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第1話 アオハル×プラロボ

 加模橋(かもばし)高校、愛着を込めてカモコウと皆は呼ぶ。

 いたって普通の公立高校カモコウに通う1年私、佐伯海魅(さえきうみ)。ちょっとばかり周りよりイケてる現役の女子高生、な私だけど。このところ、どうも張りがない生活を送っている、わけで……。


 そう、私の特殊能力【アオハルレーダー】がハッていない感じ! ニューゲームではじまった華の女子高生なのにね。


 友達もいるし、クラスにも馴染めているし、メルアドだってバンバン増えた。他のクラスの男子から告白もされたっけ?

 そんなに知らないしそのときは知りたいとは思えなくて、とりあえずフッておいたけど……覚えてないや。今になっても覚えていないということは、そういうことなんだと思う、うん。

 だからその満たなくて成立しなかったものはフェイドアウト──自然消滅で。そこからはしゃべってない。だってそういうの、引きずると気まずいし?


 まぁまぁ恋も友情もさ、それらしいイベントが全くないわけじゃないのになんでこんなにダルイんだろうと思って。なんでかなぁって、もしかしてアレかって分かっちゃった。


 〝部活〟。


 アオハルといえば部活に入るものだ。きっとそれがいい、今からでも間に合う部活にねー。このままいくと最悪──ちょっとかわいいだけの無個性キャラになっちゃわない、私? って最近危機感ってやつをおぼえたり……!


 ……でも、入りたい部活ねぇ。テニス、バスケ? バトミントン?


 …………。


 思いうかべて並べてみたけど、なんかね、そこでそこそこ上手く頑張っちゃってる私が居るのがもう想像できちゃうのがつらい……わかるこれ?

 言っちゃったらそんなに好きでもなかったのに「部活だ!」「きっと入らなきゃ!」「そしてきらきらの汗をかこう!」「とても素晴らしく、人間らしく!」って、そーんな先入観と焦燥感。

 言っちゃったら今を生きる学生のみに許された究極の〝やってる感〟それすなわち!──【アオハルの浪費】だ。


 そこには最後に綺麗な思い出が残るんだろうけど、それって思い出したように古い思い出を再生したりするとだいたいそうなるの。うん。そんな経験ない? ……私にはあるんだ。本当はからっぽだった箱のにおいを、懐かしく嗅いだみたいに……。

 だから!ピンピンのアオハルレーダーが偽りのまましなーって老いていく感じ。


 想像できちゃうんだ、わたしって。



「そういえばさウミ、隣クラスの白髪のあの子オタク部なんだって、ふふちょっと意味わかんないよね(そんな儚げな髪色だとてっきり美術部か敏腕音楽プロデューサーだとおもうじゃん? あはは)」


「オタク部?」


 話しかけてきたのは町子。この学校にきて結構仲良くなった3組にいるショートの茶髪が外ハネしているのがかわいい明るい子だよ。(わたしは2組だけど)。値踏みするわけじゃないけど、いかにも良い距離感の友達って感じでアオハル的にはいいんだけどね。


 それにしてもオタク部ってなんだっけ?


「ほらあのっ────」


「あー。はいはい」







 放課後……思い立ったが吉日────佐伯海魅は【アオハルレーダー】をぴょんと、とりあえず立たせてやって来た。


(【プラロボ部】、ここかぁ)


 旧部室棟にある一室、プラロボ部。


 ガチャリ──鍵の空いていたドアを開ける。彼女がドアノブに手を触れた瞬間、少しだけ加速した胸のドキドキ。そんなドキドキと共に少しうかがいつつも、未知の空間へと、すっと導かれるように佐伯海魅は入っていった。


「失礼しまーす」

(ちょっとからかうだけでもいいよね?)


 丁寧なご挨拶とは裏腹のちょっぴり不真面目な気持ちを持ち合わせつつ、海魅はさっそく一歩一歩、中を見渡しながら歩いてゆく。


(オタク部っていうからには汚いかと思ったけど、別にそんなこと……やっぱきたないかも)


 なにやらニッパーやら塗料、新聞紙や箱が散乱している。生々しい部活動らしい痕跡。それらを見つけた海魅は「そうだよね?」とつぶやいた。

 というのも視界に映る状態は、彼女の頭の中でしていたプラロボ部のイメージと合致していたのだ。ひとつ、ふたつ、海魅は一人でこくりと頷き深く気にはせず……。


「って、もしかしてだれもいない? ドアは開いてたよね? ──まいっか。ふーんふん、あっ!」


 人気がないのを確認した海魅は、興味のそそられる方へ身のままに動く。


「あーあー、やっぱそういうの飾ってるんだね。なんだっけこれ。グラグラ? グライダー?」


 そして、今、見つけた。中型のショーケース内に御大層に飾られていて目立つ、その【プラロボ】に海魅は目をやった。


「ふーん。土とか盛っちゃってる。なんか……そこまですんの熱意の方向やばいじゃん……。『土盛りは度胸だよ!』──なに言ってんのわたし? えいっ」


 ひとりツッコミを入れるよう、海魅は透明ケースに細い指でデコピンする。すると──「ぱちり」音を立てて響いた。


 その衝撃で、繊細に保たれていた機体バランスが、なんと崩壊。そのまま後ろへと──ずってん、倒れ込んだ。悲惨な有様に変わる。


「やばっ倒しちゃった!? え、これだけでぇ? はぁ? なんなのこの派手カカシぃぃバランス悪すぎ!!! このこのこのおおおおおお」


 透明な天の蓋を開けた〝巨人女子高生〟は、ガチャガチャと転んでしまったプラロボを弄り、再び元のぼんやり記憶した勇ましいポーズで大地に立たせようと、悪戦苦闘する。そして、その「派手カカシ」と称された今は倒れた機体が背負っていた大荷物を、彼女は感覚のままに弄り直し……ついに────────


「ふぃいいこんな感じだったよね……うん。てか元より安定した? うん」


 流した汗を右手の甲でさわやかに拭う。少しべたついた黒髪セミロングの前髪をさっといつもの具合に整えた。

 そして腰に手を当て以前より安定した機体バランスに満足気に頷く。そして彼女、佐伯海魅は、満足気な表情とひとり遊びで高まったテンションのままに、まだ興味の尽きてない新鮮な辺りをまた物色しだした。


「あれ、なに?」

(なんだろこの光る梯子? これもグライダー? なわけないよね)


 不意に目に入ったのは、さっきまでソコにはなかった気がする、青く光る梯子。


 摩訶不思議に光るソレは華の女子高生一年、佐伯海魅、彼女にとって非常に気になる。さっそく壁に掛けられていた青い梯子に近づき、光るそれを恐れなく掴んだ。

 「これを登った先に何があるのか……」内心はワクワクドキドキと昂る。手をかけ、足をかけ、のぼっていく……。佐伯海魅はもう待ちきれず、しだいに、足早に、その梯子の先へもっと先へと、急いだ。


一歩一歩……。やがて、不思議にも天に頭頂をぶつけることなくいつの間にか彼女は誘われていた、天を突き抜けた先へと────


「なにここ……秘密基地? いかにもアオハルへの楽園かと思ったのにちょっとおもってたのとちがった? ふーん、屋根裏部屋にしちゃぁ。こだわりが見受けられるってやつぅ……。こんなにピコピコ光らせて、あはは、さっきの土盛りより熱意やばいじゃん? ふふふーん」


 登り果てたすえに、視界に広がっていたのは薄暗いSF染みたブリーフィングルーム、のようなもの。真ん中には星々の絨毯のようなものが広がる、暗く輝く宇宙マップがある。


 その煌々と誘う未知に当然のように……ひとりの女子高生はアオい瞳を輝かせ、いっそう気になるソノ輝きたちに手を伸ばしていった────────







 なぜか閉まっていない。出た時とはちがう風通しのいいドア。その隙間から、男はすっと帰還した。


 入った瞬間から男が感じたのは分かりやすい違和感。そして目を配り、さらにつづく……室内に連続した明らかに荒らされたような違和感。警戒しながらゆっくりと歩を進めたどっていき、ここの部員である男のいま目にした光景は──


「なんだこれ……なんでこんな無茶苦茶な蟹脚みたいなバックパックになってんだ……」


 男は顎に手をやり、しばし眺める。


「コンテスト用の俺の【インフィニットフルパッケージホーク:金剛夜叉】が……」

(ちょっとおもろいけど……)


 今そのショーケースの中の土盛りに、どっしりと佇む。自分の発想に無いプラロボの状態に一時笑ってしまったものの、男はその一機にかけた時間を思い出し、最後には溜息をついた。

 さらに、男が見つけた違和感はそれだけではなかった。見知らぬ犯人が残した好き勝手な足跡をたどると……。この部室内に侵入した何者かが、その興味の限り、まるで息をするように次々と問題を連続して引き起こしているように男の目には見えたのだ。


「あれ? 青いハシゴがでてやがる……ん? コイツ…まさか?」







「なにこれゴミの山……。なにこのデカすぎる恐竜……」


 長い首をスクラップの山に突っ込み、ムシャムシャと頬張る機械竜。

 視界に収まりきらないソレはあまりにもデカすぎる────見上げたまま、ただ開いた口が塞がらない。普通に生きてきた彼女のような人間にとって現実的ではない、その巨体存在はまさに、そびえ立つ理解しがたいファンタジーだった。


 思い立ったが吉日、そんな自分勝手な興味からふらふらと誘われてしまったここが、いったいどこなのかも女子高生、佐伯海魅はわからない。ただスクラップの大山小山がいくつかあり、自分が今呆然と立っているじゃりつく鉄色のステージがわからない。


 ギロリ──長い首の先にある、いかつい蜥蜴(とかげ)の面が、豆粒ほどの大きさである彼女の方を向き、赤い眼光を放っている。


 重鈍そうな全てを支えるその太い四脚も、山に見切れた蜥蜴の尻尾も、動いていない。ぐぐぐーーっと長首だけが伸び────。遠く離れているはずのその面が、小さく佇む者へと近づいて来ているのだ。


 近づいてきたのは敵意──わかる。唐突にすくむ彼女の足は、それでも「動け」と警告しているようにしか思えない。このまま無策・無気力に立ち竦んでいてはきっと大変なことになる。海魅は本能のままに、震えがらも背を見せ、なけなしの勇気を奮わせて、ぎこちなくも走った。


「いやっ、えっ、うそ、ハッ、きてるうううううう。悪い夢? えっ? わたしこんな訳の分からないとこで死ぬの?」


 必死に走る小鼠にどんどんと追いつき、近付く、恐ろしい影。


「思い立ったが吉日ぅ?? きっっとアレを! 土盛りのアレがデコピンで倒れてからだ! 吉日が転んだんだ! 転じて凶日!! 地獄の悪夢なんてええええ、アオハルレーダーのばかああああああ」


 迫る巨影はやがて、大口を開けて静止した。唸る謎の駆動音に生身のリアルな冷汗は加速する。


 機械の顎を開き、口内の暗がりから漏れ出でた光は、地獄の釜のように熱量をぐつぐつと増し、ゲームでも見たことのない、耳にうるさい、目をくらませる、大袈裟な演出をかもしだす。

 果たして彼女の背を温めるその恐ろし気な光景は、現実なのか夢なのか……。今、青白い光を宿す口部レーザーが、機械蜥蜴のアイカメラに睨む、黒髪靡く小さなそのターゲットに向けて発射された。


 その時────


 恐れ振り返りながらも走る、白くて華奢な彼女の制服姿を──かっさらっていった。


 灰色の風が、風が、唐突にその彼女の白い細身に打ち付けるカゼがすごい。


『乗れ!!!』


「──え? うっ!」


 絶体絶命にも思えた、それでも叫び走っていたはずの熱されていく鉄色のステージから、いつの間にやら今、彼女は灰色の手のひらの上にいた。煮えたぎる地獄から天国とはいえない暴風の最中へと、彼女の理解の及ばない内に目まぐるしくも状況が変わった。太い灰色の指に乗せられて、激しい風に絶賛ぶち当たっていた佐伯海魅は、風の唸りにも負けず大きく彼女の耳に聞こえたその声に従い、不思議なアオい光となって、──乗りこんだ。


 不意に彼女の生身の体が発光し、摩訶不思議な光にノって──乗り込んでいたのは、なんとその灰色の機体のコックピット内であった。初めての感覚に海魅が不安でぎゅっと閉じた目を開くと、左前にどっしりとシートに座る男がいる。その容姿は白髪で真剣な黒い瞳をしている、それでいて白いブレザーは彼女と同じ物だ。海魅はその人とチラッとだけ、一瞬、目が合った。


「って誰? え、さっきのナニ!? ええ?」


「1年1組浦島銀河だ。そして乗っているのはご存知っ愛機の【リバーシ】だイクゾ!」


リバーシ:

ゲームグランドナイツRPG外伝8にメイン登場する表裏二面の換装術を持つ裏切りのグランドナイツ末席、その名はリバーシ。

灰色の表裏術騎士と呼ばれその実力はグランドナイツの中でも高く、常に新しい術技を取り入れる彼女の新旧混じえた戦い方は、老いてもなお次世代にも通用するお手本のような存在である。

外伝8でもグランドナイトとフェアリーナイトの息子である主人公パーティーの魔王討伐の旅に、途中まで同行するほどであり、脇役止まりだった彼女が最後に活躍するこの外伝のファン人気は賛否が真っ二つに割れている。

ゲーム内での彼女は術技のマネが得意であるため実力を認め合うグランドナイツ以外からの評判は悪い。



「いくってどこおおおお」


「どこでも邪魔せず捕まってろおおおお」


 二人の人間の自己紹介の間にも、追って噛みついてきた機械竜の閉じた大顎を、浦島銀河操る機体リバーシは引きつけては避ける。軽減されてもなお強烈な空中戦でのGが、二人乗りしたビギナー女子の姿勢バランスを崩して、操縦者の男にもたれかかった。


「ったくなぁんでこんなレベルの高いとこに、生身の人間で行っちゃうのか(せめてパイロットスーツを着ろよ民間人)どうせぺたぺた小学生みたいにあちこち勝手に触ってたんだろう!」


「きゃっ──はぁ? 触ってないし! 勝手にあの謎に土盛ってた黒と金のがコケただけだし! そのせいでこうなってんでしょーっ!!」


「黒と金っておま!? 俺の【インフィニットフルパッケージホーク:金剛夜叉】を水陸両用の蟹にしたのやっぱお前かよ! あとナゾの土盛りっておま」


「うるさい集中して!」


「そその通りだばかああああ! よーし集中集中って……ちょちょちょちょ! おまえさっきから」


「はぁ? ふざけてないで速く倒して?キョドるのきもいからやめて、ナゾロボットの運転が荒いんだから仕方ないでしょ」


(さっきからパイロットシートに座る俺にもたれかかっている。太もも辺りに、むにっと……やわい……。手もなんか、ぎゅっと……添っている! この……状・況・は……!!!)


「キョドってない! 荒くない!」


「ふっ」


「なんか……くっそおおおお!!!」


(叫ぶしかなかった。この女子の姿勢がどうこうなんかどうでもよくって! 余裕ありげに笑ったのが……それどころでもなく! 今はこれを避けて避けて切り抜けて、歴代シリーズでも他のロボットアニメでも拝んだこともない、この未確認機械体、デカブツダイナソーのこいつをっっ!! シリーズ最強パイロットと称される【マイ・トメイロ】みたいに俺はヤレルか……!)


「何やってんの? 逃げてないで武器とかで倒してっ何のためのロボットなの?」


(何のためだと? いきなりそんなこと……この耳に聞いたこともない高飛車なヒロインみたいに問われちまったら!)


「そりゃロボットは敵を倒すために! てかさっきからしゃべりすぎだ、イクゾリバーシ!!」


(ゼンブ以上出してやるしかないだろ……!!! 灰色だけじゃないはずだ。お前の修練してきたチカラの一端を、今こそ浦島銀河という次世代に、貸してくれっ、リバーーシ!!!)


 ちいさなココロにおおきなチカラは呼応する────。


 灰色騎士リバーシは、突然ただよわせた霞のマジックに姿を隠し、その姿を変える。

 灰色の装甲の上に、追加装甲を得た青いフォルムは組み上がる。それは、重武装の氷のドレスで着飾った射撃偏重タイプ。冠するティアラの無い、戦士の氷兜を纏った、美しきあらたなるリバーシとなる。


「……!? マスターバスターリバーシ!? いいかこいつが!! リバーシの【マスターバスターリバーシ】だ!」


「なんで二回言ったの?? って、ゼンゼンここから見えてないし……何したわけ?」


「んぐっ!? とにかく見ててくれェ! リバーシは隠れて隠して逃げてたわけじゃないんだ。敵の攻撃パターンを見極めて、変幻自在にキメるときはキメる! さっきのはそういうことだろ! そうだろリバーシっ、ただのRPGじゃないならぁぁぁっけえええええ!」


 パイロットの叫ぶ意思は天に届き機体にとどく。稼動するリバーシはさっそく新しい衣装で撃ちまくる。ドレスから射出される氷の追尾ミサイルにくわえて、構えた二丁アサルトライフルから盛大に射出される雪の結晶の魔法弾。もったいぶらないもったいぶる必要はない、今、撃ちまくる撃ち尽くす、さらに同時に次なる魔法陣をふたつ手の甲に構築しチャージしていく。


「え効いてる効いてる!! ソノ青くてつめたいのもっと撃っちゃええ! いけいけ!」


「はは言われなくても全弾ぶち込むぞおお! 今なら上機嫌!! これも使えちゃうんだろっ【吹雪雷(ふぶき)】!」


 うねうねと空を図々しくその図体で陣取っていた長首の竜に、発射した全弾が突き刺さる。そんな冷たい氷の着弾に彩られた顔を、クビを、更にマスターバスターリバーシは追い打つ。

 前に重ね合わせた手の甲と手の甲、雪と雷の魔法陣は今混じり合わさり……手のひら前方に巨大な合成魔法陣の展開に成功。

 吹き荒れていく雪と雷のあふれ出る〝グランドパワー〟全開のとてつもない合成マジックに、機械竜はたまらず大口を開けて凍てつき、「バチバチ」と痺れる。


「なにこれひゃーーーー、あっ! このきもい音……アイツ凍ったままこっちに地獄のアレっっ撃つ気!?」


「知ってるゥゥおおお!!!」


 テンションを上げ出した素人ヒロインの観察眼には、玄人のパイロットは負けてられない。

 全弾撃ち尽くした青いマスターバスターモードからリバーシはまた目隠しの霞を散布する。その灰色の霞から広がり散ったのは、赤く裏返った…さっきまでの豪華な青いリバーシのドレスの欠片だ。

 しかし、流れ続ける危機というものはリバーシ、カノジョのお着替えを上品に待ってはくれないようだ。目隠しの霞に向けて、お構いなく突き抜けたのは機械竜から放たれた青白い特大熱線。

そんな直行の地獄へと誘うビームを──突き破られた歪む霞から、リバーシは飛び出しスレスレに回避成功。そして宙を無事ゆく焦げ付くリバーシの灰色の素装甲を、赤く飛び添う欠片たちがまた覆いだした。


 バラけては敵機の攻撃を華麗に避けた。その勢いはそのままに、リバーシは前方にみえた暗雲を突っ切り、瞬く間に追加装甲の着替えを完了した。そして宙空にうねうねと伸ばし、居座る、長い首のそのまた先のでかいボス級の首を、浦島銀河パイロットの操るその愛機は目指して。


「イマどなってんのー!!!」


「こうなってんのさ次世代グランドナイツたち! 【アカムシャマスターリバーシ】!」


 その姿は武者、リバーシは鬼のようにあかい赤武者へと変わった。赤備えの鎧、その腰に差した一本の刀を、特別深く古びた赤い鞘から今滑らしていく。

 かつての仲間……赤武者から認められた灰色のグランドナイツ彼女の、その老いてもなお変わらぬ鋭さを持つ名刀赤蜜(あかみつ)までを託された彼女の、赤武者の全盛期を真似て握る、その指先。その構え。グリップした、その先の美しき刀身が力強く揺らめく術を纏い、赤熱する。


 グランドパワーをいま燃やし、極限までリバーシの細腕にヒートアップする。


「【爆炎斬(ばくえんざん)】!!!」


 クビを目指し空を走る炎の一筋は、荒ぶる炎熱纏う赤蜜が振るうイチゲキは、機械竜の凍えたクビを断ち斬った。


 一刀両断、炎熱術爆発。空に轟いた勝負ありのイチゲキに────────


 仕留められた全高70mはくだらないデカブツの機械竜から、弾けるジグソーピースのアメが舞う。この世界のリバーシの動力源であるリバーシ本体内部にそなわるオリジナルピースの元へと、煌々と舞い散る数多の虹色は当然のように吸い寄せられていった……。


 そして、虹色の勝利のアメを浴びる赤い武者を模した機体の中で、


「あんたもグランドナイツだぜ! ……ふうぅうううう……!」


「なにこれありえない……!!! ……はぁはぁ…………なんで……こっちみてドヤ顔してんの」


「ハァハァふぅう……んえ、だってぇ?」


「きも」


「は、きも!?」


 彼女の乱れた黒髪にひそむ上目遣いのブルーガーネットのように特別な青い瞳と、白熱し乱れた彼の白髪はおおいに散布した汗で銀へと煌めいている。


 出会ってしまった。高飛車なのかクールなのかそんなヒロインと、まるでファンタジーじみた、現実感を表しているのはその瞳の黒だけである……銀髪のパイロット。


 狭いコックピット内で……しらず、二人の息遣いが重なり合っていた。


(アオハルレーダーぴんぴんなんですけどおおお……! くっ……。リバーシ、ウラシマなにそれぇ! デキの悪いじょうだんっっ? おとぎばなしぃ!?)



 お互いの秘かに脈打つこのドキドキは、誰も知らない。




▼▼▼

▽▽▽




 二人が共に体験したながい一難は────その後、さらなる些細な難もなく、去った……。


 アオい梯子を先に下りたのは、男。次いで女。


(やれやれ、考えも無しにぶっつけの本番をやっちまったが……なんとか戻って来れたな。本当に今日は……)


(戻って、来れた? ほんとうにっ!? はぁーー!)


 加模橋高校一年男女、プラロボ部。懐かしの部室の地へと今降り立つ。


 降り立ってから、いつの間にやら蓄積した疲労で凝り固まっていた自分の腰パーツを、各々労わるようにメンテナンスする。しかし、今同じような動作をしていたことにどちらも気付く。目が合った海魅は彼と同じに見えたソレを先に止めた。そして急に、じっと訝しむ青い目を向け、その静かな視線は浦島銀河、彼の顔面へと突き刺さった。


「さっきの何アレ」


「ん……んー、ナゾシミュレーターだ」


「はぁ? あれがシミュレーター? シミュレーターってゲームってこ」


「とにかく! 部室への一般生徒の不法侵入かつ勝手にプラロボに触った罰当たりだったな」


 浦島銀河は同級生の彼女をよそに、そっと大事にその手に握っていた灰色の垂れ耳の騎士を、中央作業台の上に置いた。


「なにそれ……それだけじゃびみょーに納得いかないんだけど」


「いかないのは納得かよ……そりゃ普通そうだろうけどさ……!」


 まだ佐伯海魅に背を向けながらも、丁寧な手つきでいじいじと、灰色のカノジョ【リバーシ】の装甲や可愛い耳に破損箇所がないか気にかけている。じっと一挙手一投足を見つめる海魅は、そんな忙しい彼の背に、ひとつやわい溜息を投げかけていた。


「はぁ────とにかくさっきは助かったみたい、ありがと」


「え」


 彼が振り返った時には声のしたそこにはいなくて、彼女は部室のドアの前に居た。そして彼女は細い指をずっと指している。一度、あの土盛りのショーケースへと。


「ソレ、ダサいから飾るのやめた方がいいよ。見てるだけで倒れるなんてバランス最悪。──さっきのリバーシ? の方がいいかも」


 二度目、かえて彼女はその指をさす。小さなしゃれた切株の椅子に座らせられ、今、海魅と目の合った……憩う小さな灰色の表裏術騎士【リバーシ】へと。


「え、はは、たしかに俺の趣味じゃなかったかも……な」


「ふっ、あぁつっかれたーー。きっと塩と糖分が足りないのね、えーえー凶日……今日はじつにっわたしのアオハルレーダー故障中~~」


 それは彼の耳に残ったまさかの光景だった、彼の目に焼き付いた夕日がドアから差し込む光景だった。いつまでも彼女の性格を表すようにそのドアは閉まらない。旧部活棟2階にのぼる良いオレンジ光に消えていった…………アオい瞳の横顔と、横靡く黒い髪と、少し周りの女子より短い白いスカート、やがてなくなったその風に泳いだ切れ端と────────。


 リバーシと浦島銀河はそんな始終を共に見つめていた。


「────てか、アイツなんだ? ────誰だ? リバーシ……知らないよな? リバーシを……知らないよな? あの調子プラロボを……知らないよな? ははは、なんか……なんだろおおおおおおおお」



 叫ぶ白髪の青年。座る灰色のリバーシは佇みそこを動かない。


 シミュレーターではない現実の時がとめどなく進んでいく。




▼▼▼

▽▽▽




 激動であっても何もなくても、青春の一ページ、一日は平等に捲られつづける────


 翌日の放課後。その互いのドキドキはなるべく隠すものの、深層では秘かに……期待していて止まらない。



「失礼しまーす」



 閉じられていた、少し遠くで静かにざわつく……その彼女の目の前にある戸は、何のマジックもなく開く。


 どこぞで購入した店長おすすめの【フェアリーナイト】のプラロボ箱をバッグに詰め込んで、彼女、佐伯海魅の【アオハルレーダー】は、嘘偽りなく? たぶんピンピンだ。

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