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1-3

12/11 セリフの句読点スタイルを修正しました。

「それで、ご趣味で悪魔祓い(エクソシズム)をなさっている、と」

 一通りの自己紹介を終えて、アドリアンはユーディトと机越しに向き合っていた。

「ただの霊能相談ですわ」

「それとカウチに横たわる事には、どのような関係が?」

「緊張を解いていただくことで、お話をしやすくしているだけです」

「催眠術をかけるのですか?」

「まあ、そんなところですわ。大抵の方は夢現(ゆめうつつ)になりますし」

「なるほど」

「ところで、ドーギュスタン子爵」

「何でしょう、公女(プランセス)

「この事は内密にお願いします」

「もちろんですとも。あなたの密かな楽しみを邪魔するつもりはありません」

 にっこりと笑ったアドリアンに、ユーディトは肩の力を抜いたが、彼の次の言葉に、きっと彼を睨み返した。

「一つだけ、僕のお願いを聞いていただければ、ですが」

 照明の加減か、一瞬、彼女の目の色が変わった気がした。ガタン、と強い隙間風に窓が揺れた。

「おお怖い」

「っ!」

 おどけるアドリアンを、彼女は締め殺さんばかりの目で見た。

「何、簡単な事ですよ。僕の居城を調べていただきたいのです。オーギュスタン家には、ある呪いがかかっていると言われてましてね。結婚する前に、不安要素を取り除いて置きたいのですよ」


*********


 自分の家にかかっている呪いを、婚約者のためにどうにかして欲しい。

 アドリアン・アリスティド・ドーギュスタン子爵と名乗った青年は、そう説明した。

「ご婚約者の方は、今日はご一緒ではないのですね」

 彼には何も憑いていない。魔物が貼り付いているとすれば、女性の方か。そう思ってユーディトは訊いてみた。

 家に代々取り憑くような年代物の魔物なら、きっと美味だ。

「怖がらせたくないので、呪いのことはバベットには話していません。それに彼女は身重でしてね。今は城館の方にいます」

 にこやかに青年は答えた。年齢は二十才前後だろうか。明るい茶色の髪に濃紺の瞳。愛嬌のある笑顔は、いかにも育ちの良い好青年、といった風情だ。

 だが。

「手を出したことがばれて、責任を取らされましたのね」

「はは、面目ない。あんまり可愛い()だったので、つい出来心で」

 大方相手の家族にでもばれて、醜聞(スキャンダル)をもみ消すために婚約したか。だがまあ、それはどうでもいいことだ。

 問題は、この軽薄そうな男に、こちらの顔を知られてしまった事。それから、何故か自分たちの力が、彼には効かなかったという事だ。

(この男を何とかしなくちゃ……)

 大儀そうにため息をつくと、ユーディトは口を開いた。

「そちらの居城に伺って、調べればいいんですね」

「ええ、その通りです」

(行ってみて、美味しそうな魔物()がいたら食べてしまおう。ああでも、こいつが取り殺されてくれた方が良いかしら……)

 食欲と保身。どちらを取るかは、行ってみて考えることにする。

(不味そうな魔物()だったら、放って置こう)

 婚約者もろとも、この男も呪い殺されればいいのだ。

「何も出なくても、わたくしの責任ではありませんからね」

「もちろんです」

「………面倒ですが、仕方がありませんわ」

「歓迎しますよ」

 ユーディトが嫌々同意すると、相も変わらず人畜無害そうな笑みを浮かべて、アドリアンは頷いた。


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