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2.兄は大人のオモチャについて妹に相談する。

夕暮れ時。

俺は運動部の練習活動を終えた後、歩き慣れた帰路についた。

すると途中、偶然にも学校の指定ジャージ姿の妹を見かける。

ここまで時間がピッタリと合うのは珍しい。

というか、マジで初めてだ。

そのせいで俺は妙にテンションが上がってしまい、友人に接する感覚で追い掛けながら呼びかけた。


「おーい優羽(ゆう)!」


「へっ?わぉ、アニキ?」


優羽は日頃ボーイッシュ感ある態度だが、容姿自体はキュートな方だ。

それは小柄で細い四肢のせいで、正直かなり幼く見える。

だから俺からすれば妹以上でも以下でも無い。


「まさか同じ時間に下校なんてな。多分、初めてだよな?」


「あー……うん」


俺は相談のことを半分忘れていて、普段通りの態度だった。

一方優羽は少し鈍いし、露骨に視線を合わせてくれない。


「どうした?もしかして一緒に帰るのが恥ずかしいとか?それならズラすけどな」


「馬鹿アニキ。わざわざズラす方が不自然でしょ。だからさ……一緒に帰ろ。ねっ?」


妹は俺の服の袖を照れ臭そうに掴む。

そして前へ進む足取りが早い。

兄妹で帰っているところを友達になるべく見られたくないのか。

うーん、これで恥ずかしがるとは。

やはり多感な年頃だ。


「そういえば優羽。お前の部屋に妙な物があったんだけどさ」


俺は適当に話題を出そうとしただけなのだが、なぜか自分に意に反して本題をぶち込んでしまう。

これに慌てるのは喋っている自分のみであって、肝心の妹は不思議そうに呟いた。


「妙な物って?あぁ生理用ナプキンのこと?おにぃ……アニキって見たこと無さそうだもんねー」


「いや、それは見たこと無くても何となく分かるから。じゃなくて、振動するオモチャだよ」


「ん~?」


「大人のオモチャ」


「大人のオモチャって何?」


この真っ直ぐな問いかけに俺は戸惑った。

回りくどいか?本気で理解できてないのか?

それとも妹は下手に誤魔化しているのか?

色々な可能性が考えられてしまう中、俺は更に直接な表現で伝える他なかった。


「バイブだよ。ほら、男の形をした」


「ごめん。やっぱりアニキの言っている意味が……ん?あっ、あぁ~。えっと、もしかしてマッサージ器具?」


「マッサージ器具か……。ある意味、適切な言葉だな」


「多分、マッサージ器具だよ。私、一月前に色んなサイトで調べて『これが一番効きました!』ってレビューのマッサージ器具を買ったから。お手頃価格のやつ」


最初はもっともらしい言い分で事実を隠蔽しようとしていると思ったのだが、俺には分かることが一つある。

優羽は本当の本気で言っている。

つまり大人のオモチャだと気づいてない。

その証拠に、次に妹が続けて発言した内容は妹らしいものだった。


「だけど、人それぞれなのかな~。私はあまり効き目を実感できなかったし、そこまで気持ち良く無かったんだよね!肩とか足とか。持ちやすいし、振動する感覚は新鮮で悪く無かったけどさ」


やや不満気な声色だ。

そりゃあ中学一年生の有り金では、決して安くない買い物だっただろう。

その気持ちは分かる。

しかし、そんな事より俺は訳の分からないショックを受けていた。


「マジか……。いや、優羽。お前マジか。アニキは心配になるよ。おかげで別方面の悩みができちまった」


「無駄遣いのこと?」


「それもあるけど、そこら辺の水溜まりより浅い思慮が心配だ。勉強は大丈夫なんだろうな?」


「えぇ~なにそれ?ふーんだ。勉強はおにぃより出来るもーん」


「おにぃ?つーか、さっきは流したけど、そういう呼び方に変えたのか?どんな呼び方でも別に気にしないけどさ」


俺が指摘した途端、それには顔を赤くするほど妹は過剰反応をみせた。


「ばっ、馬鹿アニキ!私がそんな甘えた呼び方をするわけないじゃん!この、巨乳好き!」


「なんで声を荒げるんだよ。あと、身内の性癖を近所にバラすな。俺の悩みが増えて白髪も増える」


「い、いいよ!どうせ町中の人はアニキの性癖を知ってるから!今更だよ、今更!」


「マジか。つまり知名度だけならハリウッド男優か。よく考えずとも不名誉だな」


「もう、またワケの分からないことを言ってる~!アニキの脳みそがオワコンだよ~!」


さすが実の妹だ。

しっかりと俺の言い回しに毒されている。

そんなことを俺は呑気に思いつつ、妹と一緒に帰宅するのだった。


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