッターー!!! ヤッタよ町子これがうわさのマイト斬りぃいいあはははは」


「す、すごおおおすごいよウーミん!!! あはははは」


「「ヤッタヤッタあははははあはははは」」


 喜びを爆発させたフェアリーナイトは、腰を抜かしていたが今起き上がった。そして、同じく白いバレットナースとハイタッチをする。「がしゃんがしゃん」駆動音を鳴らしながら、何度も巨大なハイタッチを器用にも機体に乗りながらするのだ。ロボットが仲のいい2人の女子高生のように。


「ヤッタはヤッタが……まぁいいか、はははおーーーい。偽マイトぉー、マチコさーん、部長が来たがそっち大丈夫かーー!」


「何やってたの遅いしシラガのぶちょー? ふんふーーん! これが【天】だようーみん部員! の!」


「何やってたって、部員たちが景気良くクレー射撃しているあいだに、部長は地に足つけて耳を凝らして接近する敵機を狩って頑張ってたんだよ。それに【天】を見上げるのはいいけど、マイトみたいに〝天狗〟にはなるなよ、うーみん部員はははは」



「「は?」」



「なんでだ!? (しかもっ)ふたりぃ!??」


 地上敵部隊をひそかに殲滅し、ビギナーである彼女たちの元へと蜻蛉返りした浦島銀河とリバーシは、その甲斐もむなしく……。絶賛喜びながら両手を合わせていたフェアリーナイトとバレットナースのアイカメラに睨まれ、「は?」と重ねた音声の圧を、冷静に立ち返ったように、かけられた。


 うーみん呼びがダメだったのか、何がダメだったのか。一介の男子生徒と灰色のリバーシはその、白い2人と2機のハイタッチには結局混じれず……心なしか灰色の耳をしょんぼりと垂れながら、立ち尽くした。


 3機編成で挑んだエリア9696難易度⭐︎⭐︎⭐︎の市街地。3人体制になったプラロボ部は、7機のメタルドッグと3機のドッグキーパー、8機のクレーを撃破し、敵機と交戦になった状況を見事に一時クリアしたのであった。




【バレットナース】(ロスカ・シーベルカスタム):

理由(わけ)あって町子が搭乗することになった最新鋭機(新発売)のプラロボである。銀河と海魅がきハルで土産として持ち帰ったアズマ専用パーフェクトグランド(苺)を、町子はなぜか動かすことができず。代わりに看護師志望ときいた道町子に相性の良いと銀河部長が考えた……この別の機体に白羽の矢が立ったのだ。


グランドネクストミッションに登場するカスタム機体。

武装は身長計が鎌になり、体温計が銃になる異色の機体である。BAN装甲と呼ばれる可塑性に富んだ特殊ヴァリアブル装甲を、機体の破損箇所に絆創膏のように貼り付けることで応急修理することができる。

そのことからこの機体は、闘う白い天使と呼ばれることもある。

元はアニメ、グランドⅡ地球の意思に登場するロスカ・シーベルというその時代最強格と名高い機体を、別作品グランドネクストミッションの主人公の通う学校の、保健の飯田先生が、やや毒気を抜いたカスタムをしたものだ。

ちなみにグランドⅡ劇中のその描写から凶悪機体として恐れ知られるロスカ・シーベルのパイロットの名はバーン・ライクマックス。後のグランドロボット史に革新をあたえた〝ベリー〟とよばれる特殊遠隔操作武装をはじめて実戦で使用した、【天】にちかい才能をもつ恐ろしいラスボスであった。







 交戦状態にあった周囲の敵部隊を協力して殲滅したプラロボ部は、機体同士の巨大なハイタッチで、その皆が気持ちの良い勝利を喜び終えて────


 一時、休憩と戦闘の舞台となった謎の市街地の探索と調査を兼ねて、各部員は搭乗する機体から降りた。



(しかしなんなんだろうなここは……? しばらく歩き回ったところ普通の市街地のなかに見えるが、もちろん人っ子はひとりいねぇ。誰かいるかちょっとは期待していたんだが……ただのプラロボを立たせる舞台か? にしては服屋の店内まで、品ぞろえの衣装まで、随分豊富にある…ありすぎる…こだわってやがるぜ。たとえば大金をかけたゲームでもこうはいかねぇよな──もしかして、ネクストミッションの世界観にちか────まぁそのことはいいか。それより……なんなんだろうなこれは)


 辺りを探索中、珍し気な服をかざっていたショーウインドウのマネキンを指差した。それが始まりだった。女子部員たちは指し示した元気な矢印のまま、その服屋の店内に勝手に入り、現在、佐伯海魅と道町子による謎のファッションショーが始まっていた。


 「こんなに自由にできることってないじゃん?」その女子たちにとっての自由とはプラロボを動かすことよりも、好きな服を好きなだけ己の身に着飾ることらしい。こそこそげらげらと、楽しそうにはしゃぎあっては、目隠しのカーテンを開き彼女らは登場し、審査員役を(強制的に)承った男にそれらしいポーズを決めてモデルたちは去っていくのだ。そしてまた、店内に飾られた新たな服を手にカゴに補充して、試着室・カーテンの内側へとこもり──。一連の装うファッショナブルな行動を、飽きずにモデルたちは繰り返す。


 今日はいっそう楽しげな青い目でウインクされながら去ってゆく、どこのチームかも分からない野球帽を椅子に座るシラガ頭に被せられる。


 これが登場するプラロボや歴代のグランド作品のヒロインならば、笑顔を崩さず延々と見ていられるが、一体いつこのコンテストが終わるのかの方が、審査員の男は気になっていた。だが、彼は借りてきた猫、いや地蔵のように今は大人しく、その指定席・特等席に座り。

 対して、海魅と町子部員は依然その調子で、貸し切りの服屋でファッションを楽しんでいるようだ。


 ファンでもない知らないチームの野球帽を被り、季節外れのカラフルマフラーと星のサングラスをした銀河が顎に手をやりながら、女子モデルたちの登場待ちにぼーっとしていると……。


 揺れている──たしかに、今わずかに彼の立つ足が、スニーカーの裏が揺れた。そのわずかな揺れがやがて、足音を立てるように近づいてきているように彼は感じたのだ。やはり、その感覚は勘違いではない。


「あっ!? おい! いそげ!!!」


「「は? なにを? えっちなんだけど」」


「ちげぇ!! 敵襲だ!!!」


「「てきしゅー……──!??」」


 男子のうるさい声を聞き隣り合う試着室から顔を出した、海魅と町子はそのお互いの顔を見合わせる。そういえば足元から響く揺れる鈍い音に、気付き──今更2人して驚いた。


 そして慌てて服を着こなし、女子たちはカーテンを勢いよく開き試着室からそろって出てきた。


「ア!? お金!」


「いいって! んな常識は非常識! とにかく機体の元にいそげ!! 踏みつぶされるぞ!!!」


 慌てているにしてはオシャレに着飾って悠長に出てきたそんな女子たちを、既に店外に出ていた部長は必死の形相で手招き命令する。


 視界不良のふざけたサングラスを投げ捨てて、浦島銀河は女子部員たちより一足先に、枯れた噴水広場前に置いていた愛機のリバーシへと飛び乗った────。







 今も続く震源はどこからか……リバーシは市街地のビルの壁にご自慢の灰色の耳を立てるが……いや、それは向かってきている──それも一直線に建造物をきっと壊しながら。


 そのアクションを耳と直感に銀河が気付いたときにはもう、最後の障害物を破壊し敵は現れた。


「なんだこいつ!?? 鉄の人形!?? なんて現れかたウオッ!??──」


 リバーシは、さっきまで耳を貼り付けていたビルを破壊しいきなり大胆に現れた未確認の敵機の攻撃を、反応した小盾で受け止めた。


 まるで等しい大きさの鉄球が幾多も繋げられた、それだけの簡易構造をした機体。見た目は赤い一つ目をした鉄の棒人形のようだ。

 どのシリーズのグランド作品にもいないプラロボでも見たことのない敵機が、その数珠つなぎの腕を長く伸ばし、相対したリバーシに向けて、さっそくの手痛いご挨拶を仕掛けてきたのだ。


 リバーシはその左の盾になんとか鉄数珠のパンチを受け止めたが、凄まじいパワーで押されてゆく。


 踏ん張る地の石畳が弾け雨のように降っていく。このままではとても不味い、そんな予感をかんじた白髪のパイロットは、さらなるグランドパワーを込めリバーシを操った。

 グランドナイツソードを右手に顕現させ、そのまま、鉄数珠の繋ぎ目へと勢いよく差し込んだ。そして、即興で立てた目論み通りに繋ぎ目に刃は通り、横薙ぎに殴りつけえきた敵機の長い腕はそこから千切れ、威力を失った。


「はぁはぁッ────ナニコレ!? ちょっとレンガとか降って来てギリだったんだけど!? これコイツぅ今逃げるわけ!?」


「あぁ今は逃げるっての!!」


「ちょちょ、どこに!?? 町子さんはどうすッ──あわァ!??」


「いいから!! いったん態勢を立て直すぞ!! 【(てつ)Q】をヤる作戦はそれからだ」


「てつきゅー?? ナニソレ!?? てかこれ地味にッッマチコさん初のお姫様だっこおおお機械ごしだけどおおおお」


「おっおひっ!? って!! こんなときにどうでもいい変なこと言ってやがるな!!?」


「は? ありえないんだけど」


「んだよ! は? ってぇえ!! ありえないなら後にしてくれ! ──しっ! フェアリーナイト、バレットナース、お前らは射撃ポイントに急げ!! ヤルのは援護射撃ってヤツだ!! うかつに前に出るんじゃないぞ、ほらありえねぇお姫様抱っことやらはここまでだ行った行った!!!」


 噴水広場を覆うほどに散布した灰色の霞の中から、フェアリーナイトは通信ビジョンに部長から送られて来た電子マップにしるされた指示通りのポイントに向かい、走り逃げ。戸惑うバレットナースをお姫様のように抱え迅速にかっさらったリバーシは、鉄球の怒りがまた打ちつけられた危険なエリアから抜け出した。


 不気味な震動とともに現れた未確認機体、仮称【鉄Q】は、雷のエネルギーを空と地に放出しながら千切れた鉄球のパーツを吸い寄せ、また元の完全なる形へと戻った。


 灰色の霞に轟いた青い雷光。霞が明け、まだまだヤル気を見せるその鉄色ノッポ、その見たこともない敵機のシルエットに……やがて振り向いたリバーシは、また、剣と盾を勇ましく構えた────────。






 射撃ポイントに指定されたのは半壊した野球ドーム。しかしその中からでは敵を捉えることが難しい。


 さすればと、ドームの曲面を勝手に登り始めたフェアリーナイトはその登った先の見晴らしのいいポイントから、赤く輝く瞳を標的に、白い手のひらを前へと翳し、狙い撃っていった。


「弱点といえば絶対アレでしょ!!」


「ちょっとウーミん部員!? そんなとこ危なくない!?」


「ふふん、ナカに隠れてて射撃なんてできないでしょ! ほらじゃんじゃんだよ町子!」


「わ、わかった! ──ってあんなの当てられる!?」


「マイトは当ててた、──ホラッッうーみん部員も!! ってはぁ!? なに回転させてふせいでんのよコイツぅ!!」


「あぁいまの惜しかったのにぃ!! ってシラガさん大丈夫かな!」


「大丈夫でしょ!! それよりまた横から取られる前に一斉射撃だよ!! せーのっ!!」


「「じゃんじゃーーーー──……ン??」」



 狙撃をしていたが標的にはなかなか当たらない。そこでまた援護射撃ならぬ一斉射撃を、遅れて登ってきたバレットナースと共にフェアリーナイトは始めたのであった。またも下手な鉄砲も数撃ちゃの理論と精神か、その先ほどクレーを仕留めた成功体験と彼女らが確立した戦術をもってして、遠くターゲットにした頭部の赤い瞳についに、エメラルドの光が命中したように見えたが──


 赤い瞳を中心に浮かせて隔て覆っていた、0の形をした鉄パーツが、いきなり回転しだした。高速回転した0は狙い澄ましたエメラルドのビームを飛沫にし弾き、弱点部位と思われる赤い瞳をなんと守った。


 そして、女子高生パイロットがそのことに文句を垂れながらも斉射をつづけていたところ──。


 鉄球のひとつが山なりの軌道で高々と舞い、野球ドームの屋根曲面へと落ちた。青空に鉄色の光をはなつ飛翔物を見上げて……慌てて逃げだそうとした白い2機は、丸い穴が空き崩壊した屋根足場から落ちていった。




 鉄Qは外野から遠投するように自らのパーツ一粒を投げ入れ、遠くからの鬱陶しい援護射撃を、ナイスコントロールの重い一球で黙らせた。


 通信ビジョンに悲鳴と、すぐさま文句ご注文が大きな灰耳とコックピット内にいる彼の小さな耳に聞こえたということは、無事。


 部員たちの無事を確認した部長は、後ろからの派手な援護射撃の心配も消えたので、また前に躍り出て集中し、その剣と盾のリバーシの兵装を構えた。


「!? コイツ硬さだけじゃねぇ! 接合がシンプルがゆえのッッ!!」


 盾で丁寧に受け止め、グランドナイツソードで切り裂く。鉄ノッポの左右長腕から打ちつけるラッシュに、リバーシは数珠になった鉄球の接合部に滑り込ませた刃で対応する。


 だが、千切れた鉄球を雷を発生させながら吸い寄せ集めて、即興でありもしなかった長い尻尾を組み立てた敵機、鉄Qは、それで突然地を薙ぎ払った。


 その観察眼で千切れてもまた鉄球をリサイクルしてくることを予見していたリバーシと銀河は、その危険な鉄の縄跳びを反応し跳び避けた。


 そして、装備していた盾を迷わず投げた。弱点と思われる頭部へと向かって。だがすぐさま高速回転する硬い頭部の0パーツにぶつかった灰色の盾は、威力及ばず、逆に高々と空へと弾かれてしまった。


「これみよがしの頭が弱点と思うのは素人だって! みせてやる!」


 しかしリバーシが投げ放ったそれは、ただ一瞬注意を割かせるための牽制攻撃であった。その隙にリバーシはノッポでスリムな鉄Qの足元に張り付いていたのだ。


 だが、鉄Qも接近されて黙ってはいない。足元に向かい、腕に取り付けてあった鉄球をバラしながら投げ入れていく。鳴り響く激しい鉄色の雨にも、ステップし楽しげに踊るリバーシと。また散布された霞のなかをちらちら踊る敵影に、夢中になり、赤目を見下ろし凝らす敵機、鉄Q。


 まさにそんな混沌と染まりゆく激しい攻防の最中、突然。輝く暗い瞳と、鉄Qは一瞬目が合った。舞い落ちてきた小盾の中心から目覚めたオニキスの魔宝石から、一筋のピンクの閃光が放たれた。


 今、狙い済ました突然の閃光が、0の鉄輪をくぐり赤い瞳を撃ち抜いた。


 鉄Qのアイカメラが撃たれてひび割れた。その隙を見逃さないパイロットはいない。

 足元に散布された灰色の霞から今かと勢いよく飛び出したリバーシは、背骨脊椎にあたるパーツに向けてグランドナイツソードを思いっきり突き刺した。


「グランド……パワーぁぁ!!!」


 狙いをつけたのは今一番熱いところ。目視で見分けはつかなくても、戦いの最中に優秀なパイロットと優秀な機体が見抜いた、雷のエネルギーを散々そこから放っていたと思われる、特別なひとパーツ。


 グランドパワーをひねり上げて、ここぞと一気に突き刺したイチゲキは、致命的。


 リバーシはそのまま敵機を蹴り上げうしろに離れた。やがて穿たれた一球は派手に漏電し、鉄の背丈を焼き尽くす、青く爆発する、熱き光景がその灰色の背を焼いた。


「弱点はひとつとは限らない……なんてなっ! ははははは」


 腕を再生しても、突然尻尾を生やしても、砲丸投げをしだしても、何度カタチを変えてもソレにはかなわない。なんせソレらは変幻自在の戦法などすでにシ慣れている。


 未確認機体鉄Qは、リバーシと浦島銀河のコンビに、見事討ち取られたのであった。

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