3.妹は兄におっぱい相談する。
午後10時。
俺の部屋で妹はパジャマを華麗に脱ぎ捨て、ものの見事なパンツ一丁の姿になってしまっていた。
少し焼けた肌が大盤振る舞いに露出していて、もはや裸体同然。
個人的に問題なのは、妹が裸である事よりおっぱいが存在しないことだ。
「マジで優羽には胸が無いな……。まだお腹の方が膨らみあるだろ」
「おっぱいは揉んだら大きくなるってネットに書いてた。なので、私は実践したい!」
「わざわざ脱ぐ必要あるか?」
「おっぱいは無くても肉体美には自信あるから!ほぉら!」
妹は綺麗にポーズを決める。
しかし、そのポーズは女性的なセクシーを発揮させるものでは無く、誰が見てもボディビルダーが魅せるポーズだ。
本人は至って真面目なだけに、この半端な知識に俺は頭を抱えかける。
「だから、その浅い思慮は勘弁してくれよ」
「脳みそオワコン?」
「むしろ胸がオワ……っと!?」
俺が禁句を飛ばしかけた直前、妹はスポーツ選手に相応しい瞬発力でタックルを仕掛けて来た。
密閉された室内なのに風を切る音。
そして強く重々しい衝撃が俺の体に突き抜けた後、気が付けばベッドの上で俺は馬乗りされてしまう。
「普通に重いぞ。まぁタックルの方が100倍重かったが。俺がアニキじゃなかったら今頃は重傷だった」
「私、鍛えているからね。ほら、おっぱい触ってみて?」
「会話の流れからして触るのは腹部だろ。どういう誘導だ」
「さすがアニキ。中々私の思惑通りになってくれないんだね~」
「ってか、大前提として胸はデリケートゾーンだろ。いくら身内でも簡単に触らせるのはアウトだ」
俺は妹を大切にしているため、これから役立つ心構えを教えようとした。
だが、妹は平然とラインを飛び越えてしまう。
「そう?私はアニキが相手なら何でもセーフゾーンだよ。試しにセックスする?するなら前戯として胸を触った方がいいよ?」
「どんどん手段が雑になるな~。よし、こうなったら仕方無いか」
「おっ?やる気になってくれたの?いやぁん、アニキに襲われる~」
「メモを取れ。まず揉んだだけじゃあ胸は大きくならない。大事なのは上辺の刺激じゃなく、根本を変えることだ。つまり肉体トレーニングと同じだな。思いつきの方法はやめて、しっかりとメニューを組んで……」
「うわっ、さすが巨乳好きのアニキ。おっぱいトレーナーだ。おっぱいトレーナーが現れた」
妹は軽く困っていた。
このままペースを奪えば俺は晴れて自由の身を勝ち取れるはず。
そう考えて俺は捲し立て続けた。
「そういえば目標を立てないとな。どれくらいの大きさが良いんだ?」
「うーん、ひとまず世界一認定されるレベルの巨乳かな」
「すごい妄言だ」
「ごめん、ここはアニキが決めて欲しいかも。私にはイマイチ分からないから」
「そうか、容姿だし客観性は大事だな。それなら俺は………」
俺は妹の裸体を真剣に観察する。
これからは身長が伸び、体格そのものも大きく変わるだろう。
そもそも育ち盛りだから、どの程度が良い塩梅になるのか俺の利き目でも見極めづらい。
だが、ここは兄としてビシッと格好つけるべきだ。
「ウエストを現状維持するとした場合、スイカ1玉くらいだな」
「ただの巨乳好きの意見じゃん!馬鹿アニキ!」
「いやいや、早まるな。スイカはスイカでも小ぶりサイズの方だ」
「うーん……?パイズリできるくらい?」
「お前、マジで知識の偏りが凄いぞ。大人のオモチャを知らなかったのに」
「それは調べたよ。それより私の話をよく聞いて。私はおっぱいを育成成功させてアニキに自慢されたいの。『俺の妹は巨乳だぞ』って」
「凄いな。そんなの冗談抜きで脳みそオワコンの兄だろ」
あいにく、俺は胸に対する知識と良識を兼ね備えているので一線は越えない。
よって冷静に俺なりの正論を返すわけだが、ふと妹は少し考えて呟いた。
「ところでアニキって、おっぱいを触ったことあるの?」
「あるぞ。おっぱいマウスパッドとか、おっぱいプリンとか、おっぱい枕とか。あとは夢だな」
俺は自信満々に答えた。
これも立派な経験で、誇らしい事実だからな。
なにも変な話じゃない。
だが、返答を聞いた妹は気まずい表情を浮かべた。
「そうなんだ……。ごめんね、アニキ。多分アニキの初おっぱいタッチは巨乳がいいよね。そっちの方が憧れとか、念願が叶う感じになって嬉しいよね」
「え?俺、なんか急に憐れみられてないか?胸の話で突撃して来たのは妹の方だよな?嘘だろ?」
「アニキ、私は大丈夫だよ。おっぱいで悩んでいたのはアニキも同じだって知れて、けっこう気持ちが軽くなったからさ」
「マジかよ。悩みが解消できて良かったはずなのに、俺は複雑な気持ちだぞ……」
何がともあれ、しっかりとした目標と実りあるトレーニング方法が大事だ。
だから妹は胸を大きくするためのトレーニングに励む一方、俺は巨乳を触るトレーニングメニューを本気で組み立てるのだった。